小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第813回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

空飛ぶ知育ロボット!? ドローンが“作れる”「Airblock」を試す

ドローンで学ぶ?

 2014年のDJI「Phantom 2 Vision+」発売は、誰でも簡単に本格的な空撮ができるという夢を叶えたという点で、エポックメイキングな製品だった。もちろんそれ以前からオモチャレベルの空撮ドローンはあったが、本格的なドローン空撮は、ドローンとジンバルとカメラを別々に購入して組み合わせるしかなかった。それを全部オールインワンパッケージにした点で、空撮専用機のRTF(Ready to Fly)市場を切り開いたわけだ。

Airblock

 ただ、免許や資格不要で誰でも簡単に飛ばせるだけに、一気に問題も増えた。繁華街に墜落したり、祭りの最中に墜落したり、打ち上げ花火の中を無許可で突っ切ったりと、知識不足+モラル不足+技量不足のユーザーが、一般市民に迷惑をかけるようになった。極めつけは首相官邸墜落事件で、これをきっかけにドローンは一気に悪者になっていった。

 そして2015年12月、首相官邸墜落事件を受けて急いで改正された航空法により、人口密集地では200g以上のドローンを飛ばすには、国土交通省の認可が必要というルールが明確化され、コンシューマにおけるドローン熱は一気に冷めてしまった。

 もちろん、200g以下というのは日本だけのローカルルールである。ワールドワイドでは、自撮り専用の小型ドローンが次々に製品化されているが、200g以下のものはなかなか見つからないというのが現状だ。

 そんな中、ドローンを使ってモノづくりやプログラミング教育に役立てようという製品が出てきた。ソフトバンク コマース&サービスが発売する「Airblock」である。従来こうした知育玩具はほとんどが米国から入ってくるというのがスタンダードだったが、Airblockは中国メーカーであるMakeblockの製品だ。2013年創業の知育向けロボット開発メーカーだという。

 日本ではすっかり火が消えた感もあるドローンだが、教育用途としての道はあるのだろうか。早速試してみよう。なお、ソフトバンク コマース&サービスが販売しており、価格は22,000円。対象年齢は8歳以上だ。

組み替え自由なモジュール

 ではまず、Airblockの中身を見てみよう。Airblockは、電源やセンサー、CPU、通信機能などを搭載したマスターコントローラーモジュールと、6つのパワーモジュール(ローター)から成っている。マスターコントローラーモジュールは六角形となっており、ここにローターをくっつけていく。すべて外装は発泡ポリプロピレンなので、非常に軽量だ。

Airblockのパッケージ内

 マスターコントローラーモジュール上部には三方にLEDライトが仕込まれており、電源が繋がっているか、スマホなどのコントローラと接続しているかのステータスを示す。底部には高度センサーとバッテリー収納部がある。バッテリーは700mAhの充電式リチウムイオンで、かなり軽量だ。バッテリーを含めても総重量は150gしかなく、改正航空法の規制対象外、すなわちおもちゃ扱いとなる。

ドローンの要となるマスターコントローラーモジュール
背面には高度センサーを装備
バッテリは大型だが軽量
バッテリは底部にピッタリ収まる

 側面にローターがくっつくわけだが、十字の溝があり、2つの接続端子が見える。一方ローター側には十字型の突起があり、4方向に取り付けができる。ローターは赤と黒のプロペラで色分けされており、回転方向が違う。デタラメな方向にくっつけられないよう、接続は磁石になっており、付けてもいい位置にはくっつき、つけられない位置には反発してくっつかない。

側面は十字型の凹みと接点がある
こちらはパワーモジュール(ローター部)
接続部が十字に出っ張っている
磁石でピタッとくっつけるだけ
6つくっつけるとドローンに

 製品にはこれらに加えて、ホバークラフトになるためのベースも付属している。こちらは単なるボディで、ここにマスターコントローラ含め各ローターをはめ込むことで、ホバークラフトにも組み替えできる。

ホバークラフト用のベースも付属
ベースにモジュールを組み込んでいく
ホバークラフトの完成

 充電器はコンパクトで、マイクロUSBにて充電を行なうスタイル。バッテリ持続時間としては、ドローンモードでは約8分、ホバークラフトでは約16分。飛行時間は多少物足りないが、充電もそこそこ早いので、不便はないだろう。ホビードローンでは5分飛行で30分充電とかザラなので、それに比べれば全然許容範囲である。

バッテリ充電はUSB端子で

 フライトコントロールは、専用アプリMake blockから行なう。ドローンやホバークラフトは、コントローラのモードを切り換えてコントロールするという仕掛けだ。

コントロールアプリMake block

安全第一のドローン

 では始めにドローンモードから試してみよう。マスターコントローラーにローターを6つ取り付け、バッテリを装着すれば準備完了である。電源ボタンもなく、電源をはめ込んだらONになるという、シンプルな仕組みだ。

 コントローラとなるスマートフォンとは、Bluetoothで接続する。パスワードなどはなく、アプリを立ち上げたらドローンに近づけると自動的に認識するというシンプルさだ。単純なオモチャというよりは知育玩具なので、実際の学びはもっと先にある。手前の段取りはなるべく省略するという姿勢が潔い。

NFCというわけではないが、近づけるだけでBluetooth接続する

 専用アプリMake blockとペアリングが完了すると、コントロール画面になる。上部の電源ボタンをタップすると、ローターが回転してスタンバイ状態となる。電池残量や電波強度などは、アプリ上で確認できる。

ドローンのコントロール画面

 左コントローラの上が上昇だ。上へスライドすると、上昇する。離陸は一気に飛び上がるので、最初は加減が分からずに驚くかもしれないが、ゆっくり上昇させると、床との間で空気の層ができて、その上を横滑りしてしまうので、ある程度一気に上昇する必要がある。

 一度上昇すると、高度センサーがあるおかげで、上下位置の制御はほとんどマニュアル制御する必要はない。一方で前後左右のポジションに関しては、何のセンサーもないため、完全にマニュアルコントロールとなる。エアコンの風など、室内に一定の空気の流れがあれば、それに乗ってそのまま流されて行ってしまうので、マニュアルによる位置制御は必要になる。

高さ方向は安定しているが、前後左右はマニュアルによるコントロールが必要

 昨今は多数のセンサーを装備したドローンも安くで手に入るので、ドローンというのは手を離せばその場にじっと浮いているものと思っている人も多いが、本機は手放しでその場に浮いていられるほどのセンサーを装備していない。したがって、単にその場でホバリングさせておくだけでも、バッテリー1本分空になるぐらいの練習は必要だろう。

 ドローンのマニュアル操作としては、スマホ画面をジョイスティックに見立てて操作する事になる。ハードコントローラと違い、手元の位置がズレていてもわからないので、ドローンを見ながらの操作には、慣れが必要だ。

 自動飛行ボタンも備わっている。縦方向に1回転するロール、ボディを揺するシェイク、ぐるっと1周する円運動の3つだ。円運動はかなり大きく回るので、そこそこ広い場所で操作しないと壁にぶつかってしまう。「土地」と書いてあるボタンは、着陸だ。「Landing」の誤訳だろう。

 ドローンの安全性についてだが、ローターは上下方向には露出しているものの、周囲はガードされている。指でも突っ込まない限り、ぶつかったぐらいではケガをする心配はなさそうだ。

 また激しく壁などにぶつかった場合は、ローターとマスターコントローラーがすぐバラバラになって止まってしまうので、何かを巻き込んでしまうということにはなりにくい。全てのパターンを試したわけではないが、数個のローターが外れると自動停止するようだ。しかし1つ2つ外れたぐらいでは、止まらない時もある。その時は猛スピードであらぬ方向に飛んで行ってしまうので、ランディングや電源ボタンの位置はしっかり覚えておき、いつでもタップできるようにしておくといいだろう。

 もう一つ、ホバークラフトモードも試してみよう。浮遊のためのローターを2つ残して、あとの4つは操舵用のローターとなる。安全のために、各ローターにプロテクトカバーを取り付ける。組み替え自体は簡単だが、ローターの向きを間違えると全然思った通りに動かないので注意が必要だ。逆に言えば、モノの動きのエラーによって間違いに気づくという過程も、1つの学習だと言える。

ホバークラフト、ランドモードのコントロール画面
ホバークラフトの動作。体育館のような広い場所があれば別だが、家庭内では窮屈だ

 ホバークラフトは、家の中で遊んでもそれほど面白くない。水面で遊んだ方が面白いだろうが、電波が届く範囲には限度があるので、調子に乗って遠くまで走らせると、戻ってこなくなる可能性がある。特に子供に使わせる場合、そのあたりの理屈は実際に失敗して学ぶ事なので、保護者の方はそれなりの覚悟が必要である。

ホバークラフト、ウォーターモードのコントロール画面

プログラミングの基礎が学べる

 Airblockは、プログラミングによって動作制御ができることがメインとも言える製品だ。プログラミングといっても、言語に則ってコマンドをキーボードで入力するようなものではなく、ある程度動作がモジュール化されたものを繋ぎ合わせて一連の操作をさせるというものである。ビジュアルプログラミング「スクラッチ」がベースになっているという。

 コントロールアプリ「Make block」には、オリジナルのプロジェクト(制御系)を作る機能がある。オリジナルのコントローラが作れたりする機能だが、この中にプログラムできる機能が内蔵されている。

オリジナルのコントローラが作れる

 例えばON・OFFスイッチの中に、一連の動作コマンドを入れておけば、スイッチをONにすると自動的に飛び立って、一連の動作をこなして着陸、といったオートパイロットをさせることができる。

 とは言え、いきなりコマンドを引っ張り出してデタラメに並べても動かない。この基礎を学ぶには、別途「mblock」というアプリを使うといいだろう。これは同メーカーの別製品mbotシリーズを制御するためのアプリだが、チュートリアルが良くできている。

プログラム学習にはmblockアプリが便利

 本来ならば実際にmbotを接続して動作させながら学ぶのだろうが、並べたプログラムが正しいかどうかは、アプリだけでも確認可能だ。すべてのチュートリアルを終わらせるまでもなく、大人であれば半分ぐらいで十分理屈は飲み込めるだろう。

チュートリアル内で様々な課題をクリアしていく

 これを踏まえて、実際にドローンでプログラムしてみた。プログラムする場合、画面が小さいスマートフォンでは、数値入力の10キーが表示しきれなかったりといった不具合もあるので、タブレットを使った方がいいだろう。今回はiPad Proを使っている。

 動作させるためのスイッチ類は、「動く」から配置することができる。その中に動作コマンドを加えていく。例えばドローンの動作であれば、上昇する、前へ行く、ホバリングする、といったコマンドがある。

動作スイッチの配置画面
スイッチの中に動作モジュールを追加

 さらに動作を拡張するために、動作コマンドの間に条件を挟み込むこともできる。「制御」コマンドの中から「〇〇まで待つ」というコマンドを取り出し、その空いている中に「イベント」の「タブレットの傾き〇〇傾ける」をはめ込むと、「タブレットの傾きを前に傾けるまで待つ」という動作となる。この後に着陸コマンドをくっつけることで、「タブレットを傾けると着陸」という操作を受け付けるようになる。

タブレットの傾きも検知可能
モジュールを組み合わせるだけでオートパイロットが可能
上記のプログラムを実行した結果

 もちろん、プログラムで飛行中も、マニュアルによる操舵は可能だ。ただしこのオリジナルコントロール画面内に、左右の操舵用ジョイスティックを配置しておく必要がある。

総論

 8分しか飛ばないドローンが22,000円というのはかなり高価だ。したがって、プログラムもせずに単なるおもちゃとして購入するのはもったいない。これはやはり、プログラムを学ぶための学習キットとして捉えるべきだろう。

 筆者も20年ぐらい前に多少プログラムをかじったぐらいのことで、今となっては素人だが、それでもチュートリアルを少しこなすだけで、何がどうなってるのかを把握することができた。プログラムとはいっても、ゼロから書き起こすのではなく、モジュールを矛盾なく組み合わせるだけなので、全く手も足も出ないという事にはならない。「マクロ動作」の意味がわかる程度の知識があれば、スタートできるはずだ。

 なによりも、プログラムしたものがすぐ実機に反映されて動くのが面白い。上手く動かなければ、なぜ上手く動かないのか、あるいはなぜそういう動作になったのかは、実機の動作が教えてくれる。目的の動きになるように、ちょっとずつ動きを改良したり、基本的な動作から拡張してより複雑な動作をめざしたりと、「プレイ」と「編集」を行ったり来たりしながら、プログラムとはどういうものなのかを体感的に学べるだろう。

 ただ、ドローンでやるとバッテリー消費が激しいし、変なプログラムを食わせるとどこに飛んでいくか分からないので、プログラムの最初はホバークラフトで試すといいだろう。ホバークラフトなら、ほっといても墜落する心配はない。

 こうした実機動作のプログラミングから、明日の自動制御系技術者が誕生するかもしれない。自動運転が実用化されそうな今だからこそ、子供には使わせてみたい製品である。若干パパの財布がダメージを食らうが、夏休みの自由研究の材料としても丁度いいのではないだろうか。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。