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“究極のデノンサウンド”完成、4年かけた山内氏渾身のアンプ&SACD「SX1 LIMITED」

デノンは、同社サウンドマネージャー・山内慎一氏が4年をかけて作り上げた新製品として、「究極のデノンサウンド」が味わえるという次世代フラッグシップ、プリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」と、SACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」を9月中旬に発売する。価格はプリメインが78万円、SACDが75万円。なお、2モデルは通常は購入日から2年間の無償保障期間を3年間に延長する。

左からプリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」、SACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」

異色のモデル

2015年にサウンドマネージャーに就任した山内氏は、新たなデノンのサウンドフィロソフィーとして「Vivid & Spacious」を掲げ、従来のデノンサウンドを受け継ぎつつも、時にそのイメージを覆すようなモデルを展開し、話題となっている。そんな山内氏が時間をかけてこだわりぬき、「Vivid & Spaciousを具現化する製品」として生み出したのが「PMA-SX1 LIMITED」と「DCD-SX1 LIMITED」。「LIMITED」とついており、従来のSX1シリーズと外観は似ているが、マイナーチェンジモデルではなく、中身は各モデル400カ所以上の部品を交換するなど、ほぼ別物と言っていい製品に仕上がっている。

プリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」の変更箇所
SACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」の変更箇所

このLIMITEDモデルは、当初、製品化する予定は無かったという。しかし、自身が掲げる「Vivid & Spacious」を体験できるオーディオが、就任当時は無かった事から、SX1に手を入れる形で、開発用リファレンスを4年前に作り始めたという。

サウンドマネージャー・山内慎一氏

その後、ディーアンドエムホールディングスの経営サイドに、「デノンブランドの目指す音」としてプレゼンする機会があり、その際も、山内氏には製品化するつもりはなかったが、その音を聴いた経営サイドがその音に感銘を受け、開発の継続を指示。幾度目かのプレゼンで、製品化が決定したという経緯がある。

デノンにおける通常の製品は、開発期間は1年ほどで、設計、試作、音質検討などを経て製品化するというスケジュール。パーツコストも当然、その製品を投入する価格レンジを踏まえて上限が決められており、その範囲の中で最高の製品になるよう手を尽くしていくのが普通だが、SX1 LIMITEDは、期間もコストも度外視。「Vivid & Spaciousの具現化」を追求して作られた、異色のモデルとなっている。

デノンサウンドマネージャー 山内慎一| Denon公式

37種類のカスタムコンデンサーを投入

プリメイン/SACDに共通する特徴として、使用しているコンデンサーを、山内氏が手掛けたオリジナルコンデンサー「S.Yコンデンサー」や、カスタムコンデンサーに変更している事。S.Yコンデンサーは7種類、NEシリーズの開発過程で作られたNEコンデンサー、カスタムコンデンサーは30種類あり、それらをカットアンドトライを繰り返しながら最適な場所に導入している。今回のSX1 LIMITEDのために開発されたコンデンサーも含まれている。

37種類のカスタムコンデンサーを投入

また、コンデンサーの中にはスリーブ(外装)を剥いて、中身がむき出しになっているものもある。これも、音質検討を繰り返した末にたどり着いたものだという。他にも、加熱工程における温度指定、プレス工程の圧力調整など、様々な経験とノウハウ、その差を聴き分ける感性によって作られたカスタムコンデンサーとなっている。

肌色のパーツが乱立しているが、これがスリーブ(外装)を剥いたコンデンサーだ

超々ジュラルミンによる新開発トップカバー&フット

トップカバーとフットの素材には、新たにA7075という超々ジュラルミンを採用。SX1 LIMITEDシリーズの開発にあたり、様々な素材で試作・試聴を繰り返した結果、パーツ単体の性能だけでなく、SX1 LIMITEDシリーズとのマッチングを吟味し、A7075が選ばれたという。

SACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」の天面
プリメインの天面
インシュレーターにも超々ジュラルミンを採用

A7075は、アルミに亜鉛とマグネシウムが添加された合金で、アルミ合金の中では強度に優れ、航空機や車両の部品にも使われている。なお、デザインを考慮して当初トップカバーはサンドブラスト加工をしていたが、ヘアライン加工を試したところ、サウンドステージの透明感やディテールの表現に優れていたため、最終的にはヘアライン加工仕上げとなっている。

なお、SX1 LIMITEDは福島県にあるデノンの白河工場で生産。ラインで流れながら作るのは困難なため、1人の工員が1台を生産していくセル方式を採用している。

PMA-SX1 LIMITED

定格出力は50W×2ch(8Ω)、最大出力は100W×2ch(4Ω)。全段バランス構成となっており、BTL接続により出力を得ている。スピーカーのプラス、マイナス両端子を、スピーカーのプラス、マイナス両端子をパワーアンプの出力段により直接駆動し、高いドライブ能力を発揮。スピーカーのドライブ電流がグラウンド回路に直接流れ込まないため、増幅の基準となるグラウンド電位が安定しノイズや回路間の干渉が低減され正確な増幅が行なえるという利点もある。

PMA-SX1 LIMITED

出力段は微小領域から大電流領域まで極めてリニアリティが優れるという「UHC-MOS」(Ultra High Current MOS)FETを用いたシングルプッシュプル構成。多数の素子を並列駆動して大電流を流す手法では素子の性能のバラツキが問題となる。そこで、1ペアという最小単位の素子による増幅を行なうもので、「POA-S1」の開発以来、「繊細さと力強さ」を高い次元で両立するためのデノンが磨き上げてきた伝統的な手法となる。

PMA-SX1 LIMITEDに搭載したUHC-MOS FETは、60Aの定格電流と、240Aの瞬時電流を誇り、余裕を持った再生が可能という。さらに、カスコードブートストラップ接続によりUHC-MOSのドレイン、ソース間電圧を一定に保ち、電圧に依存する増幅率(伝達アドミタンス特性)を安定化してアンプ回路全体の動作を安定させている。

また、スピーカーによる音楽再生を追求するために、プリアウト、トーンコントロール、バランスコントロール、ヘッドフォン出力を非搭載としている。音楽信号の経路となる内部配線は最短化し、OFC(無酸素銅線)を使用。信号伝送時のロスを排除している。ボタンやつまみなどの操作部や筐体デザインもシンプルに徹している。

MC/MMそれぞれに専用入力端子を備えたフォノイコライザーには、3個並列接続されたデュアルFET差動入力回路のヘッドアンプを備えたCR型イコライザー回路を搭載。NF型の課題である低域と高域での音色の違いが出ないフラットな再生が可能。

MC入力端子には入力インピーダンス切替も装備。「DL-103」に代表される中~高インピーダンスのカートリッジの他、海外ハイエンドブランドのカートリッジに代表される2~10Ω程度の低インピーダンスカートリッジにも対応できる入力インピーダンスとなる。

イコライザー回路はPhono入力を選択したときのみ電源が入る仕様。CD等を再生する場合には、電源がOFFになり他の回路への影響を最小限に抑えるようにしている。

バランス、アンバランスどちらの入力信号も変換回路を用いずにダイレクトにバランス構成の電圧増幅段に入力されるバランスダイレクト設計。インバーテッドΣバランス回路は低歪率、高SN比を実現。バランスアンプながら、シンプル、ストレートな信号経路を実現したという。

様々な入力機器へ対応するため、極性切替スイッチ付のバランス入力端子を装備。国産製品に多い3番HOTにも、輸入製品に多い2番HOTにもリアパネルのスイッチを切替えるだけで対応できる。

フロントスピーカーの共用など、ホームシアターシステムとの併用に便利なゲイン固定入力「EXT. PRE」入力端子を装備。AVアンプなどのプリアウト出力と接続し、SX1 LIMITEDをパワーアンプとして使える。

大型の電源トランスを搭載。出力段用と電圧増幅段用には、何度も試作を繰り返して吟味したという低倍率箔使用の高音質カスタムブロック型コンデンサーをそれぞれ採用。トランスの専用捲き線から独立電源として供給され、アンプ回路の要求する汚れのないクリーンな電流を十分に流せる強力な電源回路だという。

電源トランスの不要振動や発生するノイズに対処するため、従来のSシリーズ同様砂型アルミ鋳物のケースに特殊樹脂を充填。電源トランスから発生する振動を排除、また入念な磁気シールドによって漏洩磁束に起因する筐体内のノイズを抑制。クリーンな電源供給を行なう。均一に余裕をもって巻かれた極太の巻き線を持つトランスにより、クリアで力強いサウンドを実現した。

入力端子は、バランス×1、アンバランス×5、Phono(MM)×1、Phono(MC)×1、EXT.PRE×1。出力はアナログのレコーダー×1。

外形寸法は434×504×181mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は29.5kg。消費電力は275W。

DCD-SX1 LIMITED

ドライブメカは「Advanced S.V.H. Mechanism」を採用。アルミ砂型鋳物ベースやハイブリッド・メカリッド、アルミダイキャスト・トレイなど、各パーツをそれぞれの目的に沿った異なる素材で構成。重量増による制振性の向上や共振点の分散化で、高いレベルの制振性を実現している。

DCD-SX1 LIMITED
筐体にLIMITED EDITIONの文字

また、メカを低重心化することで、ディスクの回転により機械内部から生じる振動も低減。外部からの振動にも強い構造になっている。スピンドルシャフトを短くして、ディスクの回転ブレを低減している。

DCD-SX1 LIMITEDの内部

左右チャンネルそれぞれに、専用のDACチップを搭載。DACの電流出力を受けるI/V変換回路とポストフィルター回路はフルバランス構成。アンバランス出力回路についても、DACの差動出力を合成して出力する差動ドライブ構成としている。

オーディオ出力回路におけるコンデンサーと抵抗の約90%を変更するとともに、さらに高品位なオペアンプも活用。ローパスフィルターの定数変更も行ない、より広い空間と生々しい音像の表現力を高めた。

ビット拡張&データ補完によるアナログ波形再現技術「Advanced AL32 Processing」も搭載。16bitの音楽信号を32bit精度にアップコンバート処理するハイビット化処理に加え、時間軸方向の情報量を拡大するために44.1kHzの信号を16倍にアップサンプリング。単純な補間処理ではなく、連続的に変化する音楽信号から、本来のアナログ波形の再現を目指している。

Advanced AL32 Processingの効果を引き出すため、オリジナル技術の「DAC Master Clock Design」も採用。DACに供給するクロックの精度を最優先するために、DACのすぐ近くにクロックモジュールを配置。DACをマスターとして周辺回路へクロック供給を行なうことで、デジタル回路の高精度な動作をサポートしている。44.1kHz系と48kHz系の2系統のクロックモジュールも搭載。SX1 LIMITEDではさらにジッターを低減するため、超低位相ノイズの水晶発振器を新たに採用。10dBの位相ノイズ低減を実現している。

信号経路が最短になるよう、基板設計を行い、信号伝送時のロスを最小化。外部からの影響による音質劣化も防いでいる。

USB DACとしても動作。PCM 192kHz/24bit、DSD 5.6MHzまでに対応。PCM入力信号は、CDの音声と同様にAdvanced AL32 Processingにより、ハイビット&ハイサンプリング化される。また、PCから流入するノイズをカットするために、信号ラインを高速なデジタルアイソレーターで、さらにグラウンドもリレーによってPCとの電気的な結合を遮断する「PC Pure Direct」機能も搭載する。

電源部にはL.C.(Leakage Cancelling)マウント・ツイントランスを採用。磁界が逆向きになるように2つのトランスを取り付けることで、互いの漏洩磁束がキャンセルされる配置になっている。2つのトランスは、デジタル回路用とアナログ回路用に使い分けることで、相互干渉やノイズの回り込みを排除した。

ディスクの回転や電源トランスにより発生する内部の振動、スピーカーの音圧による空気振動がもたらす音楽信号の劣化。これらを防ぎ、繊細な音楽信号を守るために、振動抑止構造の「ダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクション」を採用。振動体でもある電源トランスをフットの間近に配置し、振動を直接グラウンドへと逃がし、周辺回路への不要な振動の伝搬を防止。大きな質量を持つドライブ・メカをシャーシ中央の低い位置に配置。ディスクの回転による内部的な振動や外部から受ける振動にも強い構造としている。ボトムには3枚のスチールプレートを追加した。

アナログ音声出力は、XLRバランス×1、RCAアンバランス×1。デジタル出力は同軸デジタル×1、光デジタル×1。デジタル入力は、PC入力用のUSB-B、USBメモリーなどを接続するためのUSB-A、同軸デジタル×1、光デジタル×1を搭載する。

消費電力は39W。外形寸法と重量は、434×406×149mm(幅×奥行き×高さ)で、23.5kg。

DCD-SX1 LIMITEDの背面

サウンドマネージャー・山内慎一氏

サウンドマネージャーに山内氏が就任してから、デノンのサウンドは変化した。AV Watchではこれまでも、NEシリーズなどの製品で、その変化を確認。デノンの目指すサウンドを山内氏にインタビューしたり、山内氏が日々サウンドを磨きあげている試聴室で、その音を試聴し、インプレッションも掲載してきた。

それゆえ、山内氏が掲げる「Vivid & Spacious」がどんなサウンドなのか、少しは理解していると考えていたが、「PMA-SX1 LIMITED」と「DCD-SX1 LIMITED」を組み合わせたサウンドが出た瞬間、予想を大幅に超える、次元の違うサウンドに驚くを通り越してあっけにとられた。

「Vivid & Spacious」なサウンドの特徴は、音場の広がりに制限がなく、部屋の壁が無くなったように広大な音場が目の前に出現。そこに、1つ1つの音がストレスなく、生き生きと踊り出すように展開するのが特徴だ。

しかしSX1 LIMITEDペアのサウンドは、展開する音の世界が“目の前”を通り越して、聴いている自分の足元や、その背後にまでおよぶ。試聴室の床の壁も消えたような感覚で、まるで椅子だけ空中に浮かんで、ステージ上のミュージシャン達の中に放り込まれたような浮遊感すら感じる。とてもステレオ再生とは思えない世界に驚かされる。

低域は深くまで沈み、それでいて押し出しの強いパワフルさは失っておらず、体の中心までズドンズドンと打ち込まれるような音圧の強さにも圧倒される。それでいて、音はダンゴにならず、描写は細かく、繊細さとパワフルさという相反する要素が同居している。

オーディオ的に表現すると、SNが良く、クリアで、レンジが広く、低域の分解能も高い……といった説明になるのだが、もはやそういう個別の要素が頭から消え去り、それを超えた向こう側の音を聴いている感覚だ。

「行儀よく椅子に座って音楽を聴いている」というよりも、音に体を包まれ、撃ち抜かれ、つい足や上半身がビートに合わせて動いてしまう。傍観者でいられない、強制的に参加させられるような音だ。

ハイエンドのオーディオ機器は、メーカーや手掛けた人の思想が色濃く反映される製品もあり、それらは抗いがたい魅惑的な音を出す。SX1 LIMITEDペアも間違いなくそうした一面があるが、かといって、何かの“味”や“色”をつけた音もない。音の開放感、ナチュラルさを追求し、1つ1つの音の躍動感を高め、音楽を生き生きと再生する方向で、1つの壁を打ち破ったサウンドと感じる。これは間違いなく、一聴の価値アリだ。

約4年の歳月を費やしたモデルだが、山内氏は「順調に仕上がったわけではなく、最後の仕上げ段階はかなり苦しい時期が続きました」と笑う。「SX1をベースに開発してはいますが、中身としては“デノンの音”をゼロベースで再構築したように思っています。3月から6月頃にかけては、缶詰状態でやってきましたので、目標を達成でき、出来上がった時には嬉しさよりもホッとした虚脱感に包まれました」。

「完成してから、社内外の人達にも聴いていただき、『国産機の枠からだいぶ離れた音』『立体感や奥行きが段違い』『SX1 LIMITEDのペアで1+1=2ではなく、5にも、6にもなる組み合わせ』『SNやダイナミックレンジなど、その先を体験できる音』など、嬉しい感想もいただいています。私としては、音楽を聴いて、何よりもその美しさが楽しめる、そして、それを超えたスリルのようなものも感じられる、そんなモデルを作りたいと、思い続けながら開発してきました。SX1 LIMITEDでしか得られない、究極のデノンサウンドを楽しんでいただければ」。