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Netflixオリジナル「火花」がHDR化。実写もアニメも推進し、シドニアは2K/HDR

 Netflixは6日、HDRコンテンツ制作に関する説明会を開催。9月16日からHDRでの配信を開始したオリジナル作品「火花」を制作したザフールやIMAGICAとともに、NetflixのHDR対応について解説した。

SDRとHDRの比較
Netflixオリジナルドラマ「火花」
(C)2016YDクリエイション|

 オリジナルドラマ「火花」は、タレント又吉直樹(ピース)による芥川賞受賞作「火花」の映像化作品で、6月3日から配信開始。全10話で本編は約8時間。配信開始当初は、SDR(通常ダイナミックレンジ)だったが、9月16日からHDR(ハイダイナミックレンジ)での配信がスタートしている。

 Netflixのグレッグ・ピーターズ社長は、「人間の目で見る映像とディスプレイを通して見る映像には差があり、コンテンツ業界は、その差を埋めるべく努力してきた。モノクロからカラー、SDからHDへの移行には非常に時間がかかった。しかし、インターネットによりイノベーションは加速しており、移行への時間は大幅に短縮された」と語り、4KやHDRなど、Netflixの最新技術への対応をアピール。加えて、「Netflixはコンテンツの配信者であるだけでなく、最大規模のコンテンツ制作者というユニークな立場。'16年には60億ドルをコンテンツに投資し、さらに2017年には140タイトルの製作を予定している。それぞれの立場から技術革新を促進し、製作パートナーが求める最高の品質を伝え、消費者が映像に没入できる体験を作っていく」と説明。火花のような実写作品だけでなく、「シドニアの騎士」などのアニメでもHDR対応を行なっていくことを明らかにした。

Netflix Japanのグレッグ・ピーターズ社長

 なお、実写はカメラの撮影時にHDRのダイナミックレンジを持っており、HDR制作を前提とすればそのデータを活かせるが、アニメの場合、ビット深度を高めてグレーディングするなどワークフローの追加が多いため、「アニメのほうがハードルは高い(Netflix 宮川氏)」という。

 10月6日時点のHDR対応作品は、日本制作の「火花」のほか、「シェフのテーブル:フランス版」、「Marvel デアデビル」、「ドゥ・オーバー:もしも生まれ変わったら」、「リディキュラス・シックス」、「マルコ・ポーロ1/2」。

 今後HDR対応を予定しているのは「レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語(原題)」、「ブラッドライン」、「シェフのテーブル」、「シドニアの騎士」、「Marvelアイアン・フィスト(原題)」、「Marvel ジェシカ・ジョーンズ」、「Marvelルーク・ケージ」、「Marvelザ・ディフェンダーズ(原題)」。

 Netflixのエンジニア メディアエンジニアリング&パートナーシップ 宮川 遥氏は、より現実世界に近い映像表現を可能とするHDRの導入により、制作側の制限が無くなることを強調。例えば色域がREC.709の場合、「暗部の階調を生かすためにハイライト側の表現を諦める」といった「妥協」が発生するが、HDRでは製作者の望むとおりの作品作りが行なえるという。

Netflix メディアエンジニアリング&パートナーシップ 宮川氏

 なお、NetflixのHDR映像配信は、Ultra HD Blu-rayなどでも使われ、国内テレビの採用も多い「HDR10」と、ドルビーによる「Dolby Vision」の2つの方式で行なわれている。

 Netflix JapanのHDR制作においては、まず、Dolby Visionでマスタリングを行なう。その理由は、「Dolby Visionで作ると、そのマスターからDolby Visionのほか、HDR10、SDRも同時に作られる。1つの納品物で3フォーマットが作れるためDolby Visionを採用している」とした。

 なお、Netflixで4K/HDRが視聴できるのは1,450円の「プレミアムプラン」のみ。「数は明かせないが、かなりの人がプレミアムに入っている。家族が大勢いるとか、プロファイルをたくさん作りたいとか、4K/HDRのテレビを購入したので4Kを見たいという人もいる」(グレッグ・ピーターズ社長)とした。

 また、火花は4K/HDRだがシドニアの騎士は2KのHDRとなるなど、HDR=4Kという考えではないという。ただし、火花などの4Kコンテンツを2K/HDRで見る方法は現時点では用意されていない。現時点では、テレビやディスプレイで2KでHDR対応の製品が無いため用意していないが、今後2K/HDRのテレビなどが増えてくれば、4K/HDRコンテンツの2K/HDR視聴対応の可能性はあるという。

作品の価値観を損なわないHDR化

 また、火花のHDR化を担当したザフールの佐藤 正晃プロデューサーと、IMAGICA 映画・CM制作事業部 映画プロデュースグループの石田記理チーフテクニカルディレクターも登壇。HDR制作時に配慮したポイントなどを解説した。

ザフールの佐藤 正晃プロデューサー

 火花は、撮影当初はHDRを想定していなかったもの、撮影の後半に入り、HDR対応が決まったという。そのため、6月の配信開始に向けてまずSDR版を制作し、その後HDRの制作を行なうという変則的な形で行なわれた。

 撮影自体はREDカメラ「DRAGON」で、4Kで撮られており、RAWデータをもとにHDR化が行なわれた。元々SDRを前提で撮影・制作されたため、まずHDRの予告編を制作し、それを廣木隆一総監督や撮影監督に確認してもらい、作品の価値観を損なわずにHDRのの効果を取り込む方針を決めたという。

IMAGICA石田氏

 実際にHDRとSDRを見比べてみると、暗いアーケードの屋根の質感や暗部の階調、夕日に浮かぶ雲の形や照らされたタイルの色、眩しい太陽の光の広がりなど大きな違いが感じられる。全体的に色が豊かで、より見やすいのがHDRという印象だ。

HDR
Netflixオリジナルドラマ「火花」
(C)2016YDクリエイション
SDR
Netflixオリジナルドラマ「火花」
(C)2016YDクリエイション

 HDR化にあたり気をつけたのは、「映像を邪魔しない。演出意図と違うものは抑え、SDRの色調を尊重した」(佐藤氏)という。例えば、祭りのテントで、主役2人の会話のシーンでは、手前に提灯が見切れている。単純にHDR化すると、提灯の赤色が目立ちすぎてしまうが、そこが「見せたい場所」ではないため、控えめにしたという。