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地上波4K放送に向けた技術展示も。NHK「技研公開2025」29日から

NHK放送技術研究所(技研)は、最新の研究成果を一般に公開する「技研公開2025」を、5月29日から6月1日まで、東京・世田谷にあるNHK放送技術研究所で行なう。その開幕に先駆けてメディア向け内覧会が行なわれ、「次世代地上放送のプログラム多重・伝送技術」、放送とネットを活用したWebベース放送メディアの研究として「放送通信統合型コンテンツ提供基盤」などが紹介された。

「技研公開2025」の会場住所は東京都世田谷区砧1-10-11。入場は無料で、開場時間は10時~17時。入場は終了30分前まで。今年のテーマは「広がる つながる 夢中にさせる」で、18件の研究成果が展示されている。

次世代地上放送のプログラム多重・伝送技術

技研では、4K地上放送の実現に向けて、次世代の放送方式「ISDB-T3(Integrated Services Digital Broadcasting for Terrestrial Television Broadcasting, 3rd generation)」の研究を進めている。

ISDB-T3を使って、現行の地上波放送よりも周波数を効率的に使って放送ネットワークを構築するために、技研ではISDB-T3に対応するIPベースの最多重化方式として「放送MMT(MPEG Media Transport)」を開発。これを使うことで、複数の4Kプログラムを1チャンネルに多重して送信するなど、チャンネルをより効率に利用できるという。

また放送MMTでは、送信所のごとの送信タイミングを制御する情報もあわせて伝送。複数の送信所が同一の放送波を生成し、制御情報に従った送信タイミングで電波を発射することで、現行の地上放送と同様に単一周波数ネットワーク(Single Frequency Network/SFN)を構築できるため、同一の周波数をより有効に使用できるとのこと。

会場では、放送MMTで使用する再多重化装置を使ったデモンストレーションや、複数の変調器と復調器を使ったSFNのデモなどが行なわれた。今後は2025年度内に実証実験を行ない、実用化を目指す。

再多重化装置

マルチレイヤー対応VVCライブエンコーダー

技研は今年3月、映像符号化の国際標準方式であるVVC(Versatile Video Coding)に準拠し、マルチレイヤー符号化技術に対応したリアルタイム映像符号化装置(エンコーダー)の開発を発表。技研公開2025では、その実機を使ったデモンストレーションが行なわれた。

マルチレイヤー対応VVCエンコーダー

例えばスポーツ中継を手話解説付きで放送する場合、現在はすべての視聴者に手話解説付きで放送するか、あるいは総合テレビでは中継映像のみ、Eテレでは手話解説付きといったように、複数チャンネルを使って放送する必要がある。

マルチレイヤー符号化技術に対応したエンコーダーを使うと、ひとつのチャンネルに中継映像、手話解説、文字スーパーなどの複数コンテンツを重ねて伝送でき、マルチレイヤー対応デコーダーを使えば、ユーザー側で“中継映像のみ”、“中継映像+手話解説”などコンテンツを切り替えての視聴が可能になり、より効率よく電波を使用できる。

マルチレイヤー対応VVCエンコーダーでは手話解説部分などを上層レイヤーとして処理することで、演算量を削減している

技研が開発したライブエンコーダーでは、例えば中継映像を基本レイヤーとして処理し、その上層レイヤーとして手話解説などを処理することで、多くの画像領域での符号化処理を軽減。エンコードにかかる処理量を減らすことでリアルタイムでの処理を可能にしている。

会場では、ユーザー自身が視聴するコンテンツを切り替えられるデモなどが行なわれている。

「放送とネットの違いを意識しない視聴体験」に向けた技術も

そのほか会場では、ネットを活用した伝送路によらない放送コンテンツの提供を目指した研究成果も紹介。ネットに接続したスマートTVやネット非接続のTV、チューナー非搭載のタブレットなど、条件が異なる視聴機器でも放送とネットの違いを意識しない番組視聴体験の提供や、複数のクラウドサービスを使うことで耐障害性を高めたコンテンツ提供技術、偽情報・誤情報の混入を防ぐための来歴情報表示技術のデモなども行なわれた。

また技研の神田菊文所長は、内覧会に先立って行なったプレゼンテーションのなかで「昨年、インターネットを通じた番組などの提供をNHKの必須業務とする改正放送法が成立し、今年10月1日からサービス開始となります。このようにNHKを取り巻く環境は大きな転換点を迎えているところであります。次の100年にもNHKが必要とされる存在であり続けるため、技研は立ち止まることなく、安全・安心と豊かで夢のある未来に向けて先導的な役割を果たしていきたいと考えています」と語った。

来歴情報提示技術
NHK放送技術研究所の神田菊文所長