藤本健のDigital Audio Laboratory
第910回
DSP内蔵でスマホ並みに薄い! ApogeeのUSBオーディオ「Duet 3」を試す
2021年9月13日 12:02
アメリカの老舗デジタルオーディオ機器メーカーであるApogee Electronics(Apogee)は、プロミュージシャン、プロエンジニアから高い評価がある一方で、国内ではPCオーディオファンからの信頼も厚く、他社製品よりも高額でありながら、よく売れているブランドだ。
そのApogeeが先日、コンパクトな2IN/4OUTのオーディオインターフェイス「Duet 3」を発売した。大きなボリュームノブが特徴で、小さいながらもずっしりとした安定感があり、オーディオファンに注目されそうなデザイン。いつものようにRMAA PROを使ったテストを交えつつ、どのような機材なのか紹介していこう。
さらに薄型&コンパクトに。
冒頭でも触れたとおり、Apogeeは1985年創業のアメリカ・ロサンゼルスにあるデジタルオーディオに特化したメーカーだ。黎明期に、アンチ・エイリアス・フィルターをリリースしたことから、大きな評価を受け、CD制作の現場などに導入されていった。
また、オーディオインターフェイスなどが世の中に登場する遥か以前から、業務用のADコンバーターやDAコンバーターを手掛けるなど、同業界で先頭を走ってきた歴史も持つ。
個人的にApogee製品を使ったのは2000年ごろ。
もちろんApogeeのADやDAなど個人が入手できるものではなかったが、MIDIシーケンサからDAWへと進化したばかりの頃、SteinbergのCubaseの標準プラグインに、Apogeeのディザリングツール「UV22」というものが入っており、憧れのApogee技術がここに入っているんだ、と感激した記憶がある。最新の「Cubase Pro 11」にも、UV22の上位版である「UV22HR」が搭載されているので、Cubaseユーザーであればお馴染みだろう。
Apogeeは、プロのミュージシャン、クリエイターからDTMユーザー、さらにはオーディオリスナーなど、幅広い層に向けたオーディオインターフェイスを製品化している。その中でも人気が高いのがコンパクトな機材であることを全面に打ち出したDuetだ。
初代は2007年にFireWire(IEEE 1394)接続の機材として、Mac用にリリース。さらに2011年には2代目となる「Duet 2」が登場。2013年には、その改良版である「Duet for iPad & Mac」がリリース。そしてこの度2021年に、3代目となる「Duet 3」がリリースされた。
初代、2代目のリリース時の状況から考えると、今回もMac専用に見えるかもしれないが、今回はWindowsにもしっかり対応している。
もともと2代目も途中でWindows用ドライバがリリースされていたり、AvidにOEM供給していた「Pro Tools | Duet」が2015年にWindows版ドライバを出すなど、Windows対応においてもそれなりの歴史を持っているのだ。
今回のDuet 3のドライバだが、Windows 10に対応しているのはもちろん、Windows 11 Insider Previewにインストールして試してみても問題なく使うことができた。さらにM1プロセッサにもネイティブ対応しており、手持ちのM1 Mac miniのmacOS Big Sur上でも問題なく動作させることができた。
Duet 3は、初代・2代目と比較しても断然薄くてスタイリッシュになっている。iPhone 12 Proと並べてみても、雰囲気がお分かり頂けるはず。大きいノブの裏側に紫のLEDが搭載されており、そのイルミネーションがカッコよく見えるし、やや暗めな光り方ではあるが、LEDによるレベルメーターも搭載されている。ここでレベルチェックができるのも大きなメリットだ。
PCとの接続はUSB Type-Cとなっていて、補助電源用も含め、2つの端子が用意されている。PC側はUSB Type-CでもType Aでも接続可能なケーブルが付属しているので、USB Type-C端子がないPCや、MacBook ProなどUSB Type-C端子しかないPCでも問題なく接続できる。
キャノンケーブルやフォンケーブルをそのまま接続することはできず、ブレイクアウトケーブルを用いる。まあ、そのこと自体は以前のDuetも同様なのだが、フロントに標準ジャックのヘッドフォン端子を搭載することすら難しくなったので、Duet 3ではステレオミニ出力になっている。
この点については賛否が分かれそうではあるが、今はほとんどのポータブル機器がステレオミニジャックで、ヘッドフォンもそれに対応させるのがデフォルトとなっていることを考えると、悪くない設計と思う。
従来のDuetと比較して大きく異なるのは、内部にDSPを搭載したこと。これによってPCのCPUパワーを使うことなく、エフェクトが利用できるようになった。
そのエフェクトを含めた内部設定を行なうために「Apogee Control 2」というミキシングコンソールが用意されている。こうしたミキサーがあったのは従来と同様だが、デザインがスタイリッシュになり、使いやすくなっている。もちろん、このゲインコントロールなどは、Duet 3本体のノブと連動しており、ノブを回せば、Apogee Control 2のゲインも動くようになっている。
ちなみに、このノブはプッシュ式になっていて、メインボリュームをコントロールしているところで、ノブを押すとヘッドフォンボリュームに切り替わる。さらに押すとアナログ入力1のゲイン、さらにアナログ入力2のゲインと切り替わっていき、それぞれの調整状況がリアルタイムに、Apogee Control 2に反映させるようになっている。
画面を見るとわかる通り、+48Vのファンタム電源のON/OFFを設定できたり、入力の位相を判定させたり、ヘッドフォンモニターへの返りをどのようなバランスにするかを設定できるなど、いろいろな調整ができる。
ほかにも、アナログ入力1、アナログ入力2それぞれの入力をどの端子から行なうのか、つまりXLRのキャノン端子を使うか、TSフォンのインストゥルメント入力を使うのか、さらにはXLRのキャノン入力の際に、マイク入力なのか、+4dBuの業務用か、-10dBVの民生用か、などを選択もできるようになっている。
入力の下には“FX”というボタンがあるが、ここをクリックすると「Apogee Symphony ECS Channel Strip」なるものが現れる。そう、これが内蔵DSPでコントロールできるチャンネルストリップ。
上が4バンドのEQで、下がコンプ。また右にサチュレーションコントロールのためのドライブ、そしてメイン出力レベルを決めるOUTPUTレベルが用意されており、これらすべてをDSPパワーで処理できるようになっている。
ただ、チャンネルストリップという名前からも想像できるように、これは入力専用であり、出力信号に掛けられるものではない。そのため、現状においてはオーディオファンにとって、即役立つものではないけれど、外部入力をいったんDuet 3にラインで取り込んで、ここで加工してから聴くといったマニアックな使い方はありかもしれない。
入出力の音質とレイテンシーを検証
では、オーディオインターフェイスとして、入出力の音質はどうなっているのか。いつものようにRMAA Proを使って試してみた。
今回の接続方法がやや特殊な形になった。普段はTRS-TRSというバランス信号での接続を行なって測定しているが、Duet 3は2代目と異なり、入力がTRS/XLRのコンボジャックではなく、XLRのみのキャノン入力になっていて、いつものような接続ができない。
そこで、手持ちのTRSーXLRのケーブルで試してみたところ、ケーブルに問題があったのか、イマイチな結果となってしまったため、TSーXLRのケーブルで接続してテストした。ちなみに、信号レベルは+4dBuだと最大出力レベルにしてもやや足りずに実験できなかったため、-10dBVでテストした結果が以下のもの。アンバランスでの接続の割に、割と優秀な結果となっている。
では、レイテンシーはどうだろう。同じ接続状態で、44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれでテストした結果が以下の画像。
Duet 3のWindows用ドライバではバッファ動作に余裕を持たせるSafeモードというものがあり、これをONにすると動作が安定するけれど、レイテンシーが大きくなるという欠点がある。試してみたところ、Safeモードを解除しても、動作に問題はまったくなかったので、ここではすべてSafeモードを解除した状態で計っている。
これを見ると、結果はまずまず。44.1kHzの動作でバッファを8Sampleにできるなど、かなり小さくできるものの、そこまで小さな値にはなっていないようだ。このあたりは、今後のファームウェアアップデートやドライバアップデートで、より小さくなることが期待できそうだが、現時点においては並みレベルといったところだろう。
なお、国内発売元のメディア・インテグレーションによると、2021年9月いっぱいは直販価格で77,000円となっているが、10月1日からは80,300円に価格改定するという。
昨今の半導体不足が影響しているようだが、Apogee製品に限らず、他社製品も値上げラッシュになりそうな様相なため、オーディオインターフェイスを検討している人は、早めに購入するのが吉、ということになりそうだ。