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ラックスマンがラズパイオーディオDAC「AUDIO OSECHI BOX」。Alexa音声操作も

 Raspberry Piなどのシングルボードコンピュータ搭載オーディオの共通規格を策定するワンボードオーディオコンソーシアムは6日、加盟社による今後の製品などに関する説明会を開催。加盟社の一つラックスマンが開発中のコンセプトモデルを披露したほか、USBメモリを挿すと自動で再生できる機能などのデモを行なった。

ラックスマンによるコンセプトモデル「AUDIO OSECHI BOX」。上がDAC、下がストレージ

 既報の通り、「ワンボードオーディオコンソーシアム」は'17年2月に設立発表され、Raspberry Pi(ラズベリーパイ/ラズパイ)をコアとした、オーディオプラットフォームの規格策定を行なっている。その発起人であるIT/AVコラムニストの海上忍氏が、現在の取り組みや今後の方向性などについて説明した。

ワンボードオーディオコンソーシアム加盟社
海上忍氏

 ハードウェアのコアにRaspberry Piを採用するメリットは、PCのUSBオーディオなどとの違いとして、“デジタルの音を最もダイレクトに伝えられる”I2S(Inter-IC Sound)で、SoCからDACまで接続できる点が、音質面で有利としている。また、Linux OSなどのソフトウェア資産が豊富で、ネットワークオーディオ/ハイレゾ再生にも利用できる処理能力を持つことが挙げられる。

Raspberry Piを採用するメリット

 コンソーシアムによるハードウェアの定義として、ヘッドフォンリスニングに適したポータブルタイプの「π-A1」と、他のオーディオ機器と組み合わせて楽しむコンポーネント(デスクトップ)タイプの「π-L1」という2つを策定。ポータブルタイプは、バリュートレードのオーディオ向けアルミケース「CASE 01」とDAC/ヘッドフォンアンプ拡張ボード「DAC 01」が既に製品化されている。

ハードウェア規格
ポータブル向けは既に製品化されている

 据え置き型の「π-L1」では、Raspberry PiなどPCが使用するエリア(Linuxベースのシステム)を長崎県の出島に例えて「DEJIMA」とし、DEJIMAに直接依存しないオーディオ機器のエリアを「SHIKISHIMA」と命名し、各メーカーが開発。これら2つのブリッジ役として「UKISHIMA」をコンソーシアム主導で開発、加盟社にライセンス供与する。また、SHIKISHIMAには交換可能な拡張ボードを共通のコネクタで接続可能にする。これにより、異なるメーカーのSHIKISHIMAでも同じ拡張ボードを使用できるという。

据え置き型の「π-L1」の構成

 今回ラックスマンが用意したコンセプトモデルは、据え置き型であるπ-L1に対応したもので、Mac miniと同等の「6.5寸(約19cm)の重箱サイズの筐体に、こだわりの具材(電子部品)をおせち料理のように丁寧に盛り付けらた『オーディオおせち箱』」という意味を込め、「AUDIO OSECHI BOX」と名付けられた。DACボックスの「JU-001」と、USB接続のストレージ専用ボックス「JU-002」の2種類が展示された。

JU-001
JU-002
検討段階では、木製筐体に漆塗りという形もイメージ

 発売時期や価格は未定。報道関係者を対象とした今回の説明会や、4月28日、29日開催の「ヘッドフォン祭」での展示への反応によって、今後検討するという。なお、ラックスマンによれば、回路規模的には同社の1世代前にあたるDAC「DA-100」と同等とのことで、価格未定ではあるものの「現状の場合5万円程度、今後アイディアを追加した場合は10万円くらいをイメージしている」という。

 JU-001は、DACチップにTI/バーブラウンの「PCM5122」を搭載し、384kHz/32bitまでのPCMや、5.6MHzまでのDSD(PCM変換)が再生できる。クロックは内部が44.1kHz系と48kHz系の2系統で、外部入力にも対応。出力はアナログと同軸デジタルで端子はRCA。筐体はアルミ製。再生などの操作はスマートフォンから行なえる。

JU-001の内部構造
背面
ブロックダイアグラム。ラックスマンの開発本部 長妻雅一本部長が説明

 そのほか、構想段階のモデルとしては、アナログ入力専用のヘッドフォンアンプ「JU-003」や、CDプレーヤー「JU-004」もシリーズ内で展開することもイメージしているという。

JU-001の主要スペック
JU-001は外部クロックでも動作。エソテリックのマスタークロックジェネレータ「G-02X」からクロック供給
ヘッドフォンアンプやCDプレーヤーなども構想

リアルタイムカーネル採用、レイテンシーのバラつきを抑制

 ハードウェアに合わせて、コンソーシアムは軽量なLinuxディストリビューション「1bc(仮称)」も開発。リアルタイムカーネルを採用し、オーディオ用に最適化したチューニングを施した。

 Linuxのリアルタイムカーネルとノーマルカーネルの違いについては、伝送時の“レイテンシーのバラつき”に着目。ノーマルカーネルでもレイテンシーが極端に長いわけではないものの、リアルタイムカーネルの方がレイテンシーのバラつきが少なく、それが音質の向上に寄与しているという。

リアルタイムカーネルを採用
ノーマルカーネルのレイテンシー
リアルタイムカーネルのレイテンシー

 基本的な方針としては、キーボード/マウスやディスプレイは接続しない「ヘッドレス運用」、余計なプロセスなどを走らせず、Web UIは用意しない「ミニマム構成」、再生系ソフトにもリアルタイムカーネルや4コアのRaspberry Pi3に沿ったチューニングを行なっている。

ヘッドレス運用や音質重視など、開発の基本方針

 1bcは、Raspberry Piの標準ディストリビューションであるRaspbianをベースに作っており、セキュリティなどのアップデートにも対応しやすくした。

 一方でオーディオ的な改変を加えており、標準に比べて1bcは軽量で、リアルタイムカーネルを採用、CPUは平時のクロックを上げるなどの違いがある。その他にも、MPD(MusicPlayer Daemon)の処理を最優先としたほか、4つのコアでプロセスが分散されるとレイテンシーが発生するという点に着目し、1コアだけで動かすようにした。

1bcと標準のRaspbianの比較

USBメモリを挿すと自動再生。Alexa音声操作も

 1996年に坂本龍一の武道館ライブのリアルタイムネット配信を成功させたことでも知られるプログラマーであり、音楽配信のOTOTOY代表を務める竹中直純氏が、同コンソーシアムでは“ソフトウェア担当”として活動。

 ユニークな機能として、楽曲を収めたUSBメモリなどをJU-001に挿すと自動で再生を開始、抜くと安全に再生を停止するという「Music Plug & Play(仮)」も紹介。

「Music Plug & Play(仮)」により、USBメモリを抜き差しすると自動で再生/停止

 PCのファイルブラウザで作成し、exFATなど特定のファイルフォーマットにだけ反応し、FATなど通常のUSBメモリでは何も起きないといった使い分けができる。利用の一例として、ライブ会場などで販売/配布した楽曲入りメモリを家で挿すとすぐ聴くことなどができる。楽曲のフォーマットはMPDに依存し、DSDやFLACなど幅広く対応する。メタデータやプレイリストも認識して読み込み可能だという。

 竹中氏は開発した理由について「前から疑問だったのは、ハイレゾ音源を手に入れたユーザーが、聴くのに手間がかかりすぎるということ。USBメモリを挿せば再生できるようになるのが単純明快で良いのでは」とした。代表を務めるOTOTOYとしても、「ハイレゾ音源を聴くのが難しいことは市場の成長を妨げている。少しでも簡単に、高音質で、安定して再生させるのは、ソフトウェア技術者にとってやらなきゃいけないこと」としており、今後の楽曲販売などで活用することを見込んでいるという。

OTOTOY代表であり、コンソーシアムのソフトウェア担当を務めている竹中直純氏

 もう一つの取り組みとして、海上氏はAmazon Alexaを使った音声操作も紹介。「おじゅうコントローラ」スキルを海上氏が自ら開発し、Alexaスマートスピーカーに「おじゅうで再生」と呼びかけると、Alexaを介してMPDが再生コマンドを実行して音楽が聴けるというデモを行なった。音楽再生/停止のほか、ボリューム調整なども行なえる。

 「π-L1」については、今後も加盟メーカーやコンソーシアムの間で検討を重ねて正式な仕様を決定。JU-001などについても現状が最終の仕様ではなく、DACチップなども含めて今後変更の可能性があるという。

Alexaスマートスピーカーで音声操作
Alexaスキルを海上氏が開発