【新製品レビュー】

iPodスピーカー/フォトフレーム/ラジオ一体化でスッキリ

-ケンウッドの新提案メディアプレーヤー「AS-iP70」


4月下旬発売

標準価格オープンプライス

実売価格:25,000円前後

 部屋の中にあるAV機器と言えば、一昔前はラジカセやミニコンポが一般的で、時代の流と共にPCが登場。iPodに代表されるポータブルオーディオの隆盛により、iPodやウォークマン用のドック接続スピーカーも1つのジャンルとして賑わいを見せている。

 その裏で、ミニコンポやラジカセが埃をかぶっているという状況も珍しくない。ラジオのIPサイマル配信「radiko」の人気も、“身の回りからラジオが無くなった”という状況と無関係ではないだろう。

 一方で、デジタルカメラの普及により、デジタルフォトフレームという、今まで無かった製品がインテリアの1つとして部屋の中に入ってきたという人も多いだろう。ほかにも、携帯電話が目覚まし時計代わりになったり、ワンセグ携帯電話をテレビ代わりに使うなど、改めて身の回りを見回してみると、部屋の中のデジタル機器の形も随分と変わったものである。

 そんな中、“新しく部屋の中に登場してきた機器”と“部屋の中から無くなりつつある機器”を1つの筐体にギュッと詰め込んだような製品がケンウッドから登場した。モデル名は「AS-iP70」。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は25,000円前後の見込みだ。


■ 様々な機能を1台に凝縮

 デザインを見ていこう。一見すると小型テレビのようなデザインだが、搭載する機能は実に豊富。具体的には以下の機能を内包している。

  • iPod/iPhone用スピーカー
  • iPod/iPhone用ディスプレイ
  • USBメモリ/SDカード内の音楽ファイルプレーヤー
  • デジタルフォトフレーム
  • AM/FMラジオ
  • 目覚まし時計

 筐体はプラスチック製で黒を基調としたデザイン。ディスプレイが大きいので、形としてはデジタルフォトフレームに似ているが、質感はガラスなどを使って光沢のあるデジタルフォトフレームと異なり、若干チープだ。液晶も非光沢タイプである。

 ディスプレイサイズは7型。TFT液晶で、解像度は800×480ドット。ギミック的な注目点は、筐体の側面にスライド式ドックを備えており、これを引き出してiPodやiPhone 3G/3GSを搭載。搭載iPodの充電ができるほか、デジタルフォトフレームのように、ディスプレイにiPod内の動画や静止画を表示できる。さらに、筐体両側にはスピーカーも配置。iPodスピーカーとしても使える。ただし、PCとの接続(同期)機能は無い。

正面から見たところ側面にスライド式のiPodドックを備えている

 ドックと反対側の側面には、USBコネクタとSDカードスロットを用意。USBメモリやSDカード(32GB SDHCまでサポート)に収録したJPEG静止画、MP3/WMA/WAVファイルを再生できる。音楽ファイルを再生しながら、静止画を選んでスライドショー再生する事も可能だ。このあたりはデジタルフォトフレームと同じ機能と言えるだろう。

 背面にはFM用のアンテナを備え、AMアンテナ用接続端子も装備。AM/FMラジオとしても使用できる。ただし、ラジオの録音機能は備えていない。

側面にあるUSB/SDカードスロット。その上にあるのがスピーカーだ背面。丸い穴はバスレフポート。左側にAMアンテナ端子とFMアンテナが伸びている

前面左右には設定ボタンや、時計のアラーム機能で使うボタンを備えている電源は付属のACアダプタ

 7型のディスプレイには時計を表示する事も可能。好きな静止画を壁紙にしたまま時計表示も可能だ。天面には目覚まし時計によくあるスヌーズボタンを装備。ボリュームやシステムメニューボタンなども天面に備えている。

 前面下部にはメイン操作パネルを配置。カーソルキーに加え、iPod/iPhoneボタン、ラジオボタン、USB/SDカード用ボタン、時計ボタンなど、扱うソースや機能別に専用ボタンが設けられている。

天面にはボリュームやスヌーズボタンを装備フロントパネルのメイン操作部


■ 一癖ある操作性

 まずはiPodと接続してみよう。スライド式ドックにiPhone 3GSを設置。メイン操作パネルから「iPod/iPhone」ボタンを押すと、ディスプレイに「Music」と「Photo/Video」という2つのアイコンが現れる。

iPhone 3GSを搭載したところ
 「Music」を押せばiPodの音楽再生モードに移動。カーソルキーの再生/一時停止ボタンを押せば、再生が開始され、画面に曲名/アーティスト名/アルバム名などが表示される。カーソルを使い、早送り/巻き戻し、曲送り/戻しも可能だ。

 ただし、iPod/iPhone内の楽曲リストは「AS-iP70」のディスプレイには表示されない。そのため、目的の曲にダイレクトにアクセスするためには、iPod/iPhone側を直接操作する必要がある。理由は、ドック端子を介してAS-iP70がiPod/iPhoneのメモリ内に直接アクセスしているわけではなく、端子経由でiPodの再生制御を行ない、iPod側から再生音と、再生中の楽曲情報をのみ取得しているからだ。

再生中の楽曲情報がディスプレイに表示される
 「Photo/Video」を選ぶと静止画/動画表示モードになるが、ここでも同様の流れになる。モードに移動しただけでは、画面には「iPod/iPhoneは自動で動画や写真の再生を始められません。直接、iPod/iPhoneを操作して再生を始めてください」というメッセージが表示されるのみ。iPod/iPhone側を直接操作し、表示したい映像ファイルや静止画ファイルを選び、再生させると初めてディスプレイに絵が出る。

 この時もAS-iP70がiPod/iPhoneのメモリ内にアクセスして映像を再生しているわけではなく、ドック端子から出力された映像をディスプレイに表示しているわけだ。テレビ出力と同じと考えるとわかりやすいだろう。

モードに移動しただけでは、ディスプレイは真っ黒。iPhone 3GS側を操作して、表示させたい動画ファイルを選ぶ動画を表示しているところ

 AS-iP70側に大きなディスプレイや操作ボタンがあるのに、ファイルの選択はiPod/iPhone側を直接操作しなければならないのは、若干癖のある操作と言える。ただ、こうした関係を理解していれば不思議な事ではない。また、この製品にはリモコンが付属しないが、このようにiPod/iPhoneを直接操作する事も多いので、置き場所にもよるとは思うが、個人的にはあまり気にはならなかった。

iPod touchのファームバージョンによっては、動画表示時に「テレビに表示しますか?」と聞かれることもある。なお、iPod touchやiPhone 3GSにケースを着けた態でも搭載できた

 なお、試用中、iPhone 3GS(ファーム3.1.2)を乗せて静止画を選択してもディスプレイに表示されない場面があった。しかし、複数静止画のスライドショー再生を開始させたところ、無事表示できた。動画として出力されると上手くいくのだろう。また、「Photo/Video」を選び、iPod/iPhone側で静止画スライドショーと音楽再生を両方スタートさせる事で、BGM付きの静止画スライドショー表示も行なえる。

 対応するiPodは、第4世代iPod、iPod with video、iPod classic、iPod nano、iPod touch、iPhone 3G/3GS。

 一方、USB/SDカードの操作はわかりやすい。AS-iP70側からメモリ内にアクセスできるため、ディスプレイにファイルリストがバッチリ表示される。本体ボタンの「音楽」、「写真」のどちらかを押すと、「USB」、「Memory Card」というアイコンが表示されるので、挿入した方のアイコンを選択すると、ファイファイルリストが表示されるという流れだ。

 なお、楽曲の再生を開始した上で、他のメニューに移動しても音楽再生は継続される。そのため、静止画と音楽の同時再生も可能だ。静止画は解像度が大きなファイルでは、サムネイル表示やスライドショーの画像切り替えなどで処理が重くなる場面があるが、手動で頻繁にサムネイル検索をするわけでもないので、それほど気にはならなかった。表示できる静止画はJPEG。音楽ファイルはMP3/WMA/WAVで、DRM付ファイルの再生には非対応だ。

USBメモリ内の音楽ファイルをリスト表示しているところUSBかSDカード、アクセスしたい方を選ぶ

 静止画はスライドショーだけでなく、時計表示時の壁紙として任意のものを指定したり、スライドショーを壁紙として使う事もできる。ただ、内蔵メモリを備えていないため、USBやSDカードを挿入していないと画像が表示されない。

 裏技的に、壁紙を指定&表示した後でUSB/SDを強制的に引き抜いたところ、キャッシュされているようで、壁紙表示は消えなかった。しかし、時計表示のスタイルを変更したり、他のメニューに移動するなどして、壁紙が再描写されると表示されなかった。USBメモリかSDカードのどちらかはら頻繁に抜かず、内蔵メモリのように付けっぱなしで扱うと便利だろう。

USBメモリから静止画表示をしているところスライドショー時にはトランジションも適用されるサムネイル付でファイル内の静止画が選択できる
時計表示の壁紙として静止画を指定する事も可能。スタイルも選べる


■ 画質と音質

視野角は狭い
 使用していて気になるのは液晶の表示品質だ。真正面から見ると輝度も十分で、「少しコントラストが低いかな」と感じる程度なのだが、視野角が狭めなのだ。上から見下ろしたり、下から見上げたりすると容易に色が反転してしまう。

 最新のデジタルフォトフレームは、液晶の表示品質が非常に高いため、これらと比べると“一昔前の液晶の画質”という印象はぬぐえない。

 一方、7型という画面サイズは、iPod nanoなどのディスプレイと比較すると非常に大きいが、このサイズに動画を引き伸ばして表示しても、意外と破綻なく鑑賞できる。購入したミュージックビデオなどの鑑賞のほか、このサイズならばちょっとした映画なども楽しめそうだ。


 音質傾向は、低音が少なめのクリア系。中高域にプラスチック筐体が鳴く付帯音が少し混ざるが、昔のラジカセやミニコンポのような、低域を無理矢理ブーストしたような不自然なバランスではないのは好感が持てる。

 そのため、音量を上げても低音がボンつかず、音が自然に部屋に広がる。筐体側面のスピーカー配置が効いているのか、広がり方もナチュラルだ。大型のiPodスピーカーと真正面から音質勝負をするような製品ではないが、BGM的に部屋の中でサウンドを楽しむには十分な音質である。

 機能面でうれしいのはAM/FMラジオが楽しめる事。コンパクトな製品ながら、背面にFM用アンテナを備え、AMラジオ用アンテナ端子もしっかり装備する点は、“流石ケンウッド”というこだわりを感じさせる。チューニングはオートプリセットが便利。周波数表示も文字が大きく、視認性が高い。

FMを受信しているところ。オートプリセットも可能だ
時計表示も大きく、見やすい
 ラジオと言えば、ネットラジオも楽しみたいところ。AS-iP70に乗せたまま、iPhone用のネットラジオ聴取アプリ「kikeru」と「SHOUTcast」を起動させてみた。AS-iP70のiPodメニュー内から「Music」を選んだところ、アプリで受信したネットラジオが、ちゃんとAS-iP70のスピーカーから再生された。iPhone 3G/3GSやiPod touchと組み合わせれば、AS-iP70をネットラジオ端末に変身させる事も可能というわけだ。

 こうなると欲が出て、AM/FMラジオをUSBメモリやSDカード、iPodのメモリにMP3録音する機能などが欲しくなるところだが……残念ながらそうした機能は備えていない。

 そのほかには、時計としての機能も充実している。時刻表示は3パターンから選べるほか、タイマー機能も装備。アラームサウンドも、ブザー以外にiPodやラジオ、音楽ファイルの再生も選択できる。スヌーズ機能やスリープタイマーも利用可能だ。画面が大きいので、時計としてのシンプルな機能も使い勝手が良い。



■ まとめ

 iPod/iPhoneと連携した際の操作性や、液晶の表示品質など、不満な点も無くは無いが、iPodスピーカー/ディスプレイ、SD/USBメモリプレーヤー、ラジオ、デジタルフォトフレーム、そして時計と、多くの機能を1台に集約するというコンセプトの魅力と便利さが魅力的だ。各製品を一つにまとめて“スッキリしたい”という要望にはピッタリとハマる製品だろう。大型ディスプレイを備えつつ、実売25,000円程度と、単体のiPodスピーカーやデジタルフォトフレームにも負けない価格帯になっているのも魅力の1つだ。

 製品ジャンルとしても、新しい可能性も感じさせてくれる。ラジオ録音や、ネットワーク経由での静止画表示機能、PC連携機能など、さらなる多機能化を遂げても便利そうだ。また、価格を抑えつつも、より品質の高い液晶を装備したり、スピーカー部分の音質を高め、インテリアとしての質感もアップさせた上位モデルの登場にも期待したい。


(2010年 4月 23日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]