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デジタルアンプDDFAが1チップに。サウンドバーにも載るQualcomm「CSRA6640」登場

Qualcommは米国時間の19日、デジタルアンプDDFAの新製品IC「CSRA6640」を発表した。米サンディエゴの本社で開催された発表会で、評価用ボードを用いたデモンストレーションを実施、その実力と可能性をアピールした。本レポートでは、DDFAというデバイスの特徴を紹介しつつ、新たにラインナップに加わったCSRA6640のユースケースを考えてみたい。

CSRA6640を搭載した評価用ボード

DDFAは、2015年に買収した英CSRが開発したフルデジタルのアンプIC。DDFAの名は「Direct Digital Feedback Amplifier」、すなわち完全デジタルかつフィードバック機構(増幅後の出力波形と入力波形を比較/補正を実施し歪の低減を図る回路)を持つことに由来する。さらに内蔵のDSPによりボリューム/トーン調整など高度な音声処理を可能とし、いわゆるハイレゾ品質のデジタル音源を直接(I2Sで)入力できる。内部に高速なマスタークロック生成回路を備え、水晶発振器なしに利用できることも特徴だ。

QualcommはDDFAの開発を継続し、2017年には第2世代に位置付けられる「CSRA6620」を発表。それまでのDDFAは、デジタル・モジュレーター(CSRA6601)とフィードバック・プロセッサ(CSRA6600)の2チップ構成とされていたが、それを1チップに統合することにより大幅な小型化を実現した。

さらにCSRA6620では、PCMが最大384kHz/32bit、DSDが5.6MHz(DSD 128)と入力可能なデータが大幅に向上。全可聴帯域において0.001%レベルのTHD+N(全高調波歪み+ノイズ)値と117dB以上のS/N、60uV以下の残留ノイズなど、アナログアンプに匹敵する特性も備えている。

今回発表された「CSRA6640」は、そのCSRA6620の派生版に相当するIC。4/8Ω時にステレオで最大20W+20W(モノラルで最大40W)という出力段を内蔵することにより、小型オーディオシステムに必要な機能を1チップで賄えてしまうところが最大の特徴だ。

なお、DDFAとしてのアーキテクチャはCSRA6620と同一であり、CSRA6620も併売される。既存のCSRA6620は大出力が求められるコンポーネントオーディオ向け、新しいCSRA6640はスマートスピーカーやサウンドバー向けとして、今後は2ラインナップで展開されると理解すればいいだろう。

サンプル出荷は、DDFAの採用実績を持つオーディオメーカー向けにはスタートしており、早ければ来年初頭には搭載デバイスが発売される見込みとのこと。併せて発表されたオーディオSoC「QCS400シリーズ」との組み合わせになるかどうかはメーカー次第だが、省電力やAI対応など得られるメリットが大きいことから、その可能性は高そうだ。

DDFAシリーズの歴史

デモンストレーションは、同時に発表されたオーディオSoC「QCS400シリーズ」との組み合わせで実施された。パワー段を内包したことによる製品全体での小型化、ひいては部品点数/BOM(部品構成表)コストの削減を実現できるということが、Qualcommのアピールポイントだ。

最初に見た小型スマートスピーカーについては別記事を参照いただくとして、本稿では評価ボードを用いたサウンドバーのデモンストレーションを紹介しよう。

CSRA6640の評価ボードは、4cm四方ほどの基板にCSRA6640(CSRA6620も選択可能)のほか最低限の部品を実装したもの。同時に最大12チャンネルを接続可能なため、サウンドバーのようなマルチチャンネルの再生環境も評価できることがポイントだ。

デモの会場には、5.1.2chのサウンドバーが用意されていた。評価用ボードをそのまま組み込んだため筐体はかなりの高さだが、Dolby AtmosとDTS DTS:Xのデモを体験することができた。

オーディオSoC「QCS407」で8基のCSRA6640を駆動するサウンドバー

別に展示されていた内部構造を見ると、中央には入出力などオペレーションを司るためにQCS407の評価用ボードが据えられ、CSRA6640を積んだ評価用ボードが左右に4枚ずつ、計8枚が設置されていた。CSRA6640が1基につき1チャンネルを割り当てているというわけだ。

サウンドバーの内部

Dolby Atmosのデモは、定番のトレーラー「Amaze」から。サウンドバーとしての音質チューンはさておき、数十人は収容できそうな空間を大音量で満たし、立体的なサウンドステージを再現できることは驚きだ。続いて鑑賞した「Spider-Man:Homecoming」は、敵キャラに切り裂かれた船体を主人公が飛び交い糸でつなぎ留めるというムリな設定に気を取られてしまったものの、飛び出す糸と敵の光線銃の音が聞こえる方向はしっかり再現できていた。

DTS:Xのデモは、「ジュラシックワールド:Fallen Kingdom」。こちらも、大爆発した火山の噴石が落ちてくる様子、移動用ポッドが海に落ちてからの音空間の変化など、イマーシブオーディオとしての表現力を確かに備えていた。

5.1.2ch構成で、サブウーファーも設置されていた
Dolby Atmosは「Amaze」と「Spider-Man:Homecoming」をデモ
DTS:Xは「ジュラシックワールド:Fallen Kingdom」をデモ

ところで、CSRA6640評価用ボードの入手は、現時点ではオーディオメーカーなど一部企業に限定されるが、数カ月以内には個人向けにも提供される予定だ。Raspberry Piなどシングルボードコンピュータと組み合わせホビー用に使えるのかと質問したところ、活用方法はまったく自由という。価格や提供方法は未定とのことだが、DDFA搭載のデノンPMA-50とRaspberry Piをつなぎ音楽再生をデモした経験を持つ身としては、その日が来ることを一日千秋の思いで待ちたい。

2016年「ヘッドフォン祭」での展示。第1世代のDDFAを積む「DENON PMA-50」とRaspberry PiをI2Sで接続したところ