レビュー

オマケなのに超高音質な「USB-C - 3.5mmアダプタ」と出会い、Ztellaに辿り着いた話

Campfire Audio「Clara」……に、付属していた、USB-Cから3.5mmに変換するアダプターALO「Pilot」

驚きのUSB-Cアダプターを発見

始まりは先日、Campfire Audio「Clara」のレビュー記事を書いていたときのことだ。新しい機材をレビューするのは楽しいものだが、もちろん仕事なので緊張感もある。万一書き漏らしがないよう、付属品をゴソゴソと探っていたところ、ソフトポーチの中をあさっていた指になにか引っかかった。取り出してみると、それはいままでのCampfire Audioの付属品には見慣れないもので、見た目はUSB-Cアダプターのようだった。

改めてパッケージリストを確認すると、それはALO「Pilot」という名称で、やはりUSB-Cから3.5mmに変換するアダプターである。同様のものはアップルでも前からあったし、そのときはまあCampfire Audioもこうしたものを同梱するようになったか、と思っただけですぐに仕舞い込んだ。なにしろ「Clara」は新規軸がてんこ盛りでそれどころではなかったのだ。

それから6,500文字にも及ぶレビュー記事をだいたい書き上げたのだが、そういえばあれも軽く触れておこうかと、ケーブルを3.5mmに繋ぎ変えてエージングもなしに「Pilot」を繋いでみた。たいして期待していなかったからだ。しかし、一聴して電撃を受けたように驚いた。音がいいのだ。それもかなり高いレベル、である。

急いで「Pilot」をエージングし始めると、同時に「Pilot」について少し調べてみた。

このUSB-Cアダプターはいったい何なのか?

「Pilot」はALOブランドの製品で、DACチップとしてESS Sabre「9281C Pro」を搭載している。USBオーディオクラス2でハイレゾにも対応、PCMでは上限384kHz、DSDでは上限5.6MHzまで対応している。これはたいしたものだ。

形としてはアップルが3.5mm端子を廃したときに提供したアダプタと同じだが、それが48kHzまでしか対応していなかったのと比較すると使い出がありそうだ。

詳細にみていくとSN比は120dB、出力インピーダンスが2Ω以下とマニアックなレベルの性能を有していることもわかった。しかも120Ω以上の負荷だと自動的にパワーを上げる機能までついている。これは面白そうだ。

さらに調べてみると、どうやらZorloo「Ztella」というUSB-Cから3.5mmに変換するアダプターのOEM製品であるらしい。ALO版との違いはわからないが、基本設計は同じだろう。

Zorlooが、2019年にクラウドファンディングで「Ztella」を立ち上げた

Zorlooは香港のメーカーで2019年にクラウドファンディングで「Ztella」を設立。現在では4.4mmのバランス出力に対応したモデル「Ztella II」も存在しており、「Clara」の限定版の方に同梱されているもののベースと思われる。「Ztella」と「Ztella II」ともに日本でもAmazonから手軽にかつ安価で購入することができる。「Ztella」は約1万円、「Ztella II」は約2万円である。

そこまで調べ上げると、エージングした「Pilot」を使用してふたたび真摯に聴き入った。

Claraを再び接続して聴いてみるとやはり音が良い。ハイエンドイヤフォンを聴くのに十分なレベルの解像度を有している。それに端正でハイファイを思わせる正確なサウンドだ。細かく聴くとハイパワーモデルらしく多少ホワイトノイズは感じるが、気になるほどではない。使用しているとかなり熱を持ってくるのも小さな体で精一杯電流を流しているようで、オーディオマニアにとってはマイナスにはならない。

こうなってくるともう止まらない、次々に手持ちのイヤフォンを試してみたくなる。次になにを試してみようかと考えたが、ふと今では使用していないものを使ってみようと思い立った。いまでは4.4mmしか使わないので、押し入れの奥で眠っている製品を再度陽に当てるいい理由になるかと考えたのだ。

そこでまず思いついたのがイヤフォンではなくケーブルだ。DITA Audioの記念すべき初代ハイエンドモデルである「Answer Truth」に添付されていたVan den Hul社と共同開発した「The Truth」ケーブルである。

DITA Audio「Answer Truth」に付属していたケーブル「The Truth」。途中に銀色の線材が直接見える箇所がある

ケーブルの途中に銀色の線材が直接見える箇所があり、当時はかなり斬新なデザインだったがもう10年も前になる。しかしそのハンダにまでこだわった、透明で先鋭的な音質はAnswer Truthの正確なサウンドの一翼を担うものだった。

Answer Truthは2ピン端子が標準仕様だったが、わたしが取り出してきたのは端子がMMCXのモデルだ。初代のケーブルでMMCX端子のモデルは市販されていないと思うが、なぜこれが私の手にあるかというと、ちょっと訳がある。シンガポールのオーディオショウに以前行ったときのことだ。DITA Audioのスタッフがこれを持っていたのを見つけて羨ましそうにじっと見ていたら、DITAのスタッフが不憫に思ってくれたのか、それを譲ってくれたのだ。

しかし現在のAwesome端子のモデルとは異なり、3.5mm端子直付けなので、いまではめっきり出番がすくなくなった。これはもったいない。

次にイヤフォンをどうするかというと、これはWestoneのカスタムIEM「ES80」に決めていた。第一、iPhoneから直挿しでカスタムIEMを使うのはかっこいいではないか。それに、いまではあまり表に出ることは無くなったWestoneの音のゴッドファーザーであるカール兄弟への懐かしの想い入れもある。"3.5mmの逆襲"をテーマにするにはちょうど良い選択だと考えた。

実際にわたしのiPhone 15 Pro MAXのUSB-C端子に「Pilot」を接続し、DITA Audio 「The Truth」ケーブルにWestone「ES80」を接続して聴いた。

それはもう素晴らしいサウンドだった。驚くに値するほど贅肉の全くない引き締まったサウンドで楽器音が鮮明に聴こえてくる。しかしカール・カートライトが天塩にかけた「ES80」の温かみを乗せた音は音楽性を損なわない。これが3.5mm端子の、こんな小さなアダプターを介した音かと正直耳を疑うほどの鮮烈なサウンドだ。普段4.4mmの最新機材を使っているとそれしかいらないと考えてしまいがちだが、3.5mmの組み合わせでもこんな素晴らしい音が眠っていたのかと思ってしまう。

Ztella IIも聴いてみたい

こうなるといつもの虫が疼いてきた。Zorlooの「Ztella」も使ってみたい。特に、4.4mm版の「Ztella II」も試さなければ気が済まなくなったのだ。

Ztella II

Ztella IIを手に入れたい。ただし、まだ半分懐疑的な点があった。

まず「Ztella II」はかなり大きい。もちろんバランス対応なのでこれは致し方ない。バランス駆動方式は実質的にアンプのブリッジ接続であり、必要な力はシングルエンド版の単に2倍では足りない。そのためにかなり大幅なアンプ部分の改修が必要になるだろう。それは理解したとしても、こう大きくなるとスティック型DACと変わらないではないか。Ztella IIでは仕様上のSN比が115dBと若干下がっているのも気になった。

いろいろと考えあぐねると、中古品を探してみようという妥協案に至った。つまり失敗したらなかったことにしようと思ったわけだ。そこで中古サイトを探して定価の半額ほどの出品を見つけるとすかさず購入ボタンを押下、届くまで首を長くして待つことになった。

荷物が届いて開けてみるとシンプルなパッケージだが安いので問題はない。しかも安いのをさらに中古で買ったのだから文句のつけようがない。本体はだいぶ大きくなったが、まだスティック型DACよりはコンパクトだ。なにより4.4mm端子だけという割り切りが清々しい。側面には小さなボタンがあり、これでさらにパワーブーストが可能だ。

今回はまずじっくりとエージングから始めた。小さいからと侮るなかれ、である。そしてこのコンパクトさは武器になる。例えばハイエンドDAPと4.4mm高性能イヤフォンを持ち歩いているとき、スマホでSNSを見て気になる曲を見つけ、それを聴きたいが手元には4.4mmイヤフォンしかなく、スマホには4.4mm端子がない、と切歯扼腕したことはないだろうか。そうした時の保険として常にジャンパーのポケットに気軽に入れておけるサイズだ。

Ztella IIの実力に驚く

こちらは現在主流の4.4mm端子なので使用できるイヤフォンの数は多い。エージングを終えて軽く聴いてみると、やはり音が良い。この優れモノを中古で買ってしまったことに多少の後ろめたさを感じつつも、手元のいろいろなイヤフォンを取り替えながら聴いてみた。

全て書くと字数は稼げるのだが、とりあえず一本だけ書くと手持ちで一番気に入ったのはCampfire Audio「Fathom」だ。

Campfire Audio「Fathom」

理由を挙げるとまずZtella IIの音がオールBAモデルに向いているということだ。ハイパワーなのでダイナミックドライバー搭載モデルやハイブリッドモデルの方が良いようにも思えるが、実のところZtella IIの音はESSらしいちょっとドライで先鋭的なサウンドで、オールBAと合わせると実に気持ちが良い音になる。

そしてオールBAモデルの中でも、FathomはCampfire Audio創設者ケン・ボール氏の音の哲学「シンプル・イズ・ベスト」が活かされたクロスオーバーレスモデルであり、その澄み切ったサウンドはZtella IIの楽器音の端切れの良さと実によく合うのだ。

Ztella IIとFathom

基本的な音の個性は3.5mm版と似た音で先鋭的で緩みが少ない。これはジャズや器楽曲に良い。また力感も相当なものでロックにも向いている。ちょっとしたスティック型DACに勝るとも劣らないような音レベルだ。多少難癖をつけると、パワーがありすぎてボリュームを動かす余地が少ないということだろう。それに加えて多少ホワイトノイズが感じられるのも事実だが、音楽が始まってその躍動感に身を任せるとそうしたことはどうでも良くなってくる。

iPhoneにZtella IIとFathomを接続したところ

Ztellaシリーズが2019年に登場して以来、オーディオ環境は大きく変化した。当時はTidalのMQAストリーミングが話題を集め、スマートフォンでMQA再生を楽しむための選択肢としてZtellaが開発されたのだろう。しかし今やTidalはMQAから撤退し、MQA自体が新たな道を模索している。発売からは5年もの時が流れたのだ。

しかし環境が様変わりした中だからこそ、Ztellaシリーズの本質が見えてきたと言える。それは3.5mm端子を介した音の可能性を改めて示してくれ、4.4mm端子をかつての3.5mm端子のように手軽に楽しむという快感である。

もちろんハイエンド機材を組み合わせ、究極の音を追求するのはオーディオの正攻法の醍醐味だ。しかし時にはこうした小さなアダプターが、忘れかけていた機材に新たな生命を吹き込み、思いがけない音の発見へと導いてくれる。こういう意外な発見があるからこそ、オーディオは面白いのだ。

佐々木喜洋

テクニカルライター。オーディオライター。得意ジャンルはポータブルオーディオ、ヘッドフォン、イヤフォン、PCオーディオなど。海外情報や技術的な記事を得意とする。 アメリカ居住経験があり、海外との交流が広い。IT分野ではプログラマでもあり、第一種情報処理技術者の国家資格を有する。 ポータブルオーディオやヘッドフォンオーディオの分野では早くから情報発信をしており、HeadFiのメンバーでもある。個人ブログ「Music To Go」主催。http://vaiopocket.seesaa.net