小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第745回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

走ってもブレない!? もはや完成の域。空間光学手ブレ補正強化のソニー「FDR-AX55」

あのカメラがようやく登場!

 今年のCESでソニーが米国向けに発表した4Kハンディカム「FDR-AX53」の国内モデル、「FDR-AX55」が2月19日より発売が開始された。店頭予想価格14万円前後だが、通販サイトでは13万円を切る程度だ。レンズやセンサー、空間光学手ブレ補正ユニットを刷新したカメラだ。

FDR-AX55

 ビデオカメラは季節商品なので、例年日本では2月頃の発売となる。すなわち3月、4月の入卒業式シーズンが、最大の稼ぎ時というわけだ。逆にこのシーズンに間に合わないメーカーは、今年はもう大物はないと見ていいだろう。

 “動画を撮る”というニーズはSNSを中心に高まっているが、そこはビデオカメラのターゲットにはハマっていない。一方子供撮りといったファミリーニーズについては、ビデオカメラの独壇場となるのが現状だ。いやもちろん、入卒業式をスマホで撮るという保護者もいないではないが、ズームが出来ないのでは不満も多いだろう。

 さて今年になってビデオカメラレビューはまだ2本目で寂しい限りだが、ソニー今年のプレミアムモデルの出来はどうだろうか。早速試してみよう。

ズーム倍率2倍ながらほぼ同サイズのボディ

 昨年発売の4Kハンディカムは、プロジェクタ付きの「AXP35」、プロジェクタなしの「AX30」という2モデルだった。今年のラインナップは、上位モデルが「AX55」、下位モデルが「AX40」となっており、プロジェクタ搭載モデルがなくなった。AX40はビューファインダとマニュアルリングがないが、機能的にはだいたいAX55と同じである。その分価格が2万円ほど安く、カラーもブラックとブロンズブラウンの2色がある。AX55はブラックのみだ。

今年の上位モデル、AX55
マニュアルリング搭載は上位モデルだけ

 さてAX55だが、前モデルとなるAXP35に比べてプロジェクタがないため、液晶モニタ部分の厚みが薄くなっており、全体的にデコボコ感が少ないデザインとなっている。ただ内部に動く光学ユニットを搭載している関係で、全体的に「太い」という印象はそのままだ。昨今のコンシューマ向けカメラ機器の中においては、デッカイという印象は拭えない。

モニタ部の厚みが減り、全体的にデコボコ感が減った
鏡筒部が太い寸胴のカメラである点は変わらず

 まずレンズだが、動画撮影時は35mm換算で26.8〜536mm/F2.0〜3.8の光学20倍ズームとなった。前モデルが29.8〜298mm/F1.8〜3.4の光学10倍だったので、多少暗くなったがズーム倍率は単純に2倍である。

 またワイド端が広くなった点は大きい。通常はズーム倍率が上がると、レンズの動きも大きくなるので、レンズユニットとしては前後に長くなる。そのままだとカメラの全長が長くなってしまうが、今回は空間光学手ブレ補正ユニット全体を小型化することで、全長は1cm程度長くなっただけで収まっている。

ズーム倍率が2倍になった割に全長は1cm程度長くなっただけ

 空間光学手ブレ補正最大の特徴は、動き回るレンズだ。ただこうもレンズが動くと、隙間に埃が入るんじゃないかという懸念もある。そこで今回は、前玉可動部の奥に埃の侵入を防ぐストッパーを配置した。以前から埃が入っても動作には問題ない構造にはなっていたのだが、今回のストッパー設置により、埃が入って動かなくなりそうという懸念を払拭する。

 また、今回は空間光学手ブレ補正にプラスして、電子手ブレ補正による上下左右のシフトとZ軸方向の傾き補正を加えた「インテリジェントアクティブモード」を搭載した。これにより“走ってもブレない”という強力な手ブレ補正となった。ただしインテリジェントアクティブモードは、4K撮影時には動作しない。今多くの4K撮影可能なカメラで、電子手ブレ補正が効くものは筆者の知る限りない。これは主に、画像処理プロセッサの処理速度が追いつかないことが要因だ。

 今回は撮像素子も新しく、動画専用のExmor Rを開発している。従来は1/2.3型ではあるが、アスペクト比が4:3の静止画向けセンサーだった。したがって総画素数が1,890万画素もあるが、動画の有効画素数は829万画素なので、結果的に1画素の面積が小さい。

 しかし今回は1/2.5型ながらもアスペクト比が16:9なので、総画素数857万画素、有効画素数829万画素となっている。センサー全域を使うため、1画素の面積が拡大し、感度も向上した。

 ただ気になる点もある。4Kハンディカムのラインナップは、ここのところ年間で2モデルしか出てない。ソニーはセンサー製造で世界的にも一大帝国を築いているわけだが、大きな市場成長が見込めないハンディカムのためだけにセンサーを起こすとは思えない。今このタイミングで新規で動画専用センサーを起こすということは、監視カメラや他社への供給も含め、あと2〜3年はずっとこのセンサーを使っていくということではないだろうか。

 動画フォーマットは縦横のピクセル数が固定されているので、静止画カメラのように画素数が多いほど良いということにはならない。その点では画素数的にはこれぐらいで決め打ちになるのはわかるが、今後は、技術的イノベーションの恩恵を受けにくくなるという懸念はある。

 AFに関しては、デジタルカメラのαやサイバーショットの上位モデルに搭載されている「ファストインテリジェントAF」を搭載。パンしながらズームといった複合的な動きの場合にも、正確に被写体に追従する。

 マイクの搭載方法も変わった。以前はフラットさを出すために、上部のマイクユニットは鏡筒部に埋め込まれる形になっていたが、それだとどうしても彫り込まれた穴へ落ちてくる音を拾っていることになり、内部の反射音を拾ってしまう。今回はマイクユニット全体を上に持ち上げ、音がストレートにマイクカプセルに入るようになっているため、より音の方向感を正確に拾えるようになった。以前からハンディカムでは、撮影者の声をキャンセルする「マイボイスキャンセリング」を搭載しているが、内部反射が少なくなればその分、この機能の演算精度も上がるはずだ。

マイクが一段高い位置に取り付けられた

 液晶モニタは3型92万画素のエクストラファイン液晶で、タッチスクリーンになっている。ビューファインダは0.24型156万画素で、引き出してONになるタイプだ。時分割方式なので、視線移動でカラーブレーキングが起こる。

液晶モニタは3インチ
チルトするビューファインダ

 本体内メモリは64GB搭載しており、長時間収録もメディアなしで行える。カードスロットはSD/メモリースティック兼用。SDカードは以前までSDXCしか使えなかったが、スピードは同じで容量が少ないだけのSDHCカードも使えるようになった。従来モデルもファームアップでSDHC対応になるそうである。

SDカードはSDHCも利用可能に

 4K撮影は、3,840×2,160/30p、24pで、ビットレート100Mbps、60Mbpsが選択できる。今回のサンプルは、手ブレ補正テスト以外は全て4K XAVC S/30p/100Mbpsで撮影している。

フォーマット 解像度 フレームレート ビットレート
4K XAVC S 3,840×2,160 30p/24p 100/60Mbps

 液晶モニタの下部にはmicroHDMI端子。反対側にはUSBとマイク入力端子がある。イヤフォン端子は前方にある。以前はグリップベルトの付け根からUSBケーブルが出ていたが、今回からは無くなっている。デジカメと違い、USB給電には対応しない。

右手側にはUSBとマイク入力
前方にイヤホン端子
付属のケーブルやアダプタ

デジカメとはレベルの違う動画品質

 では早速撮影してみよう。最近の関東地方は、晴れれば強風という、春先独特の天気となっている。今回もかなりマイクがフカレているが、この強風では致し方ないところだ。

 ビデオカメラで撮影する機会も最近はめっきり減ってしまったが、動画を撮ってみるとやっぱりいいなーと思う。ズームしながら被写体を追っかけても安定してフォーカスが追従するなど、デジタルカメラでは難しい撮影もスルリとこなせる。

4K撮影の動画。ズームしながらパンなども楽々こなせる
sample4k.mov(218MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 バッテリの持ちもいい。今回は付属の標準バッテリを使用しているが、1時間半ほどの撮影でバッテリーは1目盛りしか減らなかった。なお、充電完了まで555分かかるが、PCとUSB接続しての充電も可能だ。ACアダプタでは充電完了まで205分となる。

【訂正】記事初出時に「USB端子からの充電には対応しない」と記載しておりましたが、対応しておりました。お詫びして訂正いたします(2月28日)

 画質的には、遠景の木々などもごまかすことなく精細に撮影できており、解像感は高い。発色は日陰が多かったせいもあり、オートでも若干寒色に転ぶ傾向はある。液晶モニタの表示では、紫色が青に転ぶなど、以前からの癖はほとんどそのままだ。

遠景の木の枝もごまかしなしに描画
羽の細かいディテールも十分に解像している
日陰では若干色温度が高いバランス

 自慢の「ファストインテリジェントAF」は、ハマればマッハでフォーカスが合うが、奥行きのある構図では、手前の被写体にロックオンAFしているにもかかわらず、ずっとフォーカスが合わないままにロックオンし続けるという現象が起こる。輪郭のふんわりした物体だと誤認識しているのだろうか。

液晶画面上では椿の花を正しくロックオンしているが、フォーカスは合わないまま

 またロックオンAFは、物体のサイズまで自動認識してターゲットを決めてしまうので、大きなターゲットの一部分を指定することができない。例えば花の塊のうち、一部分にフォーカスを合わせたい、といった細かい指定ができない。ビデオカメラだからそんなに被写界深度が浅くないだろうと思われるかもしれないが、ズーム倍率が20倍もあると結構深度は浅くなる。もう少し指定範囲は小さい範囲でもよかったのではないかと思う。

 ズームは光学20倍だが、手ブレ補正をアクティブにすると全画素超解像ズームとなり、30倍ズームとなる。ただ、ワイド端もテレ方向にシフトするので、これを何の説明もなく単純に30倍になると称していいのか微妙なところだ。全体が寄り方向にシフトすると表現すべきだろう。また全画素超解像ズームは、特にこれをONにするといったメニュー構造になっておらず、マニュアルにも全画素超解像ズームという単語は見当たらない。サイトでのアピールと実装に、大きな相違が見られる。

手ブレ補正モード ワイド端 テレ端
手ブレ補正なし
26.8mm

536mm
スタンダード
26.8mm

536mm
アクティブ
?mm

?mm
インテリジェントアクティブ
?mm

?mm

納得の手ブレ補正能力

 では今シリーズ最大のポイントである、手ブレ補正について検証してみよう。手ブレ補正モードは上記の表の通り、OFFを含めて4段階の補正モードがある。このうち4Kで使えるのは「アクティブ」までで、「インテリジェントアクティブ」はHD解像度でしか動作しない。

 “走っても補正できる”という触れ込みなので、実際に走りながら撮影してみた。歩きながらも撮影してみたが、それだとほとんどスタンダードでも補正しきってしまい、それ以上のモードでは違いがよくわからなかったのである。サンプルは順に、手ブレ補正なし、スタンダード、アクティブ、インテリジェントアクティブとなっている。

HD撮影による手ブレ補正比較
stab_hd.mov(64MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 こうして比べてみると、確かに段階的に補正力が大きくなっているのがわかる。スタンダードとアクティブの補正力の違いは軽微だが、インテリジェントアクティブはZ軸方向の傾き補正も行なうので、劇的に映像が安定する。「手ブレ補正なし」からすれば、走りながらの手持ち撮影でこれだけ安定しているのは、驚異的だ。

 4Kはアクティブモード止まりだが、立ち止まった状態の手持ち撮影では、20倍ズームのテレ端でも比較的安定する。被写体を中央に捉えるのは、カメラの向きの微調整と手ブレ補正のせめぎ合いみたいなことになってしまう独特のクセがあるが、少し広めに捉えていれば問題ないだろう。

手持ちのテレ端でも安定した撮影が可能

 ビデオカメラの主な目的は子供撮りだが、4K解像度があれば顔のアップまでは必要ない。バストショットぐらいであれば、多くの場合はテレ端まで行かなくても十分撮影出来るだろう。

総論

 今回久しぶりのビデオカメラによる動画撮影となったが、動画を撮るという目的に関しては、デジカメと比較するとこんなに安心して撮れるものかと驚いた。もはやある意味、完成しちゃったように思う。前作から手ブレ補正がさらに強化されたが、ここまでくると画質的にも不満点は見つからない。

 その一方で、4Kでは電子手ブレ補正が十分に効かないという問題、そして4K/60pに対応できないという問題がずっと積み残しのままである。ソニーのコンシューマ向け4Kカムコーダの草分けであり現行商品でもある「FDR-AX100」の発売が2014年3月。だいたい画像処理プロセッサは1度開発すると3年程度は使うので、今年が最後ということになる。この分では、年内の大幅なステップアップはないだろう。

 今年はリオデジャネイロオリンピックもあるが、JOCでは4Kは公式配信フォーマットではないので、4K放送は2年前のワールドカップの時と比べれば、おそらく後退するものと思われる。スポーツイベントで4K放送が盛り上がらなければ、4K/60pのニーズも高まってこないので、その点からしてもコンシューマのカメラは、今年中の4K/60pへのシフトはないものと予想する。

 もはやビデオカメラはイノベーティブな分野ではなくなったようにも見えるが、次の大幅なステップアップまでは時間がかかるということだ。逆に考えれば、4K/30pワールドとしての最高峰のカメラが今年のラインナップ、ということになる。センサーも新しくなったばかりだし、購入するには一番良いタイミングだ。

 個人的には、4Kで電子手ブレ補正が効かないのは惜しいところではあるものの、コンシューマの4K撮影で本当に60pまでいるの? という気もするし、無理に次のステップを待つ必要もないように思う。この入卒シーズンは関係ないという人も、秋の運動会は毎年やってくる。今年のこの出来ならば、買い替えを考えても悪くないように思う。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。