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MMCX採用イヤフォンでリケーブルを楽しむ

豊富なラインナップ。MMCX端子にも違いが!?

 カナル型を中心に、盛り上がりが続いている高級イヤフォン市場。屋外での高音質再生を追求したいという人達が増えた事で、一時的なブームではなく、AV機器の1つのジャンルとして定着した感がある。一昔前は1万円を超えれば十分高級モデルと言えたが、最近では2万円、3万円などの機種でも、さほど高価に感じなくなったという人も多いだろう。

 ただ、屋外で酷使するイヤフォンの場合、家に置くスピーカーとは異なり、故障したり紛失する可能性がある。特にイヤフォンの故障では、ケーブルが断線する事が多く、“あまり長持ちしないので高価なイヤフォンを買うのはちょっと……”という人もいるだろう。だが、その状況はケーブル着脱可能なイヤフォンが増加した事で、大きく変化している。

Shure SE846のMMCX端子

 注目したいのは“MMCX”というワードだ。イヤフォンとケーブルの接続部に使われる端子で、Shureのイヤフォン、「SE535」などSEシリーズでの採用で一気に拡大。Ultimate Earsの「UE900」、Westoneの「Adventure シリーズ ALPHA」、オンキヨーの「ES-HF300/IE-HF300」など、各社が採用を開始。最近ではソニーのハイブリッドイヤフォン「XBA-H2/H3」でも採用されている。ただし、ソニーなど、端子はMMCXと同じだが、接続強度などにこだわって改良を行ない、MMCXの規格から外れる“独自端子”としているメーカーも存在する。ではあるが、MMCX端子が、イヤフォン交換ケーブル用端子の1つのスタンダードになりつつあるのは事実だ。

 ケーブル交換が可能なら、断線しても気軽に取り替えられ、イヤフォンを長く愛用できる安心感がある。それにとどまらず、ケーブルの積極的な交換、いわゆる“リケーブル”を楽しむ人が増えている。純正ケーブルとは異なるケーブルを取り付け、音の変化やデザインの変化などを楽しむわけだ。MMCXのスタンダード化は、1つのケーブルを様々なイヤフォンに取り付けられる事も意味している。

 そこで、リケーブルによって音や見た目はどう変化するのか? を、実際に幾つかのケーブルを用いて体験した。さらに、話題のMMCX端子についても、少し掘り下げてみたい。

7本のケーブルを一気に聴く

Shure SE846

 イヤフォンとして用意したのは、Shureの最上位モデル「SE846」だ。イヤフォンらしからぬ広い音場と、ニュートラルで色付けの少ないサウンドで、ケーブルの特性もわかりやすいのではと考えた。実売99,800円の高価なモデルなので、ちょっと高めのケーブルと組み合わせても価格的にアンバランスにならないだろう。

 ケーブルはオヤイデ電気から、3メーカー、計7本をお借りした。ZEPHONE(ゼフォン)、オヤイデ、そしてSong's-Audioだ。定番モデルから、今後発売が予定されている新製品も先行でお借りできた。ラインナップは以下のとおりだ。

メーカーモデル名発売時期実売
ZEPHONEOrange Owl (EL-14)発売中約5,600円
Blue Seagull (EL-21)近日発売予定約8,500円予定
Red Condor (EL-24)近日発売予定約11,000円予定
オヤイデ電気新HPC-SE
(※仮称)
来年以降予定約8,000円予定
Song's-AudioGALAXY PLUS-MX発売中約24,780円
UNIVERSE PRO-MX発売中約24,780円

 試聴用のプレーヤーは「AK120」を使用。24bit/192kHzの「イーグルス/ホテルカリフォルニア」を中心に聴き比べた。

ZEPHONE

【Orange Owl(EL-14)】
Orange Owl(EL-14)

 まずは今回お借りしたケーブルの中で最も低価格、実売約5,600円の「Orange Owl(EL-14)」に変更してみる。「SE846」の標準ケーブルよりも細身のケーブルで柔らかく、取り回しやすい。カラーは明るいオレンジ色で目立つが派手過ぎない。イヤフォン接続側の端子部も光沢のあるパーツを使用しており、リーズナブルだが高級感のあるモデルだ。

 標準ケーブルと聴き比べてみると、音がスッキリして、見通しが良くなる。これは中低域の膨らみが少なくなったためだ。同時に、意識が高域によく向くようになり、ギターの余韻などが印象的になる。ケーブルを変えただけで、ここまで音が変わるかと改めて驚く。この違いは、長時間聴き比べてなんとなく違いがわかるというレベルではなく、付け替えてはじめの音が出た瞬間にわかるほどだ。

 一方、スッキリした音ではあるが、音場はそれほど広くはなく、個々の音像は近く、ロックを再生すると音楽の勢いや熱気は伝わってくる。先は細いが密度はあるという面白い音だ。

ケース
光沢のある端子部の外装
イヤフォンを取り付けたところ
【 Blue Seagull(EL-21) 】
Blue Seagull

 次は新機種として近日発売予定の青いケーブル「Blue Seagull」(実売8,500円前後)だ。ケーブルの質感はOrange Owlとほぼ同じ。色は明るくて艶のあるブルーだ。Shureの「SE215SPE-A」(Special Edition)が同系統なので似合いそうなカラーだが、クリアボディの「SE846」と組み合わせても意外とマッチした。

 価格差もさほど無いのでOrange Owlと似た音かなと予想したが、これが結構違う。低域の膨らみがタイトになるのはOrange Owlと同じ傾向だが、最低域の沈み込みはOrange Owlより深くなる。さらに、音場も格段に広くなり、草原で深呼吸したような気持よさに包まれる。高域の描写が丁寧で、質感も豊か。個々の音の描写が細かく、パツパツと個々の音の輪郭が明瞭に描かれ、余計なものがまとわりつかない。

Blue SeagullのMMCX端子部
クリアなSE846と鮮やかなブルーのケーブルはマッチする
【 Red Condor(EL-24) 】

 Red Condor(実売約11,000円)も新モデルで近日発売予定。薄めの赤いケーブルで、これまで試聴した2モデルと比べると太く、固めだ。

 聴いてみると、Blue Seagullよりもさらに低域の沈み込みが深くなり、ベースの「ヴォーン」という野太い音と、そこから広がる音圧に驚かされる。バランスとしては低域寄りで、パンチが強く、派手目な音だ。ドラムのドスドスという切れ味鋭い低域が、胸を圧迫するのが心地良い。低域の迫力が欲しい楽曲にマッチしそうだ。

Red Condor
これまでのモデルと比べると、太めでしっかりしたケーブルだ
カラーマッチングも悪くない

オヤイデ電気

【新HPC-SE】
新HPC-SE。カラーはブラック、レッド、シルバーの3色が予定されている

 オヤイデのケーブルは、既存のShure用MMCX端子搭載ケーブル「HPC-SE」の後継となる新モデルを一足先にお借りした。既存の「HPC-SE」をベースに、MMCX端子をオヤイデオリジナルの完全新設計品に変更したのが特徴だ。長さは1.2mで、価格は8,000円程度の予定。「秋のヘッドフォン祭 2013」で試聴できる可能性もあるという。なお、お借りした試作機では、入力プラグに金属パーツが使われているが、実際の製品ではモールド成形タイプになるという。カラーは従来モデルと同じシルバー、ブラック、レッドが用意される予定だ。

 ケーブルは細身で、中心導体にはPCOCC-Aが使われている。外装はPbフリーPVCだ。細身のケーブルだが、質感は高い。SE846のクリアボディとシルバーのケーブルが色味的には一番マッチするが、レッドもメリハリがあって目をひく。ブラックケーブルにすると、スーツ姿のビジネスマンに似合いそうな“大人のイヤフォン”という雰囲気が漂う。ケーブルの色だけでこうも印象が変わるのは面白い。

ケーブル部のアップ
お借りした試作機のミニプラグは暫定的に金属プラグになっているが、量産品では新設計のL型モールドプラグが装備される予定
耳掛け用のガイドパーツは無いが、コネクタ部から斜めにケーブルが出るようなデザインになっているため、Shure掛けも難なくできる
レッドモデル
ブラックモデル
シルバーモデル。ケーブルを変えるだけでずいぶん見た目の印象が変わる
標準ケーブル(左)との比較

 標準ケーブルと音を比べてみる。やや膨らみがちだった中低域が、新HPC-SEではタイトに引き締まる。Orange Owlのように、音そのものの線が細くなるのではなく、音像の輪郭がにじんだりブレて膨らまず、クッキリと描かれる。そのため、むしろ迫力は増す。同時に、最低音の沈み込みの深さもアップ。標準ケーブルが「ブォーン」と緩んだ低音だとすると、新HPC-SEは「ゴーン」と地下から響いてくるような凄みを感じる、その低音にしっかりと芯が通っているのも好印象だ。

 全体のバランスも良好。高域の抜けも良い。上下の音が気持よく伸びるので、全体のレンジが拡大したように聴こえる。低域に馬力がありながら、音場が広いのが特徴だ。先ほどの「Red Condor」と方向性が似ている。

Song's-Audio

【GALAXY PLUS-MX】
右がGALAXY PLUS-MX、左がUNIVERSE PRO-MX

 Song's-Audioのハイエンドモデルの1つである「GALAXY PLUS-MX」(実売約24,780円)は、高純度銅線に銀のコーティングを施したものを使っている。スリーブが透明なので、外から見ても銀コーティングがばっちり確認でき、高級感が漂う。下位モデル「GALAXY」(実売約15,750円)は銅線4本を使っているが、上位モデル「GALAXY PLUS-MX」ではケーブルが6本に増えている。

 前述の新HPC-SEは、どちらかと言うと低域の主張が印象に残るケーブルだったが、GALAXY PLUS-MXはニュートラルなバランスで、まとまりの良いサウンドだ。バランスの面では標準ケーブルに似ているが、標準ケーブルと同じかというと、これがかなり違う。透明度が高いと言えばいいだろうか、個々の音の膨らみが少なくタイトなので、音と音の隙間がよく見え、空間が広く感じられる。ホテルカリフォルニアのサビの部分で、声の余韻がスーッと奥の空間に溶けていく様子がよく見える。

 高域に特徴があり、響きが若干硬質でクールだ。細かな音が聴き取りやすく、空間の静けさもわかりやすい。製品名が「GALAXY PLUS-MX」という事もあるが、なんとなく宇宙空間を連想させる。宇宙は空気が無いので音は聴こえないような気もするが、広い虚空に、クリアでシャープな高域が静かに広がっていく様子が面白い。

外からも銀コーティング銅線が見える「GALAXY PLUS-MX」
あつらえたようにSE846とマッチするカラーだ
【UNIVERSE PRO-MX】
UNIVERSE PRO-MX

 続いてもう1つのハイエンドモデル「UNIVERSE PRO-MX」(実売約24,780円)も聴いてみたい。実売価格はGALAXY PRO-MXとほぼ同じだ。こちらのケーブルは、スーパーアニール処理(導体を加熱・冷却して分子構造の組成を密にし、機械的ストレスや異質な化学物質を除去する処理)された銀コートの銅線を使っている。細かい点だが、入力プラグの根元が太めなので、ケースを装着したスマートフォンと接続する時は注意が必要だ。

 ケーブルが黒を基調としているので、こちらも硬質な音を予想していたが、むしろGALAXY PLUS-MXとは逆の、ウォームで自然なサウンドが出てくる。かと言って、音像の輪郭がぼやける事はなく、GALAXY PLUS-MXと同様のシャープさを兼ね備えている。特に低域は、量感がたっぷりありながらも、ベースやドラムの切り込むような鋭さも内包しており、気持ち良く音圧を楽しみながら、今まで聴こえなかった細かな音が聴きとれてハッとさせられる。聴きながらこのレビューを書いているが、このケーブルで聴いていると、音楽のほうに意識を奪われて、キーボードを打つ手が頻繁に止まってしまう。

入力プラグの根元は太め
スーパーアニール処理された銀コートの銅線を使っている

同じMMCXでも、着脱のしやすさが違う

 比較試聴のため、ケーブルの着脱を繰り返していたが、メーカーごとに接続のしやすさに大きな違いがある事に気がついた。具体的に言えば、ZEPHONEのケーブルは僅かな力で接続・取り外しができる。Song's-Audioの接続時はそれよりも固く、ちょっと力を入れないとハマらない。

オヤイデ電気の荒川敬氏(右)、山能博之氏(左)

 一番着脱がしやすいのはオヤイデの新HPC-SEだ。力の入れ方を変えずに、スッと押しこむだけでカチッと接続できる。抜くと時もあっさり抜けるのだが、かといって接続が弱いというわけではなく、シッカリホールドされている状態から、抜けやすく作られている。「MMCX端子なら、どれも同じだろう」と思っていたので意外だ。オヤイデ電気の荒川敬氏、山能博之氏に聞いてみると、「ユーザビリティを考慮した、端子の先端部分の設計に秘密がある」という。

 MMCX端子は、簡単に言えば、アンテナケーブルなどに使われる同軸ケーブル用端子の、超小型バージョンだ。PC用のUSBメモリ型ワンセグチューナや、携帯電話のワンセグ用アンテナなどで見覚えがある人もいるだろう。

 オス側端子の形状としては、中央にピンがあり、それを取り巻くようにリング上のパーツが配置されている。荒川氏によれば、「このリング状パーツの長さ、メス側では深さがメーカーによって異なる事があり、それゆえ、接続しても奥まで届かなかったり、逆にパーツが長くて奥まで入らず、抜けやすくなる事もある」という。

 これを改善するため、オヤイデではHPC-SEをリニューアルするにあたり、MMCXコネクタを自社で開発したという。その特徴はリング状パーツの先端だ。

 「横から見ていただくとわかりやすいのですが、リングの先端部分が、外側に少し盛り上がっています。これにより、接続時にメス側コネクタの内側にリングが必ず接触するようにして、どのような状態であっても導通性を確保できるようになりました」(荒川氏)。

SE846付属ケーブルのMMCX端子。中央にピンがあり、それをリング状のパーツが取り巻くような構造になっている
同じケーブルを横から見たところ。先端部がわずかにすぼまっているところに注目
こちらは新HPC-SEに採用されている、オヤイデが開発したMMCX互換端子。リング部分にスリットが入っているのがわかる
横から見たところ。リングの先端部分が、外側に盛り上がっている

 さらに、「同じ力で抜き差しができるよう、リングパーツにバネ性を持たせようと考え、十字にスリットを入れました。素材の銅にもしなりを持たせたものを使っていますので、長期間、快適な着脱が持続します」(荒川氏)という。荒川氏によれば、しなやかさを持たず、単純に“接続が固い”端子の場合、何度か着脱を繰り返すと固さが無くなって抜けやすくなったり、抜き差ししている間にイヤフォン側を傷つけたり、ケーブルのプラグ自体が痛んでしまう可能性もあるという。

 「独自の改良を加えた事で、純粋なMMCX規格からは外れているのですが、従来型MMCXの欠点を克服し、イヤフォンのような過酷な使用下においても常に安定した勘合を維持できます。イヤフォン史上において最も優れた信頼性を有するMMCX互換プラグに仕上がりました。オヤイデならではの高い設計精度と技術力が、この米粒ほどの小さな端子に注ぎ込まれているのです。今後は、このコネクタを使ったケーブルが自作できるようなキットも考えています」(荒川氏)。

 オヤイデ電気ではイヤフォン用ケーブルだけでなく、電源ケーブルやピンケーブル、各種プラグなど、様々な製品を取り扱っているが、その中でもMMCXモデルを含め、イヤフォン用リケーブル製品は、近年大きな盛り上がりを見せているという。こうした動きは、いつ頃から始まったものなのだろうか?

 「Ultimate Earsさんの『Triple.fi 10 Pro』(2007年頃日本発売/現TripleFi 10)ですね。ケーブル交換ができるロングセラーモデルですが、このモデルを中心としたシリーズに適合したリケーブル『HPC-UE』や、オヤイデが取り扱っているFiiOの『RC-UE1』(ケーブル部はオヤイデのHPC-23Tを使用)などがユーザーからの評価を頂き、また、ZEPHONEの『EU-25』など、リーズナブルでカラーバリエーションも豊富なモデルも好評です。体感としては2年ほど前から盛り上がっている印象ですね」(山能氏)。

 MMCX採用のイヤフォンが増加する事で、同じケーブルを複数のイヤフォンで使える事にもなり、リケーブルの盛り上がりは加速しそうだ。山能氏はさらに、専門店の果たす役割も大きいと言う。「今まではケーブルを試聴するのは難しかったですが、最近ではヘッドフォンと同じように、リケーブルに関しても、イヤフォン/ヘッドフォン専門店さんの店頭で、気軽かつジックリ試聴できる環境が整った事も大きいと思います。オーディオケーブルをスピーカーで鳴らす場合、環境が変わるとルームアコースティックの影響で音も変わってしまうのですが、イヤフォン用リケーブルだと、愛用のイヤフォン・プレイヤー・音源を使った“いつもの環境”で、純粋に“ケーブルの音の違い”を試せるので、それぞれのリケーブルによる変化の方向性や、機器との相性を正確に判断できますからね」。

まとめ

 音がダイレクトに耳に届き、細かな音も聴き取りやすいイヤフォンは、ケーブルによる音の違いが非常によく分かる再生デバイスと言える。スピーカーケーブルや、単品コンポのピンケーブルを変えた時の違いよりもわかりやすいだろう。

 ケーブルによって変化するのは音色だけでなく、低域や高域の出方にも違いが出てくるため、マッチする曲と、そうでない曲もある。「最近はロックを良く聴くから、低音にパンチがあるケーブルにしようかな」など、お気に入りのイヤフォンの音質を、より好みに合うように微調整するツールとしてリケーブルを活用するのも楽しいだろう。

 ケーブルを変えるだけで同じイヤフォンでもデザイン的な印象がガラリと変わるのも見逃せないポイントだ。今回使用したSE846のように、イヤフォン自体の色や形に強い主張が無いモデルでは、特にケーブルによって見た目が大きく変化する。イヤフォン/ヘッドフォンがファッションアイテムとしての役割も担うようにもなっているので、服装や季節に合わせて、リケーブルするというのもアリだろう。

 また、オヤイデのMMCX端子は、耐久性や、イヤフォン側の端子を傷つけないといった、言わば“安心”面を高める役割を、新たにリケーブルに付与するモデルにもなりそうだ。

 断線時の交換だけでなく、お気に入りのイヤフォンを積極的に活用するツールとしてのリケーブルに今後も注目していきたい。

 (協力:オヤイデ電気)

(山崎健太郎)