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マランツ、潜在能力を限界まで引き出したSACD/プリメイン「SA-12/PM-12 OSE」。各35万円

マランツは、ハイエンドモデルに使っているコアテクノロジーを盛り込みながら価格を抑えたSACDプレーヤー「SA-12」、プリメインアンプ「PM-12」の後継機として、コアテクノロジーの音質を限界まで引き出したという「SA-12 OSE」、「PM-12 OSE」を2月下旬に発売する。価格は各35万円。従来モデルの各30万円から、5万円のアップとなる。なお、限定モデルではない。

左からSACDプレーヤー「SA-12 OSE」、プリメインアンプ「PM-12 OSE」

既発売のSACD「SA-12」は、マランツ独自のディスクリートDAC「Marantz Musical Mastering」を、プリメインアンプの「PM-12」はHYPEXのパワーアンプモジュール「NC500」を採用するなど、それぞれのモデルが、ハイエンド機で培ったコアテクノロジーを投入しながら、価格を各30万円に抑えた製品として、2018年に開発された。

価格を30万円に抑えるという目標で開発されたため、当時、パーツの選択においてはコストと性能のバランスを常に意識する必要があったという。

しかし、SA-12/PM-12に搭載したコアテクノロジーの音質的なポテンシャルは高く、企画・開発チームには「12シリーズというプラットフォームに秘められた潜在能力を限界まで引き出したい」という欲求が強く残っていたという。

そこで、コアテクノロジーの能力を引き出すために、SA-12/PM-12よりもコストをかけた日本国内専用モデルとして、今回の「SA-12 OSE/PM-12 OSE」という“Original Special Edition”が開発された。

左から「PM-12 OSE」、前モデルの「PM-12」
左から前モデルの「SA-12」、「SA-12 OSE」

“Original Special Edition”という名前だが限定モデルではなく、既存のSA-12/PM-12を置き換える後継モデルとなる。限定モデルとしないのは、通常モデルとして開発する事で、投入するハイグレードなパーツの発注数が増やせ、コストが下げられるという工夫でもある。そのため、価格としては各モデル5万円のアップとなるが、「音質的にはそれを価格差をさらに超えるクオリティアップになっている」(サウンドマネージャーの尾形好宣氏)という。

OSEは限定モデルではなく、通常モデルとして開発する事で、投入するハイグレードなパーツのコストを下げる狙いがある
OSEは“Original Special Edition”の頭文字

従来モデルとOSEモデルの大きな違いは筐体で、外装については上位の10シリーズと同様に、銅メッキシャーシを採用。「SN比の改善や、再生音の静けさなどに違いが出る」という。

天面のトップカバーも、従来のスチール製ではなく、5mm厚のアルミトップカバーを採用。「開発時は頻繁にパーツの交換をするため、トップカバーあけて開発している。その際、“いい音になったな”と思っても、カバーを閉じると音場の空間も閉じてしまい、“あれ!?”という事がある。そのため、なるべくトップカバーがない時のような音になるよう、広がりのある音のままになるカバーとして、アルミのトップカバーを採用している。鉄とアルミという素材の違いがあり、磁性体か、非磁性体かの違いが音に影響していると考えている」(尾形氏)とのこと。

脚部もハイグレードなパーツになっており、従来はアルミのダイキャスト製だったが、OSEではアルミ無垢材から削り出されたインシュレーターを採用している。

アルミトップカバーを採用。写真は「PM-12 OSE」
「SA-12 OSE」のアルミトップカバー
「PM-12 OSE」のフロントパネル
「SA-12 OSE」のフロントパネル
「PM-12 OSE」の背面。銅メッキシャーシになっている
「SA-12 OSE」の背面。こちらも銅メッキシャーシ
2機種の変更ポイント

これらはコストに大きく影響するパーツだが、音質面のメリットも非常に大きいため、OSEモデルではあえて採用したという。

内部回路のチューニングも変更。「電解コンデンサやフイルムコンデンサを変更すると、音がガラッと変わる。ただし、そうしたチューニングではなく、あくまで“12シリーズの音質傾向を変えることなくクオリティをアップさせる”事にこだわった。そこで、あえてコンデンサーは変更せず、抵抗をグレードの高い金属皮膜抵抗に置き換えた。これにより、S/N感の向上とより広い音場空間の再現を可能にした」(尾形氏)という。

変更点を解説するサウンドマネージャーの尾形好宣氏

SA-12 OSEの詳細

OSEとしてグレードアップした部分以外は、従来のSA-12と同じ。最大の特徴は、SA-10と同様に、汎用的なチップメーカーのDACを使わず、「Marantz Music Mastering」(通称MMM)と名付けたマランツ独自のDACを搭載している事。同社はドライブメカエンジンを自社で手掛け、デジタルフィルターも独自開発。DAC後段のアナログステージにも「HDAM」を使うなど、ディスクプレーヤーのほぼ全てのパートを自社で手がけているが、DACも自社開発する事で、全ステージをオリジナル技術で構成。理想の音を目指している。

ドライブメカエンジンには、SA-10と同じ「SACDM-3」を採用。ローディングメカ、デコーダ基板はSA-10のものとまったく同じで、高剛性のスチールシャーシや、アルミダイキャストトレー、アルミ押し出しのトレーカバーを採用。違いは、下部のベース部分で、SA-10は10mm厚のアルミ押し出しベースだが、SA-12 OSEは2mm厚の高剛性スチールベースになっている。

オリジナルDACは、元フィリップスでアプリケーションラボに所属し、DSPに関する高度なノウハウを持ち、現在はマランツのヨーロッパリージョンの音質担当者でもあるライナー・フィンク氏が開発したもの。

汎用的なDACは、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、DAC、I/Vコンバーターで構成される。MMMはこの中の、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、DACまでを内包した名称。

具体的には、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、I/F×2、DACで構成。MMMの中の前半部分、オーバーサンプリングデジタルフィルタ、ΔΣモジュレーター、1つ目のI/Fまでを「MMM-Stream」。後ろのI/F、DACを「MMM-Conversion」と名付けている。

MMMは、全てのデータをDSDにΔΣ変換して処理する。MMM-Stream内部のオーバーサンプリングデジタルフィルタとΔΣモジュレーターは、PCMデータ用のもの。入力されたPCMをDSDデータへと変換し、MMM-Conversionへと渡す役割を担う。DSDデータが入力された場合は、オーバーサンプリングデジタルフィルタとΔΣモジュレーターはスルー。その後のI/Fに直接入力する。PCMデータであってもDSDデータと全く同じD/A変換プロセスで再生できる。

これにより、後段のMMM-ConversionはシンプルなアナログフィルターのみでD/A変換できる。ディスクリートで構成しているため、音質に大きく影響するパーツを自由に選択でき、回路規模も自由に構成できるのが利点。

PCと接続するUSB端子からのノイズが、DACなどに影響しないように高速なデジタルアイソレータとリレーを使って、ノイズの回り込み、グラウンド電位の変動を排除する技術を、MMMでは内部に投入。MMM-StreamとMMM-Conversionの間に、デジタルアイソレータを投入。DAC内部でデジタル/アナログステージをアイソレーションして、高周波ノイズの流入を徹底的に排除した。信号ラインだけでなく、アースも分離。USB入力、光デジタル、同軸デジタル入力からの信号も、同様に処理する。「コンプリートアイソレーションシステム」と名付けられている。

クロック部分で、最新世代の超低位相雑音クリスタルを採用。SA-10はバランス出力を備え、全段バランス構成だが、SA-12 OSEはRCAのアンバランス出力のみ。アナログオーディオ回路は、独自のHDAMアンプモジュールを使ったフルディスクリート構成。DACのディファレンシャル出力を、初段はFET入力のHDAM-SA3バッファアンプ(兼1次ローパスフィルタ)で受け、次にHDAM-SA3電流帰還型差動アンプ(兼2次ローパスフィルタ)を経て出力する。

SACD、CDに加え、DVD-R/RW、DVD+R/RWやCD-R/RWに記録したMP3/WMA/AAC/WAV/FLAC/Apple Lossless/AIFF/DSDファイルの再生が可能(DSDはCD-R/RWでは非対応)。USB DAC機能も搭載し、DSDは11.2MHzまで、PCMは384kHz/32bitまでサポートする。

デジタル入力分を含む、デジタルオーディオ基板はシールドケースに封入し、高周波ノイズの輻射による音質への影響を防止。

USB-A端子もリアパネルに装備。USBメモリ内の音楽ファイル再生などに対応。同軸デジタル入力、光デジタル入力も各1系統用意。192kHz/24bitまでのPCMデータを入力できる。

電源トランスには、SA-10と同等のコアサイズを持つトロイダルコアトランスを採用。アンプに使えるほどの余裕があり、ゆとりのある電源供給が可能という。二次巻線は、アナログオーディオ回路、デジタルオーディオ回路、メカニズム、ディスプレイなど、それぞれに専用のものを使い、回路間の干渉を抑制した。

アナログオーディオ出力端子には、純銅削り出しのピンジャックを採用。一般的な端子に使われる真鍮に比べて硬度が低く、機械加工が難しい純銅のブロックから、熟練工が手作業で切削加工して作る特注品。

ヘッドフォン回路も充実。HDAM-SA2搭載のフルディスクリート電流帰還型アンプで、回路定数を見直し。さらなる音質チューニングを行なったという。3段階のゲイン切り替え機能や、ヘッドフォンアンプ回路自体のON/OFFも可能。

アナログ出力は、RCAアンバランス、ヘッドフォンを各1系統装備。デジタル出力は、同軸、光を各1系統装備する。入力は、同軸デジタル、光デジタル、USB-A、USB-Bを各1系統。リモートバス(RC-5)入出力も搭載。消費電力は47W。待機電力は0.3W以下。外形寸法は440×419×127mm(幅×奥行き×高さ)。重量は17.1kg。リモコンが付属する。

PM-12 OSE

PM-12 OSEの特徴は、パワーアンプのモジュールに、PM-10に搭載しているHypexのNCore NC500というスイッチングアンプモジュールを使っている事。マランツはかつてPhilipsの傘下だったが、当時Philipsのエンジニアが考えだしたSODA(ソーダ)というデジタルアンプの方式が、Hypexの製品のベースとなっており、マランツにとって馴染み深い方式でもある。

PM-12 OSE

PM-10とPM-12 OSEの違いとして、PM-10はバランス仕様のプリメインだが、PM-12 OSEはアンバランス仕様であり、PM-10は4基のNCoreモジュールをBTL構成で搭載していたが、PM-12 OSEは2基構成となり、専有スペースを削減している。なお、パワーアンプのモジュール自体はバランス入力用となっているため、PM-12では内部にアンバランスからバランスへの変換回路も搭載している。定格出力は200W×2ch(4Ω)。全高調波歪は0.005%。

パワーアンプモジュールを縦ではなく、横にして配置する事で高さを抑えている。さらに、パワーアンプモジュールとスピーカー端子の“ほぼ直結”も実現。通常、AV機器では個々のパーツや基板を内部配線で繋いでいる。しかし、配線する事で内部に接点とケーブルが増え、音質的な影響となる。そこを排除している。これにより、ダンピングファクターはPM-14S1の4倍以上、PM-10と比べても2倍ほどの数字で、スピーカー駆動力を劇的に向上させている。

独自の高速アンプモジュールであるHDAM-SA3を使った電流帰還型アンプに、JFET入力とDCサーボ回路を組み合わせた1段構成のプリアンプ回路を搭載している。

プリ部向けに専用の電源回路も搭載。パワーアンプによる電力消費量の変動に影響を受けない、安定した電源供給を可能とした。この電源部には、大容量のトロイダルコアトランスを使用。トランス外周には珪素鋼板と、スチールケースによる2重のシールドを施しており、漏洩磁束による周辺回路への影響も抑えている。

整流回路には、超低歪のショットキーバリアダイオードを採用。平滑回路には新開発のエルナー製カスタムブロックコンデンサを使い、高品位かつハイスピードな電源供給を可能としている。

ボリューム回路には、JRC製の最新型構成のボリュームコントロールICを採用。可聴帯域外まで優れた特性があり、機械式ボリュームでは構造上避けられない左右チャンネル間のクロストークや音量差が生じず、空間表現能力を向上させている。

加速度検出システムも備え、ゆっくりボリュームノブを回すと0.5dBステップで高精度に、素早く回すと素早く音量が変化する。

フォノイコライザは「Marantz Musical Premium Phono EQ」。20dBのゲインを持つMCヘッドアンプと、40dBのゲインを持つ無帰還型フォノイコライザーアンプの2段構成で、1段あたりのゲインを抑え、低歪を実現。音声信号が通過する経路は全てディスクリート回路で構成。JFET入力とDCサーボ回路の追加によってカップリングコンデンサを排除し、純度を損なわない増幅を可能にしている。

入力端子はRCAアンバランス×5、Phono×1、パワーアンプ入力×1。出力はRECアウト×2、ヘッドフォン×1。リモートバス入出力や、F.C.B.S.入出力も備えている。消費電力は130W、待機電力は0.2W。外形寸法は440×453×127mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は15.7kg。