プレイバック2025
実はこっそり試聴で使ってました……'25年にハマった“バズ系”アイドルソング by杉浦みな子
2025年12月27日 11:00
2025年を振り返って、個人的に最も生活侵入率が高かった音楽ジャンルは、“バズ系アイドルソング”だった。今どきのポップスは、SNSの短尺動画に最適化されたフックとして耳に残るキラーフレーズを持つことが多く、そこにはシェア前提の設計がある。加えてアイドルソング界隈では、“令和的かわいい世界観”もここ2〜3年のバズトレンドのひとつだ。
きゃりーぱみゅぱみゅが所属するアソビステム運営のアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.(カワイイラボ)」=通称カワラボあたりがその盛り上がりを牽引しているわけだが、後年、日本のアイドル史を振り返った時に、この“令和的かわいいのアップデート”はひとつの大きなムーブとして語られるだろう。
というわけで以下、2025年に筆者がハマった令和的かわいい“バズ系アイドルソング”を振り返る。ダラダラ書いてもアレなので、カワラボ以外の注目楽曲も含めながら「なかでもコレは!」という5曲に厳選してみた。
ちなみにこれらの楽曲、実は2025年のオーディオ機器の試聴取材で、「ワルツ・フォー・デビイ」なんかと合わせてこっそり使っていたことをここで告白しておく。「自分の好きな楽曲がどう聴こえるか?」は、機材の聴き心地をチェックする大きなひとつのファクターでして。
記事内にその曲名を出したことはあまりないのだが、筆者の過去記事を読んだら、何となくその影響を感じていただける……かもしれない。
CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」
▼小野小町も 多分本気出してた
カワラボのコンセプト「原宿から世界へ」「NEW KAWAII」を究極的に体現した1曲。特に、その世界観に振り切った“きゅーすと”というグループの一体感が漂ってくる良曲である。リリース自体は2024年後半で、発売直後から早くもバズっており、2025年冒頭に筆者の生活に入り込んできた。
サビ前の一瞬、バックの音がほぼ消えて、「かわいいだけじゃだめですか?」のセリフで聴く者を惹きつけるフックは、2021年のなにわ男子「初心LOVE」における「うそでしょ… 運命(キセキ)は待ってたんだ」を彷彿とさせるのだが、本曲では疑問形のセリフになっていることで、より引力が増している感がある。
BPM高めのビートに乗せた無邪気なボーカルで、ファンもアンチも丸ごと引き受ける強さが熱いし、注目すべきは「時は戦国 小野小町も 多分本気出してた」という歌詞。もちろん小野小町は平安時代の人なので間違いなのだが、これ、たぶん音優先というか、「音的に平安より戦国の方が座りが良いから、そっちにしちゃった感」が非常に良い。
もしかしたら「アイドル戦国時代」とかけている部分もあるかもしれないが、いずれにせよ、そういうチグハグ感も“かわいい”で押し通す堂々とした空気が合っている。何なら、そのおっちょこちょいな歌詞により「かわいいだけじゃだめかもしれない……?」と思わせるところまで含めて芸術点が高い。
総じて、先輩グループのFRUITS ZIPPERが「わたしの一番かわいいところ」で爆発させたカワラボの勢いを決定づけ、2024〜2025年にかけて加速させた見事な1曲だった。
CANDY TUNE「倍倍FIGHT!」
▼何回転んでも立ち上がれ
カワラボが展開する令和的かわいい世界観に属しながら、ももいろクローバーZや TEAM SHACHIを彷彿とさせるパワフルな成り上がり感も漂わせるグループ、“きゃんちゅー”。2024年にリリースされた本曲が、1年を経て今年バズったという事実も、「何回転んでも立ち上がれ」というフレーズの力強さを後押ししている。
個人的に、バズフレーズとなっていた冒頭の入り「ば〜いの倍のFight〜」には、かつて渋谷周辺を走るトラックが流していた高収入バイトの広告ソングを思い出すのだが、楽曲はそこからいきなりユーロビートに展開。「なんだこの平成感は」と呆気に取られているうちに、ラストはマーチでなんか感動的に締めくくられるという、リズム目白押し構成がめちゃくちゃ面白い曲だ。
そんな感じで最初から最後まで聴きどころしかないが、さらにすごいのがライブ映像の熱気である。上で紹介したYouTubeは、おそらく「倍倍FIGHT!」史上最強のライブアーカイブで、生バンド演奏が生むグルーブに加えて、観客のコール&歓声が熱すぎてヤバい。ぜひ現場の空間性が濃く出るスピーカーまたはヘッドフォン/イヤフォンで、再生していただきたい。
ちなみにグループは今年の紅白に出場が決定していて、まさに本曲をパフォーマンスするらしいので要注目だ。
=LOVE「とくべチュ、して」
▼好きなところ、優しいとこ。嫌いなとこも、優しいとこ。
元AKB48の指原莉乃さんがプロデュースするアイドル、“イコラブ”。AKB48が記号化した王道アイドル路線を継承しながら、令和的かわいい世界観にもしっかり食い込み、SNS全盛の今どきっぽい軽やかさ・ゆるふわ感も両立しているグループだ。
本曲については、指原さんの作詞もマジ神で、個人的には2024年リリースでヒットした「絶対アイドル辞めないで」を超えたと言って良いくらいのバズを生み出した1曲だと思っている。
何気にどこをショートに切り取っても盛り上がりやすい作りになっているのだが、特にサビでなく、Bメロ(しかも2番)「好きなところ、優しいとこ。嫌いなとこも、優しいとこ。」をバズフレーズに設定していたのが印象的。該当パートを歌唱力メン・佐々木舞香さんのソロにあて、そこからサクッとサビに流れる構成がマジで自然ですごかった。
しかもその後、間奏はなしで、2番のサビから一気にCメロ(ブリッジ?)「ショートケーキ イチゴみたいに 座ってもいい?」に続き、そのまま落ちサビ→ラスサビに流れ込んでいく。
キラキラな世界観とは裏腹に、怒涛の展開で聴く者に息をつかせない。ショート動画で流れてきた時の耳への残り方がかなり強くて、2025年の中で一番“自然に最後まで聴いてしまう”1曲だった。
超ときめき♡宣伝部「超最強」
▼独り占めか 布教するか 選びなさい!
今にして思えば、カワラボ勢に先駆けて令和的かわいい方向に早い段階で進んでいたのが、この“とき宣”。まあ筆者はモノノフ(ももクロファンの愛称)だった時代があるので、同じ事務所の後輩・とき宣には少々甘めであるが、そんな贔屓目を差し引いても、2018年時点で「すきっ」は新しかったし、その後2024年の時代性とマッチした「最上級にかわいいの!」の激バズも見事だった。
で、それらを経て今年リリースされたのが、この「超最強」。歌詞は、アイドルからファンへ感謝を伝えるメッセージソングだが、本曲も上述の“イコラブ”と同じく、サビでなくBメロがバズフレーズになっている。
歌唱力メン・吉川ひよりさんのソロで「スマホのカメラロールなんて どうせ私ばっかでしょ!?」がショート動画で流れてきた時の、耳への浸透力がすごい。
……と言いつつ、個人的に“とき宣楽曲”の醍醐味は歌割りだと思っている。そのパート割は決して平等ではなく、どちらかというと「このパートはこのメンバーが歌うべき」という、声と楽曲のバランスを優先した割り当てがされているように感じられ、そこが聴きどころなのだ。
本曲も、上述のBメロバズフレーズはもちろんだが、筆者的にはサビのラスト「独り占めか 布教するか 選びなさい!」に、落ち着いて品のある杏ジュリアさんの声をあててきたセンスが超最強。身近に感じられても決して手が届かない“推し”の尊さが漂っているので、ぜひ多くの方に聴いてほしい。
FRUITS ZIPPER「はちゃめちゃわちゃライフ!」
▼ぷりぷりぷりっと プリプリプリティー
近年のバズアイドル文脈を語る上で外せないグループといえば、やはり“ふるっぱー”。カワラボの第一弾デビュー組で、2022年リリースの「わたしの一番かわいいところ」で一気に令和的かわいい世界観を切り拓いた。
今年もその勢いは衰えず、引き続きSNSでバズっていた「かがみ」も超良曲だったが、現在の筆者のヘビロテは、今年後半にリリースされた「はちゃめちゃわちゃライフ!」。アニメ「クレヨンしんちゃん」の新しい主題歌である。
楽曲は、レギュラー放送しんちゃんのわちゃわちゃ感と、映画版しんちゃんの切なさが両方入っている感じでとても良い。ちなみにSNSでは、サビでもBメロでもなく、1番と2番の間にある「優しい君も do what you like」のセクションがバズフレーズとして多用されていたのが印象的だった。
なお、個人的な聴きどころとしては、しんちゃんから拝借したであろう「ぷりぷりぷりっと プリプリプリティー」という歌詞パートの使い方だ。
これ、楽曲冒頭でジングル的な位置付けで使われているフレーズなのだが、楽曲展開が進んで盛り上がるにつれてその響きが変わってきて、ラストでは感動的なフィナーレの一節となって楽曲を締めくくる。全く同じフレーズが、楽曲の構成とアレンジによって、冒頭とラストで異なった聴こえ方になるのが最高なのだ。
ちなみに“ふるっぱー”も、今年の紅白に出場が決定している。披露するのは、「わたしの一番かわいいところ」。皆さんもぜひ、令和的かわいい世界観を切り拓いたこの1曲を聴きながら、年越ししていただきたい。
さてそんなわけで、2025年もアイドルソングは豊作でここに書ききれない良曲もたくさんあり、耳が休まる暇がなかった。ここから2026年のバズ系アイドルソングはどうなるのか、“かわいい”の進化が楽しみだ。その予兆は、もうタイムラインに流れ始めているかも?

