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オールジャパンで4K/8K推進「次世代放送推進フォーラム」設立

「日本が世界をリード」。HEVCエンコーダ共同開発

 スーパーハイビジョン(SHV)や4K放送の早期実現を目指し、国内の産学官が集結した 一般社団法人 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)は、設立発表会を17日に開催した。放送、通信事業者、機器メーカーなどが集結したほか、柴山昌彦総務副大臣も参加し、「オールジャパン」でのSHVや4K放送の実現に向けた取り組みが語られた。

 同フォーラムは、総務省で5月末まで開催した「放送サービスの高度化に関する検討会」の報告をもとに設立された。同報告を受けて、安倍内閣におけるIT成長戦略には、4K/8K放送の実現と、国際社会における映像文化発展の牽引、放送関連産業の国際競争力強化が盛り込まれ、その実現へ向けた取り組みを担うのが次世代放送推進フォーラムとなる。

 4K/8K放送のロードマップは、2014年のブラジル リオのサッカーワールドカップを目処に4K放送の環境を整備し、2016年のリオ・オリンピックでは8Kを体験できる環境を整備、2020年のオリンピックに「4K/8K双方の視聴が可能なテレビの普及を図る」というもの。当初は124/128度CS放送を前提とするが、IPTVやCATVなどの活用も予定している。

時期解像度対応
2014年4K衛星:124/128度CSを活用。STBを通じて自宅や量販店で視聴可能に
CATV:今後の技術策定や衛星試験放送の動向を見ながら同時期の開始へ準備
IPTV:VODサービスを2014年早々に試行、IP放送サービスは衛星と同時期の開始へ準備
2016年4K/8K衛星:124/128度CSに加え、110度CS左旋活用を想定
8K:STBなどを通じ、自宅や量販店で視聴可能に
4K:より多くの視聴者がSTBなどを通じ、多彩な番組を自宅で視聴可能に
2020年4K/8K衛星:124/128度CS、110度CS左旋に加え、110度CS右旋の活用を想定
4K/8K:双方の視聴が可能なテレビを用意。多くの視聴者が4K/8Kの多彩な放送を楽しめるよう環境整備
ロードマップとNexTV-Fの事業概要

 次世代放送推進フォーラムは、放送事業者や通信事業者、機器メーカーなどの21社が参加して発足。4K/8Kやスマートテレビなどの次世代放送サービスを早期に実現するために、送信、受信に関する規定や仕様の検討、実証、試験放送などを行ない、放送サービスの高度化促進を狙う。

 フォーラムには、4K/8K放送に関する技術仕様や実証計画、システム設計、標準化対応を担う「技術委員会」、番組編成やコンテンツ制作、番組調達などを担う「コンテンツ委員会」、周知広報を担う「周知広報委員会」を設置。それらを運営委員会でまとめ、理事会で決定する。また、4K/8K放送の実用化に向けたテストベッドの構築を請け負っており、送出システムや符号化部、多重化著作権保護、受信部などのそれぞれにおいて、検証を行なっていく。

 理事長には、東京大学の須藤修教授が就任。副理事長にはNHKの松本正之会長と、民間放送連盟の井上弘会長(東京放送ホールディングス 代表取締役会長)、ソニーの平井一夫CEO、NTTの片山泰祥代表取締役副社長が就任する。

各社の代表が集結
フォーラムの組織概要
次世代放送用テストベッドの構築も担当
NeXTV-F 久保田啓一 運営委員会委員長

 なお、スーパーハイビジョン(SHV)や、4K/8K、ITU-Rで定める「UHDTV」など高解像度映像についての用語が乱立している問題について、同フォーラムの理事・運営委員会委員長を務める久保田啓一氏は、「UHDTVはITU-Rで定められており、4K/8Kが含まれている。SHVは、当初はNHKの愛称だったが、高度化検討会では、幅広く4K/8Kを両方さしてSHVと呼ぶようになった。フォーラムの運営委員長の立場では、SHVの推進=4K/8Kの推進と考えている」とした。

 フォーラムの活動の一環として、NTT、三菱電機、富士通、NECらが協力し、次世代コーデックである「HEVC(High Efficiency Video Coding)/H.265」の4K対応エンコーダ(HEVC-Jチップ)を開発。2014年度末のエンジニアリングサンプル製作を予定している。「HEVCの規格ができたばかりで、設計を進めているが、課題は大きい。特にLSIの製造は投資規模が大きい。そこで総務省の支援をうけて、やっていきたい。各社の技術を持ち寄って世界一のチップを作りたい(NexTV-F 久保田啓一 運営委員会委員長)」。

オールジャパンで4K/8K。日本が世界をリード

NeXTV-F 理事長の須藤修 東京大学大学院教授 情報学環長

 NexTV-Fの須藤修 理事長は、フォーラム設立の経緯と目標を説明。「高度化検討会では、2014年に4K試験放送を、16年には8Kテレビの試験放送を行ない、2020年には多くの視聴者にお使いいただける放送サービスを根付かせていくことが提起され、オールジャパンでやっていくことを決めた。放送分野など、ホームエンターテイメントで大きく飛躍すると共に、ユーザーインターフェイスの向上や、ユーザー体験の向上など、高齢化社会を迎える日本において公共的なサービスの使い勝手を高め、様々なビジネスに大きな変化をもたらす。日本が提案したハイビジョンが世界標準を生んだように、各社の技術やノウハウを結集し、次世代の標準を作っていきたい」と意気込みを語った。

柴山昌彦 総務副大臣

 柴山昌彦 総務副大臣は、全面的なサポートを表明。「4K/8Kの一体的な導入をはかり、高精細で、インターネットとの本格的な連携を図る次世代テレビのため、誰が、いつ、なにをしなけえればいけないか、取り決めてロードマップを作成した。'14年からスタートする思い切った内容で、このロードマップは国のIT戦略にも明記した。放送分野で世界をリードするだけでなく、医療や機械設計、防犯など、さまざまな分野に展開可能で、波及効果を期待している。どういうニーズが生まれてくるかは、時代によって移ろってくる。今後、さまざまな課題に直面するだろうが、課題があれば皆で解決に取り組む。総務省でも、全力で支援することを表明させて頂く」と語った。

NHKの松本正之会長

 副理事長の4人も登壇。NHKの松本正之会長は、「SHVは人間の目に匹敵する細かさで、これ以上は画質の違いがわからないとされる。それゆえ『究極のテレビ』と呼ばれている。ロンドン五輪でもパブリックビューイングを行なったが、圧倒的な臨場感があると好評だった。国のロードマップが示され、リオ五輪の16年に実用化試験放送がSHVでできるように、取り組みを加速する。放送通信の連携、スマートテレビ機能やオンデマンドなどの新たなサービスも組み込まれ、さらに便利な機能を追加し、進化していく。関係者でがっちりチームを組んで、オールジャパンでやっていく。SHVは日本が世界をリードしていく」と宣言。

民放連井上会長

 民放連会長の井上弘東京放送ホールディングス 会長は、「放送業界は今年で60年。モノクロ、カラー、ハイビジョン、デジタルそして、スーパーハイビジョンと次々と発展。視聴者にお届けするサービスも。SHVが視聴者のサービス向上に繋がるように努力して行かなければいけない。SHVはといっても、中味が無いと意味が無い。放送業者としてはより充実した放送番組を作るよう努力していく」と語った。

ソニー平井一夫CEO

 ソニーの平井一夫CEOは、「世界各国で新たな放送サービス導入に向けた動きが始まっている。その中で世界に先駆けて、ロードマップがまとめられた。総務省、関係各所にあらためて感謝。高精細大画面は、お客様の感動を揺さぶり、圧倒的な臨場感をお届けする。コンフェデレーションズカップの開幕戦もパブリックビューイングや、大画面テレビ、さらにはモバイルなどさまざまな場所で見られ、感動を共有された。また、(有楽町の)ソニービルで4Kの歌舞伎映像を上映したら、普段いらしていただけない年配の方にも来ていただけ、『役者の汗や涙も見えた。感動したという』声を頂いた。より多くの人にご家庭で楽しんでいただける世界を実現したい。ソニーは4Kテレビを'12年11月に各国で発売し、6月には新モデルが発売されている。'14年には4Kの試験放送がスタートするが、テレビだけでなく、放送用カメラや業務機器などに取り組んでいる。様々な面で貢献できると考えている。当フォーラムを通じて、一日も早いサービスの立ちあげに貢献する」と機器メーカーの立場からコメントした。

NTT 片山泰祥副社長

 日本電信電話(NTT)片山泰祥代表取締役副社長は、「(4K/SHVの伝送路として)放送だけでなく、IPTVも盛り込んでいただいた。多くの場所で、多くの皆様がさまざまな方法で、取組む環境ができてくる。放送だけでなく、デジタルサイネージ、防犯、防災、減災など、新しい映像産業を立ち上げる可能性がある。また、エンコーダも重要で、我々はHEVCに取り組んでいるが、今回この4K/8Kを使える次世代LSIを一社でなくて、国の支援をいただいて、オールジャパンで検討を進める。世界に先駆けて実現するためで、グローバルナンバーワンチップを作りたい」と述べ、総務省や関係各社の協力を呼びかけた。

名誉会長に就任する渡辺捷昭氏

 また、名誉会長として前トヨタ社長で、経団連副会長も務めた渡辺捷昭氏が就任。渡辺氏は「フォーラムの目的は、4K/8Kの映像サービス提供。2つめはスマートテレビの高機能なサービス提供。この2つを両輪としてすすめる。安倍内閣のIT戦略には、次世代サービスの実現が盛り込まれており、世界に先駆けて実現することこそ、国際競争力強化につながる。グローバル市場では、目標実現は容易でなく、いずれの分野もトップメーカーが参入しており、端末市場競争は一層激しい。4K放送の開始予告も諸外国で行なわれている。今後我が国の産業界は、こうした厳しい環境下で先頭にたっていかなければならない。一方で、4K/8Kの高精細映像は、医療など国民生活分野、ものづくりでは設計分野での活用など、さまざまなシーンで応用でき、我が国の民生用技術の革新になる。産学官が一致協力して取り組むべきで、その推進エンジンがこのフォーラムである。フォーラムを中心に、関係者の力を結集し、早期の放送開始と普及を目指して全力を上げてほしい。我が国の経済成長を牽引していくことを期待している」と述べた。

【NeXTV-F参加企業】
KDDI、ジュピターテレコム、住友商事、ソフトバンクBB、テレビ朝日、電通、東北新社、日本電気、日本放送協会、富士通、WOWOW、シャープ、スカパーJSAT、ソニー、TBSテレビ、テレビ東京、東芝、日本テレビ放送網、日本電信電話、パナソニック、フジテレビジョン

4K HEVCエンコーダなど展示

NHKのSHVテレビ。パネルはシャープ製

 会場では、各社の4K対応製品や、NHKのSHVテレビやカメラが出展された。

 NTTや三菱電機、NEC、富士通らが手がけるHEVCエンコーダも出展。現在は4つのFPGAを使って、それぞれのFPGAでフルHD映像をHEVC化して、4枚の絵を合成することで、4K HEVCのリアルタイムエンコードを実現するというもの。2014年度末にエンジニアリングサンプルを製作予定のチップでは、従来のMPEG-2 エンコーダ程度の大きさで、4KのHEVCエンコーダの実現を目指しているという。

 また、4KやSHVではプログレッシブ化により、60fpsでの処理が必要となるため、解像度だけでなく演算量が増加しているほか、規格ができたばかりのため、ノウハウも集約している段階とのこと。

4K HEVCエンコーダを開発中
オールジャパン体制でHEVC-Jチップ(仮称)を開発
NHKのSHVビデオカメラヘッド
先週発売開始した東芝は4KテレビREGZA Z8Xシリーズを展示
シャープ4Kテレビ「LC-60UD1」
ソニーBRAVIA「KD-65X9200A」

(臼田勤哉)