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ソニー最高の音「Signature」の戦略、8Kテレビを出さない理由。キーマン高木専務が語る

 ドイツ・ベルリンで8月31日(現地時間)に開幕した「IFA 2018」で、ソニーのホームエンタテインメント&サウンド(HE&S)事業を統括する高木一郎専務が、報道陣の取材に答えた。IFAで披露したオーディオのSignatureシリーズやテレビの最高峰MASTERシリーズの位置づけ、AV機器開発への取り組みなどについて語った。

ソニー ホームエンタテインメント&サウンド事業担当の高木一郎専務

 前日の30日に行なわれたソニーの会見では、4月より社長兼CEOに就任した吉田憲一郎氏が登壇し、「人に近づく」経営方針をグローバルでも示した。吉田氏に続いて登壇した高木専務が担当するHE&S分野は、テレビやオーディオなどの製品を通じ、そのコンセプトを現実のものにしていく役割を担っている。

オーディオへの取り組みと最高峰Signatureシリーズ

 新製品のバッテリ内蔵デジタルオーディオプレーヤー「DMP-Z1」と、イヤフォン「IER-Z1R」が加わるSignatureシリーズの取り組みについては「2013年からハイレゾ商品を出し始め、『ハイレゾはソニーが引っ張る』との考えで続けているが、それ以前にも要素技術は持っていながら、それらを組み合わせて商品とし、評価される術を見いだせないでいた時代が長かった。せっかく技術があって、ストレージが安くなってきて、ハイレゾのファイルは業界に既にあった中で、ソニーのオーディオはこういうものだというのをやりたいという一心で、ハイエンドのヘッドフォンも作りはじめた。ミュージックプレーヤーもハイレゾを中心に商品開発を強化した。何よりフラッグシップを持ちたいと思っていた」と語る。

Signatureシリーズのイヤフォン「IER-Z1R」を持つ高木専務

 「技術のネタはあっても、それを組み合わせて最高峰を作ることがなかなかできなかったが、時間をかけて、ようやくどの技術をどう結集してどういう形にしたらブランディングに役立つのか、と考え、Signatureというシリーズを1年に1個でもいいからつけ足していこうと。基本的に商売は大事だが、最高の技術を形にして持つことがブランディングでは大事。ようやくここまで形になった物が提案できるようになった」とのこと。

 「エンジニアには『売れなくても最高のものを作りたい』という人はいっぱいいますが『売れなきゃだめだよ』とは言っている(笑)。イヤフォンのIER-Z1R(8月にアジアで発表、欧州では2,200ユーロ)は、中国やアジアで非常に待望される商品となった。プレーヤーのDMP-Z1は、このダイヤル(ボリュームノブのパーツ部分)だけですごく高い(笑)。普通そこにお金かけるの?という部分が、どれだけ音に効くのか、(ノブを回す)この感触に、音楽好きの人がどれだけ心酔するのか、そこをくすぐりたいという思いがあった」とこれまでの考えと実際の経緯を説明した。

Signatureシリーズのデジタルオーディオプレーヤー「DMP-Z1」

 オーディオの強化に際し、ソニーでは「サウンドマスター」という称号を持つ6人をアサイン。そのマスターが“ソニーの音”を作り上げ、継承していくという仕組みを約2年前に開始。その取り組みが結果につながり始めてきたのが現在だという。なお、Signatureシリーズはヘッドフォン/イヤフォンに限る物ではなく、スピーカーで聴くオーディオも今後の可能性には含まれているとのことで「どのようにソニーの音を聴きたい、と近づいていただけるか。そのためにSignatureは大事なフラッグシップ。その展開をこれから考えていく」とした。

8Kテレビは「自信を持って出せる時に」。“リアルタイムの価値”も追求

 テレビは、「私たちの技術によって最高の画質、音質を達成できたものにソニーとしてMASTERシリーズという名称を付けることを紹介した。4K/HDRのコンテンツがようやくそろってきた。これは欲しい、楽しみたいと思っていただける商品をしっかり作っていくことが、社長の言う『人に近づく』ということ」とした。

テレビの「MASTER」シリーズ

 今年のIFAでは、SamsungやLG、シャープなど他社から8Kテレビの発表が続いたことから、報道陣から「ソニーが出遅れているのでは」との質問が相次いだ。高木氏は「ソニーが自信をもって勧められるものができた時に出すが、今は4Kの集大成を追求することを優先する。パネルが8K解像度あっても、それをどうドライブするか、まだ8Kのコンテンツは少ない中で、4Kを8Kにちゃんとアップコンバートできているのか、どれだけ8K解像度でリアリティを持って立体感まで出しながら映像処理するか。それができて初めて8Kのパネルが活きてくるため、自信をもってソニーの8Kテレビを提供できる。それからでも遅いと思わない」とした。

 一方で業務向けの8Kについては「放送局、コンテンツ制作側の8K戦略は、業界の中で弊社が一番積極的なのでは。それがソニーの強みでもあり、機器が制作側に入ることで、より良いコンテンツができる。大元として情報量が多いことは大事だが、それを8Kでそのまま配信するかは別の話。8Kで制作する流れは確実にソニーが作り始めているし、軌道に乗りつつある実感はある」という。

 吉田社長が前日の会見で言及した「リアルタイムの価値」について、オーディオ/ビジュアル分野でどんな可能性があるかという質問には、一例として「ライブ中継や、スポーツ中継などを、いかにリアリティをもって届けられるか」を挙げた。「データ通信の高速化など様々な技術でそれが可能になっており、その価値を追求すべき。放送局用機器の部隊と、最終のアウトプットであるAV商品が一緒になってどういうソリューションを作っていけるかについては既に取り組み始めている。次の新しいコンテンツの形は“リアルタイムでいかにリアリティを持って提供できるか”だと思っている」とした。

吉田社長が提示した「リアルタイムの価値」