小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

Netflix訪問で考えた「社内風土」と「働き方」

仕事柄、筆者は、アメリカの大手IT企業を訪れることが多い。会社風土はそれぞれで、違いを見ているとなかなか面白い、と思う点は少なくない。

3月上旬、筆者が訪れていたのはNetflixだ。いくつか記事も執筆したので、お読みになった方もいるかも知れない。同社はロサンゼルスとロスガトス(サンフランシスコ近郊、いわゆるシリコンバレーにある)に拠点があって、今回はその両方を訪れた。ロサンゼルス・オフィスは初訪問だが、ロスガトスには、これで都合3回目の訪問となる。

アメリカのIT企業にありがちな文化として、「そこら中にカフェテリアスペースがあり、自由に飲食できる」というものがある。これはNetflixも同じ。ロサンゼルスの場合もロスガトスの場合にも、各フロアの階段に近いところに、大量の食べ物と飲み物が置かれている。もちろん、食堂は別にある。以前Netflix社員に、「この会社の利点は、絶対飢えないことだが、欠点は太ること」と言われたが、さもありなん、という気がする。

Netflix社内には、至る所にスナックと飲み物が。確かに飢えない

変わった仕組みとして、備品の管理がある。写真は、ケーブルやキーボードなどの備品が入った「自販機」だ。といっても、売っているわけではない。社員は自由に中からとりだして使っていい。返す必要もない。さらには書類処理も必要ない。そこで厳密な管理を行うことによって効率が下がったり、管理コストが発生したりすることを省く方が効果的、という判断があるからだ。

細かな備品は、自由にこの中からとってつかっていいシステム。申請などは一切不要

社員は社内であれば、好きな場所で働いていい。時間も決められてない。社員はIDカードをもっていて、それで社内に出入りするのだが、それは「働いている時間を管理する」ためのものではなく、単にドアをあけるためのカギとしての役割しかない。唯一あるルールは、「定められた仕事をこなす」ということをベースにした評価システムだ。

会社によって風土は違う。だから、「Netflixのような働き方が素晴らしいので日本全国に広めよ」という気はない。しかし、「働くのはなんのためか」「仕事の仕方を評価するとはどういうことなのか」「働きやすいとはどういうことなのか」ということを、訪れるたびに考えるきっかけにはなる。

管理のための管理のコストをなくすことこそ、いわゆる「働き方改革」の最初のステップではないか、と、自己裁量で働いているフリーランスの筆者は考えてしまうのである。

なお、会社の風土は会議室の名前にあらわれる、と筆者は思っている。そこにある種の思い入れが出てくるからだ。Netflixの場合には、会議室などの名前はすべて「映画」や「Netflixオリジナル作品の名前」になっている。オリジナル作品は増え続けているので、そのうち、みなオリジナル作品の名前になってしまうのでないか……と思っている。この命名ルールは、アメリカだけでなく、日本のオフィスでも同じである。

今回訪れた時に発見した会議室名。「タクシードライバー」にと「フェリスはある朝突然に」だった

筆者が知る別の会社のルールとしては、Evernoteは「古今東西のゲームの名前」を会議室名にしていて、アップルは「おもちゃの名前」を会議室名にしている。Amazonは有名な川の名前が会議室名だ。

なお、この種のルールがある会社で働く人々に聞いてみると、「よく使う会議室については、とてもわかりやすいのだが、あまりつかったことのない会議室だと、どうしても会議室名が覚えられないことがある」のが難点なんだとか。まあ、確かに。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2018年3月23日 Vol.166 <春はケジメの季節号>

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01 論壇【小寺】
EMA解散で、ネットの安全はどうなる?
02 余談【西田】
Netflix訪問で考えた「社内風土」と「働き方」
03 対談【西田】
Cerevo・岩佐さんと語る「出展する人のためのCES講座」(5)
04 過去記事【小寺】
PTA広報紙を電子化したった (6)
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41