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UHD BD発売に向けこだわりのHDR化、「メアリと魔女の花」超高画質を有機ELで体験
2018年2月20日 00:00
スタジオジブリを退社したプロデューサー・西村義明氏が立ち上げた、アニメーション制作会社スタジオポノック。初の長編アニメ映画である、米林宏昌監督の「メアリと魔女の花」が、3月20日にUltra HD Blu-ray/BD/DVD化される。注目作のUHD BD化というだけでAVファンは楽しみだが、実はUHD BD化にあたり、映像が新たにHDR化された。劇場(SDR)を鑑賞した人も新鮮な気持ちで楽しめるHDR化であり、アニメ映像の新時代も予感させる、要注目のディスクになっている。
その映像を、発売に先駆けて、パナソニックの65型有機ELテレビ「TH-65EZ1000」で鑑賞すると共に、UHD BD化を担当したパナソニック次世代AVアライアンス担当部長の柏木吉一郎氏と、「メアリと魔女の花」映像演出担当の奥井敦氏、ポスプロコーディネート担当の古城環氏に話を伺った。
有機ELテレビ「TH-65EZ1000」でHDR化した映像をチェック
1人の魔女が、魔女の国から不思議な花の種を盗み出すところから物語はスタートする。薄暗い中、そこかしこで火の手が上がり、爆発も起こり、そうした混乱の中を魔女が逃げる緊迫したシーンだ。
テレビはTH-65EZ1000、プレーヤーはDIGAの「DMR-UBZ1020」を使い、HDR10環境で視聴。HDRの恩恵は、冒頭からすぐにわかる。燃え盛る火が非常に色鮮やかで、光に力があり、鮮烈なインパクトがある。それでいて、同じ画面の中にある、影の部分の石壁や木の幹は黒つぶれせず、微妙な凹凸や木の皮のグラデーションなどが、薄暗い中にもしっかりと情報として残っている。
実写映像のHDRは、目を細めたくなるような太陽の光や、ガラスに反射する光など、映像が現実世界の見た目に近くなるため、SDR映像と比べ、非常にリアルに感じる。アニメの場合は“絵”であり、現実の風景をそのまま撮影したものではない。しかし、アニメにおいても、まばゆい光や、情報量の多い暗部が描かれていると、現実の風景を見ているような“リアルさ”を感じるのが面白い。
昼間のシーンでは、4K解像度を活かし、色とりどりの花が咲き乱れる庭や、様々な植物が生い茂る森の情報量に圧倒される。初の長編アニメ映画とはいえ、ジブリ譲りのクオリティを誇るスタジオポノック作品だけあり、背景美術は必見だ。森だけでなく、石や土の質感が伝わるような描き込みの見事さが、UHD BDではしっかり味わえる。
そして、木々の葉に当たる木漏れ日や、水面の光の反射など、HDRらしい高輝度な描写が、背景美術の情報量と組み合わさり、相乗効果でリアリティを増す。猫に導かれ、まるでメアリと一緒に、森の中へと分け入っているような気がしてくる。
タイトルにもある“魔女の花”を見つけた事で、メアリは魔法が使えるようになり、その事で、魔女の国と花を巡る騒動に巻き込まれる事になる。作品の重要な要素である“魔女の花”は、HDR映像でも非常にインパクトのある存在で、鮮やかな紫色の光がまばゆく、HDR環境で観ると、その妖しくも美しい神秘的な魅力が堪能できる。
そういった“見方”をすると、光輝く魔法陣や、魔法の国の色鮮やかなイルミネーション、箒にまたがって飛ぶ時の、雲に当たった日光の強さなど、HDR的に“映える”シーンが思いのほか多い作品だとわかる。作品の風合いを保ちながらも、HDR化した事で、よりドラマチックに楽しめるようになり、エンドロールを見ながら心地よい満足感に包まれた。
SDRからのHDR化を徹底的に追求
パナソニック次世代AVアライアンス担当の柏木氏は、「私自身、これまで幾つかの作品でHDR化をした経験がありますが、通常はSDRの作品を、グレーディングルーツの機能のみを使ってHDRに変換するのに対し、メアリと魔女の花では、絵のマスクデータも使いながら、こだわり抜いてHDR化できました」と語る。
このHDR化の作業、例えば、炎やランプといった明るいものを、HDR映像用により明るくしたりする事を指すのだが、映画の映像はそう単純なシーンばかりではない。例えば、キャラクターに光のエフェクトが重なっているようなシーン。光をより明るく、強くしようとすると、背後のキャラクターまで引っ張られて明るくなってしまうという問題がある。
デジタルで作られる現在のアニメは、例えば背景と、そこに重なるオブジェクトやキャラクター、そして光のエフェクトなど、様々なパーツのレイヤーが積み重なって映像が構成されている。それを最終的にまとめて映像として出力し、劇場で上映するマスターデータが作られるわけだ。
「メアリと魔女の花」UHD BDも、そのマスターデータをソースとして使っているのだが、そのまま使うのではなく、映像としてコンポジット合成する“前の段階”まであえて戻り、光エフェクトのHDR化に引っ張られないように、キャラクターのレイヤーにマスクをしてから、光エフェクトを明るくする……といったような、より理想的なHDR映像に変換しやすいマスターデータを使ったというのが大きなポイントだそうだ。
「シーン単位で、マスクが必要な部分を出していき、(アニメ制作の)現場に“こういうマスクが欲しい”という要望を戻して、それをグレーディングの環境に持ち込んで、HDRの空間に反映させていくという流れです」(奥井氏)。
「マスクが無い作品がほとんどで、そういった作品でも、部分的にマスクをかけて(明るさの)上げ下げもしますが、例えば、動いているシーンだとそのマスクがついてきてくれないなど、苦労する部分や、上げたくない部分も上がってしまうなど、妥協しなければならないところもあります。今回の作品では、それがなく、諦めずに済みました。しかし、逆に言えば“逃げられない”(笑)。やりやすくもあるのですが、諦めずにやれてしまうので作業としては大変でした」(柏木氏)。
作業の手順として、柏木氏と奥井氏が相談しながら、作品全体の明るさベースを決定。その上で、明るさが異なるカットごとに微調整をしていく。言葉にすると簡単だが、「作品全体を通して見て、自然で、違和感のないHDR化をする事が一番大切なので、それができるまで何度も前シーンに戻って調整するといった作業をした」(柏木氏)という。
その完成度について、奥井氏は「非常に満足しています」と太鼓判を押す。同時に、“アニメのHDR化”ならではの見どころもあるという。「アニメにおいて、SDR映像では、明るくしようとするとどうしても“白く”する事でしか、明るさを表現できませんでした。つまりもっと明るくしようとすると、画面全体が白っぽくなるわけです。例え炎のシーンでも、明るくするには白くするしかない。しかし、HDRでは色を残して明るさ、輝きを表現できます。また、画面全体が白いシーンでも、そこからさらに明るい光を表現できる」と言う。つまり、HDR技術は、アニメの明るさ表現を変革する存在というわけだ。
4K、HDR化しても、映像の“柔らかさ”は維持する
HDR以外にも、UHD BDでは今までのBlu-rayとは異なる部分がある。映像の圧縮規格が、MPEG-4 AVC/H.264から、MPEG-4 HEVC(H.265)に進化している点だ。
「HEVCで、符号化のためのツールや技術も増え、圧縮効率は格段に良くなっています。しかし、圧縮すると、どうしても情報ロスは起きます。大切なのは、その情報のロスが、作品のディテールや風合いを損なわないようにする事。パッと映像を見た時に感じ取れるものが変わらないようにする事です」(柏木氏)。
質感を残し、自然な映像にするという面では、前述のHDR化が裏目に出る事もある。HDR化することで、コントラストが上がり、エッジが立ち、良く言えばメリハリのある映像、悪く言えば“バキバキ“の映像になってしまう。すると、作品の持つ微妙な質感などがわからなくなってしまう。HDR化してもそうならないよう調整する必要もある。
柏木氏は、これまでもスタジオジブリ作品のBlu-ray化を多く手掛けてきた。「崖の上のポニョ」で、マスターデータの膨大な情報量を活かしながら、映像の“柔らかさ”も実現するため、映像を甘くせずに柔らかさを引き出す特殊な“ポニョフィルター”を開発した人物でもある。「今回も、“UHDポニョフィルター”的なものを作り、HDR化した事で、そうしたコントラストやエッジの不自然さがでないよう工夫した」という。
映像の質感という面では、映画らしさと画の柔らかさを演出するために、グレインを加える作業も重要だ。「2Kのマスターに対して、グレインをのせた後で(UHD BD用の)4Kにアップコンするか、4Kにアップコンしてからグレインをのせるかでも奥井さんと相談しました。私の予想としては、アップコンしてからグレインを加えたほうが、より風合いが出るだろうと思いましたが、今までやったことがないのでどうなるかわかりません。実際にやってみて4Kアップコンしてからグレインをのせた方が結果は良かったのですが、処理はイマジカさんにお願いしたのですが、何度も出し直していただき、グレイン量や圧縮パラメータを見直しながら、仕上がりの質感を追求していきました」(柏木氏)。
マスターモニターと同じ感覚で使える有機ELテレビ
こうしたこだわりのHDR映像を、有機ELテレビ「TH-65EZ1000」は見事に表現していたが、それもそのはず、柏木氏はUHD BD化の作業にあたって、常にこのTH-65EZ1000で映像をチェックしながら進めていたという。
「通常は、ソニーさんの4K有機ELマスターモニター『BVM-X300』を使い、家庭でどう見えるかという映像のチェックを行ないます。BVM-X300はHDR表示も可能で、マスモニなのでもちろん色も信頼できる表示なのですが、サイズが30型と小さい。例えば、HDRで光のつぶが画面に表示されるようなシーンなどでは、小さいマスモニで見た印象と、大型テレビで見た印象は、全然違います。(そういった違いも考慮して制作するためにも)有機ELテレビのTH-65EZ1000も常に設置して、確認しながら作業しました」。
「私の個人の感覚としても、TH-65EZ1000はついに“マスターモニターと同じ色が表現できるようになったテレビ”だと感じています。明るさのターゲットとしては1,000nitを1つの指標としていますが、数値よりも、全体を通して見た時に自然な映像に感じていただける事を重視して調整しました。(TH-65EZ1000のようなテレビの登場により)色、明るさも含め、4K UHDのHDRとして、ほぼベストな映像を皆さんの家庭で楽しんでいただけるようになったと思っています」(柏木氏)。
DTS:X化した音声にも注目
UHD BD版では音声も強化されている。劇場は5.1chだったが、UHD BD版では、5.1chのDTS-HD MasterAudioトラックに加え、DTS:Xの7.1.4ch音声も収録。さらに音声特典として、通常のヘッドフォンでもサラウンド音声が楽しめるDTS Headphone:Xも収録している。
ポスプロコーディネート担当の古城環氏は、「映像の話と似ていますが、5.1chの劇場向けとして完成された音から、UHD BD用のDTS:X音声をどのように作るか、どれくらいバラけた素材のレベルまで戻って作業するのか、エンジニアスタッフと相談しながら作業していきました。完全にバラバラの素材までは戻っていませんが、効果音の中でも、例えば足音や爆発音といった単位にまで戻り、空間表現を7.1.4ch用に、また作り直した形です」と説明する。
目指したサウンドについては、「絵の情報量がUHD BDで増えていますので、音の情報量も増えなければだめだと考えてリミックスしていきました。7.1.4chスピーカーを使い、より包み込まれる感覚が得られるようこだわりました。また、DTS Headphone:Xでは、ヘッドフォンでも、包み込まれるようなサラウンドが体験できるよう追求しています。DTS:Xの音を作る作業の中でも、DTS Headphone:Xを使ってある程度作業をして、それをスピーカーを設置した部屋で7.1.4chで再生して確認して追い込んでいくという使い方をするくらい、ヘッドフォンでも十分サラウンドを楽しんでいただけます」と、聴きどころを紹介した。
メアリと魔女の花 コレクターズ・エディション 4K Ultra HD+ ブルーレイ | メアリと魔女の花 ブルーレイ |
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