ニュース

ギターメーカーの米Gibsonがティアックを子会社化

楽器/オーディオで付加価値。「日本市場に注力」

左からギブソン・ギター・コープのヘンリー・ジャスキヴィッツ会長兼CEO、ティアックの英裕治社長

 楽器メーカーの米Gibson Guitar(ギブソン)は29日、ティアックとの資本業務提携契約を締結することで合意したと発表した。4月1日からTOB(株式公開買付け)を開始。ティアックの株式3分の1超を取得する事を目指す。

 なお、フェニックス・キャピタル・パートナーズ・ワン投資事業組合、ジャパン・リカバリー・ファンドIIIは、保有するティアックの株式の全てである1億5,744万7千株(発行済株式総数の54.4%)を、1株あたり31円でギブソン・グループに譲渡することで合意。ティアックの取締役会も、TOBについて賛同を表明している。TOBの期間は4月1日から21営業日(日本の営業日)。

 株式取得の完了後、ティアックはギブソン・グループの傘下となる。しかし、株式取得完了後も、ティアックは東京証券取引所市場第一部上場を維持するという。ティアックの現在の経営陣に変更はない。また、エソテリック、TASCAMブランドは今後も存続するとしている。

29日に行なわれている記者会見は、開始直後に突然ヘンリー会長兼CEOと英社長がサングラスをかけ、席を立ち、マスコミがどよめく中でギターセッションを開始するというユニークな会見になった

 ギブソンは、「KRK」、「Cerwin-Vega!」、「Stanton」、スタジオモニター、サウンドレインフォースメント、DJ機器などの製品や、既に資本業務提携を行なっているオンキヨーのコンシューマーオーディオなどの製品群も扱うことになり、「規模の拡大を図り、プロ用オーディオの事業領域への拡大を実現できる。将来の製品開発においても、ギブソンのフレット楽器事業分野を含む楽器事業に付加価値をもたらす可能性を秘めている」と説明。

 一方、ティアックはハイエンドオーディオのESOTERIC、ミキサー、PC用オーディオインターフェイス、マルチチャネルレコーダ、ハンドヘルドレコーダ、iOS向けデバイスなどに加え、産業用のデータ計測機器、記録再生機器、医療用ビデオなども手掛け、放送局向け機器を扱うTASCAM事業部門も持っている。ギブソンは、「これらの多岐にわたる要素がギブソンブランドに加わることは、ライフスタイル領域に進出するギブソンのさらなる多様化を示唆するものだ」と説明。「ティアックの製品群とギブソンの製品群を結合することで、世界のあらゆる音楽愛好家およびクリエイターの嗜好や経済力にあわせた製品をギブソンが提供できることになる」という。

 ティアックの英社長は、ティアック側で提携効果が最も想像しやすいのはTASCAMブランドだと説明。「ミュージシャン向けのレコーディングツールや、USBインターフェイス、iOS対応製品、業務用機器、放送局向け機材も提供している。我々が持っている技術と、ギブソンの技術を繋いでいく事で、世の中に新しい提案をしていけると思う」と説明。

 英社長は、「エンジニアも協議しているが、話し合ってみると、各社が同じようなカテゴリの製品を、それぞれで作っている部分がある。その上で、この商品のこの部分には、我々の技術が使える、ここはお宅が得意とする部分だねと、協力しあえる。それが(最終的に)ギブソンの製品なのか、ティアックなのかはそれぞれの製品で異なるが、開発期間の削減、コストの低下など、幅広い効果が出る」とした。

 また、ギブソンは昨年の1月にオンキヨーに出資を行ない、オンキヨーの株式の15.45%を取得。同じく昨年1月に、オンキヨーがティアックの株式の10%、ティアックもオンキヨー株式の9.42%をそれぞれ取得。資本業務提携を行なっている。

 英社長はこれを踏まえ、「TEAC、ギブソン、オンキヨー、3社連合というイメージでやって行ければ良いなと思っている」と語り、「ギブソンのギターを弾き、TASCAMのレコーダで録音し、オンキヨーのコンポで聴いている人もいる。それらは“点”でしかなく、例えば録音する時にこんなレコーダが欲しいというアイデアが、ギブソンから出てくるかもしれない。再生する時にはこんな機能が欲しいなどのアイデアもあるだろう。(そうした3社の協力により生み出される商品は)お客さんにとっても、メリットがあるのではないかと思う」と、1つの未来像を示した。

ギブソン・ギター・コープのヘンリー・ジャスキヴィッツ会長兼CEO

 ギブソンの会長兼CEOヘンリー・ジャスキヴィッツ氏は、今年の「2013 CES」において、ギブソンのブースでオンキヨーのヘッドホンなどが展示された事を「お互いのブランドを相互に使う一例」と振り返り、「オンキヨーのヘッドホンをギブソンが売る事もあるだろう。我々は家族の一員になったのだから、その時に、適切だと思うものを消費者にお届けしたい。ティアックが製造し、ギブソンの販路に乗せるという事もあるだろう」と語った。

 さらに英社長は、「今現在、ティアックもギブソンもオンキヨーも、それぞれ販売子会社や流通などを持っているが、これらを削減できるかもしれない。会社にとってプラスになるならどんどん進めたい。また、商品を投入する地域ごとに特色があるものだが、この地域では一緒にマーケティングをしていこうなど、まとめる事も期待でき、長期的に3社にとってプラスになるだろう」と、提携の意義を強調した。

 ティアックは計測機器や医療機器、車向けの測定器など、音楽やオーディオとは直接関係しない業務用機器も扱っており、それがトータルでビジネスの半分近くを占めている。ヘンリー氏は「この部分にギブソンが付加価値をつける事はできない。しかし、ティアックは(その分野で)世界でも最高の製品を手掛けており、利益も上げているので、今後もビジネスは続けて欲しいと思っている」という。

 なお、ギブソンは「日本に本格的に注力し投資する」ともしており、今回の提携を、2012年1月に発表したオンキヨーとの資本業務提携に次ぐ案件と位置付け、「ギブソンがこれまで手掛けたうち最大規模の案件の一つとなる今回の取引は、取締役会と上級役員の日本市場への確固たる自信を反映している」と説明。

 ヘンリー氏は、「私たちは長年にわたり、お互いをよく知る関係です。また、私たちは、オーディオ業界における世界最高水準の技術および、世界一流の楽器メーカーとその音楽の革新をビジネスにする力を統合するという、未来のビジョンを共有しています。ギブソンは、ティアックとともに“クール・ジャパン”を力強く支持します。私たちは、日本の音楽界から発信されるクールな製品が世界で認知されることに貢献するだけでなく、業界で日本の優れた音楽の革新性を普及していく」とコメント。

「ギターがライフワークで、中学生の頃からギブソンは知っている」という英社長は、「憧れのブランドと一緒に仕事が出来るのは夢の様なこと」と笑う
会見後のフォトセッションでは、2人でポーズを決める一幕も

 英社長は、ヘンリー氏と話し合いを進める中で、「日米の大きな違いはマーケティング。商品に対する考え方、マーケテングに対するアプローチに、日本と違うなと感じる所がある。日本は“高い技術があるのにどうして?”と言われる事が多いが、概して日本が強くないと言われている部分を、ギブソンとやっていく事で改善していきたい。可能性は無限大だと考えている。時間をかけ、双方にメリットがある事を1つ1つこなしていく。ヘンリー会長はこうと決めたらその方向に真っ直ぐ進む強い信念の持ち主。それにしっかりついていって、ギブソンファミリーとして胸を張れる会社になっていく事で、(今回の提携が)本当によかったと言えるようにしていきたい」と語った。

会場には両社の製品が展示された

(山崎健太郎)