吉田伊織のA&V奥の細道
イヤフォンケーブルの長さ調整をする時に一工夫、コイル巻きの秘訣
2026年1月15日 08:00
有線イヤフォンは安くて音質がいい
いまやスマホに使うイヤフォンは無線型が主流であり、有線式イヤフォンを使っている人は少数派になりつつある。電車の中でもそんな趨勢は容易に見られるだろう。それはそうなのだけれど、音質については有線の利点は確かにあるし、まだその優位性は保っていると思う。
というのは、かなり低価格のイヤフォンでも音質がいいからだ。理由は簡単。能動電子回路が全く、あるいはほとんど介在しないからだ。無線式は近距離のデジタル伝送とはいえ複雑な電子回路を経由するし、高級品を使っていて“充電池の寿命が来たらどうする?”問題も切実だ。片方だけ紛失という悲劇もあるのだし。
そこで筆者は有線式を使っているのだが、付属のイヤフォンコードは長すぎるのが煩わしいことがある。メーカーとしては、立派な体格の人から「短すぎる」とクレームがつくのは避けたいわけで、小躯の使い手には長すぎることになる。
そこで几帳面な人は付属のイヤフォンコード用巻き枠(ケーブル長アジャスター)にきっちりとコイル巻きすることになるのだが、実は、それが音質を害することは案外知られていない。それについては誰でも簡単に検証することができる。
つまり、長さ調整用の巻き枠を使わないでコードをそのまま使ったときと、きちんとコイル巻きしたときとの音質の違いを確認すれば即座に正解は分かるだろう。あきらかにコイル巻きは音質上有害だ。チョイ聴きでは低音が強化されたようであっても、低音の表情が重くなり、繊細な表情や空間表現が乏しくなるのだ。ズングリとかダンゴ状とかいう言葉が当てはまる傾向だ。
そんなこと書いていると、「そりゃデリケートな音声信号が通るコードをコイル状に巻いたら音質を阻害するのは当たり前だろう!」と方々からお叱りの声が聞こえてきそうだ。でも、このコイル巻きの影響について事情はもう少し複雑だ。それはおいおい解題していこう。
筆者が使用しているイヤフォン「MDR-EX155」は、数年前にスーパーマーケットのレジ前にある生活小物の吊るし売りに紛れていたものだ。天下のソニーの人気モデルがどうしてここに、この値段で? と思うことしきりだったが、予告なきモデルチェンジとか製造拠点や流通体制の変更につき旧製品の在庫を処分したとか、色々考えられる。ともあれかなり低価格だったので入手した次第。
ソニーのイヤフォンは双葉より芳し
ソニーのイヤフォンにはラジオ少年時代の強烈な思い出があって、看過できなかったという購入動機もある。というのは、1965年頃に爆発的に売れまくったFM付き3バンドポータブルラジオ「TFM-110 ソリッドステート11」がなぜか家にあり、その高感度と短波のチューニング精度に驚きつつ、さらに感動したものがあったからだ。それが付属のマグネチック式イヤフォンだった。
マグネチックイヤフォンは、壺状磁石にボイスコイルを巻いたものの上に円盤状の鉄板を近接させて磁力の変化で鉄板を直接振動させる古い方式だ。たいていのメーカーのラジオに付属していたのは、鉄板の振動板がむき出しであり、キンキンと安っぽい音がしたものだ。
しかし当時のソニー製はテフロン膜に鉄板を挟んだものを採用して、長時間音楽鑑賞できる水準だったのだ。さらに耳孔に導く導音部分が柔らかいプラスチック製であり、しかも耳孔にねじ込むのではなく、耳たぶのくぼみに本体を置き、導音部分は耳孔に接するだけでいい。つまり長時間使っても皮膚がこすれて痛くなる心配がなかったのだ。
こういう付属品にまであか抜けたプロダクトデザインを与えたのは、当時のソニーが補聴器にも力を入れていたことと関係ありそうだ。小型で電池が長持ちするトランジスタ式補聴器は、自社製トランジスタの優位性を誇示する分野だったはずだ。
それにしても1965年当時に、これほど装着感に優れ、音質も上等なイヤフォンがソニーのラジオに付属していたとは驚きだ。当時のソニー製品は値付けが他社製品より高めだったが、それだけ充実した内容であったことは間違いない。「良いものは高い」ということには合理性がある、と子供ながら納得した次第。こういう認識は今でも継続している。
その当時の意匠を受け継いだテレビ用イヤフォンなどロングセラーだったが、今ではどうだろうか。最近の通販サイトで同じ外観のものを発見できるのだが、中身まで当時と同じかどうかは不明だ。ただ60年以上も前に、こういうエレガントな意匠を造形した開発陣の意欲には感服する。
音質を阻害しないコイル巻き!
では、音質を阻害しないでイヤフォンコードをきちんとコイル巻きする方法はあるのか? そう問われれば、無誘導巻きをお勧めする。
これは写真の通り、巻き枠の途中で巻きつける方向を反転させる方式だ。巻き枠の中央に切り欠きを設けているのは、反転巻きするためのとっかかりだ。
こうするのは、コイルが生じる磁束の方向を同軸上で逆にすることで磁気的な性質を打ち消す、つまりコイルとして働かなくするためだ。これを無誘導巻きといい、実は巻線抵抗の一種にこれそっくりの「無誘導巻き抵抗」というのがあるのだ。
そのものズバリの巻き線抵抗があるはずなのだが、写真を検索してもヒットせず。たすき掛け式の無誘導抵抗が分かりやすい図解で示されている例は、以下のリンクを参照されたい。
コモンモードで効くかどうか?
さて、こうした無誘導巻きの威力は試せばすぐ判明することだろう。しかし疑問の声を想定したのにはわけがある。
そもそも音声信号を有線で伝えるのに通常は最低2線のコードが必要となる。音声電流に往路と復路があるから当然だが、その2線を平行線とし、あたかも一本のコードのようにコイル巻きするとどうなるか?
コイルは交流信号、音声信号のように変化する信号の流れやすさを阻害する性質があるのだから音質が悪くなるはずだ、という向きもあるだろうが、原理的にはそうではない。
というのは、音声電流はノーマルモードで伝わる。つまり行って帰って式に往路と復路が入れ替わるように伝わるものだ。そして、その2本のコードを1本のコードのようにコイル巻きすると、これはコモンモードの電流についてのみコイルとして働くことになっている。
つまり往路も復路も同時に一本の線であるかのように伝わるコモンモード電流、そのほとんどはノイズなのだが、そういう形式の電流にのみコイルとして働き、ノーマルモードの音声電流には影響しないはずなのだ。
実際には色々ややこしい要素が付け加わって影響がまったくないわけではないのだが、原理的にはそういえる。そこで外来のコモンモードノイズが流れるのを防ごうという場合に、コモンモードチョークなどを使うこともあるわけだ。スイッチング電源の回路基板などでよく見かける、円環状のコアに巻き線を対向配置した部品がそれだ。
LR共通のコモンモードフィルター!
ところがイヤフォンコードでは、コイル巻きによって音質が大きく阻害されるのはなぜか?
それはステレオ仕様なのでLとRの2系統の音声ラインが束ねられているからだ。つまりLR合わせて4線をまとめて束ねているということ。
これだと4線共通に流れるコモンモードノイズだけでなく、LとRのチャンネルに共通の音声信号、たとえば中央定位の成分など阻害されやすいだろう。実際には間接音成分も影響を受けて空間表現や繊細な質感が後退する結果となるのもうなづけるはずだ。
というわけで、無誘導巻きはなかなか分かりやすく音声信号の流れ方とコモンモードノイズの関係を知るきっかけになった次第。そして、この発想は多方面に応用可能というのが素敵だ。
例えばスピーカーケーブル、HDMIの映像表示装置への接続、さらには音楽配信や動画配信に必要なLANケーブルなど、やり出すとしばし熱中できること請け合い。それについては次回を待たれよ!







