小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1160回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ついにここまで来た。球体スピーカー、クリエイティブ「Pebble Nova」のガチ具合

昨年末に発売開始された「Pebble Nova」

あのPebbleが大化け?

これまで本連載では、Creativeの小型サウンドバーをよく扱っているが、それは筆者がパソコンを外部モニターで使用しており、画面前に置くのに丁度いいスピーカーが欲しかったからだ。そんなこともあって最終的には「Sound Blaster GS3」を購入するに至っている。

とはいえノートPCユーザーにとっては、サウンドバータイプを画面の前に置くわけにも行かず、やっぱり左右セパレート型のほうに人気が集まる。Creativeの球体スピーカー「Pebble」は、初号機は2017年の発売だが、その後順調にバリエーションを拡充している。価格的も最安で1,980円、ほとんどのモデルが1万円以内で買える。評価としても、最初はまあこんなもんじゃないのというところだったが、徐々にコスパ最高という評価に変わっていき、人気シリーズに成長した。

ところが昨年末に発売された新作「Pebble Nova」は、旧来のファンを驚かせた。中低域ドライバとツイーターを同軸上に配置したプレミアムモデルだったのだ。価格も直販で41,800円と、高コスパがウリだったPebbleシリーズからは一線を画している。

一体これはなんなんだ、ということで俄然興味が湧いた。すでに弊誌酒井記者のレビューも上がっているところだが、改めてクリエイティブの自信作を聴いてみたい。

完全球体の魅力的な筐体

Pebble共通のポイントといえば、エンクロージャが球体、45度の仰角、フルレンジ一発とパッシブラジエータというあたりが共通するところである。基本的にはUSB入力を中心としたPC向けのアクティブスピーカーだ。

一方今回のPebble Novaは、球体エンクロージャ、仰角45度といったところは共通しているものの、ドライブユニットは同軸の2Wayとなっている。

ドライブユニットは同軸の2Way仕様

同軸スピーカーと言えば昔からTANNOYが有名で、ポイント・ソーススピーカーとして長い歴史がある。ツイーターを中低域ドライバーと同軸上に置くメリットは、複数のドライバーでありながら、直接音・間接音ともに位相差が少なく、音のフォーカスがキッチリ合うという特徴がある。近年はKEFやGENELEC、ELACなどにも同軸スピーカーモデルが登場している。KEFには10万円以下のモデルもあるが、ほとんどはかなりのハイエンドモデルとなっている。

4万円強という価格は、Pebbleシリーズとしては破格だが、同軸スピーカーとしてはかなり安い。

加えてエンクロージャが球形というメリットは、エッジディフラクションが低減する、という点にある。エッジディフラクションとは、エンクロージャやバッフル板の角で音波の回折現象が起こることで、その回折された音波が元の音波と混ざり合って特性が暴れるわけだ。昨今は四角いエンクロージャでも、角を丸めたりバッフル板に曲面を付けたりして回折を避けるものが多い。

またエンクロージャー内部でも、原理的に平行な壁というものが存在しないため、定在波が発生しないというメリットがある。定在波があると、特定周波数のところで共鳴したり減衰したりするため、内部構造をあえて複雑にしたり、吸音材を入れたりしてカバーしなければならない。

つまりこれらの工夫はすべて、外的要因によってドライバの持つ特性が乱れることを防ぐために行なわれているわけで、ある意味ドライバの素性がダイレクトに出る設計という事になる。

前置きが長くなったが、Pebble Novaの仕様を確認していこう。外寸は直系約15cmの球形で、ドライバ部は正面ではなく、仰角の位置にある。中低域ドライバーは3インチ、ツイーターは1インチのものが同軸上に並ぶ。

ドライバの中心軸が上向き

従来のPebbleはドライバ部分が凹んでいるので、球体とはいっても一部が欠けたようなデザインだった。だが本機はその凹んだ部分にツイーターユニットを島状に浮かせることで、より完全に近い球体となっている。

正面からはツイーターしか見えないが、ツイーター部周囲のスリットから覗き込むと、3インチドライバが見える。こちらは過去のPebble同様、凹型のドライバである。ツイーターを浮かせている島部の背面には、山型(円錐形)に尖った拡散板が配置されている。島部の背面に音が当たって定在波が発生するのを避けているのだろう。

隙間から覗き込むと、Pebble独特の凹型ドライバが見える
ツイーターユニットの背面には山型の拡散板が見える

背面には真後ろの方向にパッシブラジエーターがあり、こちらには大きめのカバーが付けられている。ここに質量を乗せることで、ラジエータ面の慣性を調整していると思われる。周波数特性は55Hz~20kHzで、ハイレゾ対応というわけではない。

背面のパッシブラジエーター

スピーカー重量は、右側にアンプ部が入っていることで若干重く975g、左側は866gだ。ただし振動を抑えるために付属の脚部を取り付けることが推奨されており、この脚部だけで700gぐらいある。したがって片側だけでだいたい1.6kgぐらいの重さになる。

付属のスタンド部

出力は50W、ピークは100Wもある。電源はUSB-Cから取るが、バスパワーでは動かず、別途ACアダプタが必要になる。付属のアダプタも65W USB PDと、まあまあ大型だ。

付属のACアダプタは65W USB PD出力が出せる

右側の背面には入力ポートがある。左からアナログAUX、USB-C入力、電源入力だ。一番右のケーブルは、左側への配線である。この配線ケーブルもUSB-Cになっているのは珍しい。ただ差し込み方向の上下が固定されていることから、デジタル信号伝送ではなく、アナログ伝送しているものと思われる。

Bluetoothは対応コーデックがSBCのみとなっている。メインはUSB入力とはいえ、Creativeのスピーカー製品はBluetoothの対応が最小限なのがいつも残念なところである。

背面の入力端子
左側への接続はUSBだが、上下が逆にならないようコネクタが工夫されている

右側の天面にタッチ式のボタンが並ぶ。左から電源、±ボリューム、入力切り替え、LEDライト切り替えボタンだ。

右天面の操作ボタン

底部にはLEDライトが仕込まれており、レインボーカラーや白色に光らせることができる。必要なければOFFにもできる。

スピーカー底部にLEDライトが仕込まれている

また右側面にゴムキャップがあり、内部にヘッドフォン端子とマイク端子がある。USBオーディオインターフェースとしての機能もあるというわけだ。

右サイドにヘッドフォンとマイク端子

スピーカーの左右は、入れ替えることもできる。入力切り替えとLEDボタンを5秒間長押しすると、左右が入れ替わる。ケーブルが届かないなどの理由で左右を入れ替えたい場合は便利な機能だ。

ルックスからは想像できないサウンド

では早速聴いていこう。今回はM4 Mac Miniとの組み合わせでテストする。USB接続では、出力が48kHz/16bitに固定されており、これ以外には変更できないことからも、ハイレゾ対応ではないことがわかる。

USB接続は48kHz/16bit固定

MacOS用にはコントロールソフトは配付されていないが、Windows用ソフトではCreative独自のAcoustic Engineなどを使ったオーディオ処理に対応する。iOSおよびAndroid用のCreativeアプリでは、Acoustic Engineは使用できないが、EQのプリセットやLEDライトのパターンが設定できる。

Android版CreativeアプリでEQとLEDが設定できる

EQ設定はデフォルトが「ゲーム」になっているが、プリセットとしてはフルフラットだ。今回はAmazon Musicで2017年に発表されたリチャード・バルビエリの「Introducing…」を聴いていく。2, 3曲目は倍音の多い打楽器と倍音をカットオフしたベースで構成されており、スピーカーやアンプにとってはイジワルなコンテンツだ。アタックや定位感、歪率などを観察するには丁度いいので、サウンドチェックで使ってみて欲しい。

「ゲーム」設定はEQがフルフラット

本機の設置は、台座に直接セットする方法と、付属の脚部を取り付けてセットする方法の2パターンが選べる。脚部は直置きよりも多少前傾することになるが、一般的なテーブルの上に設置するとどちらのパターンでも、スピーカーのセンター軸が耳の高さよりもやや上向きになる。

スタンドと台座直接では仰角が少し違う

これは狙いなのだろうか。耳をセンター軸のところまでもっていくだけで明瞭感が全然違うので、できればスタンドに仰角の調整機構が欲しいところである。別売でも出してくれないだろうか。今回はセンター軸に耳の位置が来る状態で視聴してみる。

サイズとしては小型スピーカーと言っていいのだろうが、低域のたっぷりとした量感が楽しめる。背面のパッシブラジエータがかなり大きく動いており、中低域ドライバのストロークがかなり大きいことが伺える。周波数特性としては低域は55Hzに留まるが、音楽再生には十分だ。

左右の定位感も非常に安定しており、位相のにじみが少ないという同軸型の特性がよく出ている。そもそもPebbleはこれまでフルレンジスピーカーだったので、もともと位相のにじみは気にならないタイプのスピーカーだったのだろうが、その特性をそのままで2Way化したという事だろう。

高域のキレというか表現の確かさが際立っており、2曲目の「Solar Sea」などは中盤から後半にかけて倍音の多いパーカッションがいくつも重なるサウンドではあるが、倍音の干渉で歪みが出ることもなく、音量もかなり出せる。エンタテイメントスピーカーとして、どちらかというとゲームユースという方向性でマーケディングされているようだが、エコー深いピアノ曲のようなものにも十分対応できる。

ただ、ノーマルのセッティングでは、125~250Hzのあたりにちょっとピークがある。そこが若干ブーミーに感じさせるところである。EQのプリセットで「ミュージック」を選択すると、丁度そのあたりを凹ませたカーブになっている。やはりそのあたりにピークがあることは、Creative側でも認識しているという事だろう。

「ミュージック」設定では250Hzあたりを凹ませてある

このEQは、グラフ上の白い点が下の「バス」「トレブル」のスライダーと連動している。それ以外の部分は、周波数のところを指でなぞれば、カーブが変えられるようになっている。

同じ楽曲でもアナログのAUX入力に対しては、同じ性能は出せないようだ。TEACの「UD-301」でDAコンバートしたアナログLINE出力と接続してみたところ、倍音が多い部分でジリジリとした歪みが出る。

別途ヘッドフォンでも確認してみたが、DACで歪んでいるわけではないので、LINE入力ではレベルオーバーになるようだ。出力レベルが調整できる機材を繋ぐのがいいだろう。

Bluetoothでも同じ楽曲で確認したが、こちらは歪みは確認できなかった。ただ高音域の解像度が落ち、やや乱雑な表現になる。小音量で聴き流す程度なら問題ないが、ちゃんとしたリスニングに対応できるのはUSB入力のみと考えた方がいいだろう。

使い勝手という点では、天板のタッチボタンの操作性は今一つである。それというのも、リスニング位置からはボタンが見えないからだ。ボリューム調整したいのに手探りで手を伸ばすと、間違って電源を切ってしまったり入力が変わってしまったりと、散々である。ボリュームノブよりも見た目はスマートではあるが、伸び上がって覗き込まないとボリューム調整もままならないというのは問題だろう。どうせタッチボタンにするなら、スピーカーの下側に付けた方が操作性は良かったのではないだろうか。

正面からでは上部のスイッチが全然見えない

総論

これまでコスパの高さで受けが良かったCreative Pebbleシリーズだが、このフォーマットを継承しつつお金をかけてがっちり開発したらどうなるのかというのを具現化したのが、Pebble Novaの立ち位置だろう。

大音量から小音量までバランスが大きく変わることなく、PCスピーカーとしてはかなり上質なサウンドを聴かせてくれる。ただ、ここまでやるならハイレゾ対応は欲しかったところだ。

それというのも、このクラスの音質では、以前ご紹介したEDIFIER「MR3」のように1万円台でハイレゾ対応するモニタースピーカーも登場してきており、Pebbleなのにコスパで負けるといった逆転が起こってしまっている。

とはいえ、ルックスの良さに加えて、優れた高域特性による音の再現性の高さ、センターへの結像の確かさ、さらにスタンドに装着すれば机上の反射音の影響もなくなるなどの特徴は、十分ポイントとなるだろう。

それほどハイレゾ再生にはこだわらない、簡単にセッティングできていい音を楽しみたい、ハイエンドと同じ方式をリーズナブルに試してみたいという方には、お勧めできるスピーカーだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。