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立体映像の撮影向けセンサーや有機ELをより鮮やかにする技術など、次世代デバイス多数

 日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2017」を5月25日から5月28日まで実施。入場は無料。公開に先立って23日、マスコミ向けの先行公開が行なわれた。ここでは、立体映像撮影を可能にするカメラ用デバイスや、有機ELの進化など、「次世代デバイス」に関連する展示をレポートする。

「技研公開2017」の入り口

3次元構造撮像デバイス

 NHK技研では、4K、8Kといった高精細な2次元の映像技術だけでなく、多視点からの映像を表示して立体的に見せる「インテグラル立体ディスプレイ」など、3次元的な表示デバイスの研究も進めてる。

 同時に、将来的には立体映像を“撮影する”必要もある。そこで活用できるデバイスとして研究されているのが、多画素かつ高フレーム周波数のイメージセンサー。「3次元構造撮像デバイス」と呼ばれている。

3次元構造撮像デバイス

 既存のセンサーは、多数の画素がとらえた光の信号を読み出す際に、画素の列ごとに配置した信号処理回路を使っている。そのため、画素数が増えると信号処理の回数が増え、読み出しが遅くなるという問題がある。

 3次元構造撮像デバイスは、受光部(画素)の下に、画素ごとに信号処理回路を配置。そのため、画素が増えても信号処理は1回で済む“画素並列信号処理”が可能。高画素でも、高いフレーム周波数を維持したセンサーが作れるという。これにより、例えば、多視点を再現するレンズアレーを介して、複数の画像を高精細に、高速で撮影するといった立体映像撮影カメラに活用できる。

3次元構造撮像デバイスの構造
構造を再現した模型。左が従来、右が3次元構造撮像デバイス

 立体撮影だけでなく、通常のカメラ用センサーとしても利点がある。従来の撮像デバイスは、1フレームの間に電荷を蓄積する事で明るさをデジタル信号に変換しているが、強い光が当たり、フォトダイオードが飽和すると、バケツから水が漏れるようにそこで明るさがの検知が頭打ちになってしまい、いわゆる“白トビ”してしまう。

 しかし、3次元構造撮像デバイスでは、1つの画素のフォトダイオードが基準電圧に達すると、その画素をリセットして空にして再度フォトダイオードを蓄積できる。そのため、頭打ちにならず、“何回バケツを空にしたか”という回数の情報で、より強い明るさを情報に変換できる。これにより、より明るい被写体を撮影できる広ダイナミックレンジセンサーとして使うこともできるという。

バケツを空にした回数で、明るさの情報をデータ化できる

 今回試作されたのは、320×240ドット、2層構造のデバイス。肉眼では強烈に明るく、直視できないような被写体を撮影しても、そこに描かれたNHKのマークが読み取れるデモを行なっていた。

試作カメラ
強いライトが当たり、白トビして見える被写体に、NHKマークが描かれているのが撮影できている

 画素の微細化にも挑戦しており、受光部と信号処理回路を接続するための埋め込み電極を小さくするとともに、画素内の回路レイアウトの工夫により、画素サイズを従来の約80μm角から約50μm角に微細化した。

 今後はさらなる画素の微細化を進めるため、回路設計やプロセス開発によって信号処理回路の多層化に取り組むという。この研究は、東京大学と共同で進められている。

より高感度な8K SHV対応カメラに向けて

 より高感度な8K SHV対応カメラを実現するために、「積層型個体撮像デバイス」が研究されている。

内部の光電変換膜を使い、電荷を増加させて高感度撮影を可能にする

 センサーが高精細になると、1画素あたりの受光量が減る。この問題に対応するため、光電変換膜の中で、アバランシェ電荷を増倍させるのが特徴。これにより、高感度化が可能になるという。

 しかし電荷を倍増させるとノイズ(暗電流)も増えてしまう。そこで、結晶セレンと、CIGSという2つの素材を使った光電変換膜を開発。暗電流を低減する働きがあり、その効果を紹介している。

有機ELを、4K・8K SHV衛星放送の広色域に対応させる研究

 4K・8K SHV(スーパーハイビジョン)衛星放送では、従来のHDよりも大幅に広い色域に対応している。しかし、現在の有機ELデバイスは、HD放送の色域をカバーしているが、SHV放送の色域に対するカバー率はまだ低い。

 これを解決するため、より色純度が高い有機ELデバイスの開発が進められている。今回発表されたのは、緑色のデバイスで、これは緑系がSHVの色域カバーにとって重要であるため。

左が色度図。ABCと書かれたポイントが、以下の写真の試作機の色純度を示している

 従来の有機ELと比べ、高い色純度の発光材料に適した周辺材料「Pt錯体」を開発。高い色純度を保ちながら、高効率化を実現できるようになったという。

 さらに、既存のボトムエミッション型構造が、基板のある方向から発光するのに対し、、基板のない方向に発光を取り出すトップエミッション構造のデバイス構造を採用。

トップエミッション構造

 具体的には、基板の上に陽極(反射電極)を配置し、その上に発光層、半透明陰極、有機材料層という順序で重ねている。既存は下部の基板側から発光していたが、新デバイスでは発光層の光を反射させ、半透明陰極や有機材料層を通って発光させる構造にした。

既存の有機ELの緑。黄色っぽさが強い

 これにより、半透明陰極の厚さなどを工夫し、光学的に緑色の発光スペクトルをより狭くでき、単に材料を変えた場合よりも、より色純度を向上したという。今後は、他の青と赤にもこの技術を活用、さらなる高色純度化と高効率化を目指すという。

材料のみを変えた試作機。緑が強くなった
材料変更に加え、トップエミッション構造に変えたもの。緑がより鮮やかになっている

高速記録を目指す磁性細線メモリー

 8K時代のデータ容量の増加に対応するため、将来の高速記録デバイスを目指し、新しい原理で動作する「磁性細線メモリ」が研究されている。

 磁性細線とは、幅100nm程度の細線状に加工した磁性体の事。ここに、上向きや下向きといったように磁石の向きがそろった微小な領域“磁区”として情報が記録される。この磁区は、電流によって駆動、および蓄積する特徴があり、磁性細線の中を移動する。

磁区を見えるようにした、磁気光学顕微鏡による映像。黒と白のシマが、ゆっくりと移動する

 磁性細線メモリは、例えるなら、パソコンのHDDのデータトラック1本ごとに記録ヘッドと再生ヘッドを1対搭載したような構造で、電流を加えると、磁性細線中の磁区(データ)が移動する現象を利用。磁気ヘッドの磁界の向きを変えるだけでデータを記録できるため、HDDのように回転させる必要がなく、SSDのように可動部不要で高速記録が可能となる。

 従来は磁性細線における磁区の電流駆動を電気信号として検出していたが、磁区の挙動を詳細に解析するために、磁気光学顕微鏡を用いて視覚的に観察できる装置を試作。こうした取り組みを通じて、磁区の高速駆動に適した磁性材料の探索。記録・再生の高速化を進めるという。

磁性細線メモリの試作機
磁区を見えるようにした、磁気光学顕微鏡による映像。黒と白のシマが、ゆっくりと移動する