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力士でドルビーアトモス!? 世界初の大相撲ドキュメントを観た
2020年10月30日 08:00
力士たちの生き様を描いた「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」が、10月30日より全国順次公開される。本作は大相撲を題材とした、世界初のエンターテイメント・ドキュメンタリーであることに加え、日本初の“Dolby Atmos(ドルビーアトモス)採用ドキュメンタリー映画”という野心作だ。
個人的には、“相撲×Atmos”はコレジャナイ感がハンパなく、「天気の子」とか「鬼滅」とか「エヴァ」とか、もっとAtmos映えする映画あるでしょ、とツッコミたいのは山々だ。
ただ以前、職場の相撲ファンから「取組の生音が凄まじい。一生に一度は国技館で見るべし」とアドバイスされたことを思い出した。確かに、力士と力士がバチコーンッ! と激しく戦う様をAtmosで体感したら、何かが花開くかも知れない……。
というわけで、都内で行なわれたAtmos試写に参加してみることにした。
「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」とは
「相撲道」は冒頭でも触れたとおり、国技である相撲を生業とする、現役力士達の生き様にスポットを当てたドキュメント作品だ。
制作陣は約半年間、境川部屋(東京・足立区)、そして髙田川部屋(東京・江東区)の2つの稽古場に密着。厳しい朝稽古や日常生活、親方や仲間達とのやりとり、そして本場所で闘う姿を追いかけ、歴史、文化、競技という、様々な視点で相撲の魅力を描いている。
劇中のインタビューでは、力士や関係者が「200キロある人がぶつかって、毎日が交通事故」、「相撲はスポーツではない、お相撲さんは武士」、「人生を懸けなきゃいけない」などと熱く語っていて、強靭な肉体と精神を求めて稽古に励む様子や、顔面同士がぶつかるガチの取組を大画面で見ていると、「相撲の世界を完全に舐めておりました!」と頭が下がるし、何だか胸が熱くなってくる。
メガホンを取ったのは、TBSテレビ「マツコの知らない世界」をはじめ、長年テレビの演出家として活躍し、本作が映画初監督作品となる坂田栄治氏。
試写会に登壇した坂田氏は「これまで培った人気番組の制作ノウハウを活かし、国技でありながら中々知ることができない相撲の裏側・魅力を映画で伝えたい、記録として残したいと思った。相撲の魅力は、NHKの中継だけでは描ききれない部分がたくさんある。会場の盛り上がりや歓声、稽古場や取組の際のリアルな音、そして力士の美しさを捉えた映像に注目して欲しい」と見どころを話す。
なお、本作のサウンドデザインは「ファイナルファンタジー」シリーズや「メタルギアソリッド4」、「ニーア・オートマタ」、「ドラゴンクエストXI」などの人気ゲームタイトルを担当し、国内で初めてDolby Atmosスタジオを立ち上げた、染谷和孝氏が手掛けている。
劇場がまるで国技館に。立体音響でライブ感アップ
試写は、都内にあるDolby Atmos劇場で行なわれた。座席数は約300で、スクリーン幅は約16mと少し大きめの箱。プロジェクターは見たところ2K解像度で、天井にはフチの部分をグリーンに電飾したAtmos用スピーカーが多数吊り下げられていた。
「相撲道」ではインタビュー含め、全てのロケでサラウンド収録をしたそうだが、Atmosの効果を顕著に感じることができるのは、国技館のシーンだ。
国技館玄関から土俵のある競技場へとカメラが進むオープニングでは、カメラがドアを抜けて場内が映るや、ワーッという歓声が全身を包み、まるで自身も場内に入ったような気分になる。
左右スピーカーのボリュームが上がったという単純なサラウンドではなく、天井で反響した歓声が上から降ってくる感覚や、観客が時々発するかけ声が埋もれることなく、あちこちから飛び込んでくる様は立体音響の効用で、さながらライブのような臨場感はさすがだ。稽古場のシーンでも、肌と肌がぶつかる音や力士の息づかい、すり足の音が生々しく、監督の言う“中継だけでは伝わらない相撲”の一面を味わわせてくれる。
面白いなと感じたのは、髙田川部屋のちゃんこ長が調理しているときの音。手慣れた手つきと包丁で食材をザクザクと裁く音が妙に立体的で、しかもビートを刻んでいるかのようにクリアで小気味良い。そこにグツグツと煮るちゃんこ鍋やハンバーグ、お好み焼きの美味そうな映像が被ってくるもんだから、見ているこちらの腹からも音が出そうになる。
サウンドデザインの染谷氏曰く「調理シーンにおいても音をいろいろと調整しています。あのような“しずる音”は結構重要なので、きちんと処理しているんですよ」とのこと。
ただ、少し残念だなと感じたのは、取組の映像・音声が思ったよりも少なかったことだ。
登場する力士達の多くが身長180cm・体重160キロオーバーという“モンスタースペック”なので「土俵の肉弾戦は、Atmosでゴリゴリにキメてくれるに違いない!」と鼻息荒く待機していたのだが、いざ始まるとかなりアッサリ味だった。
ともあれ、普段見ることができない力士達の表情や生活、心情を捉えた映像と音は貴重だ。本編時間は104分で、最初から最後までほぼ全編、オトコ、オトコ、オトコの力士だらけ。正確には、髙田川部屋の甘いマスクの力士・竜電の奥さんが多少長く映るけれど、本作ほど力士まみれになれる映画はそうそう無い。
相撲に疎い筆者でも楽しく見ることができたし、少なくとも相撲ファンであれば、力士達が躍動する姿を大きなスクリーンで見るだけで大満足するはずだ。
最後に衝撃的なお知らせとなるが、日本初のDolby Atmos採用ドキュメンタリー映画「相撲道」は10月29日現在、Dolby Atmos上映が決まっていない……。30日から公開されたTOHOシネマズ 錦糸町も、31日から公開予定のポレポレ東中野も、5.1chサラウンドでの公開となる。
立体音響の魅力や可能性を広く伝えるためにも、Atmos仕様で上映して欲しいとは思うが、今のタイミングではなかなか難しいのかも知れない。「相撲道」のAtmos音声は、配信やパッケージでの展開を期待したいところだ。
「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」作品概要
出演:境川部屋、髙田川部屋
語り:遠藤憲一
監督/製作総指揮:坂田栄治
プロデューサー:下條有紀/林貴恵
コーディネートプロデューサー/劇中画:琴剣淳弥
制作:PRUNE
制作協力:日本相撲協会、Country Office
製作:「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
配給協力:日活
2020年/カラー/シネマスコープ/5.1ch/104分