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新4K8K放送は本当に12月から始まる? NHKやスカパーが設備公開。QVCは24時間4K生通販
2018年5月21日 00:00
「新4K8K衛星放送」の12月1日開始を控え、NHKやスカパーJSAT、QVCが放送設備を報道関係者などに公開した。BS/CS放送の新しい変化が約半年後に迫る中、放送サービス高度化推進協会(A-PAB)が視察会を行ない、各社が準備を本格化している現状を紹介した。
なお、新4K8K衛星放送の概要や、視聴する方法と注意点、現在の対応機器の状況などについては、5月18日の記事で詳しく掲載している。
8Kで宝塚やルーブル美術館。NHKがコンテンツ本格化
NHKは、宝塚歌劇の公演やルーブル美術館の内部など8K放送予定コンテンツを紹介。また、4KとHDを同時に扱える放送設備や、22.2ch音響のミキシングルームなどを公開した。
主な放送予定として、開局の12月1日に世界初となる南極からの4K生中継を行なう。4Kチャンネル(BS 4K)は1日18時間放送され、「スーパーハイビジョンの入り口」という位置づけ。平日は「自然」や「ドラマ」などのジャンルを曜日によって分け、特定のジャンルが好きな人は、決まった曜日にまとめて観られるようにする。土日は4Kオリジナル番組を用意する。大河ドラマは日曜朝に4Kで放送。一方“フラッグシップ”とするBS 8Kは、これまでにないチャンネルを目指し、美術館やスタジアム、コンサートホールにいるような没入感のある体験を実現するという。
BS 8Kコンテンツの目玉として、宝塚歌劇団の5組(雪組、月組、宙組、星組、花組)全ての新作を、新たに収録して放送。歌と踊りの「レビュー」と劇を含めた完全版として、12月1日以降に順次放送予定。華やかでスピーディーに展開する部隊の魅力を8Kの臨場感ある映像で楽しめるという。
また、仏ルーブル美術館との共同制作による8K番組も放送。'16年に共同制作を行なっているが、さらに数十点の作品を8Kで撮影、'19年の完成を目指して60分×4本を制作する。「あたかも美術館の中にいるかのような臨場感に浸りながらルーブルの過去と現在を巡り歩き、本物の色彩や微細な表現、質感までも映し出す8Kの眼で一つ一つの作品世界を旅していく」という。
現在の試験放送でも観られる「8Kタイムラプス紀行」は、8Kを超える5,000万画素のキヤノン一眼レフカメラ「EOS 5DsR」で撮影した全国の様々な風景を楽しめる番組。今年度も約20本の制作を予定しており、BS 8Kでの放送を検討している。
そのほか、放送以外のコンテンツ体験方法として、「インタラクティブ8Kビューアー」も紹介。1969年にアポロ11号が月面に降り立った時など、11号~17号の宇宙飛行士が1万枚以上にわたって撮影した写真をデジタル化。タブレットで写真の見たい部分を選んで、8Kモニターの大画面で楽しめる。最大17枚をつないだパノラマ画像も用意し、月面を広い視野で眺めることも可能。インタラクティブ8Kビューアーは、美術館や博物館などでの利用を想定するほか、12月1日のBS 4K/8K開始に向けて8月以降に行なう関連イベントなどで展示予定。
制作の設備については、NHKで最初に4KとHDの両方に対応したスタジオ「CU-206」を紹介。海外サッカーやMLB、Jリーグなどの素材を扱っており、回線から4Kで受けた素材を4Kで送出するだけでなく、2Kへの変換などにも対応。平昌オリンピックもここから送出された。ほとんどのモニターは4Kで、2Kスタジオと同じ体制で制作できることを特徴としている。
現在はここで人気番組の4K化を進めており、「小さな旅」や、「ダーウィンが来た! 」、「日曜美術館」、「月刊スーパーハイビジョン(SHV)ニュース」など、試験放送中の番組も、ここで扱っている。
さらに、HDRの独自番組も制作を進めており、特徴的な番組の一つが「4Kでよみがえるミクロの世界」。NHKスペシャル・シリーズ「人体」のスピンオフ作品として、5分番組4本を予定している。
“ミクロの狩人”との異名を持つ顕微鏡撮影者・小林米作(1905~2005)の35mmフィルム作品からセレクトしたものを4Kでスキャン、HDR化して高精細映像として蘇らせた。「腸内フローラ」の回では、腸内に無数に生息する細菌が、絨毛に棲みついている状況の撮影に挑戦。4K化により、絨毛内の細菌の姿がくっきり浮かび上がった。
HDR化により、35mmネガフィルムに残されていた色の階調情報をデジタル化。4Kデータの映像修復やスタビライズ、グレインの軽減などを行ない、撮影当時に小林が肉眼では見ていたものの映像では再現しきれなかった部分が、4K映像で確認できるようになったという。
BS 8Kチャンネルの多くは22.2ch音声を予定している。22.2ch対応のミキシングルームは、上下方向に3段構成で24台(フルレンジ22台、サブウーファ2台)のスピーカーを配置。「8Kで迫る メキシコ・ユカタン半島 驚異の大自然 神秘の水中鍾乳洞 セノーテ(仮)」のナレーション作業が進められていた。
ユカタン半島に降った雨が地面に染み込み、石灰岩を溶かすことで地下に広大な鍾乳洞を作り上げ、現在は透明な水で満たされた泉「セノーテ」を8Kで撮影。視界を覆うほどの大画面の8K映像と、22.2ch音声で、水中を進んでいるような感覚が味わえる。なお、ナレーション音声はセンターから聞こえるように配置するという。
スカパーは新マスターコントロールルームやアンテナなど着実に準備
12月1日から、新4K8K衛星放送のうち「110度CS左旋4K放送」を開始するスカパーJSATは、番組の制作や電波の送信などを行なう東京・江東区の「スカパー東京メディアセンター」の現状を紹介。
現在、124/128度CSで4K試験放送/4K実用放送、110度CS左旋の4K試験放送に取り組んでいるノウハウを生かし、12月1日からの実用放送開始に向けて準備を進めている。
4K/HDのサイマル(同時)番組制作やHDR制作に本格対応したサブコントロールルーム(副調整室)を、現行の4K放送などで運用中。今後も4K番組制作に活用するという。HDRは約4,000nitsまで対応し、HD素材(VTR/CG)が4K(SDR/HDR)として使用でき、「HD番組と同感覚で運用可能としている。リアルタイムのフォーマット変換も可能で、HD/4Kサイマル放送や、複数フォーマット収録が可能。
新たに、左旋4K放送を含めたマスターコントロールルームを準備中。12月の放送開始をきっかけに、従来の監視/制御機能も同ルームに移す予定。左旋4K放送設備の構築は11月にはほぼ完成する予定。移行を含め全て完了する時期は2021年ごろを予定している。
5Fにあるラック室には、左旋4Kを含む新たな放送設備が順次搬入設置され、調整や試験が始まっている。4K番組のビデオサーバー、MPEG-H H.265エンコーダ、MMT-TLV方式の多重化システムなどを導入する。放送設備の多くを占めるサーバーには仮想化技術を積極的に採用。局内の映像音声信号はIP化を進めている。
約70chのプレイアウト(編成どおりに番組やCM、スーパーなどを切り替えて送り出す業務)を放送事業者から受託して行なっており、現行の4K放送は2Fの4Kプレイアウトマスターから送出しているが、新しい左旋4Kは、3F/5Fの新マスター・新放送設備から送出する予定。
110度CS左旋中継器に送信するためのアンテナも2基建設中で、1基は予備アンテナ。口径は従来のアンテナと同じ6.4m。「工事は予定通り進んでいる」という。なお、この屋上には、今後の計画によってアンテナを増設可能なマウント部が2基用意されている。
12月放送開始に向け、最終的なテストは11月、その前段階として設備単体や、設備間の接続などのテストは夏以降に順次予定。最終的には実放送を模して、受信機でも視聴できるかどうかテストを行なう。4K放送に限らず、放送設備の構築は年単位の計画で進められており、昨年から着手してきた準備の状況は「50~60%」で、全体としては予定通り進行しているという。
TVショッピングを24時間ピュア4K/HDR生放送するQVC。返品率低下も?
4K8K放送といえば、美しい自然やスポーツなどの番組をイメージする人も多いと思うが、現在の衛星放送で多くの時間を占めているテレビショッピング番組を手掛けるQVCジャパンも、4K放送開始に名乗りを上げた放送局。チャンネル名称は「4K QVC」で、24時間365日ピュア4K/HDRを他社に先駆けて行なうという攻めの姿勢を見せる。
日本で最初に24時間365日生放送のテレビショッピングを始めたというQVCは、ライブ感のある制作が特徴的。例えば、ある商品の紹介中に、売り切れたことを出演者(ナビゲーター)が報告、すぐ次の商品へと移るというシーンを見たことはないだろうか?
これは放送中の注文数をリアルタイムに把握し、「ライブプロデューサー」と呼ばれる人が出演者にインカムで指示して伝えているためだ。複数のカラーバリエーションがある商品の場合、注文数に応じて、並べる順番を変えるといった細かい指示が、ライブプロデューサーから出されている。
さらに、視聴者から商品への問い合わせがあった時に、カスタマーセンターから放送中のライブプロデューサーへ届く場合がある。例えば「服の裏地を見たい」、「バッグの内部はどうなっているのか」などの問い合わせを受けた時に、放送内でナビゲーターへ指示が届き、実際に服の裏側を見せるなど、視聴者の要望に応えるシーンがある。
現場で重視している指標の一つが「毎分の注文数」。ライブプロデューサーの席には、注文数だけでなく様々なデータがリアルタイムで表示される画面が用意されており、数値が想定より良いと予定時間よりも少し長めに見せたり、少ない場合は前倒して次の商品に移るなど、生放送ならではのダイナミックな進行となる。また、オペレーターへの注文電話がどれくらい混んでいるかも室内のモニターにグラフで表示。「今ならネットの方が注文しやすい」などの案内も、ナビゲーターを通じて視聴者へ伝えられる。
カメラは7~8台がスタジオに用意されているが、その場で操作するのではなく、ライブプロデューサーと同じ副調整室にいる担当者が1名で全てをリモート制御。12月から4K/HDR対応となった場合も、同様に一人が複数台のカメラをリモート制御するそうだ。
編集室も、4K/HDR対応に際し4Kモニターやプロジェクタ、映像確認用の民生用テレビなどを導入。また、アーカイブも現在の4~5倍規模に増強、ネットワーク帯域も増強した。
今後のロードマップとしては、編集室と収録スタジオ、マスターコントロールを5月に完成、8月には第1ライブスタジオと副調整室を完成、9月に第2ライブスタジオを完成させ、12月のオンエア開始に臨む。
実際のスタジオも見学し、カメラで撮ったHDと4K/HDRの映像を比較。4K/HDRではバッグや洋服などの表面の質感がはっきりわかり、わずかな凹凸などで素材の違いが伝わりやすい。同社は「テレビで見た時に近い見た目のものが実際に届くため、返品率が下がるのでは」と期待を寄せている。
ただ、商品だけでなく周囲のセットなどもありのままに映るため、4K化に合わせてセットなどの刷新も図る予定。また、照明についてもLED化など順次刷新予定としている。
1986年に創業、世界6か国でビデオコマースを展開する米QVCは、グループ全体で世界連結売上高が約1兆5,260億円。QVCジャパンは、三井物産との合弁会社。グループ内でも日本がピュア4Kの先陣を切り、今後欧米のQVCにも展開予定としている。
同社の内田康幸代表取締役は、「4Kの優位性を活かしてこれまでにない新次元のショッピング体験を提供したい」とする一方で、「4Kだからモノが売れるとストレートには考えていない。4Kに支払うのではなく、主役は商品」とし、今後は“4K放送に合わせた商品選び”にもチャンスがあると見ている。