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「全録は究極の簡単」。パナソニック全録DIGAの狙い

チャンネル録画でBS/CS対応「DMR-BXT3000」

左から、商品技術グループの中谷徳夫氏、商品企画担当の神高知子氏、ハードウエアプラットフォーム担当の福田秀樹氏

 「全録」=多チャンネル・全番組録画機能が、録画機のキーワードになって久しいが、商品としての選択肢はなかなか広がっていない。そこにようやく、新しいメーカーが参入した。パナソニックだ。同社は2月10日より、全録型レコーダ「DIGA DMR-BXT3000」(以下BXT3000)を発売した。

 中身をよく見てみると、BXT3000は、いままでのDIGAとはかなり趣が異なる製品になっている。パナソニックは、この製品でどのような方向性を狙おうとしているのだろうか? また、この時期に投入した理由はどこにあるのだろうか? BXT3000の開発陣に話を聞いた。

 ご対応いただいたのは、パナソニック・AVCネットワークス社 次世代プラットフォーム開発センター ハードウエアプラットフォーム開発グループ システムLSI第二開発チーム 主幹技師の福田秀樹氏、同社・AVネットワーク事業グループ スマートAVビジネスユニット 商品技術グループ ソフト設計第一チーム 主任技師の中谷徳夫氏、同社・AVネットワーク事業グループ スマートAVビジネスユニット 商品企画グループ 第4チーム 参事の神高知子氏の3名だ。

録画を意識させないための「全録」

DMR-BXT3000

 BXT3000は、DIGAシリーズの1モデルとして売られている。しかし、メインメニューを表示してみると、これまでのDIGAとは印象が異なるものになっているのがわかる。再生する番組を呼び出す「スタートメニュー」は、「お気に入り」を中心とした3×3のブロックになっている。これらはすべて、今までの「指定した番組を録画して見る」という形でなく、全録をベースとした操作体系になっている。

 正確には、BXT3000の場合、全録ではなく「チャンネル録画」と表現されている。BXT3000では、地上波を最大6チャンネル、BS/CSを最大3チャンネルのうち、あわせて6チャンネルを選んで録画する。そのため、チャンネル毎に全番組を録画する、というイメージからか、「チャンネル録画」という言葉が使われている。

BXT3000の「スタートメニュー」。録画番組は基本的にここから呼び出す
いままで通りの録画予約系の機能もある。ダビングなどはこちら側からも呼び出せる

 基本は「番組表」だ。他の全録機がそうであるように、過去の「放送済み番組表」を見せて、そこから番組を選ぶと、録画されている番組が呼び出される、という仕組みになっている。

 ただし、これはあくまで基本。「番組表からの呼び出し」の位置は3×3のブロックの左下。すなわち、呼び出しにはカーソル左>下という斜め移動要素が必要で、ワンクッション多い。メインは、中央に配置されている「お気に入り」だ。

 この機能は、文字通り「お気に入り」とした番組をまとめて表示するものだ。例えば、見ている番組が気に入った時などにリモコンの「緑ボタン」を押すと、その番組が「お気に入り」になる。そうして、例えば、同じドラマのシリーズや、特定の出演者名などを登録しておくことで、録画番組から条件に合ったものが自動的に抽出され、まとめて表示される。

BXT3000のリモコン。カラーボタンの「緑」を押すと「お気に入り」登録ができるほか、黄色ボタンの下には「おすすめ」ボタンも
「お気に入り」に登録する場合には、見ている番組の名前から一部を利用して登録することになる

 同様の要素は別の機能にもある。スタートメニューの左上にあたる「最新ニュース」は、自動録画番組中から直近のニュース番組をピックアップするものだし、右上の「最新天気予報」は、同様に最新の天気予報番組をピックアップしたものだ。

 番組はすでに録画されているのだから、今まで通り番組を見るのではなく、自分が見たいだろうと思われる番組をピックアップして見やすくする、という発想は、全録型ならではのものである。DIGAについても、その発想で「録画番組の見せ方」を変えているわけだ。

 商品企画担当の神高氏は、次のように説明する。

神高氏(以下敬称略):我々は、デジタル3チューナ搭載レコーダを最初に作ったメーカーで、「同時録画」と言う点では評価をいただいてきました。そうした要素をどうやったらうまく使えるか? という検討は続けていました。その中に「全録」というアイデアはあり、各社の製品も見つつ、慎重に検討をしてきました。

 しかしどうしても、全録というとハイエンドというか、特別なものと見られる傾向があります。そこで考えたのは、我々らしくもっと一般的なユーザー層に振ることです。

 全録機は、もう「録る」と意識させないものです。取り込めるだけ番組を取り込んでいるわけですから。いわば「究極の簡単」です。店頭での反応も、意外に女性が食いつくんです。録り逃したくないけれどめんどくさいのはいやだ、ということで。

福田:録り逃さない、というより「見逃さない」という方向性ですね。「テレビ離れ」と言われますが、いままで気づかなかったようなところに、面白い番組はあるんですよ。

神高:なぜテレビ離れしているかというと、やはり、見たい番組・面白い番組を見つけて録画するのが面倒くさいからなんですよ。言い方をかえれば、今のライフスタイルに合っていない、ということなんでしょう。しかし、全録であればいつでも見れます。特にこういう要素は、BS/CSの有料チャンネルの場合、より効果的と考えています。

 神高氏が言うように、BXT3000の全録機としての最大の特徴は、BS・CSのチャンネルも対象になっている、ということだ。これまでの全録機は地デジだけが対象となっていて、多様な番組との出会いを実現するには限界があった。

 簡単かつ多様な全録機を目指す。それを方針としてBXT3000の開発は始まった。

前面パネルを開いたところ
DMR-BXT3000の上面
背面

ネットワーク連携で「気になる」「似ている」番組を抽出

「気になる」番組リスト。ミモーラの「盛上がりナビ」情報を使い、Twitter上で盛り上がった番組がリストアップされる。番組の順番は時系列のもので、盛り上がった順ではない

 すでに述べたように、簡単に、多くの番組を見てもらうために、BXT3000では「スタートメニュー」に工夫を凝らした。特に面白いのは、まだ説明していない、中央から見て「上下左右」の部分にある。ここは、ネットワークと連携して「番組を見つける」ための機能だ。同社が運営するテレビ向けネットワークサービス「ディモーラ」「ミモーラ」と連動、そこでの情報から番組を抽出する。

福田:「あなたへのおすすめ番組」では、番組の再生や保存(ダビング)といった操作履歴から、似たユーザーのランキングを作り、さらにその情報からおすすめの番組を、録画番組内なら提示します。これらの情報は、ミモーラ側で過去1カ月の情報から生成されます。

中谷:「旬のキーワード」は、録画予約時に入力された検索キーワードを、ミモーラ側で集計し、提示しています。「気になる番組」は、ミモーラの「盛上がりナビ」(筆者注:Twitterと連動し、コメント数から番組の盛り上がる場所などを知るシステム)と連動し、盛り上がった番組をリストアップします。

「おすすめ」ボタンから、「似たものおすすめ」機能を呼び出す。これは料理番組の例だが、左上から順に関連性の高い番組が並んでいく。最後の方ではEPGから検索された出演者情報などが手がかりとなった番組も並ぶ。どのような情報で見つかったものかは、サムネイルの左上に表示される

 もっと面白いのが、視聴中に使える「おすすめ」ボタンを使う「似たものおすすめ」機能だ。これを押すと、今見ている番組の内容や出演者情報から、関連する録画済み番組を一覧表示する。料理番組なら料理番組や、その料理の栄養素が関係する健康番組が出てくるし、ドラマなら似たジャンルのドラマが表示される。しかもこの時には、番組全体だけでなく、番組内のコーナーといった、一部の情報も検索・抽出の対象となる。

 要は、EPG情報に伴うものだけでなく、番組内にどのようなコーナーがあるか、といったシーン情報を加味し、「似たもの」を見つけてくる仕組みなのだ。これには、ミモーラの情報が使われている。ただし、シーン情報が存在するのは「東名阪の地デジ放送と、地方局の地デジ放送のうち、キー局からの配信放送分」(神高氏)に限られる。

 これらをみておわかりのように、録画データをEPGと連携させるだけでなく、ネット上の多数の録画データ(ディモーラ・ミモーラはDIGAで広く使われており、録画関連情報はBXT3000ユーザーだけでなく、多くの利用者から集まっている)を生かし、番組を見つけやすくしているのは、BXT3000の特徴なのだ。

神高:テレビ番組の見方、録画は変化してきています。特に、Twitterや掲示板実況などの「参加型」で、盛り上がるのが定着しています。テレビの見方も、ネットとの親和性を高い形で実現できないといけないです。別な言い方をすれば、録画機からどう進化するか、ということかと思います。

 ネットと全録の連携は、きっと予想もしない使い方もされると考えているところです。我々としても、このやり方はいろんな方向に進化していけるものと期待しています。

「チャンネル録画」にすることで全録の「わかりづらさ」を解消

BXT3000のB-CASカードスロット。前面にあり、3波対応の赤を2枚、地デジ対応の青を1枚使う

 BXT3000のハードウエア・プラットフォームは、現在同社がDIGA(BZT830シリーズなど)に利用している「ユニフィエ」の最新バージョンを利用している。全録実現のための地デジ6チャンネル、BS・CS3チャンネルに加え、従来通りの時間・チャンネル指定録画(BXT3000では「番組録画」と呼んでいる)用のチューナが地上/BS/CS兼用で1系統搭載されている。B-CASカードは、3波対応の赤が2枚、地デジ専用の青が1枚の計3枚が使われる。「トリプルチューナのDIGAが2台、全録で動き続けていて、それ以外に1チャンネル分ある」(福田氏)ようなものだ。

 動作速度などは新ユニフィエの性能を生かし、かなり快速になっている。とはいうものの、スタートメニューがまったく異なることでおわかりのように、BXT3000は他のDIGAとは中身がかなり異なる。

福田:これまでの全録機では、録画する画質やチャンネルの設定を変えると、それまでの全録画番組が消えてしまう場合がありました。これは、全録をするための技術的な制約から来るもの。全録では1つの録画ファイルがずっと回り続けているような形になるのですが、「あるチャンネルの録画画質や録画チャンネル数を変更したりすると、他のチャンネルの録画に影響してしまう」といった技術的な課題があったのです。

 技術的なことがわかれば納得はできるが、利用者にとっては負担であるのは間違いない。そこで、同社は考え方を変えた。全録でなく「チャンネル録画」にしたのだ。

中谷:他社の製品をベンチマークした上で、我々は、1チャンネル分の録画データを静的に持つようにしました。すなわち、各チャンネル毎に全録データを持つ形としたのです。ですから、録画時のビットレートを変えたり、全録する時間帯を変えても、他のチャンネルの設定を変えても、録画番組は消えません。継続して録画されます。また、各チャンネル毎に録画時のビットレートは変えられます。これも、各チャンネル毎に領域を設定しているためです。

 BXT3000では、6つのチャンネルを固定し、それぞれのチャンネルを「全録」する。各チャンネルの録画データは独立していて、お互いに影響を与えない。なので、設定変更に伴う複雑さがかなり小さくなっているのだ。意外に思えるかもしれないが、全録において各チャンネルの録画ビットレートを変えられる製品は、いまのところBXT3000だけだ。また、録画系の機能は基本的にDIGAのものを継承しているため、チャンネル録画時にも、DIGAで使われているオートチャプターと同じ機能が働く。

 唯一の制約は、全録するチャンネルそのものを変えること。チャンネル毎に録画データが固定されているので、チャンネルを変える場合、そのチャンネルの録画は消える。ただしその場合も、他の5チャンネル分のデータには影響はない。

 ただし、この構造でも解決できていないのは、自分が保存したい番組を指定して残す「番組指定録画」(すなわち既存の録画方式)との共存だ。ディスクへのダビングを行なうには、番組指定録画か、チャンネル録画HDDから番組指定録画HDD領域に番組を「ダビング」しなくてはならない。チャンネル録画番組は古くなったものから消えていくので、残しておきたい番組は「ダビング」する必要がある。

福田:内蔵の2TBのHDDのうち、1.75TBがチャンネル録画用、0.25TBが保存用です。ダビング予約は、「チャンネル録画一覧」や「お気に入り」などで、リモコンのワンタッチ予約ボタンを押すだけで行なえます。

 このダビングは、チャンネル録画用の領域から保存用の領域へ行なうのが基本ですが、外付けのUSB HDDや、BDへの直接ダビングも行なえます。携帯電話などへの「持ち出し番組」の作成も、ダビング予約時に設定できます。

中谷:保存用領域が0.25TBと小さいので、保存用に外付けUSB HDD対応は必要だろう、と考えました。また、BDでの直接ダビングも重要だと考えています。

福田:ダビングは予約しておけばバックグラウンドで自動に行なわれます。ダビングといっても、高速にファイルコピー的なイメージで行なわれるので、そう時間はかかりません。ビットレートによって時間は変わりますが、もっとも圧縮率の高い15倍速録画(約1.6Mbps)の場合、1時間番組のダビングは1分程度で終了します。ただし、持ち出し番組はダビング完了後の電源OFF中に作成されます。持ち出し番組の作成は、最速で実時間の3倍速程度となります。

再生中・EPG上などでリモコンの「ワンタッチ予約録画」ボタンを押すことで、ダビング予約が行なえる
ダビングは予約され、順次行なわれる。録画や再生とは平行動作し、動作制限はほとんどない
ダビング先にはUSBハードディスクとBDの両方が選択可能。チャンネル録画(全録)から直接BDへダビングできることも特徴
ダビング時の設定。モバイル機器向けの持ち出し番組は、ダビング時に作成する

 もう一つ、開発する上で問題となったのは「BS、CSの対応」だ。全録機でのBS、CS対応は望まれていたが、それをカバーするのは簡単ではない。なぜなら、BS、CSの契約情報はB-CASカードに記録されており、1枚のB-CASカードで扱えるチャンネルは3つまでと決まっている。全録機とはいえ、指定録画は必要であり、それにもB-CASカードが必要になる。すでに述べたように、これまでの「番組指定録画」と「全録/チャンネル録画」ではデータの扱い方が異なるためだ。

 多くの人は、有料放送を「1枚のB-CASカード」の分しか契約していないだろう。そうすると、録画機は1台であるにもかかわらず、有料放送が録画できる機能とそうでない機能が混在することになり、きわめてわかりにくくなる。神高氏も「BS、CS対応が最大の難点だった」と認める。同社が考える全録機には、BS、CS対応が必須と考えていたからだ。

 結果BXT3000では、設定面で非常に細かな手配をすることで、この問題に対処している。

 B-CASカードが抜かれた時などには、エラーメッセージに「どのスロットがどのチューナーにあたるのか」を図示しておくことで、わかりやすくしている。チャンネル録画設定では、どの録画チャンネルにどの放送が割り当てられていて、アンテナ強度がどうで、そのスロットで利用しているB-CASカードのIDがなんなのかまでわかるようになってるし、設定側からデータ放送を見てBS/CSの契約作業までが行なえるようになっている。

B-CASカードの設定は画面上にも詳しく表示される。どこに契約済みカードを挿すべきかを理解するための策だ
チャンネル録画の設定画面。各チャンネルで使うB-CASカードのIDがわかるようになっている。また、チャンネル毎に録画ビットレートを細かく設定することも可能

 パナソニックは録画機を作る際、他社以上に「わかりやすさ」を軸に据えるメーカーだ。BXT3000は「全録」により、その方向性を追求した製品となっている。そのため、すでに述べた通り、いままでの録画機の上位モデル、マニアモデルという位置付けでなく、併存する存在と位置づけている。そのため、BXT3000の価格帯は、BZT830シリーズと大差ないものになっている。

 ただし一方で、この方針により、機能面ではある程度の制約も生まれることになった。「高級機でなく、DIGAと同列の存在として」(神高氏)販売するためには、あまり高価にできない。HDDは2TBと、全録機の割には小容量となったし、そのために、チャンネル録画のビットレートは最大でも「2倍速」(約12Mbps)に抑えられているので、DRモードでMPEG-2 TSの放送“そのまま“録画することはできない。BS、CSが最大3チャンネルまでとなっているのも、コストを抑えて手を出しやすい製品とするためだ。神高氏は「今後の状況を見て対応を検討します。技術的にチャンネルを増やしていくのは難しいことではないので」と説明する。

 BS/CSのチャンネル数はともかく、チャンネル録画のビットレートが低めであるのは、最終的な「保存」を考えると少し物足りない。HDD容量を増やして出荷し、よりビットレートの高い(できればWOWOWなどの特定チャンネルはDRモードで)全録できるようになればありがたい。

【全録/通常録画の主な仕様】

メーカー パナソニック 【参考】東芝
型番 DMR-BXT3000 DBR-M190 DBR-M180
HDD(全録) 1,750GB 4TB 2TB
HDD(通常録画) 250GB 1TB 500GB
全録の最大チャンネル数 6ch 6ch 6ch
全録のBS/110度CS
最大チャンネル数
3ch - -
全録の最大録画時間
(録画モード)
16日
(15倍録)
15日
(AVC低画質)
8日
(AVC低画質)
全録のDR録画 -
全録オートチャプタ - -
全録HDD→通常録画HDD
高速ダビング
- -
全録HDD→BD直接ダビング - -
通常録画の2番組同時録画 -
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西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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