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ヤマハ、44万円の超弩級ヘッドフォンアンプ「HA-L7A」。シネマDSP応用した「SOUND FIELD」

超弩級のDAC内蔵ヘッドフォンアンプ「HA-L7A」

ヤマハは、超弩級のDAC内蔵ヘッドフォンアンプ「HA-L7A」を11月30日に発売する。価格は44万円。11月16日から予約受付を開始する。ヤマハのAVアンプに採用している「シネマDSP」技術をヘッドフォンアンプに応用した「SOUND FIELDモード」も備えている。

ヤマハは、独自の「オルソダイナミックドライバー」を搭載した最上位ヘッドフォン「YH-5000SE」(49.5万円)を発売しているが、このヘッドフォンと同じクラス感のヘッドフォンアンプがHA-L7Aとなる。1000mW + 1000mW(32Ω)のハイパワーな出力が可能で、YH-5000SEだけでなく、他社のハイクラスヘッドフォンも駆動できる。

最上位ヘッドフォン「YH-5000SE」

ヘッドフォンファンに向けて、「コンテンツの世界の感動と興奮を新たに体験できるヘッドフォンアンプを提供する」事をテーマに開発された。

注目は特徴的なデザイン。左右で2つの筐体に分かれているように見えるが、実際は結合されている。しかし実際には、基板などは内部で分離しており、向かって左側に電源部、右側にメイン基板を搭載している。筐体はアルミニウム製。L字型トップパネルは8mm厚、ボトムカバーは2mm。リアパネルはダブル仕様。

分かれているように見えるが、一体型の筐体

向かって左側の電源部に、煙突のように見える部分には、内部に巨大なトロイダルトランスを搭載している。トロイダルトランスを支えるために、2mm厚の鋼板を内蔵する。全体の重量は5.3kg。外形寸法は333×189×133mm(幅×奥行き×高さ)。

ヤマハがHi-Fiの単品コンポでも採用している「フローティング&バランス・パワーアンプ」の思想をヘッドフォンアンプにも取り入れた。出力段の左右チャンネルそれぞれの電力増幅回路をフローティングし、プッシュプル動作を完全対称化することで、バランス出力時とアンバランス出力時でアンプ構成を変えることなくヘッドフォン駆動を可能にしており、出力端子による音色差を抑えている。電源供給を含む全回路をグラウンドから完全に独立させ、微細な電圧変動やグラウンドを巡る外来ノイズの影響も徹底的に排除。GNDノイズの影響を受けず、音質劣化が少なく、低域が豊かになるといった特徴があり、回路規模もバランスアンプの半分で済むため小型化も可能。一方で、大きな電源が必要となるため、前述のような構造になっている。

フローティング&バランス・パワーアンプ思想で作られている
内部構造

電源部を別置きとする事で、ノイズを低減。トロイダルトランスには、漏洩磁束を低減できるメリットもある。また、バイファイラー巻線を採用する事で、電圧変動を最小限に抑え、電源の安定性を高めている。

トロイダルトランス

アンプだけでなく、DACも搭載。ヤマハが掲げる「TRUESOUND」を実現するために、開発にあたっては何百通りものパーツの組み合わせを試したという。その結果、DACチップには「ES9038PRO」を採用。ESSの旧フラッグシップDACであり、8ch分のDACを搭載。これを、L/R各4ch動作で使用する事で、ダイナミックレンジを向上させた。

DACチップには「ES9038PRO」を採用

高級機ではデュアルDACチップの製品も多いが、HA-L7Aではあえて採用しなかったという。その理由は、DACチップによって出力インピーダンスが異なり、それが音質に大きく影響するため。また、2つのDACチップを駆動するために高い消費電力が必要で、それが発熱の原因となり音質に影響を与える可能性があるためとのこと。

D/Aコンバーター以降の主要ステージ全てをバランス回路で統一し、ディスクリート構成とすることで DAC出力からヘッドフォン端子までのバランス伝送を実現。バランス駆動対応のヘッドフォン・イヤフォンと組み合わせることで伝送系の共通インピーダンスを抑え、セパレーションをより高められるという。グルエンド(アンバランス)入力についても内部でバランス変換を行なうことで、外的ノイズに起因する音質劣化を抑止するバランス伝送・増幅ならではのメリットを幅広い入力ソースで活かせるとのこと。

アナログ入力向けにADコンバーターの「ES9842QPRO」も搭載している。

リモコンも付属

シネマDSPの技術を応用したSOUND FIELDモードを搭載

音楽だけでなく、アニメや映画、ゲーム、YouTubeなど、様々なコンテンツを楽しむケースも増えているため、それらを没入感深く味わうために、ヤマハ独自のシネマDSP技術を応用した「SOUND FIELDモード」を搭載した。

これは、ヘッドフォンリスニングでも臨場感・没入感のある再生ができるというもので、複数のモードを用意。明瞭なセリフ/迫真の効果音/奥行きのあるBGMを描き分けて表現する映像向けの「Cinema」「Drama」、音楽性を重視しながら広がりのある音場を付与し、ライブ感を演出するミュージックビデオ向けの「ConcertHall」、「Outdoor Live」、「MV」、ライブ感ではなく、HiFiで音楽を楽しむように音楽への没入感を重視した「BGM」から選択できる。

また、コンテンツの音をそのまま、高純度な音質で聴きたい場合には、DSP回路やアナログ信号のA/Dコンバーターなど、入力ソースが使用していない機能の回路をバイパスすることでノイズを低減する「ピュアダイレクト」も搭載する。

筐体の天面に有機ディスプレイを備え、表示を見ながらモードを変更できる。天面右よりには、厚いアルミニウム製のロータリーダイヤルを2基備える。ダイヤルの下には、YH-5000SEと同じアクセントカラーをあしらっている。

前面にはヘッドフォン出力として、6.3mmアンバランス、4.4mmバランス、4ピンのXLR出力を各1系統装備。XLR端子はNEUTRIK製、4.4mm 5極端子は日本ディックスのPentaconn端子を採用。

背面には入力端子として、アナログRCA、光デジタル、同軸デジタル、USB-Bを各1系統装備。USB DACとしても動作する。対応するデータは、PCMが384kHz、DSDは11.2MHzまで。

さらに出力端子として、プリ/ライン出力が切り替え可能なアナログRCAと、XLR端子を各1系統装備。USB DACとして使う事もできる。一体型アンプや、他のヘッドフォンアンプと接続する事も可能。

なお、Wi-FiやBluetooth機能は備えていない。

音を聴いてみる

短時間だが、最上位ヘッドフォンのYH-5000SEと組み合わせて聴いてみた。

YH-5000SEのように、薄い平面の振動板を、平面駆動させるタイプのヘッドフォンは、非常に繊細なサウンドを再生できる一方で、パワフルなヘッドフォンアンプで駆動しないと迫力のある中低域が得られず、腰高になってしまう傾向がある。

しかし、HA-L7Aの駆動ではそんな心配は杞憂だ。「YH-5000SEってこんなにパワフルな低音も出せるんだ」と驚くほど、音圧豊かで、低く沈む低域に驚かされる。

それでいてパワフルなだけでなく、切れ味鋭いハイスピードさも兼ね備えており、ベースラインのうねりや、アコースティックベースの弦が震える様子など、低音の中の情報もクリアに見通せる。

この切れ味の良さは中高域のそれとまったく同じであり、低い音から高い音まで、目の覚めるようなトランジェントの良いサウンドで貫かれている。そのため、聴いていると、あらゆる音が聴き取れるような全能感というか、ある種の快感を感じる。HA-L7A × YH-5000SEは魅惑的な組み合わせと言えるだろう。

ヤマハらしいSOUND FIELDモードも面白い。

もともとYH-5000SEは音場が広く、閉塞感が少ないヘッドフォンだが、「ConcertHall」や「Outdoor Live」などを選んでみると、さらに音が際限なく広がるように感じられ、“外で聴いているっぽい清々しさ”を感じる。

「Cinema」「Drama」では、低域の迫力が増し、メリハリがついてドラマチックなサウンドが味わえる。

いずれのモードにも共通しているのは“フォーカスが甘い音にならない”事だ。広がりがアップするモードであっても、元の音楽の情報量が低下したように聴こえないのだ。

もともとシネマDSPは、元の音源自体には手を加えず、残響音や一次反射を再現しているのが特徴だが、その良さがHA-L7A × YH-5000SEからも感じられる。サウンドフィールドモードは、音にこだわる人も、積極的に使いたくなる機能になりそうだ。