第422回:6年半ぶりの「Singer Song Writer」新バージョン
~UIを一新し、使い勝手の良さは継承 ~
Singer Song Writer 9 |
国産のシーケンスソフト/DAWとして唯一がんばっているインターネットの「Singer Song Writer」。前バージョンのSinger Song Writer 8.0 VSおよび、Singer Song Writer 8.0が登場してから6年半の歳月が過ぎたが、ようやく待望の新バージョンが登場した。見た目もまったく別のソフトといっていいほどに変わったが、どんなソフトなのか、実際使ってみたので紹介しよう。
■ 国産ソフトが待望のバージョンアップ。USBオーディオのバンドル版も
Singer Song Writer 9 Professional | Singer Song Writer 9 Standard |
前バージョンであるSinger Song Writer 8.0 VSが発売されたのは2003年12月。まだWindows XPの時代だったわけだが、Windows Vista時代にはまったくリリースされず、数年前からは出る出ると噂されつつも、6年半の間まったくバージョンアップがされなかった。それがようやく4月30日に「Singer Song Writer 9 Professional」が、来週7月1日に、普及版である「Singer Song Writer 9 Standard」が発売されることになった。
Singer Song Writer 8.0 VSの後継がProfessionalで、Singer Song Writer 8.0の後継がStandardという関係になる。このまま国産ソフトが消えてしまうのでは……という心配の声も上がっていたが、とにかく新バージョンの登場は嬉しい限りだ。
いずれのバージョンもオープン価格だが、実売価格的にはProfessionalが68,250円前後、Standard版が33,600円前後と、なかなか高価な設定となっている。ちなみにSONARの上位バージョンであるSONAR 8.5 PRODUCERの実売価格が85,000円前後、Cubaseの上位版であるCubase 5が10万円前後なので、これらに比較すれば少し安めといったところか。
US-144MKII |
またソフトウェア単体のパッケージのほかに、TASCAMのUSBオーディオインターフェイス、US-144MKIIをバンドルしたFirst Studio Packという製品もProfessional、Studioそれぞれに用意されている。
気になるのはProfessionalとStandardでは何が違うのかということ。これについては表にまとめてみたので、参考にしてほしい。これを見るとわかるとおり、基本的にはほとんど同じなのだが、プラグインの内容に違いがあるのとともに、扱えるVSTインストゥルメントの数や各トラックで利用できるトラックの数など細かな違いがいくつかあるようだ。
項目 | 対応/非対応、搭載数 | |
FOLDER | ○ | × |
バーチャルトラック | ○ | × |
INPUTトラックのINSERTIONエフェクト | ○ | × |
各トラックのINSERTIONエフェクト数 | 8 | 4 |
各トラックのSEND数 | 8 | 4 |
ミキサーパネル | 4枚 | 1枚 |
VSTi使用可能数 | 64 | 8 |
MIDI関連 | ||
MIDI INのポート数 | 8 | 1 |
MIDIパッチャー | ○ | × |
各MIDIトラックの同時出力ポート数 | 2 | 1 |
付属VSTプラグインエフェクト | ||
Sonnox EQ | ○ | × |
Sonnox Limiter | ○ | × |
Sonnox Reverb | ○ | × |
付属VSTインストゥルメント | ||
LinPlug RM V | ○ | × |
LinPlug OCTOPUS | ○ | × |
LinPlug ALPHA 3 | ○ | ○ |
LinPlug Organ 3 | ○ | ○ |
Roland Hyper Canvas | ○ | × |
Roland VSC (※Singer Song Writer専用バージョン) | ○ | ○ |
■ UIは大きく変更。充実のプラグイン
今回は上位版のSinger Song Writer Professionalを使ったが、起動して最初に驚いたのがユーザーインターフェイスが、すっかり変わったこと。今までのさえないデザインのSinger Song WriterがSONARやCubaseを彷彿させる渋めな画面に変わっていた。やはり6年半もブランクがあるのだから、いろいろと進化しているのだろう。これはミキサーを見ても同様だ。
ユーザーインターフェイスが変更された | ミキサーも大きく変わっている |
「オーディオポートの設定」画面 |
先ほどのProfessionalとStandardの相違表にもあったが、Singer Song Writer 9で特徴的なのがトラックの構成。通常のオーディオトラックやMIDIトラックのほかに、特殊なトラックがいろいろとある。
まず何の設定をしなくても自動的に構成されるのが、オーディオのINPUTトラックとOUTPUTトラック。これはオーディオインターフェイス側と1:1対応しているもので、「オーディオポートの設定」画面で設定した数だけソングエディタやミキサー上に現れる。この画面からも分かるように、出力はステレオ8ポートまで設定でき、それぞれパラで出力できる一方、入力で設定できるのはステレオ1ポートのみ。つまりレコーディングできるのは1ポート=ステレオ2chだけであり、複数の楽器を同時にパラでレコーディングするということはできないようだ。
またGROUPトラック、FOLDERトラック、FXトラックというものもあり、これらはほかのDAWと基本的には同様。GROUPトラックは複数のトラックの出力をまとめるもので、GROUPトラック作成後、各トラックの出力先としてOUTPUTトラックではなく、GROUPトラックに設定するのだ。たとえば、ハイハット、スネア、バスドラ、タムとドラムの各パートを別々のトラックに設定しておいたとしても、それぞれをGROUPトラックに出力すれば、全体をまとめてのリバーブやコーラスの設定といったことができる。
FOLDERトラックは複数のトラックをまとめてすっきりさせるというもの。そしてFXトラックはミキサーからのSENDエフェクトの送り先となる。
また、これらとはやや違う概念のトラックとしてバーチャルトラックも存在する。これは、オーディオトラック内に複数作って、それぞれにオーディオデータを置いた上で、いずれかひとつを選択して、そこに録音したり、再生させたりするもの。複数テイクした上で、ベストなものを採用するといったときに利用するものだ。ループレコーディング設定をしておくと、自動的にバーチャルトラックが生成されていくようになっている。ただし、再生する際に選べるのは1つのバーチャルトラックのみであり、「1~4小節はバーチャルトラック1、5~8小節はバーチャルトラック2で……」といったいわゆるコンピングでの指定はできないようだ。
FXトラックはミキサーからのSENDエフェクトの送り先として選べる | 「バーチャルトラック」も利用できる |
ルーティングマップ |
また1点、使いづらく感じたのがモニター機能。マニュアルのルーティングマップを見ると、自由度の高いルーティングが可能になっているのだが、INPUTトラックに入ってきた音をモニターするためには、これをLoop BackとしてOUTPUTトラックへとルーティングする必要があるのだ。AUDIOトラックへは、目的のAUDIO TRACKをRECモードにすることで自動的にルーティングされるものの、そちらに流れた音はAUDIOトラックへと録音されるだけで止まってしまい、リアルタイムでモニターできないのだ。
ここで困るのがエフェクト。たとえばギターにディストーションとディレイをかけてレコーディングする場合、一般的なDAWではレコーディングするAUDIOトラックにインサーションエフェクトとして設定し、レコーディングを行なう。その点ではSinger Song Writerも同様なのだが、入力した音がトラックを経由してリアルタイムに出力されないため、そのエフェクトがかかった音をモニターすることができない。
モニターするためにはINPUTトラックにエフェクトを設定することで可能になるが、この場合は掛け録りとなってしまう。また、OUTPUTトラックで設定することは可能だが、ほかのトラックの再生とバス(OUTPUTトラック)を分離しないと、ほかのトラックの出力にまでディストーションとディレイがかかってしまうことになる。リアルタイムモニターはマシンのCPUパワーを喰うことは確かだが、この点はぜひ改良してほしいところだ。
一方、そのエフェクトはかなり充実している。まず目玉となるのがProfessionalに入っているSonnoxの3つのプラグイン。プロ御用達ともいえるSonnox EQをSinger Song Writer用にカスタマイズしたEqualizerは3バンドのパラメトリックEQにローシェルフ、ハイシェルフを加えた仕様で、コンペア機能も用意されており使い勝手、効き具合は抜群だ。Sonnox Limiterは各トラック用のリミッターとして利用できる一方、マスタトラックで使用することで、強力なマキシマイザとして機能してくれる。さらにSonnox Reverbは歪のないクリアな音質で、部屋の広さや壁の素材といったところから、プリディレイの設定など、かなり細かくリバーブ音を作り出すことができるというもの。
Sonnox EQ画面 | Sonnox Limiter | Sonnox Reverb |
そのほかにも、EXPANDER&GATE、MULTI COMPRESSOR、STEREO ENHANCER、BITCRUSHER、と計24種類のVSTプラグインエフェクトが搭載されている。このうちSonnoxのプラグイン以外はStandardにもすべて標準搭載されている。
EXPANDER&GATE | MULTI COMPRESSOR | |
STEREO ENHANCER | BITCRUSHER |
またプラグインとしてはVSTインストゥルメントのほうもなかなか充実している。ご存知の方も多いと思うが、インターネットは独LinPlugの代理店業務も行なっており、そのLinPlugの主要ソフトシンセがここにバンドルされている。具体的にはTR-808/909などのアナログドラム音源とドラムサンプラー、ループエディタなどを組み合わせたドラムシンセサイザLinPlug RM V、古典的なオルガンのサウンドやスピリットをそのまま再現したLinPlug Organ 3、アナログシンセサイザのLinPlug ALPHA 3、そして非常に複雑な構成での音作りが可能なマトリックスシンセサイザのLinPlug OCTOPUSのそれぞれ。さらにRolandのGM2音源であるHyper Canvas、さらにはVSCもバンドルされている。
もちろんVST、VSTインストゥルメント対応なので、ユーザーが自由にエフェクトやソフトシンセを追加していくことが可能だ。
LinPlug RM V | LinPlug Organ 3 | LinPlug ALPHA 3 |
LinPlug OCTOPUS | Hyper Canvas |
■ ステップエディタなど、従来の使い勝手の良さは継承
このように見た目は大きく変わり、強力なプラグインも数多く搭載されるDAWとして進化してきた、Singer Song Writerではあるが、多くのユーザーが期待しているのはやはりMIDIシーケンス機能ではないだろうか? カモンミュージックのレコンポーザが十数年前に開発をやめてしまって以降、日本の打ち込み文化ともいえる日本式数値入力=ステップエディタを引き継いでいるのはSinger Song Writerのみ。気になってすぐに使ってみたが、こちらは画面の色こそ渋めに変化したものの、基本的な機能は従来のままであり、いつもの使い勝手で小気味よく入力していくことができる。
もちろん、スコアエディタやピアノロールエディタなども備わっているほか、インターネット自慢のシングtoスコア機能や自動メロディ生成機能などもすべて健在。やはりSinger Song WriterはSinger Song Writerなのだ。また、このMIDI機能において強化されたのがMIDIプラグイン。入力したメロディーをハーモナイズすることができるオートハーモナイズ、ベロシティ値をRationで設定した値を中心に圧縮・伸張できるベロシティComp/Exp、ギターのカッティングのアップダウンやミュート、ストロークなどをシミュレーションできるギター・ストローク・シミュレータなど使えるプラグインがいろいろと揃っているのもうれしいところだ。
ステップエディタ画面 | スコアエディタ | ピアノロールエディタ |
オートハーモナイズ | ベロシティComp/Exp | ギター・ストローク・シミュレータ |
以上、6年半ぶりにバージョンアップしたSinger Song Writerの主な機能についてみてきた。従来からの機能を引き継ぎながら、海外のDAWと同等の機能、性能そしてデザインへと進化しており、なかなか快適だ。プラグイン機能を重視するならProfessional、打ち込み機能を重視し、ほかのDAWと連携させて利用するならStandardという選択方法もあるだろう。打ち込み機能重視の場合、ReWireにも対応しているので、これを活用するのも手だ。Singer Song WriterはReWireのホストとしてもクライアントとしても利用できるため、ほかのDAWと直結して利用するというのもよさそうだ。