液晶TVのネット接続率30%へ。ソニーのネットワーク戦略
~BRAVIAでYouTube、Twitter、Skypeの利用提案を加速~
ソニーマーケティング コンスーマーAVマーケティング部門ホームエンタテインメントプロダクツマーケティング部統括部長・本多健二氏 |
ソニーマーケティング(SMOJ)が、液晶テレビBRAVIAのネットワーク機能を前面に打ち出した訴求を開始している。なかでも強調しているのがインターネットに接続した新たなテレビ視聴の提案だ。2011年7月24日の地デジ完全移行(被災3県を除く)後のテレビ需要の停滞は業界全体の課題となっているが、その一方で、これまでの価格重視の市場傾向からの脱却が想定されるともいえ、これまで以上に新たなテレビ視聴の提案が重視されるとの見方も出ている。
ソニーは、これまでにも3Dの訴求や、ルームリンクをはじめとする他のデジタル機器との連動提案などを進めてきたが、これに加えてインターネット接続による提案を加速しているというわけだ。ソニーマーケティング コンスーマーAVマーケティング部門ホームエンタテインメントプロダクツマーケティング部統括部長・本多健二氏に話を聞いた。
■ ネット接続を切り口に、テレビの新しい視聴を提案
ソニーマーケティングの栗田伸樹社長は、2011年度中に、BRAVIAのインターネット接続率を30%に引き上げる目標を掲げている。2011年初頭には約10%という水準であったことに比較すると、まさに意欲的な目標だといえる。
同社の本多統括部長は、「テレビは情報を得るための製品と位置づけられる一方、ネットワークに接続する使い方が、デジタル家電どころか、白物家電にも広がろうとしており、その中心的役割をテレビが担うことになると考えている。テレビをインターネットに接続して、あらゆる情報を得るという使い方は、これから急速に広がっていくことになり、5年先には一般化していることになるだろう」と予測する。
だがその一方で、「2011年7月24日の地デジへの完全移行を直前にして、価格優先で購入するユーザーが増加しており、購入後のインターネット接続率は決して上昇しているわけではない。現時点では、10~15%の間だと認識しており、年度末の30%の目標に対しては、まだ半分の水準でしかない。しかし、40型以上のBRAVIAに関しては20%以上のインターネット接続率になっている」と語る。
KDL-46HX820でYouTubeを表示 |
2011年7月24日までは、活況な売り場のなかで、価格重視の購入が中心になるだろうが、それ以降は、売り場そのものも落ち着き、機能を重視して、ゆっくりと買い換えの相談をするといった動きも増えるはずだ。
そうした動きを視野に入れたのが、今回のソニーマーケティングのネットワーク接続提案だといえる。
ソニーマーケティング社内では「ソニー=ネットワーク」というキーワードを使い、BRAVIAにおけるネットワークの強みを積極的に訴求する考えだ。
では、ソニーマーケティングはどんな形で、「ソニー=ネットワーク」を訴求をしているのだろうか。
今回の訴求で共通しているのは、インターネット接続を切り口にしたテレビの新たな視聴提案である。
6月に行なったテレビCMでは、「ブラビアはインターネットテレビへ」をキャッチフレーズに、BRAVIAの画面からYouTubeの動画を視聴したり、Twitterを利用できることを訴求。さらに、東京・銀座のソニービルの銀座ソニーショールームでは、6月9日~7月15日まで、「ブラビア インターネットTVイベント」を開催。BRAVIAを通じてYouTube、Twitter、Skypeが使用できるといった3つの観点から、それぞれにブースを設けて、デモストレーションを行なっている。
キリンカップの日本 VS チェコ戦でTwitter体験イベントを実施した |
また、ソニーホームページでは、「Twitter体験イベント」を展開。6月7日に開催されたサッカーキリンカップ日本代表対チェコ代表の試合では、サッカー解説者のセルジオ越後さんが、テレビ画面上でTwitterをしながら観戦するイベントを実施。参加者からは、「こうしたテレビの見方って新しくて面白い」、「テレビ画面の横にTwitterがあるだけで面白さが増す」、「BRAVIAが便利になってきた」といった声が聞かれたという。
また、「当社サイトで紹介しているテレビのインターネット接続提案は、競合他社と比べても、格段に充実しているという自負がある」という自信もみせる。
さらに、量販店店頭やソニー系列店である「ソニーショップ」や、大阪、名古屋のソニー直営店「ソニーストア」でも、ブラビアネットワーク機能の体験デモ展示を展開。7月2、3日には、名古屋のソニーストアで開催したイベントでは、1階フロアに展示しているBRVIAと、2階に設置しているBRAVIA、さらにはモバイルで接続した端末とを接続して、Skypeで会話するデモストレーションを行ない、「テレビで電話ができることを知らなかった」という驚きの声が参加者からあがっていたという。
■ モニターキャンペーンや、ソニーショップの協力でネット接続を訴求
そのほか、7月から量販店で配布されているBRAVIAのカタログでは、表紙にYouTubeやTwitter、Skype、FaceBookのロゴを入れて、BRAVIAでこれらのサービスを利用できることを訴求しながら、このほかにもインターネットを利用したサービスの利用提案を行なっている。
例えば、YouTubeでは「キーワードを入れれば、見たい動画が次から次へ楽しめる」、Skypeでは「遠く離れた相手とテレビの大画面でビデオ通話ができる」といったキーワードで具体的な使い方を紹介。そのほか、ブラビアネットチャンネルによるビデオオンデマンドサービス、テレビで流れた曲を、その場ですぐに検索できるTrackIDや、130種類以上のアプリケーションを利用して、番組を楽しみながら、ニュースや天気予報などの気になる情報をチェックできるアプリキャストなどを紹介している。
7月から量販店で配布されているBRAVIAのカタログでは、表紙にYouTubeやTwitter、Skype、FaceBookのロゴが入り、インターネットを利用したサービスの利用提案を行なっている |
さらに同社では、BRAVIAのインターネット機能を体感してもらうためのモニターキャンペーンを実施。6月1日~12日の期間中、約3,000人が応募。抽選で選ばれた12人にKDL-32EX700を貸与し、その利用体験をホームページで紹介するという。まもなく、第一回目のモニター体験談が同社ホームページで公開される予定だ。
加えて、USB無線LANアダプタープレゼントキャンペーンを実施。一部製品の購入者を対象に無償で提供し、インターネット接続をより身近に体験してもらう考えだ。
「いまや、テレビは、テレビ局から配信される番組を見るだけでなく、様々な使い方ができるということに気がついていただきたい。『これからのテレビの使い方はこうなる』という提案によって、新たな需要を創造したい」と語る。
一方で、全国1,000店舗のソニーショップのうち、リビングネットワークのソリューション提案力強化に取り組む、約400店舗を対象にしたセミナーを実施。5月~6月にかけて行なわれたセミナーには、304社が参加しており、売り場におけるネットワーク接続提案の加速につなげている。同セミナーは7月下旬以降にも実施されることになっている。
BRAVIAの現行機種では、BD内蔵モデル、HDD内蔵モデルを除く、22型から60型までのすべての機種でインターネットへの接続が可能となっている。
BDおよびHDD内蔵モデルの出荷構成比は約2割。つまり、これを除く出荷台数の8割がインターネット接続機能を搭載していることになる。
2011年度下期に向けても、ソニーマーケティングでは、ネットワークを切り口とした訴求を展開していくというが、その一方でテレビとしての基本性能の訴求にも余念がない。
本多統括部長は、「インターネットへの接続などの機能を訴求する上では、まずテレビの基本性能として求められている映像の美しさや、優れた省エネ性といった面で評価を得ることが必要。これがあってこそ、初めて訴求できる。次世代超解像度を実現するX-Reality PROの優位性によって、インターネット上の動画も鮮明に視聴できるといった提案も行なっていきたい」とする。
さらにネットワーク接続に関するアフターサポート体制の強化にも取り組む考えで、販売後におけるネットワーク利用の促進にも力を注ぐ。
ソニーは、ネットワークを切り口に、ハード、ソフト、コンテンツまでをグループ内に抱える総合力を生かし、「ネットワークエンターテインメントの世界をリードする」という戦略を掲げている。その点では、テレビのネツトワーク接続においては、ソニーが先行すべきだとの認識が同社社内にも強くある。
まずは、国内におけるネットワーク接続率を今年度中に30%に高めることが目標となるが、その先には、2015年に75%の接続率にまで高めるという中期的な目標がある。
7月から配布されている新たなカタログにも記された「ブラビアはインターネットテレビへ」の言葉通り、今後、ソニーのインターネット接続提案はますます加速することになりそうだ。
(2011年 7月 7日)
[Reported by 大河原克行]