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話題の高音質配信や本格プレーヤー、ポータブルまで。山之内×本田対談【'19冬 音響編】

オーディオ&ビジュアル評論家・山之内正氏と本田雅一氏が、注目製品や動向について語る業界対談の2019年下半期編。山之内氏が上半期の対談時に挙げていたアクティブスピーカーの注目機から、ハイエンドのアンプ機器、ウォークマンやヘッドフォンなどポータブル機器まで、様々な話題について意見が交わされた。さらに、今年のトピックで欠かせない“高音質音楽配信サービス”についても語られた。

山之内正氏(左)、本田雅一氏(右)

“オーディオの複合化”を象徴するテクニクスSACDプレーヤー登場

──今年のAVアンプはフルサイズのものがあまり発表されず、薄型モデルが目立った印象でした。

山之内:リビングにも置けるスリムな製品がもっとたくさん出てきて欲しいですね。マルチチャンネル対応ではないですが、マランツからHDMI端子を積んだプリメインアンプのNR-1200が発売されました。この製品はテレビを含む映像機器の音声を質の高いステレオ音声で聴きたいという声に応えたものですね。BDレコーダー、ゲーム機、ストリーミングデバイスなど、HDMIでつなぐ機器が増えているので、大型のAVアンプより手軽に使えるプリメインアンプは大歓迎。本当はもっと早く発売して欲しかったですね。

本田:どうしてもAVアンプは機能指向になりがちなんですよね。もちろん、そうした要素も必要ですが、もっと手軽なところから始められるといいんですけどね。前回の対談で触れたSonos AmpやSonos Beamはステレオから始めて、最終的にはSonos Oneを追加していくことでワイヤレスのマルチチャンネルにもできますが、HDMI入力がARCのみしか受けられないんですよ。ファームウェアのアップデートなりでプレーヤーやレコーダーの音も出せれば、手軽なスタート地点になるんですけどね。

山之内:LINNのSelekt DSMも標準のHDMIはARCだけどオプションボードを追加するとHDMI入力を拡張できます。LINNはKIKOから積んでいたのでHDMI対応は早かったですね。

山之内正氏

本田:ところで、オーディオ機器の複合化が進んでいますよね。これまでのコンポーネントの枠組みが必ずしも当てはまらない。ディスクプレーヤーだけどネットワーク再生ができるとか、ネットワークプレーヤーだけどアンプが入っているものも出てきました。どの機能がプライマリで、どちらがセカンダリなのか分からないほど。複数の機能が様々な形で融合してきていますね。

山之内:テクニクスのSACDプレーヤー「SL-G700」はその代表的な製品で、SACD/CD再生とネットワーク再生を組み合わせ、MQAやストリーミング再生まで対応した多機能な複合モデルです。28万円という価格は複合機であることを考えるとリーズナブルで、特に良いディスクプレーヤーが欲しい人は選択肢に入れておきたいですね。

テクニクス初のSACDプレーヤー「SL-G700」

本田:テクニクスがSACD対応プレーヤーを出すことに大きなインパクトがありますね。ついにそういう時代が来たかと。しかもディスクプレーヤーとして、価格を考えるととても品位が高い。DVDオーディオを主導していたパナソニックが、やっと対応というところに時代を感じます。

山之内:SACDの登場からちょうど20年経っています。もっと早く対応して欲しかったというのが正直な感想です。

大注目アクティブスピーカーのソニー「SA-Z1」

山之内:ソニーは今年もIFAのタイミングでオーディオの新製品を複数発表しました。一番の話題作はシグネチャーシリーズの新製品としてドイツで披露されたアクティブスピーカーのSA-Z1(日本未発表)ですね。ニアフィールド・パワード・スピーカーというコンセプトが面白いし、実際にそこから出てくる音には驚かされます。良質なヘッドフォンの音がスピーカーから出てくるような、緻密でしかも広がりのある音です。ニアフィールドを前提にしているから、サービスエリアは広くないけど、集中してリアルな音に浸りたい人はぜひ一度聴いてみて欲しいですね。

ソニーのニアフィールド用アクティブスピーカー「SA-Z1」

本田:確かに驚きました。ニアフィールドを前提にした設計で、クロストークが少なく音場の立体感が凄い。スピーカーに近付いても音像がぼやけないよう、同軸設計で仕上げるなど、近距離リスニングを前提に設計していますね。しかも、机の上にベタ置きにして、壁に近くても音が乱れないように作ったということです。奥行きが凄く出て、前後の見通しがいい。感動しました。

本田雅一氏

山之内:ヴォーカルの音像が全くにじまないのが嬉しいですね。

本田:ヘッドフォン好きな人は、映像で言うと毛穴まで見えるような解像力を求めますが、まさにそんな音が、立体的な音場を生み出すスピーカーでも楽しめてしまう。リスニングルームの音響にも影響を受けにくいため、部屋の音響条件をチューンしなくとも良い音が楽しめる。そんなことを考えれば、7,000ユーロという価格は安いですね。

山之内:少しグレードの高いDAC、アンプ、スピーカーを組み合わせればこのくらいの価格はすぐ超えてしまうけど、それでここまでの音が出るかというと、まず無理です。SA-Z1はパソコンまたはウォークマンをつなぐだけで音が出る手軽さもあります。

高音質ストリーミングのAmazon Music HDとmora qualitas

山之内:ストリーミングの新しい動きに注目しています。ハイレゾとロスレスのサブスクリプションが、9月にAmazon Music HD、11月にmora qualitasと相次いでスタートしました。実際に使ってみるとどちらのサービスにも課題はあるものの、これまでと違うリスニングスタイルが広がりそうですね。

Amazon Music HD
mora qualitas

本田:Amazon Music HDは海外のハイレゾストリーミングサービス(日本は未サービスのTIDALなど)と比べて、まだハイレゾ楽曲の比率はやや低めですね。もうすこし充実してくれるとうれしいのですが。

山之内:海外のサービスは邦楽の配信曲数が少ないから、どちらを選ぶということではなく、相互に音源の充実という点でまだ不満はありますね。

本田:邦楽を除くとハイレゾ音源の充実度についてはQobuz(日本未サービス)が強いものもありますね。あのレベルにまで行なってくれるとうれしいのですが。

山之内:mora qualitasは同じFLACでもサンプリング周波数の上限が96kHzだったり、音源の絶対数がまだ少ないなど、数字で比べるとAmazon Music HDほどのインパクトはありません。いまのところパソコンでしか再生できない点も残念です。ただし、専用アプリに排他モードがあり、パソコンで再生する場合の音質メリットは大きいです。実際に使ってみると関連アーティストの情報が充実している点など、工夫されている部分もあります。

mora qualitasの画面

Amazon Music HDはHEOS対応に対応したデノン&マランツのオーディオ機器でも使えるし、スマホのアプリもあるので幅広く使えますが、mora qualitasに比べるとHi-Fi志向は強くないです。

本田:オーディオ機器で使うスタイルを含めるとAmazon Music HDの可能性は大きいですよね。現在はSONOS Ampが対応していますが、LINNも近い将来の対応を表明しています。

山之内:Kazooでの対応ではなく、新しい再生アプリで実現するようですね。TIDALやQobuzと同じようにAmazon Music HDがメニューに並ぶとすれば、使い勝手も期待できますね。

本田:私はLINNのKlimax DSMユーザーですから、Amazon Music HDに対応したなら、きっとTIDALから乗り換えるでしょうね。

山之内:LINNのユーザーが受ける恩恵は大きいでしょう。一方、mora qualitasで同じことが実現できるのかは、まだ明らかになっていません。LINNもmoraも対応を望んでいますが、準備には時間がかかるかもしれません。

本田:コアなオーディオファン向けのネットワークオーディオ文化は、小さいながらもLINNがメーカーとして牽引してきましたからね。ひとつのリファレンスとして、動向は注目されます。

山之内:ハイレゾやロスレスの定額制ストリーミングを良い音で楽しむためには、スイッチングハブやルーターなど、周辺機器についてもこれを機に見直すことをお薦めします。ローカルでの再生でもハブを使ってオーディオ系を他と分けることで音が良くなりますが、ストリーミングではさらに大きな効果が得られることがあります。たとえばルーターについても以前のものをずっと使い続けているような場合は、新調することで安定性や音質が向上するかもしれない。具体的な例としては、DELAが発売したオーディオ用のスイッチングハブ「S100」(直販151,800円/税込)の音質改善効果が大きいです。なぜハブがこの値段と思うかもしれないけど、実際に音はかなり良くなります。

本田:実際安いハブとかでも、ノイズフィルタ付きLANケーブルとかアダプタとか、4ポートとか小さいものでプレーヤー専用に使い分けると音が全然違いますね。ボックスの中でノイズ管理すると全然違う。

山之内:S100は筐体もしっかりしているし、ノイズ対策も念入りに行なわれています。ハブと考えると高価格だけど、オーディオ機器の一つと思えばいいんですよ。RoonでTIDALを聴いているとき、ときどき不安定だった現象をルーター変えただけで一掃できた経験もあります。

LINNからワイヤレススピーカー登場

山之内:LINNが新しいワイヤレススピーカー「シリーズ3」を'20年1月に出しますね。オーディオ製品に見えないデザインが新鮮だし、1個での単独再生だけでなく、2台つないでステレオでも再生できるコンセプトも面白い。

LINN「シリーズ3」

本田:登場するとは聞いていましたが、想像よりもかなり高価でしたね。もちろん、その分、音質面ではとても優れています。

山之内:1台で使うときのマスタースピーカー(301)は税別58万円、追加してステレオ再生を実現する「パートナースピーカー(302)」は税別48万円。マスター機はDSMの機能を内蔵しているので単純なワイヤレススピーカーとは違うし、W-FiとBluetooth以外にExakt Link、HDMIも付いています。リンが作ったひと味違う高級ワイヤレススピーカーという位置付けですね。

本田:新しくなった音場補正(アカウントスペースオプティマイゼーション)もちゃんと測ってやってみたら、とても効果的なんですよね。入力は複雑なのですが効果は抜群。部屋の形状や壁の素材から適切な補正をしてくれます。シリーズ3でももちろん利用できます。

山之内:低音に焦点を合わせて定在波を抑えるフィルターだけど、部屋の形状や入力できるパラメーターが増えたので精度が上がっています。多くの部屋で、この対策がとても良い結果をもたらしますね。

デノン「PMA-SX1 LIMITED」などハイエンドにも注目機

山之内:ハイエンドの製品になりますが、デノンがプリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」と、SACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」を出したことも話題になりましたね。サウンドマネージャーの山内さんが音質評価のリファレンス用に一人で作り始めた試作機が原点という、珍しい経緯で誕生しました。価格もそれなりに高く、限定仕様ですが、どちらも非常に高く評価されています。ベースモデルからの改良にまるまる4年かけたそうで、それだけ手をかけるとオーディオ機器の音はここまで行き着くという見本ですね。

左がプリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」、右がSACDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」

本田:デノンの音はここ数年で本当に変化しました。山内さんは前任者と好みが異なるだけではなく、音のチューニングに対するアプローチも違い、つくづくセンスがいいと感じていました。本人は極めて控えめで、あまり感情を出さないタイプだけど製品に対して情熱はものすごい。

山之内:70万円台というとハイエンドの入口あたりだけど、長く使い続けるつもりならこのグレードの製品を選ぶのはありだと思います。デザインはそっけないほどシンプルだけど、音の質感は非常に高いです。

本田:デノンもマランツもサウンドマネージャーが個性派で、こだわりを持っているから、製品が面白くなるんでしょうね。

山之内:海外ブランドにはそんな例が多いけど、日本の他のメーカーもそこを目指して欲しいですね。

本田:サウンドマネージャーの存在は、実は製品に関してはとても大きいんですよね。複合機が増えているという話をしましたが、実はすべての入力経路についてチューニングが完璧に入っているかというと実は違う。このあたりの事情は購入する側がとても気になるところでしょう。

例えば先ほど話題になったテクニクスのSACDプレーヤーはディスク再生の音はものすごくいいのに、ネットワーク経由の音はそこまでには達していない。

理由はネットワークオーディオ機能を実現するためのコントローラチップを1個、メインのシステムとは別に搭載しているから。メインのシステムとは異なるコントローラからの音までは追い込めていないということだと思います。これは価格を考えれば仕方がないでしょう。

確かマランツのネットワーク再生機能を持つ製品で同じインプレッションを話したところ、USB DAC部分のコントローラに徹底的にアイソレーター(電気的にノイズなどの影響を分離する素子)を入れ、USB DACの部分に集中して音質を高めたと話していました。

山之内:マランツのネットワークプレーヤー/USB-DACの話でしょうね、それは。それだけネットワークオーディオのノイズ対策は非常に難しいということですよね。

本田:僕は試聴するときには、複数の音源ソースに対応している場合は必ず、そのすべてを聴きます。機能ごとに音が全然違うことありますからね。確かに複合機は便利なのですが、その製品がどの再生機能を主に製品を作り込んでいるかはよくよく考えた方がいいでしょう。テクニクスの例でいえば、ディスク再生が目的で購入するならとてもコストパフォーマンスがいいですね。その上で、プラスαでネットワーク再生機能もある。

実はチューニングって、入力端子ごとに行なわれているものですから、AVアンプなどだとHDMIとS/PDIF(光/同軸デジタル)、アナログ入力など、端子の種類ごとにも音が揃っていない場合もありますからね。ハイエンドだと揃えられていますが、低価格になるほど“想定ユーザーが使うであろう端子”でチューニングしている。だから聴き比べが必要になる。

山之内:複数の機能をすべて確認するのは鉄則ですね。

発売を控えているラックスマンの「D-10X」は同社の新しいフラッグシップ機で、USB入力やMQA対応など機能も豊富ですが、それに加えてロームのハイエンドDACを初めて搭載したことが注目に値します。ハイエンドで高評価の旭化成に加えて日本メーカーのDACが広がると、デジタルオーディオで個性を発揮する機会が増えそうで、楽しみですね。D-10Xは開発中の音しか聴いてないけど、かなり期待できそうな音が出ていました。

ラックスマンの新フラッグシップSACD/CDプレーヤー「D-10X」

イヤフォン/ヘッドフォン選びのポイント

本田:ポータブルは、イヤフォンのワイヤレス化が一層進んできていますね。でも、ワイヤレス製品って、実はハイエンドが存在しないというか、商品として企画できない。なぜなら内蔵電池がいずれはダメになってしまいますから。ワイヤードでハイエンド機が存在できるのは、ケーブル断線などに対応すれば、かなり長期間パフォーマンスを維持できるからです。その中で、どうやって高音質のワイヤレスイヤフォンを企画するのか? は、メーカーごとの創意工夫になってきます。

そうした意味では、Noble AudioのFALCONは上手に割り切っています。完全ワイヤレスイヤフォン(TWS)を実現するためのチップは、実は上位モデルはほとんどがクアルコム製で、この製品もQCC3020を搭載しています。同クラスの製品は数多くあるんですが、さすがに10万円オーバーのハイエンドイヤフォンも出しているメーカーらしく、新規開発のドライバーユニットを使ってうまくチューニングしてるんですよ。これが2万切って買えるのならお得だと思いました。同クラスの製品の中ではバツグンですね。

Noble Audio「FALCON」

ノイズキャンセル機能付きなら、ソニーのWF-1000XM3、アップルのAirPods Proなどが選択肢に入りますが、ノイズキャンセル機能は音を悪くする方向に働きますから、電車内での利用などノイズキャンセリングメインで使うわけでないなら、コストパフォーマンスで積極的に選びたい。イヤーチップのフィッティングも良好です。

山之内:イヤフォンならば、ワイヤレスでもノイズキャンセリングでもないけど、テクニクスの「EAH-TZ700」が良いですね(税別12万円)。10mmのシングルドライバーに磁性流体を導入するなど、技術的にもテクニクスらしさがあります。

テクニクス「EAH-TZ700」

本田:今の10万円クラスだと、国産ではオーディオテクニカ、JVC、テクニクスの3ブランドが素晴らしい出来具合。JVCのFW10000はボーカルを艶やかに聴かせてくれる、オーテクのIEX1はインイヤーなのに閉塞感なく、大きな音場でゆったり聴ける。

そうした中でテクニクスはダイナミック型だからこその低音の豊かさ、エアボリュームの大きさや弾力感、張りのある中域が魅力なだけではなく、BA(バランスド・アーマチュア)ドライバーのような繊細で細かな質感表現も両立している。BAの神経質な広域ではなく、細かい音まで聴こえる表現力がありながらもダイナミック型のナチュラルな風合いを持っていて、まったく新しい高音質イヤフォンの世界を創り出しました。磁性流体を用いた自社開発ドライバーが、すべての良さにつながっていますね。ダイナミック+BAのハイブリッド型ドライバーだと高域低域の質感が揃いにくいですが、シングルドライバーで広帯域を実現しているので全帯域で音質が揃っている。

山之内:磁性流体でダイアフラムを支え、スムースにピストニックモーションをもたらすこの製品の技術を、もっと大きなドライバーに導入できるかどうか聞いてみたら、今の段階では難しいとのことでしたね。磁性流体が漏れたりする可能性もあるのでしょう。

本田:ドライバーが小さいから成り立つということですね。ただ、イヤーピースのフィット感は気になりました。サードパーティが出してくる可能性もありますが、ここまでの製品を創り上げたのですから、パナソニック自身が改良としてオプションで構わないので供給してほしいですね。

山之内:デザインもあと一工夫欲しいかな、価格なりの質感がいまひとつ伝わらないというか、素っ気ないというか。テクニクスらしいとも言えますが……。

ウォークマンもついにストリーミング対応

山之内:ソニーのウォークマンに新しいシリーズ展開でNW-A100、NW-ZX500が加わりました。Androd対応になって、ストリーミングにも対応したことが新しいですね。

NW-A100
NW-ZX500

本田:本体だけでストリーミング音楽を再生可能になったため、Bluetoothレシーバー機能がなくなったのは少し残念ですが、Androidを採用しながら独自OSだった従来と同等の音質を実現している点は評価できますね。

ところで、今のワイヤレストレンドを考えると、いくら音質重視で自宅ではワイヤードといっても、出先ではワイヤレスがいいって人は多いと思うんですよ。そういう意味では、テクニクスはせっかくあんなに素晴らしいイヤフォンを作ったのだから、ワイヤレスのレシーバーアンプ作れば面白いと思うんですけどね。

Bluetoothの音はSBC、AAC、aptX、LDACとコーデックによって音が違いますが、LDACは採用機種が少ないですし、aptXはHDも含めて意外に歪みっぽさが気になるときもあります。AACはベストの機種だと音が結構いいんですが、スマホのメーカーによっては音が悪いものがあります。AACへのエンコードの質が違うんですよ。

山之内:一番いいのはどこですか?

本田:アップルですね。周波数特性を見ると一発で分かります。メーカーによっては16kHz以上はレスポンスしない。そんなわけで、テクニクスに限ったわけではないですが、ワイヤレスでも可能な限り高い音質で聴けるよう、どのコーデックを使って繋ぐのかを明示的に選べるようなレシーバーアンプがあれば、高級・高音質なワイヤードイヤフォンが活躍するチャンスも増えるのになと。

ところで、話を戻しますが、ウォークマンの40周年記念モデル(NW-A100TPS/受注終了)も、なかなか楽しい製品でしたね。

山之内:ウォークマン誕生40周年を記念してカセットテープの再生画面を表示する機能を載せましたね。これはなかなか面白い。最初はなんでと思ったけど、曲名をラベルに表示させるとか、細かい工夫もしていて、僕らの世代として嬉しい機能ですね。一号機にそっくりのケースを出したり、琴線に触れる仕掛けが用意されています。

ウォークマン40周年モデル

本田:ZX500用ケースも作って欲しいですね、出来れば黒金のカラーリングでね。メタル対応のウォークマンプロフェッショナルを思い出させるような外装。ちょっとノスタルジーに過ぎるかも知れませんが、趣味の製品なのだから遊んでもいい。

山之内:ZX500はDSDのネイティブ再生(最大11.2MHz)や384kHz/32bitのWAV再生など、ハイレゾ再生についても進化していて、実際に音質が優れていることも確認できました。

本田:ZX300はWM1Z系統のS/Nの良さを活かして、ふんわりと音場を丁寧に描いたことが好感でした。WM1Aが、作り込んだWM1Zに対してコストダウンして現実的な価格へとアレンジした製品という印象だったのに対して、ZX300はWM1Zというリファレンスをより低価格に実現するために再構築したというイメージ。だから誰にでもお勧めできた。そのZX300とZX500の音がほとんど変わらないのはすごいことですよ。Androidという汎用OSで音を真面目に管理するのは大変だけど、それをやってのけている。もちろん、ウォークマンの専用アプリじゃないとあの音が出ませんから、通常のストリーミングサービス用アプリでは少しだけ音質が落ちるんですが、それでも専用にドライバーを書いてDSEE HXの効果は利用できるように工夫しています。

山之内:バッテリー時間が少しだけ短くなったり、端子形状が変わったり、細かい変化が気になる人もいるかもしれません。

本田:そうですね。ストリーミングが不要、あるいはBluetoothレシーバ機能経由でスマホからでいいやってことなら、ZX300がいいという人もいるでしょう。バッテリーに関しては、DSEE HXのオンオフを手軽にできるように、もっと上のメニューに持ってくれるといいですね。出先ではDSEE HXがあってもなくても、周囲がうるさくてあまり関係ない場合もあるので。

ピックアップ製品&サービス(山之内)

マランツ NR1200
5系統のHDMI端子を搭載したスリム設計のプリメインアンプ。ネットワーク再生やストリーミングにも対応し、アンプ一台で映像ソースを含む大半のデジタル音源を楽しめる。ハイファイ製品ならではの質感の高い再生音を堅持。
NR1200
テクニクス SL-G700
新譜だけでなくリマスタ盤でもSACDの再評価が進むなか、ミドルクラスに信頼性の高い製品を投入した意味は大きい。ストリーミングなどネットワーク再生を含むデジタル音源を一台で幅広く再生でき、MQA-CDの再生音も質が高い。
ソニー SA-Z1(日本未発表)
シグネチャーシリーズの最新モデルとした開発されたニアフィールド・パワード・スピーカー。D.A.ハイブリッドアンプや時間軸を精密に合わせるデジタル処理などの最先端エレクトロニクスに加え、同軸配置の精度を飛躍的に向上させるなど物理的な工夫を盛り込み、これまで聴いたことのないリアルなスピーカー再生を実現している。
デノン DCD-SX1 Limited/PMA-SX1 Limited
それぞれの機種についてベースモデル(DCD-SX1/PMA-SX1)の部品400点以上をオリジナルパーツなどに変更し、筐体の素材も一部見直すことで音質を徹底的にブラッシュアップ。デノン伝統のサウンドを継承しつつ、サウンドマネージャーが目指す理想の音に近付けた注目作。
テクニクス EAH-TZ700
新生テクニクスブランドでのイヤフォンは本機が初めての製品となる。スピーカーユニットの開発で蓄積した素材のノウハウと磁性流体技術をイヤフォンに活かし、シングルドライバーならではの良さを引き出すことに成功している。
mora qualitas
ハイファイリスナーをターゲットに絞り、排他モードなど高音質再生を実現する機能をサポートしたハイレゾ&ロスレスの定額制配信サービス。Amazon Music HDなど他の高音質配信と同じ音源を聴き比べても明らかに音質メリットがある。オフライン再生機能を持つスマホ再生アプリは現在準備中。

ピックアップ製品&サービス(本田)

LINN シリーズ3
LINN初のワイヤレススピーカー。その特徴的なデザインに対し、やや懐疑的な感想も持っていたのだが、鳴らしてみるとこれが素晴らしい。来年1月発売予定ながら、筆者宅で一足先に試させて頂いたのだが、モノラル使いでも充分なボリューム感ですばらしいBGMを奏でてくれる。ステレオ使いなら本格的なオーディオシステムにも。'20年春までにはAmazon Music HDにも対応とのこと。TIDAL、Qobuz、Calm Radioなどにも対応する。
ソニー SA-Z1(日本未発表)
体験した直後に「これは安い! 」と思わず声を上げた。ニアフィールド・パワード・スピーカーは、これまでヘッドフォンアンプに留まっていたD.A.ハイブリッドアンプをスピーカー駆動に応用。アナログアンプのS/Nの良さに加え、デジタル駆動の瞬発力も兼ね備える。最先端のデジタル処理と緻密なスピーカー設計、ルーム音響に影響されにくい設置自由度の高さで、誰でも、どんな部屋でもハイエンドのスピーカー再生を望める。「安い!」と思わず声を上げたのは、部屋のチューニングというもっとも大きなハードルを越えやすいから。国内導入時には、是非ハイエンドのヘッドフォンファンに体験してほしい。
Noble Audio FALCON
クアルコムQCC3020採用機は1万5,000~2万5,000円の価格帯に集中。クアルコム採用モデルの魅力はaptX対応であること。なおTWSにはLDACやaptX HD対応機種は存在しないので、本機はTWSとしてはノイズキャンセリング機能以外はフルスペックということになる。同クラス製品では低価格な部類ながら、よく整った音質でバランス良く整った、しかし切れのある音が魅力。近日にはアプリを供給し、音質カスタマイズも可能になるとのことだ。
テクニクス EAH-TZ700
新生テクニクス初のイヤフォンは、その見た目のシンプルさからは想像できない素晴らしく上質で洗練された音。磁性流体を用いてダイアフラムを支え、ストレスなく細かな信号までを再生可能にすることで、BA並の情報量を引き出した。一方でダイナミック型故の豊かな音場も。シングルドライバーならではのまとまりの良さは、ハイブリッド型にはない魅力だ。
Amazon Music HD
海外ではすでに開始されていたAmazon Music HDがいよいよ国内でも。魅力はグローバルでのHD音楽配信のスタンダードのひとつになりそうなこと。スマホやパソコン経由ではなく、プレーヤーやネット対応アクティブスピーカーが直接的にストリーム再生できるようになっていく。すでに主要なサービスやデバイスの対応が進んでいるが、LINNがDSでサポート予定でHi-Fi業界にも拡がるのでは。Roonなどでの対応も検討には上がっているようだ。対応環境の幅広さに期待したい。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。

本田 雅一

テクノロジー、ネットトレンドなどの取材記事・コラムを執筆するほか、AV製品は多くのメーカー、ジャンルを網羅的に評論。経済誌への市場分析、インタビュー記事も寄稿しているほか、YouTubeで寄稿した記事やネットトレンドなどについてわかりやすく解説するチャンネルも開設。 メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。