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スカパー! に聞くオンデマンド戦略。価値は「ライブ」と「衛星放送連携」に

スカパーJSAT 有料多チャンネル事業部門 放送事業本部 IPプラットフォーム事業部長 国武慎也氏

 スカパー! といえば衛星放送だが、実は日本において、同社はインターネットでのオンデマンド映像配信の先駆者であり、現在も「スカパー! オンデマンド」としてビジネス展開を行なっている。同社は2015年度の施策として、4Kとともにオンデマンド事業の拡大を柱としている。2月には「TRY! スカパー! オンデマンド」と題し、100番組以上をPCとスマホで無料視聴できるキャンペーンも展開(3月1日に終了)。本格的な拡販に努めている。

 ライバルの動きも活発化している現在、同社はオンデマンド事業をどう広げようと考えているのだろうか? 同事業の責任者である、スカパーJSAT株式会社・有料他チャンネル事業部門 放送事業本部 IPプラットフォーム事業部長の国武慎也氏に聞いた。

スマホ・タブレットの登場で環境が変化、サッカーに強み

 まず、スカパー!オンデマンドがどんなサービスなのかをおさらいするところからはじめよう。その名の通り、このサービスはネットを使ってオンデマンドで番組を見られるもの。2011年末にサービスを開始し、現在に至る。ネット回線さえあれば、基本的には利用形態は問わない。現状、PC(ブラウザ経由)やスマートフォン・タブレットの他、VODに対応したテレビやSTBからも視聴できる。

スカパー!オンデマンド。PCからはウェブブラウザ経由で利用する

 利用にはスカパー!への登録が必要だが、それは「スカパー!と衛星放送視聴の契約をする」という意味ではない。衛星放送の視聴契約がなくとも、オンデマンドだけで契約することも可能だし、衛星放送の視聴契約者ももちろん視聴可能だ。視聴コンテンツ量は55チャンネル・約1万本(2014年5月現在)とされているが、毎日放送される番組が追加されること、スポーツなどのライブ配信も多いことなどから、単純に本数で比較するのは適切ではないだろう。

 スカパー!ブランドらしく、コンテンツはチャンネル単位で並べられていて、購入も「チャンネルパック」や「チャンネルの月額利用」が中心。チャンネルの中には別途ペイ・パー・ビューが用意されている場合もある。中には、衛星放送で契約しているチャンネルと同じものの場合、オンデマンド側でも無料でコンテンツが見られる……というものも多い。そのため、スカパー!契約者にとって、非常にお得なサービスであるのは間違いない。

「日本映画専門チャンネル」での配信の例。衛星放送側で放送されたものの他、ディスク発売が開始されたばかりのギャレス・エドワーズ版「GODZILLA」のPPVもある

 特に強いのがスポーツ、中でもサッカーだ。スカパー!がJリーグ全試合を放送している関係もあり、スカパー!オンデマンドでも、全試合がオンデマンド中継される。3月4日には、配信対象国が日本からイギリス、インド、オーストラリア、カナダ、中国(香港を除く)、ニュージーランド、フランスへと拡大される、との発表もあった。熱心なJリーグファンを支える配信インフラになってきている。

特にサッカーは人気。Jリーグについては全試合が視聴できる他、2015年からは海外旅行中でも視聴が可能になった

 こうした施策について、国武氏は「方針は変わらないが、環境が変わった」と話す。

国武氏(以下敬称略):もう10年くらい、「スカパー!BB」(筆者注:2002年に同社が開始した映像配信サービス)や「スカパー!モバイル」(筆者注:2005年に開始した携帯電話向け映像配信サービス。2010年にサービス終了)など、色々な形で事業展開をしてきましたが、放送事業だけでなくインターネット配信に力を入れていこう、という方針そのものに、変化はないんですよ。

 大きく変わった点もあります。それはデバイスの進化です。

 スカパー!モバイルの頃はスマホやタブレットはなく、3G回線を使ったいわゆるフィーチャーフォン向けに展開していました。使い勝手から考えると、いくら企業側・送り手側が考えても、コンシューマの側では活用しきれない。早すぎたのか、という思いがあります。

 どうビジネスをすればいいのか、という議論・経験が熟成されてきた上に、デバイスの進化・通信の快適性がこの1、2年で大きく変わってきました。

 ですので、改めて配信の事業に力を入れて活性化したい、と考えているんです。

 そういった状況から、スカパー!オンデマンドが特に力を入れるのが、スマートフォン・タブレットといった新興デバイスである。現状の使われ方を見ても、コンテンツによって利用デバイスには明確な差がある、という。

国武:スカパー!オンデマンド全体でスマホ・タブレット視聴が増えている、というのは正しいです。一方で、個別に見ていると、見られ方には差があるな、と思います。

 スカパー!オンデマンドは、チャンネル・ジャンルによって分かれているのですが、ジャンルによって視聴傾向は違います。例えば、映画やアニメのような「パッケージ的」なコンテンツは、PCでの視聴がまだ多いかな、というところですし、スポーツについてはタブレットで見ている人が多いようです。

 これはおそらく、熱心なサッカーファンが「テレビがあるリビング以外でも視聴する手段」として、スカパー!オンデマンドをタブレットで視聴しており、利用者のリテラシーとしても、アクティブ性でも上回っているからでは……と筆者は予測している。

「衛星放送連携」契約が特徴、一人一台の市場規模がオンデマンドの魅力

 一方で、スカパー!としての特徴は、衛星放送とオンデマンドの両方でビジネスをしており、それらに強い相関性があることだ。現在、スカパー!オンデマンドの利用登録者は「45万人程度」(国武氏)。このうちの多くが、衛星放送としてのスカパー!にも加入しており、スカパー!オンデマンドだけでの加入者の実数は示されていないものの、多数派ではないという。

 すなわち、衛星放送との関連こそが、他のVODとの差別化策でもある。また、テレビ上で、衛星放送でなくスカパー!オンデマンドを利用する、という可能性との差別化も気になる。

国武:「テレビは衛星で、それ以外はオンデマンドで」というように考えているわけではないです。とはいえ、テレビがあれば衛星放送が受信できて、そこにはすでに何百チャンネルと流れているわけですし、それがなくなるわけでもない。ただ、例えば見逃し視聴サービスがあって、テレビからはそちらにもアクセスできる、といった形は、放送だけでは実現できないものですからね。OTT(Over the top、ネット上で独立して存在する)としてのオンデマンドと、DTH(Direct To Home。衛星放送にて各戸に放送・通信を届けるサービスの総称)連携としてのオンデマンドの良さをどう提供できるか、ということを考えていかなければなりません。

 スカパー!オンデマンドの場合、すでに述べたように、衛星放送側で契約が存在すると、同じチャンネルのコンテンツが追加料金なしで視聴できるものもある。Jリーグの場合、オンデマンドだけでパック契約することもできるが、衛星放送としてのスカパー!の側で「JリーグMAX」パックに加入していると、オンデマンド視聴は無料になる。

国武:放送で契約いただいている方には無料でオンデマンドが提供されるチャンネル・コンテンツが多くなっています。それは「ブリッジ」のようなものかな、と思っています。お客様の側から見れば、好きなコンテンツがあるからチャンネル契約をするわけですが、24時間自宅にいるわけでもないですし、昼休みや旅行先ではオンデマンドで、ということになります。そういう使い方をしても視聴料金が倍になるか、というとそうではないですし。

 こうしたことが衛星放送の解約防止になる……という効果はある、と僕自身は思っていますが、数字としては判然としないところもあります。

 一方で、衛星放送とオンデマンドでは、契約のハードルが大きく異なる。ほとんどのテレビにチューナが入っており、アンテナさえ用意できれば受信は可能である、とはいうものの、加入に至るにはそれなりに「覚悟」がいる。一方オンデマンドは、インターネットさえあればOKであり、さらに手軽な存在といえる。両者には市場性に違いがあり、補完関係にもある。スカパー!としては、そうした部分をどう考えているのだろうか。

国武:確かに、アンテナをつけてDTHに加入するにはハードルがあります。とはいえ、当社の基幹ビジネスです。観たいものに対する志向が定まったお客様にご加入いただけるため、弊社目線で恐縮ですが、お客様からお支払いいただける1契約あたりの料金も高い。OTTのサービスは、1契約あたりの利益では勝てません。

 とはいえ、市場のベースで言うならば、DTHはどんなにがんばっても、世帯数である5,000万加入が限界です。しかし、スマートフォンやタブレットといったデバイスは、一人一台以上。マーケットはさらに大きく、そうしたデバイスを持っている顧客にアプローチしない手はありません。

 今後、テレビを持っていない人が増えても、減ることはないでしょう。若い層を中心に、「テレビも持たない」「アンテナもない」人々はこれまでターゲットになり得なかったわけですが、オンデマンドによって、はじめてターゲットになり得ます。

 2月には「TRY! スカパー! オンデマンド」というキャンペーンを展開したが、これによる入会状況は「非常に好調だった」(国武氏)という。実数を明かすことはできないが、キャンペーンが行なわれる前に比べ、一日あたりの加入ユーザー数は、数倍以上の開きがあったという。

 また、衛星放送も含めた顧客獲得の現在の傾向として、次のような状況も明かす。

国武:DTHも、加入に対する導線がウェブにシフトしてきています。ネットで買い物をしたり、予約をしたりするのがあたりまえの時代ですから、お客様の当社に対する接点も、広い意味でインターネット的になってきている。そこから直結する形で考えると、オンデマンドとの連携は必要だし、「来る」要素だよね、という話はしています。

 ただし、そういう状況にはあっても、具体的にどうするのか。お客様の体験としてシームレスかどうか、という点については、まだまだ課題があります。

 衛星放送側とオンデマンド側は、契約こそ連携しているし、放送の中でオンデマンドの周知は行なわれているものの、放送から直接オンデマンドへ飛んだり、オンデマンド側から放送の予約をしたり、といった密な連携は行なわれていない。利用者側が双方の存在を理解した上で、状況に応じて使い分ける必要がある。どうしてもそれなりにリテラシーを必要としてしまい、「高度なサービス」といえる。

 サッカーファンやアイドルファンなどの、好きなコンテンツに対して意欲が高く、サービスの性質を理解する人が主軸になって広がっている……といっていい。そこがスカパー!オンデマンドの最大の価値であり、現状でのひとつのハードルである、ともいえる。

衛星放送的な「チャンネル」展開だが、放送の枠に囚われない自由度がポイント

 もう一つ、スカパー!オンデマンドには、良くも悪くも特徴的な部分がある。

 多くのOTT系オンデマンドサービスは、コンテンツを「ジャンル」などで分類はしているものの、それは分類用のタグのようなものであり、各コンテンツは並列だ。しかしスカパー!オンデマンドの場合、全面に出てくるのは、衛星放送での「チャンネル」で、その下に各コンテンツが並ぶ構造になる。これは、衛星放送が番組供給事業者毎に「チャンネル」を構成する形で成り立つサービスであり、コンテンツ調達も同じスキームで行なっているためだ。

国武:チャンネルの存在については、もちろん番組供給事業者との関係でもあります。一方、チャンネルとは「ブランド」でもあり、そうしたチャンネルに対するお客様の信頼、ということでもあると考えます。映画などだと、チャンネルより映画のタイトルの方が若干強くなるかとは思いますが、例えばスポーツなどでは、オリジナルの番組を長くやっていて、日本全国で一定数の認知を持つものがあります。その良さはきちんと活用していきたいです。

 とはいえ、チャンネルだけで推していくわけではないです。プラットフォーム全体として横串を通すような役割も必要です。

 例えば……、名優さんが物故された場合、各映画チャンネルで「追悼特集」が組まれます。しかし、衛星放送の場合、告知されてから見られるのは一カ月後……という形になるのは、本当に正しいのか、ということです。オンデマンドであれば、並びを積極的に変えたり、推し出すものを変えたりできます。

 他方、「チャンネルを推す」一方でのジレンマは、オンデマンド側で見られるコンテンツの数が、衛星放送で流れるものに比べ少ない、という点にある。理由は、配信用の権利処理だ。特にドラマや映画など、過去のコンテンツが含まれるチャンネルについては、制限が多い。

国武:理想は100%同じになることです。しかし、権利処理は一足飛びに解決できるものではありません。

 とはいえ、権利処理の考え方については、権利者の方々の考え方も時代に応じて変わってきています。丁寧にご説明して、許諾を得ていくことを考えねばなりません。

 一方で、オンデマンドでは放送にはない、乗せられないものを入れていく、という考え方があります。

 スポーツチャンネルの「GAORA」さんは、放送だと1チャンネルしかお持ちではありません。しかし、彼らが配信できる権利を持った番組はたくさんあるんです。

 例えば、錦織圭選手のテニスの試合をライブで放送する時、同じ時間にインディカー・シリーズの佐藤琢磨選手のレースがありました。時間がだぶったわけです。放送はどっちかしか選べないので、どちらかは生中継でなく、ディレイして録画放送になります。でもオンデマンドだと、両方生中継できてしまうんです。放送だと錦織さんのテニスの試合が優先ですが、オンデマンドだとインディカーが流せる。

 オンデマンドとしては、放送として権利処理をしていくとともに、みなさんがもっている他のコンテンツも見せる……ということはやれていますし、もっと広げていきたいです。

体力では戦わず「ライブの価値」で攻める

 冒頭でも述べたように、これから、ネット配信の世界はさらに競争の激化が予想される。日本でもっとも利用者数の多い「dビデオ」は、NTTドコモという豊富な資金力を持つ企業が運営しているし、秋に日本進出するNetflixも、5,400万加入という数を背景に、かなり大規模な展開を行なうとみられている。スカパー!として、そうしたライバルにどう対抗していこうと考えているのだろうか。

国武:現状、具体的な戦略をお伝えするのはご容赦ください(笑)。一般論ではありますが、資本的な意味では、彼らにはかないません。体力勝負は厳しい。映画のコンテンツ調達について、お金で張り合って戦っても勝てるものではありません。ですから、そこは当社のやり方を貫きます。彼らにないものを強みとして戦うことになります。

 パッケージ的なコンテンツを並べていき、「ここにはなんでもある」という量で勝負する形ではなく、ライブコンテンツで戦おうと考えています。ライブスポーツはもちろんですが、アイドルのライブなども、パートナーと協力して提供していきます。

 ここでもう一つ、別の観点がある。衛星放送やケーブルTVの場合、同時に契約するのは基本的に一つの事業者。いくつもの事業者を使い分ける……ということはない。しかし、ネット上のサービスは、併存が容易である。

国武:併存は仕方ないと思います。「タブレットの上に特定の事業者のサービスだけが存在する」というような、送り手目線の形は成立しません。数あるサービスの中で認知され、定期的に使われる・料金を払っていただけている、という形が維持できれば、「大事なサービスの一つである」というグループに入れていただけるのでは、と思います。

 国武氏も指摘する通り、現状のVODは「パッケージ的」だ。放送がそのまま流れる形態のサービスも、ライブ配信を軸に置いたサービスも、いわゆるVODとは距離を置いたところにある。単純に「多くの人が見ている生放送」を見るだけなら、それこそ放送の方が効率が良く、ネットを使う意味は薄い。

 しかし、スカパー!のように、支持者はいるがマスとは異なるコンテンツを提供する場合、そこでライブ配信・多様な配信を軸に、VODとは違う価値を提供すれば、利用者側にも「併存させる意味」がわかりやすくなってくる。

 他方で、衛星放送の料金体系とネット配信の料金体系では、多くの人が「お手頃」と感じる部分が異なる。アメリカでも、SVODの利用に伴い、ケーブルTVの契約体系を見直し、全体でのコストカットを行なう消費者は多い。日本でも似たことが起きる可能性は高いはずだ。

 そこで、オンデマンドと衛星放送のハイブリッド化により、いかに「コストと価値のバランス」をとるのか。コンテンツの充実に加え、そうした観点が、同社のオンデマンドビジネス拡大には必要になってくる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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