小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

CESで感じた「フランスと日本の差」

「これ、どうすればいいんですかね。お金を出すんなら、もう少しやりようがあると思うんですよ」

筆者とあるベンチャー企業の関係者は、CES会場で立ち話をしていた。情報交換をしながら出てきたのがこのセリフだ。

今年のCESは、日本からの参加者が意外なほど多かった。公式な数字は出ていないので本当のところはよく分からない。しかし、各種視察ツアーの参加者は軒並み例年を大幅に超えていたようだし、会場のいろいろな場所で日本語を耳にする機会も多かった。だが、「出展者」としての日本企業・日本人の姿は、意外なほどに目立っていなかった。

特にそれを感じたのが、「エウレカパーク」と呼ばれるスタートアップ企業が集まったエリアだ。ここには500以上の企業が集まり、机ひとつのブースで様々な技術・製品をアピールしている。正直つまらない、ちょっとした改良品やコンセプトモデルも多いところで、本当に面白いものを見つけるのは大変な場所である。その様は「砂金集め」とも言われるくらい面倒なものなのだが、それでも熱気は大変なもの。「CESの醍醐味はここにある」という人も少なくないし、筆者もそれに同意する。

CES2017のエウレカパーク。写真は最終日のものだが、それでもこの熱気

だが、エウレカパークの中に、日本企業の姿は少なかった。いや、いらっしゃってはいたのだ。だが、筆者が把握できたのは数社程度で、大きく目立っていたわけではなかった。

CES全体でもそうだ。もちろん、ソニーやパナソニック、キヤノンといった、「中央目抜き通り」に大きなブースを構えるような企業は存在感がある。一方で、もう少し規模の小さい専業メーカーが集まるフロアでは、日本メーカーの姿が一気に見えなくなる。スタートアップになるともっと目立たない。エウレカパークで目立たないのも当然だ。

一方で、エウレカパークのみならず、会場全体で存在感を放っていたのがフランス企業である。

あ、いや、もっとも存在感があったのは中国企業だ。ただ、中国企業の存在感は、良くも悪くも「エネルギッシュ」なところにある。技術や機能などで見るべきところがある企業もあるのだが(そして、そういう企業は本当にすごい)、どちらかというと「押し出し」と「数」の印象が強い。

フランス企業はというと、もう少し個性が強い。デザインがいいIoT機器があるな、と思ったらフランスのメーカーのものだった、ということは多い。生活のシーンにIT機器を入れるようなやり方では、フランスという国と相性がいいのかもしれない。まあ中には、「電磁波の影響を99%カットするパンツ。君の大事なところをこいつで守れ!」というキャッチフレーズの下着「Spartan」のように、「ああ、フランスらしいが……」と思うものもあったりする。それはご愛嬌として、だ。

・電磁波から大切な部分(意味は自分で考えよう)を守る「Spartan」。1枚約45ドルとなかなかにゴージャスな価格。

フランスからのスタートアップ企業は、会場のいろいろな場所に分かれている。だが、どこも写真のようなロゴを掲げていた。「La French Tech」は、フランスが政府としてテクノロジー企業を支援する活動の総称で、フランス貿易投資庁が展開している。日本で言えばジェトロ(日本貿易振興機構)が行なっている支援事業のようなものだが、それが本当にうまくいっているのだろう。

「La French Tech」ロゴ。CESに参加するフランス企業にはほぼ必ずこのロゴが見えた

フランスがIoTで存在感を示している裏には、中国の生産系企業とフランス企業のマッチングもある、と聞いている。生産力・開発力はあるが具体的な製品の姿が打ち出せない中国企業と、構想力・デザイン力はあるフランス企業をマッチングして、実際の製品につなげているわけだ。

もちろん、ジェトロもCESへの参加を支援したり、ベンチャー企業のビジネス支援を行なっている。その成果もあるのだろう。

しかし少なくとも、CESのような場では、その成果が見えない。日本企業だけが固まって奥にブースを作っても、その姿は目立たない。フランス企業がそうであるように、より広い場に出てアピールすることを考えるべきだ。また、同じ固まるでも、いろいろやりようはある、と感じる。

CESは「家電展示会」ではなくなり、テクノロジーショーケースとしての意味合いが強くなっている。だからこそエウレカパークのような場所が存在するのだし、大手企業だけの場所でもなくなっている。

日本企業にとって、このことはマイナスばかりではないと思うのだ。例えば各種部品の開発を担当する企業にとっても、強いアピールの場になりうる。

今回のCESでは、プレスカンファレンスが集中するメディアデーで、わざわざドイツのBOSCHが発表会を行なっている。BOSCHは白物家電や工具のメーカーでもあるが、今は自動車用の部品やシステム、企業用ロボットにMEMS系センサーなど、「中のもの」を作る企業だ。B2B色の強い同社がCESで発表会を開くのも、部品メーカーとしてIoTや自動車などの分野でのプレゼンスを示すため、と言える。

実際、BOSCHが展示したものと同じようなものはデンソーも出している。また国内の事例で言えば、CEATECにおいて、アルプス電気やオーム、村田製作所などが展示しているものにも通じる。

日本企業を支援するとすれば、「La French Tech」のように、もう少し実効性のある形でできないものか。国内では見せているデモを、海外でも展開して「凄味」を見せることはできないのか。冒頭の「もうちょっとやりようがないのか」というのは、そういう部分へのコメントなのだ。筆者も同感である。

例えば、ベンチャー企業の出展について、通訳派遣やプレゼンテーションのコンサルテーションなど、コミュニケーション能力の面での支援はできないものか。それだけでもだいぶ違うと思うのだ。1社がどうこうというより、そういう支援によって複数の企業はプレゼンスを高めることができれば、イメージもまた変わってくるのでは……と思う。

具体的にこう、という提案ができなくて恥ずかしい限りだが、フランスがCESで存在感を強めているのを見ると、こう、「日本も何かもっとできないものか」というもどかしさを感じるのである。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2016年1月27日 Vol.113 <手持ちのカードで勝負する号> 目次
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01 論壇【小寺】
 オリンピック大丈夫? 2020年の展示会事情
02 余談【西田】
 CESで感じた「フランスと日本の差」
03 対談【西田】
 BuzzFeed Japan・古田大輔編集長に聞く「信頼されるウェブメディアの作り方」(1)
04 過去記事【小寺】
 もう一つの4Kブーム? パソコンの4K化がやってくる
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41