藤本健のDigital Audio Laboratory
第559回:マイク交換できるPCMレコーダ「H6」の実力は?
第559回:マイク交換できるPCMレコーダ「H6」の実力は?
MS/XYマイク付属のズーム最上位機を試す
(2013/7/22 14:18)
ズーム(ZOOM)からリニアPCMレコーダのフラッグシップモデル、H6が発売された。これまでの人気モデルH4nの上位版という位置づけだが、特徴は、まるで一眼レフカメラのレンズを交換するように、マイクの交換が可能となっていること。XYマイクとMSマイクの2種類がセットとなって付属している。
価格は46,200円と、最近のリニアPCMレコーダとしては高価ではあるが、6chの同時録音が可能で、ファンタム電源供給可能なコンデンサマイクの入力端子も4つ装備するなど、かなりユニークな構造となっている。実際、どんなものなのか試してみた。
大きめの本体、わかりやすい操作系
手元に届いたH6の紙箱を開けると、中から立派なプラスチックのケースが出てくる。そしてこのケースを開けると、この中にはH6本体、XYマイク、MSマイク、そしてウィンドスクリーンやケーブル、バッテリー、SDカードなど一式が入っている。つまり、H6を持ち歩くときは、このケースごと持ち歩こうというコンセプトになっているのだ。
本体にマイクを接続したときのサイズは結構大きめであり、iPhone 5と並べてみると雰囲気が分かるだろう。また大き目なリニアPCMレコーダとしてはローランドのR-26があるが、これと並べてみると比較的近い大きさであることがわかるだろう。重量的にも近く、R-26が本体370gであるのに対し、H6は本体280g+マイクとなっており、XYマイクなら130g、MSマイクなら85gとなっている。ただし、いずれの機種も単3バッテリー4本で駆動させるため、XYマイクを使った場合、トータルで500g程度。かなりズッシリとくる機材だ。
このH6の最大の特徴は、マイクを交換できるという点。標準添付のXYマイク、MSマイクのほかに8月ごろの予定でモノラルのガンマイク、そしてXLR/TRS入力を持つユニットがオプションで発売されるため、頭の部分を取っかえひっかえしながら利用できるのだ。
接続部を見てみると表裏で10端子ある基板を差し込むような構造になっており、確かに一眼レフのレンズを交換するような感覚だ。また驚くのは、このマイクの取り外しや取り付けを電源を入れたままでも行なえるという点。実際に電源の入った状態で試してみると、問題なく交換ができた。なんとなく精神衛生上、悪いことのようにも思えるが、電源が入ったままでのSDカードの抜き差しと同じようなものと考えればいいのかもしれない。
本体のトップパネルを見てみると、上部には4つのインプットボリュームがあり、その下に入力チャンネルを決める6つのボタンが並んでいる。LとRに相当するのがマイク部、1~4は左右サイドにあるコンボジャックからの入力を示す。その下にトランスポートボタン、そして液晶ディスプレイとなっている。
では、その左右はというとまず左サイドには、1ch、2chの入力とSDカードスロット、ヘッドフォン出力、ボリュームと電源スイッチが用意されている。コンボジャックにコンデンサマイクを接続した場合は、メニュー設定によってファンタム電源をオンにする。また、ファンタム電源の電圧も+48Vのほか+12V、+24Vも選択できるようになっている。さらに、プラグインパワー対応のマイクを接続している場合は、やはりメニューからプラグインパワーをオンにすることで利用できる。
一方、右サイドにも同じように3ch、4chの入力があるほか、メニューキーとスクロールキーが配置されている。各種設定については、液晶画面を見ながら、この2つのキーを使うことで、マニュアルなどをまったく見なくてもわかりやすく操作できる。
そしてバックパネルを見てみると、ここにはちょっと大き目なスピーカーが配置されており、ある程度の音量でスピーカー再生が可能だ。また電池ボックス部には計4つの単3電池をセットして動作させるようになっており、アルカリ電池でもニッケル水素電池でも利用できるようになっている。ちなみにスペック上のバッテリ駆動時間はXYマイク使用時、16bit/44.1kHzのステレオ×1の録音でアルカリ電池で約21時間、24bit/96kHzで、6chすべて入力の場合で、約9時間45分持つとのことだ。
見た目通り、かなりゴツい感じのボディーではあるが、使い方はシンプルでわかりやすい。まず、録音フォーマットを24bit/96kHzに設定した上で、低域カットやコンプ/リミッターなどはいったんオフに設定。この状態で、ヘッドフォンでモニターできるようにし、LとRのボタンをオンにするとマイクからの音が聴こえてくる。マイクの入力レベルはマイク部にあるちょっと重めなボリュームを回すことで設定できるので、非常に直感的に利用できる。
高精度な録音機能。音の広がりを自由に調整
早速これを持って、まずは外に。多少風があったので、付属のウィンドスクリーン(スポンジタイプ)をかぶせて鳥の鳴き声を録ってみた。朝、近所を歩いていると小鳥とカラスに遭遇したので、XYマイクで録音してみた。カラスの羽ばたきを含めかなりリアルに捉えているのが分かるだろう。またちょうどカナブンのような虫が目の前を飛んでいったのだが、左から右へといく動きをハッキリと捉えている。ちなみに、このXYマイクは従来機と同様マイクユニット部を回転させることで、90度と120度の角度に変更できる仕組みとなっている。ここでは90度で使っている。
次に、その場で、XYマイクからMSマイクに差し替えて新たに録音してみた。今度はさらにカラスが近寄ってきたため、ずいぶんと迫力ある音になっているが分かるはずだ。MSマイクの詳細については、以前H2nを紹介した際に詳しく書いているので、そちらに譲るが、MidマイクとSideマイクという内蔵されている2つのマイクの組み合わせで収録し、その音量設定によって音の広がり方をいろいろと変えて録れるのが大きな特徴。その中で、デフォルトの設定となっているのはSideマイクが0dBというもの。H6のマニュアルには記載がなかったが、これで120度の広がりで音を捉えられているはずだ。
野鳥の声の録音サンプル(24bit/96kHz) | |
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XYマイク録音 | h6_xy_bird2496.wav(8.54MB) |
MSマイク録音 | h6_ms_bird2496.wav(9.73MB) |
※編集部注:24bit/96kHzの録音ファイルを掲載しています。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。 また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
さらに、そのまま近所の踏切のそばへと移動。ここで改めてXYマイク、MSマイクのそれぞれで電車の通過音を捉えてみた。どちらのマイクでも迫力ある音をリアルに捉えているのが分かるだろう。ここで試してみたのはMSマイクの設定をRAWモードにするというもの。これもデジタルカメラでいうところのRAWモードのようなものと言えばいいのだろうか……。正面に向けているMidマイクを左チャンネル、左右に向けているSideマイクを右チャンネルに、そのままWAVで録音するというものであり、これを再生してまったく聴けないわけではない。ただ、このままでは妙なステレオ感となってしまうし、そのことは波形を見てもハッキリと分かる。そこで、これをデコードすることで、通常の音に変換することが可能であり、デコーダの設定によってステレオ感を変えることができるのだ。
そのMSマイクのデコードは、位相の違いを利用してアナログ的に変換するものであるため、古くから高価なアナログ機材として存在していた。ただ、やっていること自体はいたって簡単であるためフリーのプラグインソフトなどでも存在していた。さらにズームからはH2nのリリース後、オリジナルのデコーダをVSTプラグインとして出していたので、これを利用してみた。
ここではSideマイクは0dBに固定しながら、Midマイクを0dBの場合と+6dBの場合の2つを作ってみたが聴き比べてみてどうだろうか? 0dBのほうが音の広がりがあり、+6dBは真正面の音を集中して聴いているという感じになっているのが分かるはずだ。このフォーカスを収録後に変えられるのがMSマイクの不思議で面白いところ。デコーダを使うというひと手間が必要にはなるが、さまざまな活用が考えられそうだ。
電車通過音の録音サンプル(24bit/44.1kHz) | |
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XYマイク録音 | h6_xy_train2444.wav(7.33MB) |
MSマイク録音(RAWモード) | h6_ms_train_raw.wav(6.39MB) |
MSマイク録音(Midマイク0dB) | h6_ms_train_0db.wav(6.39MB) |
MSマイク録音(Midマイク+6dB) | h6_ms_train_6db.wav(6.39MB) |
※編集部注:24bit/44.1kHzの録音ファイルを掲載しています。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。 また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
さて、その後室内において、CDを再生させた音をXYマイク、MSマイクのそれぞれで録ってみた。MSマイクの設定はSideマイク0dB固定という鳥の鳴き声を録ったときと同じ設定で行なった。この2つを聴き比べてみると非常に近い音であるように感じる。周波数分析をした波形を見比べると、MSマイクのほうが高域がやや大きいことは見て取れるが、聴いた感じはほぼ同等だ。これまでテストしてきたほかの機種と比較してみると、非常にバランスよく、かなりの高精度であることが分かる。先日取り上げた、ヤマハのPR-7について、「高解像度で過去にテストした機材と比較していい音」と書いたが、PR-7と比較しても解像度が高く感じられるのと同時に、低域がよりしっかりと録れており、安定したサウンドであるように思えた。
XYマイク録音 | h6_xy_music1644.wav(7.10MB) |
MSマイク録音 | h6_ms_music1644.wav(7.09MB) |
※編集部注:編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。 また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますので ご了承下さい |
6ch MTR、USBオーディオとしても利用可能
このように、ズームのH6は2chのマイクを使ったリニアPCMレコーダとして非常に高性能な機材だが、H6という名前の由来は6chのレコーディングができるという点にある。前述した通り、左右に4つのコンボジャックが搭載されており、これらの音も同時にレコーディングすることが可能なのだ。この場合、録音したチャンネルのボタンを点灯させて、レベル調整をした上で録音ボタンを押すのみ。すると、同じフォルダに複数のWAVファイルが生成される。基本的にマイク部はLRセットとなったステレオのファイル、1~4chは1つずつのモノラルファイルとなって保存される。いずれもBWF形式に対応したWAVファイルであるので、あとでDAWなどに読み込んだ際に、ピッタリと同期させることができるし、H6での録音中または再生中にトラックマークを登録していくことも可能だ。
また、必ずしも同時にレコーディングしなくても、先に1~4chをレコーディングしておき、その後それらを再生しながらマイクでのLRchを重ねて録音ということも可能であり、まさにMTRとして利用できるのだ。ただ各入力とトラックの関係は固定となっているようで、マイクだけを使って多重録音するといったことはできないようだった。まあ、そうした使い方を目的とする機材ではないと思うが、チャンネルとトラックのマトリックス変更などができると便利そうだとは思った。
このようにマルチトラックで録音した結果を再生する際、各トラックの音量やパンを調整することが可能で、その結果を本体で2chにミックスダウンするといった機能まで用意されている。ディスプレイが小さく、各トラックの操作もスクロールキー一つで行なっていく必要があるので、決して使いやすいミキサーというわけではないが、やろうと思えば、いろいろなことができてしまうわけだ。
さらに、この録音機能において特筆すべきポイントは、バックアップレコード機能というものを持っていること。これは通常の録音ファイルに加え、12dB録音レベルを下げたファイルを同時に作成するというもの。万が一、レベルオーバーしてピークを越えてしまったという場合でも、バックアップファイルを利用すればそうしたトラブルを避けられるというもので、本番時に安心して使うことができそうだ。
そして、H4nなどと同様にUSBオーディオインターフェイスとしての機能も搭載されている。USBクラスコンプライアントとして動作するので、基本的にはPCとUSBケーブルで接続するだけでOKだが、ステレオミックスモードとマルチトラックモードという2種類があり、ステレオミックスモードを選択した場合には2IN/2OUTとなり、マルチトラックを選択した場合は6IN/2OUTとなる。ただし、マルチトラックで使う場合、Windowsではドライバが必要となり、ズームのWebサイトからダウンロードすることでASIOドライバとして利用できる。また、iPadとカメラコネクションキットを使って、iPad用のステレオオーディオインターフェイスとしても利用可能。
そのほかにも、メトロノーム機能やチューナ機能などの機能も装備されており、H6はまさに高性能・多機能なリニアPCMレコーダといえそうだ。
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ズーム H6 |