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ソニー「LinkBuds S」さっそく聴いた。音で探すARゲームにも

「LinkBuds S」左からエクリュ、ホワイト、ブラック

ソニーのLinkBudsシリーズ第2弾として発表された「LinkBuds S」。小型軽量な装着性による常時装着スタイルをコンセプトにしたシリーズとして、既発売のドライバーに穴が空いた「LinkBuds」とは異なる形状で登場した。

同シリーズのもう一つの特徴である独自のセンシング技術について、ナイアンティックと連携し、同社のスマホ向けARゲーム「Ingress」に音で楽しめる新機能を夏頃に実装することが発表された。また、短時間ながら試聴したので、記事後半ではファーストインプレッションもお届けする。

LinkBuds Sの詳しい本体性能については、別記事を参照して欲しいが、2月に発売されたLinkBudsとの大きな違いは形状のほか、NCを搭載し、LDACコーデックに対応してハイレゾ相当の音楽再生が可能になったこと。

ソニー、LinkBudsに兄弟モデル。外音取り込み&NCで軽量な「LinkBuds S」

LinkBudsシリーズでは、独自のセンシング技術を搭載することで、イヤフォンを装着したタイミングや、歩き出したタイミングで音楽再生などを行なう「Auto Play」機能を搭載するほか、すでに展開されている「Locatone」では、歩く動作やジャンプなどを感知して、コンテンツ内に足音などを入れることで、よりリアルとオンラインを繋いだ音体験を提供しているという。

今回、このセンシング技術を活用した新機能として、「ポケモンGO」なども展開するナイアンティックのARゲーム「Ingress」に音で楽しめる機能が追加される。

ナイアンティック代表取締役社長の村井説人氏は、「サウンドはエンターテインメント体験を提供するにあたってとても重要なものであると考えている。(中略)現実世界で没入感のあるARオーディオを実現するLinkBudsシリーズは、Nianticのゲームをプレイする人にも素敵な体験を届けられると信じている」とコメントした上で、夏頃に新機能の実装を目指していると述べた。

村井説人氏

Ingressは、2つのチームのどちらかに所属し、地図上に表示されるポータルを攻撃して自陣営の所有とし、所有ポータルで囲まれたエリアを自陣とする陣取りゲーム。追加される機能は、LinkBudsシリーズに対応するヘッドトラッキング機能と、ポータルの位置を音で知らせる機能の2つ。

具体的には、LinkBuds/LinkBuds Sを装着した状態でこの機能を使うと、ポータルが近くにある場合に、ポータルがある方向から音が聴こえるようになる。これにより、音のする方向を目指すことで、スマホ画面を見ずにポータルの近くまで移動できる。自陣営、的陣営、そのどちらでもないポータルで音を変えるほか、陣地に入ったとき際にも音でわかるような仕様になるという。

三角形が自分で先端が向いている方向。緑の光がポータル。この状況では左から音が聞こえる
反対側に来た様子。この時は右から音が聞こえる
正面では両側から同じバランスで音が聞こえる

この機能で、音による拡張現実の要素が拡がる他に、元々アプリでポータルを確認しながら移動するゲームであるため、音で判断しながら前を見て歩くことで、より安全にゲームが楽しめるとした。

また、ナイアンティックでは、AR開発プラットフォーム「Lightship」も公開している。今回はソニーがそれを活用したゲームを制作し、LinkBudsのセンシング技術をアピールした。

ゲームの内容は、エリア内に逃げた3匹の“ベルの妖精”を探すという内容で、ヒントとして妖精のいる方向からベルの音が聴こえる。その方向に向かって歩いていくと捕まえられるようになっている。ある程度近づくとスマホアプリ上で姿が見えるようになっているのだが、慣れれば画面を一切見なくても捕まえられるという。

ソニーが用意したデモ用ゲーム
ゲームが始まると3匹の妖精がどこかに隠れる
音を頼りに近づくと妖精を見つけられる

今後もセンシング技術を活用し、パートナー企業との協業やARコンテンツの拡充により、リアルとオンラインを繋ぐ音の体験を強化していくとした。

また、位置情報を使い、マップ上にある特定のスポットを訪れるとコンテンツが再生されるLocatoneでは、外部から企画を募るコンテスト「あなたのアイディアで地球まるごとテーマパーク!」を開催予定。6月15日に詳細が発表されるが、企画エントリーで一次審査を通ったクリエイターに、Locatoneのツアーを作成できるプラットフォームLocatone Studioを配布し、実際にツアーを作成/公開。その後最終審査で大賞を決めるという。

ソニー モバイルプロダクト事業部長の中村裕氏は「一般のクリエイターに公開することで、より多くのジャンルから、いろいろなコンテンツを集めたいと思っている。様々な分野のパートナー企業に加えて、所謂オープンイノベーションの要素を入れることで、自社だけでは思いつきもしなかったサービスや顧客を創出していきたい」と述べた。

左からソニーマーケティング モバイルエンタテインメントPDビジネス部 統括部長 麥谷周一氏、村井氏、中村裕氏、スポティファイジャパン代表取締役 トニー・エリソン氏、ソニーモバイルプロダクト事業部 モバイル商品企画部長 伊藤博史氏

軽い装着感で自然な外音取り込み&少し音の世界に浸りたいときのNC

実際にLinkBudsを装着し、それぞれの機能を試してみた。まず手に取ると外見から想像していた以上に軽い。ケース内部のマグネットの加減もちょうど良く、つまみやすさと相まって緊張感なく取り出せる。

完全ワイヤレスは、咄嗟のタイミングで着脱しようとすると、ケースから取り出す際に力加減を誤って弾き飛ばしたり、上手くしまえずに落としたりということがあるが、軽さとマグネットの強さが取り出しやすく、しまいやすい良い塩梅になっている。

装着してみると、装着感も軽い。それでいて小型のイヤフォンでも豆型のようなタイプと異なり、「WF-1000XM4」と同じ系統の形状から厚さを削ったような形になっているため、耳の窪みの部分にすっぽり嵌まっている感覚があり、耳から脱落する心配はほとんど感じない。

外音取り込み機能については、軽い装着感と相まって、より自然に外の音が聞こえる印象。筆者は普段「WF-1000XM4」を使用しているのだが、外音取り込みモードで外の音が聞こえるものの、フォームイヤーピースで耳が塞がっているため、イヤフォンから外の音が聞こえる感覚が強いと感じていた。LinkBuds Sの場合は、イヤーピースがシリコン製で圧迫感、装着感が少ない分、自然さでは軍配が上がる。これは自分で発話した際の感覚も同様だ。

とはいえ、WF-1000XM4自体がそもそも他のイヤフォンよりも取り込み量が多く自然に聞こえる性能を持っているので、同等の取り込み量を誇って、軽量な筐体と気軽な付け心地優先のイヤーピースを採用していればこうなるのは当たり前だろう。

Auto Play(β版)も体験したのだが、その際にイヤフォンを付けてそのまま普通に会話しながら説明をすべてハッキリ聴き取れるくらいの自然な聴き心地で、そのまま音楽を再生すると、周囲の音が聞こえることが相まって、イヤフォンを付けている感覚が少なくなり、このまま流しっぱなしで仕事を進めようかなという気分になる。

もちろん、ドライバーに穴が空いて外の音が直接聞こえるLinkBudsと比較すると、外音取り込みで聞こえる音は、一度マイクを通して変換された音にはなってしまうが、LinkBudsとLinkBuds Sを同じ環境化で音楽を再生し、外の音の聞きやすさを比較するとほぼ同等のように感じられた。外の音が聞こえる状態でのながら聞きという点では、同等に使えるだろう。

一方で、自分が発話したときの自然さはやはりLinkBudsの方が良かったり、音楽をより楽しむ点ではLinkBuds Sの方が良かったりとそれぞれ異なる需要に応えられる仕上がりになっているような印象だ。

NCに切り替えてみると、周囲の雑音を程よく打ち消すため、近くにいる人の声や物音がやや控えめになりつつ聞こえるイメージ。音楽を再生してしまえばそれも気にならなくなる。音楽に集中するというよりも、常時着用して日常にBGMを流すといった目的を考えると、むしろ強力過ぎるのでは? という印象もある。

だが、この点については、「ちょっとリラックスするために音楽に集中したい」といった場面の切り替えに使えることや、LinkBudsのコンセプトをより多くの人に体験してもらうために、需要のある機能として搭載したという側面もあるのだという。

音質面では、NCのON/OFFで若干印象は変わるが、基本的には低域から高域まで、バランスの取れたフラットな印象で、低域はしっかり感じられつつ、色づけされていないため、中音域のボーカルや高域まで綺麗に拡がっていく。

LinkBuds Sと内部に搭載された5mm径ドライバー

中音域と高域の解像感も良く、音量を控えめにして外音取り込みモードにすると、ベースラインと高域の拡がりに程よくボーカルが聞こえるので、周囲に余り人が居ない環境であれば、作業のお供にちょうどいい塩梅になる。

一方で、外音取り込みの状態で周囲の人の声が多くなると、ボーカルの声と周囲の人の声が両方ともドライバーから出るのでボーカルの声が弱くなる印象。こういった時に外音と音楽のどちらを優先するかで、NC/外音取り込みが選択できるというのは面白いかもしれない。

穴の空いたLinkBudsでは、同じように周囲に人が多い環境でも、ドライバーからのボーカルと、穴からの外の人の声が同量に届く、という印象がある。開放型で音場も広く、低域は密閉型のLinkBuds Sには劣るとはいえ、しっかり感じられるため、どちらかが圧倒的に優れているという感じにはなっていない。

また、LinkBudsシリーズがターゲットとする“スマホを長時間使用して音楽を聴く層”は、「聴きたい曲を聴いている」のでなく、「BGMとして何か流れていて欲しい」という人の割合が多いという。

それも踏まえて考えると、楽器ごとの音の分離感や細部まで再現してじっくり聴きたくほど音質を突き詰めるのではなく、ながら聴きした際に心地よく聴こえるバランスと、外音取り込みと切り替えられる程よいNC性能という点でLinkBuds Sもしっかりコンセプト通りに仕上がっている印象だ。

「LinkBuds S」(左)と「LinkBuds」(右)