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TBSラジオが“スクリーンレスメディア”研究所設立。音声の活用促進へ

TBSラジオは29日、音声メディアの可能性を探求し、その成果を社会に還元することを目的とした研究所「Screenless Media Lab.」を設立すると発表。聴覚情報の重要性を検証し、実生活のサービスなどへの活用も目指すもので、同日にTBSラジオの三村孝成社長や、同研究所の堀内進之介所長らが研究所の主旨や今後の計画を説明した。

TBSラジオの三村孝成社長(左)、Screenless Media Lab.堀内進之介所長(右)

Screenless Media Lab.の所長を務める政治社会学者の堀内進之介氏は、これまで人工知能やAIアシスタントなどに関する著書を出版している。

先進諸国の現状として、「人々が得る情報が過多となったため、むしろ効率的な選択が不可能になり、結果的に製品/サービスへの執着が薄れる」という研究を紹介。情報が多すぎる背景として、聴覚情報よりも視覚情報が優位とされすぎたことで、「知る」ことは増えても「分かる(情報を整理して理解する)」までに至らず、「意欲する(行動を起こすことなど)」につながっていない“無欲化”や“無関心化”につながっているという。

消費者マインドの“無関心化”

一方で、情報量を減らすために“欲しい情報だけをレコメンドしてもらって受け取ること”については、「デジタルハピネスかもしれないが、ウェルビーイング(Well-being/善き生)とは言えない。心地よい情報、欲しい情報だけを与えられるのではなく、耳の痛い情報も受け取ることが、私たちにとって本当の意味で生活を豊かにすること」との考えを述べた。

「視覚情報は全員で共通のイメージを持てるものだが、多くの場合は解釈や想像の自由を許さず一方的に受け取る物で、私たちの側から関わろうとすることがなかなかない。音声の場合は受け手の想像力でイメージにバラつきができるが、分かろう/知ろうとする関わりが必要となってくる」という違いを説明。

そうした中で、「身の回りに溢れている情報は圧倒的に視覚的なもの。耳にしている聴覚情報も、視覚情報をただ補足/補完するだけになっているかもしれない。本来視覚情報として与えられるべきもの、聴覚情報として与えられるべきものが切り分けられておらず、ひとまとまりにされている」点を課題ととらえ、研究所では「視覚情報の過多を適切に切り下げ、視覚と聴覚のバランスを考える」ことをミッションとしている。

研究所の名称については、「全ての情報を音声で受け取る」ことを目指すのではなく、「視覚偏重化している日常を見直す」という意味から、“オーディオメディアラボ”ではなく“スクリーンレスメディアラボ”にしたという。

視覚偏重化を見直す

TBSラジオと協力する意義について堀内氏は「番組制作現場での経験則について、これまでメソッドとして確立されていなかったことも、改めて科学的目線で体系化する。専門家の力を借りながら、音声情報の取り扱い方、効果などを見出したい」とした。

研究の成果は、論文など学術的な発表や書籍などの出版と、他社連携などビジネス活用の両方を見込んでおり、当初は学術分野での成果を中心に展開予定。「少なくとも1年で何らかのアウトプットをする」としている。堀内氏は、音声サービス提供事業者や、ハードウェアメーカーなどと協力して、研究成果を実際の製品などに活かしていくことも視野に入れているという。

また、研究の過程を定期的に公開予定で、TBSラジオの番組「荻上チキ Session-22」(毎週月~金曜、22時~24時)の金曜23時40分ごろからミニコーナーを開始。第1回は4月5日放送分で予定している。パーソナリティの荻上チキが持つ知見もラボにフィードバックしていくという。

ラボの研究主題

音声で“購買前意欲”にアプローチ

TBSラジオの三村孝成社長は、Screenless Media Lab.設立に至ったきっかけとして、堀内らによる著書「AIアシスタントのコア・コンセプト」に出会い、三村氏の35年超のラジオ業界で経験していた考えを裏付けるものだったことを説明。「音声は購買意欲が芽生える前の“意欲前領域”にアプローチできて、意欲そのものを芽生えさせる」との内容に触れ、「音声メディアのラジオ局が音頭をとって、音声の機能的役割を科学的に分析、体系化するとともに、音声メディアの役割と責任を果たしていかなければいけない」との考えを示した。

TBSラジオの三村孝成社長

また、音声広告の価値について「無欲化、無関心化が進んでいるとされる中で、音声情報や聴覚情報が広告的に必要になっており、既に広告主は意欲前領域にどうアプローチするか考えている。ラジオに限らず、聴覚/音声情報をどう使うかは、広告主の今後の最大のテーマでは」とした。