藤本健のDigital Audio Laboratory

第619回

正にプロ性能。「ProTools|Duet/Quartet」の実力

APOGEE製USBオーディオがWindows対応でAvidから登場

 プロミュージシャン御用達のオーディオインターフェイス・メーカーとして国内外で評価の高いAPOGEE。Appleと蜜月の関係にあることは有名で、これまでAPOGEE製品はMacのみ(一部iOSデバイスも)サポートとなっていた。そのAPOGEEの比較的低価格な製品であるDuetおよびQuartetが、ついにWindows対応としてリリースされた。

ProTools|Duet(左)、ProTools|Quartet(右)

 正確にはAPOGEEブランドの製品ではない、ProToolsブランド製品としてAvid Technologyからリリースされたのだ。これによってAPOGEEのオーディオインターフェイスがWindowsベースで使えるようになると同時に、ほかのオーディオインターフェイスと同様に筆者の手元で音質テストが可能になったのだ。さっそくプロ御用達とはどのようなものなのか、チェックしてみることにしよう。

APOGEEで録ると“ガツンとした音”に?

 APOGEE、正確にはApogee Electronicsはアメリカ・カリフォルニアにあるオーディオインターフェイスメーカー。もともとはデジタルレコーディング時に発生するエイリアスノイズを取り除くアンチエイリアスフィルタを1985年に開発し、発売したのがスタート。その後、高品位なA/DやD/A、またDAW上のディザリング・プラグインとして著名なUR22、UR22HRなどのツールも出しているが、現在はオーディオインターフェイスを中心に製品展開している。上はSymphony 64|ThunderboltやSymphony I/Oのような2Uラックマウントタイプのものから、ギター入力専用の小さなUSBオーディオインターフェイス、JAM 96のようなものまでいろいろ。ただし、いずれもMac用およびiPhone/iPad用となっており、接続できるのはApple製品のみだったのだ。

APOGEE製品

 APOGEEユーザーがよく言っているのは、「これで録ると、ガツンとした音になる」といった表現。確かに、ギターやベースを録る際も、よりインパクトのある音のような気もする。エキサイターやEQを掛けた音というわけでもないけれど、もしかしたら、なんらかのエフェクトが入っているのだろうか……なんていうようにも思っていた。Windowsで動作するオーディオインターフェイスであれば、いつも使っているRMAA Proを使うことで、入出力の特性をある程度調べることはできるし、もしエフェクト的なものが入っているとすれば、f特やダイナミックレンジに何らかの異変が現れるから、すぐにわかるはずだが、APOGEE製品はWindowsで使うことができなかったため、その辺をハッキリチェックすることができずにいたのだ。

 そうした中、先日ついにAPOGEEの主力製品であるDuetおよびQuartetの2機種がWindowsに対応した。冒頭でも触れたとおり、「Windowsに対応した」というのは正確な表現ではなく、「Windowsに対応したProTools|Duet、ProTools|Quartetという別製品がAvid Technologyから発売された」のだ。ちょっと、ややこしい感じではあるが、APOGEEとしては、「あくまでもApple製品しか対応しない。Windows用の製品は出さない」というポリシーがあるようなのだ。つまり、APOGEEのDuetとQuartetは従来通りMacおよびiOS対応のオーディオインターフェイスで、Avidが出したProTools|DuetとProTools|QuartetがMacおよびWindows対応となっている。

 とはいえ、この2つのブランドの製品を並べてみるとわかる通り、色こそ違えど、形や端子の形状はまったく同じであり、基本的なスペックはまったく一緒。ともに192kHz/24bitに対応したオーディオインターフェイスで、Duetは2IN/4OUT、Quartetは4IN/8OUTと光デジタル入力×2という仕様になっている。

左がAPOGEE版、右がAvid版のDuet
左がAPOGEE版、右がAvid版のQuartet
Duetは2IN/4OUT
Quartetは4IN/8OUT+と光デジタル入力×2

 国内での発売元は、いずれの製品もメディア・インテグレーションとなっているので、同社に確認をしたところ、「Avid版もAPOGEEのアメリカの工場で生産されていて、アナログ性能などはまったく同じ」とのことだ。製品構成としての違いは、APOGEE版はオーディオインターフェイス単体で販売されているのに対し、Avid版はProTools 11がバンドルされるセット製品となっているので、当然価格もAvid版のほうがProToolsが入っている分だけ高くなっている。Duetは119,000円、Quartetは210,000円だ。

Avid版はProTools 11もバンドル

 またAvid版のドライバはWindows用、Mac用ともAvidのサイトから無料でダウンロードできるようになっているので、これを入手すれば、APOGEE版を持っている従来のユーザーもWindowsで使えるようになるのかというと、そうはいかないようなのだ。「あくまでもApple製品しか対応しない」APOGEE製品は、Windowsでは動かないような仕掛けが施されているようで、やはり頑ななようなのだ。実際、Windows用のドライバを開発しているのはAPOGEEではなくAvid側。またAvidはドライバと同時にインストールされるコントローラソフトであるPT IO Control Panelというソフトも開発している。といっても、これもAPOGEE版のMaestroというソフトがベースとなって作られているようではある。

PT IO Control Panel

 では、違いはそこだけなのかというと、ほかにも2点ほどある。1つはiOS対応について。前述の通り、APOGEE版のDuetとQuartetはiOS対応となっているため、付属ケーブルを使ってiPadやiPhoneと接続すると使うことができるのだがAvid版のほうは、接続しても認識されないのだ。そしてもう1点はEUCON対応について。EUCONとは、Ethernet経由でコントロールサーフェイスでDAWをコントロールすることができる規格だが、Avid版ではこのEUCON対応となっているのに対し、APOGEE版は対応していないといった違いがある。

  APOGEE版 Avid版
ProTools 11バンドル ×
コントローラソフト Maestro PT IO Control Panel
Windows対応 ×
Mac対応
iOS対応 ×
EUCON対応 ×

 このことから考えると、Windowsで使いたいのであれば、必然的にAvid版ということになるが、Macで使うのならば、値段をよくチェックして選択してもよさそうだ。とくに、すでにProToolsを持っているのであれば、APOGEE版を購入する方が圧倒的に安くなる。

 まあ、そうした損得はともかくとして、個人的に嬉しかったのは、Windows対応してくれたおかげでRMAA Proでの音質測定ができるという点だ。さっそくProTools|Duet、ProTools|Quartetのそれぞれにおいて、入出力を直結させた上で、RMAA Proを動かして測定した結果が以下のものだ。

Duet(44kHz/24bit)
Duet(48kHz/24bit)
Duet(96kHz/24bit)
Duet(192kHz/24bit)
Quartet(44kHz/24bit)
Quartet(48kHz/24bit)
Quartet(96kHz/24bit)
Quartet(192kHz/24bit)

 もしかしたら、オーディオ的に音をいじっていて、RMAA Proの結果は芳しくないのでは……なんて思っていたのだが、結果を見る限り、DuetもQuartetも、非常にクリアなサウンドであって、まさに原音ダイレクト。EQやエキサイターが入っているといったことは、一切ないようだ。これまで数多くのオーディオインターフェイスを扱ってきたが、これだけキレイな結果になったものは、少ない。

 ただし、ここには1つ大きなポイントがある。それは入力も出力もともに+4dBuに設定しているということ。DuetもQuartetも入出力のアナログレベル設定ができるようになっており、出力は業務用の+4dBuかコンシューマ用の-10dBVの選択が、入力は同じく+4dBuと-10dBVに加え、Mic、Instのそれぞれが選択できるようになっている。当然、+4dBuの設定で、バランス接続するのが、もっとも信号のロスが少なくなるので、その結果が先ほどのRMAA Proの結果というわけなのだ。

入力も出力も+4dBuに設定

 ご存じの方も多いと思うが、多くのオーディオインターフェイスでは+4dBuから-10dBVかといった設定を持っていないものも多く、中には出力は-10dBVだけど、入力は+4dBuに固定されている……といったものもある。この辺の仕様をしっかり理解しないと、ただしいレベル調整がなかなか難しいのが実情だが、DuetもQuartetもその点がしっかりしているのは非常に嬉しいところだ。

 またMixerの画面を利用することで、DuetおよびQuartetの入力を自在にミックスすることができ、実質的なデジタルミキサーとして活用することもできる。Quartetの画面を見ると、かなり大規模なミキサーのように見えるが、まず入力チャンネルはアナログ×4のほかに、オプティカルが2系統あり、これがADAT×8として入ってくる。さらに、PCの再生音がSoftware Reterunとして扱えるため、計12+2chのミキサーとして見えるわけだ。さらにこのミックスをMixer1、Mixer2と2種類作ることができる。その結果をどこに出力するかについては、ルーティング設定の画面で自由に割り振れるようになっているのだ。こうしたミキサーとしての自由度の高さは当然のことながらQuartetが断然上ということになる。

Quartetのミキサー画面
ルーティング設定

foober 2000やCubaseなどのソフトも使用可能

 ここで、もう一つ気になるのは、ProTools|DuetおよびProTools|QuartetをWindowsにおいてProTools以外のソフトで利用できるのか、という点だ。Avidが作ったドライバ自体はMME、WDM、ASIOのそれぞれで使えるようになっているので、単純に使うということだけであれば、foober2000のようなプレーヤーソフトで使うこともできるし、CubaseのようなDAWでも使うことができる。実際、Cubaseの設定画面から見えれば、Quartetの場合、12IN/8OUTとして見えるし、Duetなら2IN/4OUTとして見えて使えるのだが、大きな問題が1つある。それはASIOドライバとしてバッファの調整ができないという点だ。

 バッファの調整はアプリケーション側に任されてしまうため、普通は調整することができず、入出力を往復で見たレイテンシーが40〜50msec程度になってしまい、モニター環境としては使い物にならない。これはいつも測定で利用しているASIO Latency Test Utilityでの結果を見ても明らかだ。

Quartetは12IN/8OUTとして使える
Duetは2IN/4OUT
Quartetのレイテンシー
Duetのレイテンシー

 もちろん、ProToolsを使う場合は、ProToolsのプレイバックエンジンの設定でバッファサイズを変えられるため、まったく問題なく、64サンプルまで縮められる。これが具体的にどのくらいのレイテンシーなのかの測定まではできないが、おそらくは入出力の合計で5msec程度と推定されるので、快適な環境だ。

ProToolsのプレイバックエンジンの設定でバッファサイズを変更可能

 以上のことからも分かる通り、Avidから発売されたAPOGEEのオーディオインターフェイス、ProTools|DuetおよびProTools|Quartetは、非常にオーディオ性能の高い製品であり、Windowsでも使えるのが大きなメリット。ただし、WindowsでDAWと連携させる場合は実質的にはProTools専用の機材となり、潰しはきかない。一方、Macで使うのであれば、APOGEE版の製品と実質的な違いはなく、ProToolsがバンドルされないことと、EUCON対応していないのが差ということになる。オーディオ性能的な違いはAvid版もAPOGEE版もないと思われるので、どちらを選ぶかは実売価格もよくチェックしながら検討するとよさそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto