西川善司の大画面☆マニア
第196回
【CES】パナソニック55型8K IPS PRO液晶の新境地
予想外の4K有機EL TV試作機の正体は?
(2015/1/7 18:46)
有機EL TV開発から撤退したパナソニック、ブースに展示されている有機EL TVの正体は?
パナソニックとソニーは有機ELテレビ向けの大型サイズの有機ELディスプレイの共同開発を進めてきたが、2014年5月に両社共に撤退する方針を決め、有機EL事業はJDI(ジャパンディスプレイ)に売却、JDIはこれを中小型サイズの開発に応用していく方針をとったとされる。
それから間を置かずに、2014年はサムスンも大画面サイズの有機ELテレビ開発から撤退を表明。有機ELテレビはLGの独壇場になるのかと思われたのだが、パナソニックブースの入口付近にはなぜか有機ELテレビの試作機が展示されている。
これはどういうことなのか、関係者に話を伺ったところ、「自社で有機ELパネルを開発・製造しての有機ELテレビ開発には断念したが、有機ELテレビ商品の開発そのものを断念したわけではない。この展示はそのキーメッセージ」という返答が返ってきた。
ブースに展示されていたのは65型の湾曲型の有機ELパネルを採用した試作機であった。解像度は4K。
画素を観察してみると、RGB(赤緑青)のサブピクセルの他に白色(W)のサブピクセルがあることが分かる。この「白色サブピクセル」を持つのはLGディスプレイ製の有機ELパネルの特徴であり、高確率で、このパネルはLGディスプレイ製であると推察できる。実際、パナソニック関係者も「LGパネルか」という筆者の問いかけに対して「我々の口からはなんとも……」と苦笑いであった。
なお、この試作機はあくまで参考出品であり、直近での発売の予定はないとのこと。
しかし、いずれにせよ、有機ELパネルを社外から購入し、これをチューニングしてテレビ製品を開発する液晶テレビと同様の開発スタイルに方向を転換したということは、この展示から読み取ることはできる。
パナソニックがかつて、液晶テレビとプラズマテレビとで製品を造り分けたように、今後、有機ELテレビを液晶テレビと共存させていくのか、それとも有機ELテレビを本命としてスイッチしていく方針なのかはまだ分からない。
ただ、今年のCESで、一番の技術トレンドと目されている「ハイダイナミックレンジ(HDR)映像」の表示に関しては、画素単位の個別高輝度表現が行なえる有機ELテレビとの相性はよさそうである。
さて、実際のデモ機の画質だが、表現力の高さはかなりのもの。デモ映像の品質がよいこともあるのだろうが、発色、解像感、黒のしまり、コントラスト感についても相当なクオリティであった。
黒のしまり、コントラスト感は、各画素が自発光する有機ELは液晶以上になるのは当たり前なのだが、逆に有機ELには不得意なジャンルも存在する。それは暗色や暗部階調表現。有機ELは自発光ゆえに「暗く光らせる」のが苦手なのだ。そんな表現においても、今回の4K有機ELテレビ試作機はかなり上質に表示出来ていた。このあたりには、プラズマで培ったパネル駆動技術などが活かされているのかも知れない。
パナソニック自社開発の55型、8K、IPS PRO液晶ディスプレイ
ブースのクローズドスペースには、55型の8K(7,680×4,320ピクセル)液晶ディスプレイが展示されている。
液晶パネルはIPS PRO液晶で、パナソニック液晶ディスプレイ社が試作製造したもの。このパネルをそのまま継続生産するかは未定だという。
輝度値は400cd/m2で、公称コントラストは1,500:1。最大表示フレームレートは120Hz。色空間カバー率はDCI-P3やAdobe RGBの100%以上と説明されている。
展示ブース内では、NHKの8Kカメラで撮影したロンドンオリンピックの映像と、パナソニック側が用意した評価コンテンツを来場者に見せていた。
現状は8Kコンテンツを対象にしたコーデックも伝送方式もないため、専用機器で7,680×4,320ピクセルの静止画像をそのまま8K液晶パネルに伝送させて表示させているとのこと。
オリンピックの映像は、8K/60Hzの映像で、水泳シーンはかなりロングアングルで捉えた映像なのにもかかわらず、選手や観客顔が鮮明に見え、さらに水しぶきの動きや波紋の広がりなどが目で追えるほど鮮明に見えていた。
55型、8Kというとドットピッチは160ppi相当で、1ドットの一辺サイズは0.16mm程度。顔を近づけてみてもドットの存在感が分からないレベルなのが感動的だ。
パナソニック側が用意した評価コンテンツは、広色域やハイフレームレートをアピールするための内容。赤い花のデモでは、赤の鮮烈さや、その赤い花びらの陰影の色深度の深さが実感でき、カルデラ湖の景色のデモでは、深みのある青空と、醒めるようなシアン色の水面が鮮烈であった。
120Hzのハイフレームレート表示デモは、いわゆるテスト映像を横スクロールさせる見慣れたものではあったのだが、それが8K映像で行なわれているということを考えると感慨深い。テスト映像では横スクロールする8K静止画を目で追ったときに微細テクスチャ表現などが、鮮明に見えることが確認できるだけのものであったが、いずれ、8K/120Hzで撮影された実写映像を見てみたいと思わせてくれた。
パナソニックとしては、この160ppiの55型8K液晶ディスプレイは画素密度が異常に高いこともあり、テレビ的な活用想定だけでなく、業務用、プロフェッショナルユースも想定しているようで、それに関連したデモも行なわれた。
そちらのデモでは、ディスプレイをテーブル的に平置きし、来場者がこれを取り囲むようにして表示映像を見るという内容。ニューヨークの地図、表計算ソフト、CAD図版といった解像度が高ければ高いほど見やすくなるコンテンツを表示するほか、画面の四辺の各方向にPDFドキュメントを表示させるデモが行なわれた。
個人的に感銘を受けたのが最後のPDFデモ。8KというとフルHD解像度の縦横4倍解像度もあるので、画面全面積の1/4ずつにしか表示されていなくても、普通に見られてしまうのだ。それもそのはずで、四方向の各ドキュメントは単純計算で4K相当なのだ。
8Kというと「これだけ大画面になっても、まだこんなに高解像度感があって美しい」というデモの仕方が主流だったが、今回のパナソニックの55型8K液晶ディスプレイのデモは「現実的な大画面サイズにおける超絶的な、絶対的な高解像度性能をどう使うか」という、これまでとはベクトルのやや異なる8Kデモ体験なのが興味深かった。