プレイバック2025
これはと思えるインシュレーターに出会えたかもしれない by山之内正
2025年12月29日 10:00
インシュレーターやボードで音が変わるのは余分な振動を遮断する効果によるもので、環境によっては音の立ち上がりや音色が劇的に改善することがある。不要振動はオーディオ機器の大敵なのだ。
私も試聴室のCDプレーヤーやネットワークプレーヤーにインシュレーターやオーディオボードを使っているし、スピーカーケーブルや電源ケーブルはすべてケーブルインシュレーターで床からフロートさせているが、いずれも効果を試しながら吟味した製品を選んできた。
最後に残っているのがスピーカーだ。
現在使っているフロア型2機種とブックシェルフ型(+スタンド)1機種は、いずれもインシュレーター類を使わず、標準のスパイクまたはスパイク+受け皿を介して床に設置している。インシュレーターの効果が最もわかりやすいのがスピーカーなのだが、サイズや形状のバリエーションが多すぎて、これはと思えるインシュレーターにまだ出会えていないのだ。
候補として検討中のインシュレーターの一つがウェルフロートの「ウェルデルタ(WELLDELTA)」という製品だ。
あらゆる方向の振動を水平方向に変換し、床からの振動を遮断するというもので、その効果の大きさには定評がある。内蔵する吊り構造のメカ3個によって、スピーカーなどから伝わる振動を水平方向に逃がし、床への余分な振動の伝達を防ぐというのが動作原理だ。
3点支持のスピーカーだとステレオで合計6個必要なので、高さ5mmのアルミリングを組み合せた標準モデルでも合計で約24万円。なかなかのお値段だが、ハイエンドスピーカーのユーザーならなんとか許容範囲に収まるのではないだろうか。
楽器用のウェルデルタで実際に何度か効果を確認したことも、ウェルデルタを候補に上げた理由の一つだ。コンサートホールの録音現場でグランドピアノの脚の下に設置すると、和音の色合いが明瞭になり、ハーモニーの変化が鮮やかに浮かび上がる。
私自身は普段弾いているコントラバスのエンドピン受けとして楽器用のウェルデルタを2025年後半から使い始めた。
ピアノ用はキャスター部分を受け止めるために中央部がフラットになっているが、チェロとコントラバス用はオーディオ用と同様なアルミリングが付いている。その中央部に穴が空いていて、そこにエンドピンを嵌める仕組みだ。床に接する面には3本の小さなスパイクがあるが、これはウェルデルタ本体がすべるのを防ぐ効果を発揮する。
ヴァイオリンやヴィオラは演奏者の鎖骨付近で胴体の振動を受け止めるが、チェロとコントラバスは金属製のエンドピンを介して床に楽器を固定する。チェロは両膝で楽器を抱え、コントラバスは腰や左足の膝内側でボディを支えるのだが、楽器本体の振動エネルギーの多くはエンドピンから床に伝わり、その反動が楽器に返ってくる。
舞台に直接エンドピンを刺す場合もそうだが、ホールに用意されている「山台」や「平台」に乗って演奏すると、演奏中に音響エネルギーの一部が床に逃げていることがよくわかる。それを計算に入れて、明瞭な発音で少し強めに音を出すのが習慣になっているほどだ。
ウェルデルタを使うと、エネルギーが床に逃げる感覚から解放されるだけでなく、一音一音の発音が明瞭になり、音圧が上がる。さらに、どの音域でも楽器のボディが隅々まで鳴り切っていることが実感できるようになる。
弓の圧力とスピードを一定にして弾き比べると、膝の内側に伝わる振動がウェルデルタの有無で明らかに変化する。ウェルデルタを使う方が、同じ奏法でも確実に一段階強い音が出せるのだ。
発音が速い音が欲しくてカーボン製のエンドピンに変えたことがあるが、スピードは上がっても音の芯や低音域の量感が犠牲になることに気付き、数年前に真鍮とタングステンのハイブリッド型エンドピンに変えた。
スピードと量感が両立するのでいまのところ一番のお気に入りなのだが、ウェルデルタは楽器側をいじらなくても同様な効果をいとも簡単に発揮する。
無理な圧力をかけなくても鮮明に発音するので、ステージ用だけでなく、普段の練習用としても非常に具合が良い。弾きやすいということは身体への負担が軽減されるということなので、長時間演奏しても疲れにくい効果も実感できる。
スピーカーに置き換えて考えると、楽器と同様、発音が明瞭になり、響きの純度が上がることが想像できる。エネルギーをロスなく空気中に放射することで音質が向上するのは、楽器とスピーカーどちらも変わらないはずだ。
いま使っているスピーカーの場合、スパイクの長さを少しだけ調整する必要がありそうだが、おそらくなんとかなるだろう。スピーカーと楽器で同じインシュレーターが使えるのは、実に興味深い。





