パイオニアに「スマートモバイルオーディオ」の狙いを聞く

-DLNA/AirPlay対応。Bluetoothが無い理由は?


左の光沢がある方が「XW-SMA1」、右のつや消しがバッテリ内蔵で防滴の「XW-SMA3」

 パイオニアが「スマートモバイルオーディオ」として新たに提案する、DLNA/AirPlay対応のワイヤレススピーカー。製品レビューは先日掲載した通りだが、同社の銀座ショールームで、製品のデモと共に、こだわりや狙いを伺った。

 概要をおさらいしよう。「スマートモバイルオーディオ」として「XW-SMA1」(7月下旬発売/実売25,000円前後)と「XW-SMA3」(8月下旬発売/35,000円前後)の2機種がラインナップされており、どちらもDLNA/AirPlayに対応。基本機能は同じだが、上位モデルの「XW-SMA3」はバッテリ内蔵、かつ防滴仕様となっている。

 製品の最大の特徴は、DLNA 1.5 & AirPlayに両対応し、スマートフォンやタブレット、ノートPCなどからワイヤレスで音楽を再生できる事。開発の背景には、当然ながらスマートフォンの爆発的な普及がある。


「XW-SMA1」。シンプルなデザインが特徴で、ボタンもタッチ式

 開発の狙いについて、パイオニアマーケティングのマーケティング部 企画課の橋本賢二主事は、「今年の3月末時点で、携帯電話の契約数の1/4がスマートフォン、3年後には半数以上がスマートフォンになると言われています。従来のCDではなく、音楽をファイルとして保存・管理していらっしゃるお客様がどんどん増えていく中で、ファイルミュージックをいろんな場所で手軽に楽しんでいただける商品として企画しました」という。

 一方、ピュアオーディオの世界では、高音質なソースとしてネットワークオーディオが注目されており、パイオニアも「N-50」や「N-30」といった人気モデルを展開している。今回のスマートモバイルオーディオは、それとは少しターゲットが異なるという。

 「ネットワークオーディオは、既存のオーディオにプラスアルファするもので、基本的にはオーディオ機器が置かれている部屋では楽しめますが、書斎やベッドルームでは楽しめない。そこで、“いつでもどこでも”をキーワードに、家の中で自由に楽しんでもらえる、もっとシンプルな商品があってもいいのではないか」(橋本氏)と考えた末、「スマートモバイルオーディオ」という形にたどり着いたという。


バッテリ内蔵で防滴の「XW-SMA3」はつや消し。持ち運ぶ事が多くなると想定し、傷などが目立たないようにつや消しになっているという

 だが、スマートフォンとの手軽なワイヤレス連携としては、DLNAやAirPlayよりも、現在はBluetoothが一般的に広く認知されているイメージがある。今回の「スマートモバイルオーディオ」2機種は、DLNA/AirPlayには対応しているが、Bluetoothには対応していない。これはなぜだろうか?

 その理由として橋本氏は、「音質」と「使い勝手」を挙げる。音質面では、圧縮伝送されるBluetoothよりも、無線LANで伝送した方が有利だ。今回の2モデルはMP3/WAV/WMA/AAC/FLACに対応し、FLACとWAVは24bit/96kHzまでサポートしている。

 だが、「使い勝手」の面ではBluetoothの方が簡単に思える。そこで、Bluetoothに負けない簡便さを実現するために「Wireless Direct」という機能を搭載したという。


 前回のレビューでは、既存の無線LANルータにスピーカーがワイヤレスで接続。そのルータに同じようにiPhoneも繋げて利用。SSIDとパスワードを設定してセットアップした。また、より簡単なセットアップ方法として、WPS-PBC対応のルータであれば、PCやスマートフォンを使わず、スピーカー側の決められたボタンを押すだけで接続ができるようにもなっている。

 「Wireless Direct」はこれとは異なり、よりシンプル&ダイレクトにスピーカーとスマホなどの端末を接続するための方法だ。簡単に言えば、「スマートモバイルオーディオ」を無線LANアクセスポイントとして動作させるモードで、本体側の決められたボタンを押せば、iPhoneなどの無線設定画面の中に「WirelessDirect:xxxxxxx」というようなアクセスポイントが見えるようになる。これに接続すれば連携完了という簡単さが特徴だ。

 このモードでは、同時接続できる無線機器があえて1台に制限され、通信も暗号化されていない。また、当然ながらスピーカーとダイレクト接続している間は、スマートフォン側でインターネットにはアクセスできない。こうした制約はある代わりに、接続までの手順をBluetooth並に簡略化する事で、PCに詳しくない人でも利用でき、さらに無線LANルータの無い環境でも使える、無線LANルータがあっても電波が届かない庭やベランダでも利用できる……といった利点があるという。

 「Bluetoothの認知は広がっており、開発時には入れようかと悩んだ時期もあります。しかし、音質の良さと、Bluetooth並に簡単に接続できるWireless Direct機能を入れることで、あえて無線LANに絞り、その良さをご提案させていただこうと考えました。昨年8月に行なったスマートフォンユーザー向けの調査では、家に無線LAN環境があるという方が6割、有線が3割という結果でした。今後もスマートフォンやタブレットが増加すると、家では無線LANが当たり前という状況になると考えています」(橋本氏)。

 確かに、スマートフォンやタブレットを家で使う場合、無線LAN環境があれば3Gを使わない人がほとんどだろう。Bluetoothと無線LANは、どちらも端末側でONにしなければ利用できない機能だが、“家でどちらの機能が必ずONになっているか? ”を考えると、Bluetoothをあえて乗せなかった理由も見えてくるだろう。




■気軽楽しめる“未来のラジカセ”

Andrew Jones氏

 外からはよく見えないが、2ウェイ3スピーカー構成となっており、26mm径のツィータ×1と、77mm径のウーファ×2を搭載している。音質に関しては前回のレビューをご覧いただきたいが、一体型筺体ながら、筐体の付帯音の少ない、非常にクリアで、良い意味でパイオニアらしい真面目なサウンド。DSPで音場を広げる製品が多い中で、このストレートさが逆に特徴でもある。

 音のチューニングは、TADやパイオニアのフラッグシップ「EXシリーズ」など、高級スピーカーの音質チューニングを担当しているAndrew Jones(アンドリュー・ジョーンズ)氏が担当。こんなに小さい一体型オーディオを手がけるのは初めてとなるが、「チューニングのために何度も来日するなど、かなり乗り気でやっていた」とのこと。なお、筐体裏や箱に入っているサインは同氏のものだ。


「XW-SMA3」の背面。防滴であるため、ゴムで端子に蓋がしてある。上部にあるのが持ち運び用に、指をかけるくぼみ「XW-SMA1」の背面。どちらのモデルも、背面にAndrew Jones氏のサインが入っている

 橋本氏によれば、北米や欧州では、ネットワーク経由で音楽のストリームを受けるスピーカーの市場は日本と比べ大きい」という。一方、日本市場ではネットワーク対応のオーディオというと、CDやiPod Dockなどを備えたコンポスタイルの多機能な製品が増えており、シンプルなスマートモバイルオーディオは1つの挑戦と言える。

 「ラジオやCDの変わりに、誰もがクラウド上やPCなどにある音楽ファイルを聴くような時代がまもなく来るのではないかと考えています。スマートモバイルオーディオは、その1つの入口として、気軽に楽しめる“未来のラジカセ”のような形で、お客様にはとらえていただきたいと思っています」。


(2012年 8月 2日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]