大河原克行のデジタル家電 -最前線-

4月に設立された「ソニーコンスーマーセールス」の役割

~「ネットワークAV」への取り組みを辻和則社長に聞く~


ソニーコンスーマーセールスの辻和利社長

 ソニーが、2012年4月にソニーコンスーマーセールス(SOCS)を設立してから、約2カ月半を経過した。新会社は、ソニーマーケティング(SMOJ)から、販売店向け営業支援活動などの機能を切り出したもので、エリアでの営業力強化、ソニー製品のセールス活動、販売促進活動を専門に行なうことになる。

 ソニーコンスーマーセールスの辻和利社長は、「ソニーマーケティングのこれまでの活動が、製品カテゴリーごとの縦軸の展開だとすれば、カテゴリーを横断した活動を行なう横軸プラットフォームの会社が、ソニーコンスーマーセールス。ネットワーク時代において、AV、IT製品を横軸で販売する組織になる」と語る。辻社長に、ソニーコンスーマーセールスの取り組みについて聞いた。



■ ネットワーク化したAV製品の販売を支援

--ソニーコンスーマーセールスを設立した狙いについて教えてください。

:これまでソニーマーケティングのなかにあった、量販店や地域専門店などを対象にした営業支援活動を切り出したのが、ソニーコンスーマーセールスです。その点では、なにか新しいことをやる会社だというわけではありません。しかし、切り出したということに大きな意味があります。ご存じのように、国内AV機器市場は、薄型テレビの旺盛な需要期が終わり、新たな展開が模索されています。ここ数年、量販店などでは、薄型テレビの販売に追いまくられ、機能説明よりも、価格訴求への対応が求められていました。ところが、地デジへの完全移行後、売り場の様相が一変した。ひとことでいえば、価格訴求から、機能訴求をしなくては売れないような状況になってきたわけです。

 

Sony TabletでBDレコーダの番組を見られる「レコプラ」など、様々な機器連携も実現している
 ここ数年、積極的にはやってこなかった機能訴求型の売り場づくりへと変えなくてはならない、店員のスキルも、もう一度、そちらの方向に向けて強化しなくてはならない状況にあるのです。そうしたなかで、鍵になるのがネットワーク型製品の提案です。製品同士をつなぐことで、新たな価値を提案することが求められている。テレビを売るだけの売り場づくりではなくて、テレビとなにをつなげるか、という提案へと一気にシフトしなくてはならない。

 

 振り返ってみると、ソニーの組織全体が、製品ごとに切り分けた「カテゴリー」を軸とした組織になっており、これまでのソニーマーケティングによる営業支援活動も、それに準じた体制となっていました。しかし、最前線の売り場では、これを横串にした提案がいち早く求められている。そこで、商談、店舗展示提案、販促活動などの営業業務において、横串型のプラットフォームで展開できる体制を整え、AV製品、IT製品単体だけでなく、ネットワークの専門知識までを総合的に備えた人材の育成を進めていきます。つまり、製品カテゴリーの枠を越え、Net-AV時代の営業支援組織を確立するのが、新会社として機能を切り出した大きな意味だといえます。

--ソニーコンスーマーセールスは、量販店および地域販売店向けの営業活動全般を担当するという理解でいいですか。

:ひとことでいえば、セルアウトを担当する組織です。社名のコンスーマーセールスは、最前線の営業現場で、コンスーマー製品を販売する支援を行なうという意味からきています。例えば、量販店の本部における商談は、これまで通りソニーマーケティングが行ないます。しかし、販売の現場ではこれらをどう売っていくのかという知恵が求められる。

 極論すれば、この5年ほどはそうした知恵があまり必要ではなかった。セルアウトの部分に対して、知恵を使うことが求められており、店舗の特徴や地域特性にあわせて、ネットワーク化したAV製品を販売する提案をお手伝いするのが、ソニーコンスーマーセールスの役割となります。

--ソニーコンスーマーセールスのなかに、Net-AV時代のスキルを持った人材はすでに育っていますか。

:まだまだこれからです。自己評価すれば30点ぐらいではないでしょうか。薄型テレビを売らせたら世界一という社員は数多くいます。単品ごとの専門家も多い。しかし、組み合わせ提案に関しては、まだ販売ノウハウ、提案ノウハウが蓄積されていない。例えば、Sony Tabletを中心に置いたときに、ネットワークへの接続や、他の製品との連携といった説明は避けては通れないものですが、これを自信を持って説明できる体制が、全国のすべての売り場でおいて構築できているかというと、決してそうとはいえない。なかにはネットワーク製品というだけで、構えてしまうようなケースもある。

 この1年で60~70点、つまり及第点といえるところまで社員のスキルを引き上げ、販売店においても、ネットワーク型の販売提案ができる売り場づくりを進めてきたいと考えています。そのためには勉強会などを行なう一方、実践型でのスキル蓄積も図っていきます。

--実践型とはどんなことを指しますか。


Sony Tablet

:この6月から、営業担当者を中心に800台のSony Tabletを配布します。最初は、社員全員にスマートフォンを持たせようと考えたのですが、すでに競合他社ではスマートフォンを導入している例もありますから、この際、一気にタブレットにしてしまおうと(笑)。これまでは、PCを使って対面で行なっていた店長へのプレゼンテーションも、Sony Tabletを使えば、店長の隣に座って、より詳しく説明できますし(笑)。

 それともうひとつ重要なのは、このタブレットは業務利用だけでなく、社員が自宅に持って帰り、自由に使えるようにしたという点です。やはり、使っているユーザーが一番強い。ネットワーク製品を体感することで、社員がSony Tabletとはどんな製品であるか、どんな可能性がある製品なのかということを皮膚感覚で知る狙いがあります。社員には、「ニコ動を見るところからでいいから、とにかく使ってみろ」と言っていますよ(笑)。



■ デジカメ売場で「写真の楽しみ」を伝える

--Net-AV時代に向けて、このほかにどんなスキル向上に取り組みますか。

:現在、全国15支店にネットワークラボを設置しています。ここでは、様々なAV機器、IT機器をネットワーク化し、デモストレーションが行なえる環境を用意してありますから、販売店の方々と一緒にネットワーク提案に向けた検証などが可能になります。ラボの活用はさらに促進させたいですね。

 また、インターネットに関する民間資格であるドットコムマスターの資格取得を促進しており、現在、社内で600人がこの資格を有しています。これを営業全員へと広げていきたい。そして、写真とカメラに関する認定試験であるフォトマスターについても取得を促進しています。こうした活動を通じて、スキル向上と意識づけを徹底していきます。さらに、セミナーの講師をできる水準のスキルを持った社員を育成し、セミナー型での提案といったことも促進していきたい。

 また主要拠点においては、IT営業所とAV営業所に分割していたものを統合し、ここでもカテゴリーにとらわれない営業支援体制を敷くことになります。

 一方、4~5年前から、商戦前に、当社の営業担当者と量販店の店長とが直接話し合いの場を持ち、どうやって新製品を売っていくかを戦略的に話し合う「SBM(ストア・ビジネス・ミーティング)」を行なってきました。しかし、これからは単品での販売ではなく、組み合わせでの販売が重視されますから、SBMの「ストア」の部分を「ソリューション」に置き換えて、ソリューション型の販売手法を提案する会議へと進化させていきたい。顧客単価向上のために、いかにソリューションとして販売するかが鍵になります。

--具体的にはどんな提案をするのですか。

:例えば、これまでのテレビ売り場は、売り場面積を大きく割いて、そこに数多くの製品を並べるという売り方でした。しかし、テレビ売り場に多くのスペースを割くわけにはいきませんから、ソニーの強いカテゴリーはどこかという点に絞り込んで、単価アップできるような展示をしていきたい。ここでもネットワークが重要な切り口になります。

 ソニーの場合、40型以上のテレビでは、すでに約40%がネットワークに接続されています。ネットワークにつないでどう楽しんでもらうかという提案がひとつの切り口です。また、テレビでは、音質を楽しむためのバースピーカーの販売にも力を注ぎたい。薄型テレビの登場で画質は極めて良くなりました。我々、電機メーカーは薄型テレビによって「高画質」を売ってきたといえます。

 しかし、その反面で、音の提案には課題が残っている。薄型化、狭額縁化によって、ブラウン管テレビに比べると音質が悪いという指摘もある。画質と音質のバランスが取れていないという言われ方もします。つまり、高画質に最適な音質の提案が求められているわけで、言い換えれば、スピーカーにビジネスチャンスがある。テレビ売り場のなかで、人が多く通る場所に、3段階の価格設定でスピーカーを展示し、比較しながら音の良さを体感してもらえるような展示が必要です。

 また、需要層が広がりを見せているデジタルカメラも大きなチャンスがある製品ですし、アクセサリーの販売にもチャンスがある。

--デジカメの販売における仕掛けではどんなものがありますか。

:誤解を招くような言い方になりますが、デジカメでは、スペックを語らずに販売するといった取り組みで成果があがっています(笑)。3年前から「カメラの時代がやってくる」、あるいは「カメラといえばソニー」、「真のカメラメーカーであるために」という方針を打ち出し、デジタルカメラの販売促進に取り組んできたわけですが、そこでのノウハウが徐々に蓄積され、その結果がこうした売り方につながっています。

「写真を楽しむこと」を提案し、幅広い層へアプローチ

 デジカメを売るということは、いわば、写真を楽しんでもらうことです。そこで、まず取り組んだのが、全国の店舗にギャラリーを作るということでした。これまでは、サンプル写真をバインダーなどに入れた形で販促資料を用意していたわけですが、そのバインダーを開いてくれるのは、本当にデジカメに興味がある人だけです。そのため、多くの人に対して、なかなか良さが伝わらない。

 そこで、社員に店舗の近くの風景を最新のデジカメで撮影してきてもらい、さらに、それを壁に穴を開けることなく展示するために、イーゼルとコルクボードを用意し、その写真を貼りだしてもらいました。すると、「この写真はどうやって撮影したのか」というように、写真をきっかけにして、店員との会話が始まる。ここからデジカメの販売につながるということもあるわけです。現時点で約200店舗で、同様に「写真」の展示を行なっています。

 さらに、こんな仕掛けもしています。デジカメ売り場の近くで、スーパーボールすくいのイベントをするのですが、ここでは、子供に自由にスーパーボールをすくってもらう。そして、お母さんにデジカメのNEXシリーズを渡して、スーパーボールをすくっている子供を撮影してもらう。これが実にいい表情で撮影できるんです(笑)。撮影したデータを、エプソンと連携して設置したプリンタで、A4サイズの大きさでプリントアウトして、お渡しする。すると、「こんなにいい表情で、画質のいい写真が、これだけのサイズでプリントアウトできる」ということになる(笑)。

 

女性を主なターゲットとした「NEX-F3」
 普段、子供を携帯電話のカメラで撮影しているのとは、まったく違う水準のものが手軽に撮影できるわけです。週末の2日間でに200人ぐらいに体験していただくのですが、10台ぐらいが売れてしまいます。しかも、7割程度が衝動買い。7万円前後の製品を衝動買いで購入させてしまうぐらいの魅力を提案できるのです。この時には、「F値はこうです」なんて説明はしません。むしろ、F値といった途端に売れなくなる。デジカメの購入層が女性層やシニア層に広がると、写真の感動によって販売するといったことが、これからますます重要になってくるのではないでしょうか。これを「ショップフロントエンタテインメント」と呼び、ソニーは楽しいということを体験していただくことで、購入につなげてもらっています。

 

 実のところ、量販店の方々も、カメラには苦手意識があった。しかし、写真を切り口に提案できるようになると話は違ってきます。こうした販売ノウハウを蓄積し、共有できるような仕組みにも取り組んでいきます。



■ 2012年夏商戦のポイントは「機関銃型」

--Sony Tabletやアクセサリーも今後の重要製品になりますね。

:Sony Tabletに関しても、店頭で10人ぐらいがパイプ椅子に座って、10分程度で簡単にできるセミナーの提案などを行なっています。近い距離感のなかで、現物をみてもらって、タブレットの利便性やメリット、使い方を知ってもらう。これまでの接客方法とパターンを変えるという意味でも、効果的です。

 また、アクセサリーでは、スマートフォンの売り場に、スマートフォン用のアクセサリーコーナーを設置したところ、アクセサリーの販売量が飛躍的に拡大したという例がありました。これまでは製品本体とアクセサリーは別々の場所に展示するケースが多かったため、お客様にソニーのアクセサリーを購入していただくということが難しかった。しかし、こうしたちょっとした売り場づくりの改革で、売り上げが大きく変化するのです。

 また、PlayStation 3のカラオケソフトの発売にあわせて、マイクを一緒に展示したところ、これもいきなり売れ始めた。マイクを作る側は、当然こうしたソフトウェアとの共同展開を視野に入れているのですが、販売現場では、もともと売り場が違うということもあり、なかなか連動した提案ができなかった。こうした作り手側の姿勢を知り、現場にどう反映するかといった知恵を活用した販売支援を展開していくことがますます重要になるのではないでしょうか。

--2012年度の夏商戦は、なにがポイントになりますか。

:これまでのように、大画面テレビをドカンと売る「大砲型」ではなく、周辺機器やアクセサリ、小物製品を販売する「機関銃型」のビジネスがこれからの主流になると考えています。その時に、視野を広く持った提案や、柔軟な感覚での提案、そして、ネットワークを知る強みを発揮していくことになります。

 いま、新たな販売ノウハウを社内で共有するために、eラーニング型の仕組みを構築しています。5月からはデジカメに関する事例を5本シリーズとして制作をはじめており、これを今後半年間でラインアップを広げていきたい。これによって“我々が向かう方向はこっちである”ということを、販売店の方々と共有していきたいと考えています。

 夏商戦における販売目標はありますが、まずは、新たな時代のなかで、成功事例を数多く作ることを優先したい。

BRAVIA HX850シリーズ
 とくに、テレビに関しては、なかなか販売に弾みがつきにくい環境にありますから、むしろ単価アップが鍵であり、46型以上の構成比を高めることやHX850をはじめとする高性能モデルに力を注ぐこと、また、ネットワークの接続率を増やす提案などを加速していきたい。ネットワーク接続率は夏商戦以降で50%以上に高めるところまで持って行きたいですね。

 一方で、テレビ以外のところでは、きちっとしたシェアを目標を持って取り組んでいきます。とくに、Blu-rayレコーダ、デジカメ、タブレットなどが重点製品になります。Sony Tabletでは、Android端末でトップシェアを維持するというところにはこだわっていき、そこでSony Tabletによって、なにができるかという提案を促進したいと考えています。ここでもどんな売り方をすれば成功するのかといった事例を数多く集め、これを年末商戦の販売提案へとつなげていきたいと考えています。提案型のビジネスをいかに確立できるかが、この夏商戦の大きなポイントだといえます。

(2012年 6月 21日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など