藤本健のDigital Audio Laboratory

第761回

片手操作で本格録音のZOOMレコーダ「F1」。マイクを着け替えて音を録った

 ズーム(ZOOM)が2月より発売した、とても小さなリニアPCMレコーダ「F1」。国内ではラベリアマイク(ピンマイク)をセットにした「F1-LP」と、ショットガンマイクをセットにした「F1-SP」の2種類が発売されている。

F1

 外で利用することを想定した“フィールドレコーダ”ということでF1という名称になっているようだが、オプションのXYマイクやMSマイクを取り付けることも可能になっているユニークな機材だ。今回、ラベリアマイクとセットのF1-LPを試すとともに、XYマイクを取り付けた場合についてもチェックしてみたので、どんな機材なのかレポートしよう。

ラベリアマイクがセットの「F1-LP」
ショットガンマイクがセットの「F1-SP」

マイク交換も可能な、ズーム最小のレコーダ

 H6、H5、H4n Pro、H2n、H1、H1n……と、現行製品だけでもかなりのラインナップを揃えるズームのリニアPCMレコーダだが、先日また新たな製品が発売になった。同社製品の中でもっとも小さなレコーダ、F1だ。F1本体にマイクが搭載されていないこともあり、国内ではF1単体の発売は行なわれておらず、ラベリアマイクが付属するF1-LPおよびガンマイクが付属するF1-SPが販売されている。価格はオープンプライスで、ネットではF1-LPが25,000円~27,000円前後、F1-SPが30,000~33,000円前後で販売されている。

 そのF1の本体は手のひらに収まる小さなもの。サイズ的には64 mm (W) x 79.8 mm (D) x 33.3 mm (H)で、重量は電池なしで120g。その電池も単4を2本なので、アルカリ電池の場合でトータル144gと軽量なのだ。

コンパクトな筐体
単4電池2本で動作

 本体裏側にはベルトクリップが取り付けられているので、これを利用して常に身に着けて持ち歩くというのも手だ。一方、前述の通り、本体にはマイクを内蔵しておらず、付属のラベリアマイクは3.5mmのステレオミニジャックに取り付ける形になる。スクリューロック方式となっているので、抜け落ちる心配はない。

ベルトクリップ付き
ズボンのベルトに装着
ラべリアマイクの端子は3.5mm

 そのラベリアマイクのケーブル長は160cm。ここにはクリップもついているので服に取り付けることも可能。また、多少風のある屋外でも利用できるように、ウィンドスクリーンも3つ付属している。

服に留められる。ウインドスクリーンも付属

 ここで最初に気になったのはラベリアマイクがモノラルなのか、ステレオなのか、という点。ステレオ端子なので、もしかしてステレオだったりするのだろうか?その場合、左右をどのようにして服などに取り付ければいいのだろうか……と考えてしまったが、隣のヘッドホン端子からモニターしてみて解決。やっぱりラベリアマイクは普通にモノラルだった。

 ただし、ここにラベリアマイクではなく、ステレオのマイクを接続すればステレオで録音することも可能。またプラグインパワーにも対応しているため、必要に応じてさまざまなマイクを取り付けて利用することも可能だ。

 一方で、ステレオでのレコーディングをした場合に本領を発揮するのがオプションのマイク。ズームでは、これまでH6やH5など、マイクの交換が可能なリニアPCMレコーダを発売してきたが、このF1も同じ規格となっているため、これらで利用するマイクをそのまま接続できるのだ。

 F1の液晶の上にあるキャップを外すと、コネクタが現れる。ここにXYマイクやMSマイク、ショットガンマイクなどを接続するのだ。ただ、F1本体が小さいだけに、ここにマイクを接続すると、かなり頭でっかちな形状となる。とくにショットガンマイクのように大きいと、マイクが完全にメインで、そこに小さな本体が付いているというイメージ。本体のコンパクトさが、十分に生かせないようにも思えるが、それをどう考えるかはユーザー次第だろう。

カバーを外すとマイクを装着する端子
装着したマイクの方が目立つ

片手で操作しやすい設計

 さて、このマイクから拾った音を記録するメディアはmicroSDカード。ここにWAVおよびMP3で記録可能となっており、WAVの場合、44.1kHz/16bit、48kHz/16bit、48kHz/24bit、96kHz/24bitの4つのフォーマットが、MP3の場合48kbps、128kbps、192kbps、256kbps、320kbpsの5つのフォーマットが選べるようになっている。

記録メディアはmicroSDカード

 このフォーマット変更をはじめ、UIがすごくわかりやすいのも最近のZOOM製品の特徴。本体の液晶の下に4つのボタンが並んでいるが、これを押していくと、フォーマットが順番に切り替わっていく。メニューなどの構造もまったくなく設定できるのはわかりやすい。

液晶ディスプレイの下に4つのボタン
録音フォーマット変更
WAVだけでなくMP3録音もできる

 同様に左から2つ目のボタンを押すと、ローカットに関する設定ができる。デフォルトではOFFとなっていて、1回押すとその状況が大きく表示され、2回目で80Hz、3回目で120Hz、4回目で160Hz、その次でまたOFFと切り替わるようになっているのだ。そのため、いざ録音現場でローカットを入れたいと思ったときにすぐに設定でき、ヘッドホンが接続されていれば、ローカットされた音をすぐにモニターできるという機動性は、なかなかだ。

ローカット(80Hz)
ローカット(120Hz)

 その隣のボタンはリミッター。これも押すことでリミッターのON/OFFを切り替えることが可能。一番右が入力レベルとなっており、AUTO、Lo-、Lo、Mid-、Mid、Mid+、Hi-、Hi、Hi+、Hi++とAUTOを除く9段階での切り替えが可能。なぜ入力ボリュームでの設定ではないのかと思う人も多いかもしれないが、実際操作してみるとすべて片手でできるワンボタン操作が結構便利なのだ。

リミッター
入力レベル

 なお、オプションのXYマイクなどを接続した場合は、このレベル設定ボタンは無効となり、マイク側に用意されている入力設定ボリュームが有効になる。つまり、このボタンはステレオミニ入力に接続されたマイクにのみ有効というのも、よく考えられた点だ。

 ついでにほかの設定機能についても紹介しておくと、ストップボタンを兼ねるOPTIONボタンを押すと、先ほどの4つのボタンの役割が切り替わるようになっている。一番左がPLAY TONEとなり、レベル調整用に1kHz/-6dBFSのサイン波の発信音が鳴る。その隣がプリ録音のON/OFF、右から2番目がプラグインパワーのON/OFF、一番右がメニューになっている。このメニューにおいて日付や電池設定、SDカードのフォーマットなどその他の細かい設定ができるようになっている。

プリ録音ON/OFF
プラグインパワーON/OFF
設定メニュー

実際の録音でマイクの違いなどをチェック

 次は、いつものようにこれを持って屋外に出て録音してみることにする。今回はそのラベリアマイクとXYマイクを使ってのテストを行なうのだが、XYマイクを取り付けた状態で、ラベリアマイクをマイク入力端子に刺すとラベリアマイクが優先に、抜くとXYマイクに切り替わる構造だったので、XYマイクを取り付けたまま持ち歩いた。

 フォーマットは96kHz/24bitの設定にし、ヘッドホンを接続した時点で、すでにマイクからの音はモニタリングされている。公園の木陰のあたりにいくと、小鳥が鳴いていたので、まずはラベリアマイクで録音し、その後XYマイクでも録音してみた。

【録音サンプル】
野鳥の声(ラべリアマイク)
lavalier_bird_2496.wav(7.35MB)
野鳥の声(XYマイク)
xy_bird_2496.wav(11.90MB)
※編集部注:48kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 聴いてみると分かる通り、ラベリアマイクでもかなりリアルに音を捉えている。ちょっと風がある日だったが、ウィンドウスクリーンをかぶせていたため、風切り音も気にならないレベルだ。一方、XYマイクのほうはウィンドスクリーンが手元になかったため、ハンカチをかぶせる形で使ったので、このマイクの100%の性能は発揮していないかもしれない。が、ラベリアマイクと比較してみると、その差は歴然。やはりステレオだから、圧倒的にリアルであるのと同時に、音質的にもかなりいいように感じる。マイクの口径などから考えても、やはりラベリアマイクの音質には限界があるのかもしれない。

 場所を移動して、踏切のそばで、電車の走る音をとってみたが、こちらもリアルさという意味ではかなり違いがある。まあ、そもそもラベリアマイクはしゃべる声を録るためのものなので、鳥の鳴き声を録ったり、動きのある電車の音を録るというのは目的が違うともいえるわけだが、比較する意味では分かりやすいのではないだろうか。

【録音サンプル】
電車と踏切の音(ラべリアマイク)
lavalier_train_2496.wav(9.20MB)
電車と踏切の音(XYマイク)
xy_train_2496.wav(17.86MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねますのでご了承下さい

 そして最後に部屋に戻り、CDの音をモニタースピーカーで鳴らした音をラベリアマイク、XYマイクのそれぞれで録った。

【録音サンプル】
CDプレーヤーからの再生音(ラべリアマイク)
lavalier_music_1644.wav(3.47MB)
CDプレーヤーからの再生音(XYマイク)
xy_music_1644.wav(6.94MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ここでもやはりモノラルとステレオの違い、マイク性能による音質の差というのは出てくる。当然ステレオのほうが音の広がり、空間的なものを感じるので聴感的にはXYマイクのほうがずっといいのだが、これを周波数分析してみると、実はそれほど極端な違いはないのだ。また、ラベリアマイクのほうが低域が欠けているのだろうと思っていたのだが、これを見ると、全体バランス的には低域のほうが出ていて中域が落ちているという結果になっていた。

XYマイク録音の周波数分析
ラべリアマイクの周波数分析

音声入力を活用して文字起こしが簡単に?

 XYマイクと比較すると、ラベリアマイクは劣ってしまう面はあるが、本来の人のしゃべり声を録音するためのマイクとしては非常に高性能。ちょうどこのテストを終えたの後、まったく別件の取材があったので、これを持って現場に出かけ、ラベリアマイクをテーブルの上に置くとともに、MP3-128kbpsで入力レベルをAUTOにして録音してみたところ、非常にクリアに録音することができた。

 試しにこのMP3をPCにコピーした上で、手持ちのオーディオインターフェイスのループバック機能をONにした上で、Googleドキュメントの音声入力機能をオンにすると、驚くほどしっかりとテキスト化していくことができる。話者が多いと、話の切れ目が分からず、Google側が混乱するため、現時点で完璧にというわけにはいかないものの、結構使えそうなシステムであることは確か。こうしたものと組み合わせていくのも、リニアPCMレコーダの新しい使い方なのかもしれない。

オーディオインターフェイスのループバック機能をONにして、Googleドキュメントの音声入力機能でテキスト化

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F1-LP
(ラベリアマイク付き)

F1-SP
(ショットガンマイク付き)

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto