レビュー

深夜でも迫力の9.1chサラウンドを。ソニー「MDR-HW700DS」

9.1chに進化したデジタルワイヤレスヘッドフォン

MDR-HW700DS

 サラウンドシステムに興味はあるが、複数のスピーカーの設置スペースや、配線の問題を考えると、なかなか導入に踏み切れないという人は多いだろう。また、5.1chのサラウンドスピーカーを持ってはいるが、近所に気兼ねして音量を上げられず、ただの置き物になってしまっている場合もあるのではないだろうか。そのような人にオススメなのが、ワイヤレスのサラウンドヘッドフォンだ。今回は、デジタルサラウンドヘッドフォンシステムとして世界初の9.1ch再生に対応した、ソニーの「MDR-HW700DS」を試してみる。

高い装着性のヘッドフォン。デュアルバンド方式採用でワイヤレスも強化

 ソニーが10月に発売した「MDR-HW700DS」(実売価格38,000円前後)は、据置き型の送信ユニットと、受信機を内蔵したワイヤレスヘッドフォンから構成されるサラウンドシステムだ。独自の「3D VPT(Virtualphones Technology)」技術により、ステレオヘッドフォンで最大9.1chのバーチャルサラウンドを実現する。

 従来モデルの「MDR-DS7500」は、サラウンドの基本である5.1ch(センター、フロントL/R、リアL/R、サブウーファ)に、背後の音を表現するサラウンドバックL/Rを加えた7.1chか、前方の高さのある音を表現するフロントハイL/Rを加えた7.1chかを、マトリクスデコーダ機能の切り替えで選択できた。新モデルのMDR-HW700DSでは、マトリクスデコーダを利用することで、サラウンドバックL/RとフロントハイL/Rを同時に再現する9.1ch再生が可能となっている。

ワイヤレスヘッドフォン
送信ユニット
重ねて置いたところ。ヘッドフォンと送信ユニットがちょうど同じくらいの大きさになっている

 ヘッドフォンは密閉型で50mm径のダイナミック型ドライバを搭載する。外観は、前モデルまで採用されていたヘッドバンド部のアジャスタがなくなり、シンプルなスタイルに変化した。イヤーパッドは前モデル同様、肉厚な低反発クッションを採用しており、長時間装着しても快適だ。側圧も適度で、3Dメガネや視力矯正用のメガネをかけていても、メガネが浮いたりしない。重量は約320gで、前モデル(約325g)とほぼ同じだ。なお、このヘッドフォン(MDR-HW700/21,000円前後)は単品でも販売されており、最大4台まで増設できる。

ヘッドフォンの装着イメージ
前モデル(MDR-DS7500)のヘッドフォン。ヘッドバンド部にアジャスタを備えている
3Dメガネ装着時もツルに合わせてイヤーパッドが変形

 ハウジング部にリモコンを備えており、エフェクトの変更や音量の調整などが可能。新たに搭載されたOSD(オンスクリーンディスプレイ)のメニュー操作も手元で行なえる。

右側にエフェクトボタンやボリューム、メニュー操作ボタンを搭載
左側には電源ボタンと充電用のマイクロUSB端子を備える
電源ボタンの横に電源のオン/オフを示すランプ。装着すると自動でオンになり、外すと数秒で自動的に電源が切れる

 バッテリを内蔵し、3時間の充電で最大12時間の使用が可能。テストのため、映画を立て続けに3本見たが、途中でバッテリが切れたりすることはなかった。充電は従来のACアダプタを使用する方式から、マイクロUSB経由に変更されている。送信ユニットにUSB端子は備えておらず、充電にはPCや別売のUSB-ACアダプタが必要になる。最近はUSB-ACアダプタがスマートフォンなどに標準で付属していることが多いので、あまり困ることはないと思うが、持っていない人は事前に準備しておいた方がいいだろう。

 送信ユニットの外形寸法は220×157×32mm(幅×奥行き×高さ)で、前モデル252×159×36mm(同)から少し幅が小さくなった。HDMIに対応し、HDオーディオのドルビーTrueHDや、DTS HD Master Audioなどをサポート。新DSPを2基搭載しており、2.1chや5.1ch、7.1chの入力信号を9.1chサラウンドで再生可能。24bit/192kHzの非圧縮音源にも対応する。天面には電源ボタンや操作ボタンを備えている。

向かって左側に電源ボタンを備える
右側には操作ボタンやエフェクトボタンなどが集まっている

 ヘッドフォンとのワイヤレス伝送は、新たに2.4GHzと5GHz帯のデュアルバンド方式を採用。他機器からの干渉を自動で回避する「リアルタイムチャンネルセレクション」機能により、2.4GHz帯が混みあっているときは、自動で5GHz帯が選択される。送信ユニットの側面には切り替えスイッチがあり、2.4GHz固定/5GHz固定/オートを選ぶことができる。到達距離は約30m。電子レンジと無線LANルータのある部屋で使用し、音声を再生しながら電子レンジを使用したり、5GHz帯の無線LANで接続したスマートフォンを使ってみたが、ノイズが入ったり、音が途切れるようなことは無かった。

 入力はHDMI×3と、光デジタル音声、アナログ音声(ステレオミニ)を各1系統備え、出力はHDMIと光デジタル音声を各1系統搭載する。今回は試せなかったが、4K映像のパススルー出力にも対応しており、4Kテレビでも使用できる。オーディオリターンチャンネル(ARC)にも対応し、HDMI接続したテレビの音声も聴くことができる。

送信ユニット側面にワイヤレス使用帯の切り替えスイッチや、アナログ入力用アッテネータスイッチなどがある
背面には入出力端子が並ぶ。左からHDMI入力1〜3、HDMI出力、光デジタル音声入力/出力、アナログ音声入力、ACアダプタ端子

OSDメニューでワイヤレス操作。スイッチの切り忘れを防ぐオートON/OFF機能も

実際に32型のテレビの横に送信ユニットを置いたところ。小型なので邪魔にならない

 さっそく実際にテレビに繋いで使用してみた。BDビデオの再生にはPlayStaion 3(PS3)を使用。PS3と送信ユニット、送信ユニットとテレビをそれぞれHDMIケーブルで接続するだけで簡単にセットできた。送信ユニットは小型で、テレビの横に置いても邪魔にならない。

 操作や設定は、送信ユニットとヘッドフォンの両方から行なえる。マトリクスデコーダやコンプレッション機能の設定など、一部の操作は送信ユニットからしか行なえないが、基本的にはヘッドフォンからの操作で事足りる。

 ヘッドフォンを装着すると、「ピピ」という電子音が鳴り、自動で電源が入る。外すと数秒で電源が切れる。オートON/OFF機能が備わっており、電源の切り忘れによる電池の消耗を減らすことができる。あれこれ設定を変えてみようと思ったが、ヘッドフォン装着するとボタンが見えないため、最初は操作にとまどった。頻繁に使用するのは、右ハウジングにあるメニューボタン、エフェクトボタン、ボリュームダイアルの3つなので、慣れてしまえば気軽に操作できるだろう。

 ヘッドフォンのメニューボタンを長押しすると、テレビ画面にOSDメニューが現れる。ボタンを上下にスライドしてカーソルを移動させ、押すと決定というシンプル操作だが、エフェクトの変更や左右バランスの調整、HDMIパススルーの設定などほとんどの操作がこのOSDメニューで行なえる。わざわざテレビ横の送信ユニットまで行かなくてもワイヤレスで操作できるので、とても便利だ。

ヘッドフォンのメニューボタンを長押しすると、テレビ画面にOSDメニューが表示される
メニューでStatusを選択すると、現在入力されている音声情報や、選択しているモード、ヘッドフォンのバッテリ残量などを確認できる

3種類のエフェクトと2種類のマトリクスデコーダで好みのサウンドに

 MDR-HW700DSを使用し、話題のSF映画「パシフィック・リム」のBD版を視聴してみた。音声はオリジナル英語(5.1ch DTS HD Master Audio)を選択している。まずはエフェクトをオフにしてステレオ再生の音を聴いてみると、ノイズもなく、有線のステレオヘッドフォンと比べても問題のない音質だと感じた。セリフなどの人の声も明瞭に聞き取れ、テレビ番組を見るときにも使えそうである。

 続いて、音声エフェクトを試してみる。MDR-HW700DSは、シネマ/ゲーム/ニュースの3種類のエフェクトを搭載している。シネマモードは、ソニーピクチャーズエンタテインメント(SPE)の協力のもと、映画製作用ダビングシアターの測定データを解析し、ソニー独自のVPT技術と組み合わせて、"映画館の音場"を再現したモードだ。5.1chや7.1chなど、元の音源に収録された音声ソースに応じたサラウンドを表現できる。ゲームモードは、音の定位や細かな音の再生に特化したモードで、個々の音の聞き分けに適している。ニュースモードは、テレビ放送などのステレオ音声で、人の声を聞き取りやすくするモードだ。

 耳元のエフェクトボタンを押してシネマモードにすると、残響音が強くなり、音場が広くなった。音の動きが再現され、ステレオから5.1chサラウンド相当に音場が広くなったのを実感できる。重低音も増強され、一気に迫力のサラウンドサウンドに変わる。映画の冒頭すぐに、海に現れた巨大なKAIJUと、主人公が操縦する大型ロボット・イェーガーの対決シーンがあるが、シネマモードにすると怪獣の雄叫びや、重量感のあるイェーガーの動作などの迫力が倍増した。

 さらに、シネマモードでは、マトリクスデコーダを「オフ/ドルビープロロジックIIz/DTS Neo:X」から選択できる。ドルビープロロジックIIz(PLIIz)かDTS Neo:X(Neo:X)を選択すると、DSPの演算処理によって、2ch/5.1ch/7.1ch音声から9.1chに拡張する。

 マトリクスデコーダを適用すると、5.1chよりもさらに音場が広くなり、臨場感が増す効果を実感できた。真上や背後から音が聴こえるというほどの実感は得られなかったが、空間の広がりはしっかり認識できる。2つのデコーダを聴き比べた感じでは、PLIIzの方が低音を強調し、迫力のあるサウンドを再現するのに対し、Neo:Xの方は低音は抑えめに、音の分離や解像感を高めるような音作りという印象だった。どちらに設定するかは、映画のジャンルや好みによって選ぶといいだろう。なお、マトリクスの切り替えは送信ユニットからしか行なえない。

 エフェクトをゲームモードにすると、シネマモードに比べて低音がぐっと絞られフラットな音に変化する。低音に隠れていた細かな音まで聞き取れるようになるので、ゲームだけでなく、音楽鑑賞にも使えそうだ。また、ゲームモードでもマトリクスデコーダによる9.1ch拡張を利用できるので、音楽やテレビ番組などのステレオ音声をサラウンド化して楽しみたいときは、シネマモードよりもこちらの方がバランスよく聴けるだろう。ニュースモードはステレオ専用で、中音域を持ち上げ、人の声を聞き取りやすくするので、ドキュメンタリー番組や会話主体の静かな映画を観るときに選ぶといい。なお、ニュースモードでは、マトリクスデコーダは利用できない。

 このほか、サウンド全体のダイナミックレンジを下げ、爆発音などの大きな音を小さく、囁き声などの小さな音を大きくするコンプレッション機能も搭載している。小音量で再生したいときに有効で、各エフェクトとも併用できる。

 CDをエフェクト無しのステレオ再生でも聴いてみたが、密閉型ヘッドフォンらしい厚みのある中低音で、オーディオ用のヘッドフォンと比べても引けをとらない音質だと感じた。高音の伸びがもう少し欲しいところだが、音楽鑑賞でも十分に楽しめるレベルだろう。

簡単・手軽で高いサラウンド性能

 エフェクトとマトリクスデコーダによる9.1chサラウンドは、バーチャルではあるが効果が高く、自然なサラウンドを再現している。ステレオ再生では得られない音の動きや迫力が感じられ、映像の臨場感を増すことができる。5.1chスピーカーほどのスペースをとらずに、迫力のサラウンドを体感できるのも嬉しい。

 ワイヤレスであることも、この製品のアドバンテージとなっている。筆者は普段から、夜中に映画を観るときは有線のヘッドフォンを使用しているのだが、ワイヤレスになるとこんなに快適なのかと感心してしまった。座って観るのに疲れたらケーブルを気にせず横になれるし、途中で席を立つときにも、いちいちヘッドフォンを外さず、装着したまま自由に動くことができる。これならテレビ番組の音声だけを聴きながら家事をしてみたり、エクササイズビデオを見ながらケーブルを気にせず運動したりと、いろいろな用途にも使えるだろう。

 HDMIでテレビやプレーヤーと接続するだけで気軽に9.1chサラウンドが楽しめ、普段のテレビ番組視聴から映画鑑賞まで、1台でいろいろなシーンに対応することも可能なので、ホームシアターはハードルが高いと感じている人や、家族や近所に気兼ねせず気軽にサラウンドを楽しみたいと考えている人に適した製品と言える。

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MDR-HW700DS

(一條徹)