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デノン、「妥協無き、第二の旗艦」13.4ch AVアンプ「AVC-A10H」

13.4chのAVアンプ「AVC-A10H」

デノンは、フラッグシップAVアンプ「AVC-A1H」で培った技術を多く投入した、13.4chのAVアンプ「AVC-A10H」を10月下旬に発売する。価格は770,000円。カラーはブラックのみ。

「Aの銘を冠した妥協無き、第二の旗艦モデル」として開発されたAVアンプ。デノンで「A」の型番を得るためには、「圧倒的な物量」「特別なオーディオパーツの採用」、「美 細部へのこだわり」、「メイドイン白河工場」というクリアすべき4つの課題があり、それらを満たしているのがAVC-A10Hだという。

これまでのセカンドフラッグシップである「AVC-A110」と比べ、特に大きく進化したのはプリアンプ部。D.D.S.C.-HD32(Dynamic Discrete Surround Circuit)技術を投入。32bitプロセッシングを行なう最上位バージョンを搭載しており、サラウンド音声信号のデコードや音場補正、D/A変換、セレクター、音量調整など、サラウンド再生のために必要な信号処理回路を複合デバイスに頼ることなく、32bitフローティングポイントDSPを始めとする高性能な専用デバイスを用いてディスクリート化。

最新かつ最適なデバイスを選択することで、プリ部を小型化し、デバイスレイアウトも追求することでミニマムシグナルパスを徹底。筐体内でアンテナになってしまうワイヤーも減らしている。

16bitや24bitのマルチチャンネル信号を32bitに拡張する「AL32 Processing Multi Channel」も搭載。独自のアルゴリズムによって、補間ポイントの前後に存在する多数のデータからあるべき点を導き出し、限りなく原音に近い音を再現する理想的な補間処理を行なうもので、オリジナルのアナログ波形を忠実に再現し、ホールに吸込まれるような残響音などの微小な音の再生能力を高めている。

オーディオグレードで32bit対応、デノンのAVアンプの中でもAVC-A1HとAVC-A10Hだけに搭載される高性能な2ch DACチップを9基搭載。2chチップを使うことで、チャンネル間の相互干渉を抑えている。さらに各チップで使用頻度の高いチャンネルと、低いチャンネルを組み合わせることで、実使用時の干渉も抑えている。

17チャンネル分の信号を、同期をとってD/A変換するために、正確なクロックも搭載。超低位相雑音クリスタルを1基使い、9個のDACの同期をとっている。

AVC-A110はDAC用の電源を生成するためにレギュレーターICを使っていたが、AVC-A10Hでは、A1Hと同じようにディスクリート電源回路を採用。電源ラインのノイズを除去することで、DACの性能を最大限に引き出した。

また、D/A変換回路を映像回路やネットワーク回路から独立した専用基板にマウントすることで、周辺回路との相互干渉を排除し、繊細な音声信号のクオリティを損なわないようにしている。

動作する基準となるクロック信号に含まれるジッターを取り除くクロック・ジッター・リデューサー機能を搭載。DACを始めとするデジタルオーディオ回路を正確なタイミングで動作させている。

AVC-A1H(15.4ch/770,000円/10月1日から1,210,000円に価格変更)と同様に、パワーアンプ回路をチャンネル毎に個別の基板に独立させたモノリス・コンストラクション構成を採用。また、パワートランジスタもAVC-A1Hと同じ「Denon High Current Transistor(DHCT)」を使う事で、260Wの大出力とフラッグシップモデルに迫るパフォーマンスを実現している。

モノリス・コンストラクションは、チャンネル間のクロストーク、振動による音質への影響を排除することにより、チャンネルセパレーションを極限まで高め、純度の高いリアルな音場再生が可能という。

シンプルで素直な特性が得られる、差動1段のAB級リニアパワーアンプ回路を採用。段数の少ない差動アンプ回路は、性能を確保するための設計難易度が高いが、多段差動アンプと比べて位相回転が少なく、安定性が高いのが特徴。

Hi-Fiアンプの設計思想を踏襲した大電流タイプのパワートランジスタであるDHCTをヒートシンク上に格子状にレイアウトし、さらにヒートシンク全体をカバーする2mm厚の銅板によって放熱効率を高めることで、発熱が大きくなる大音量再生時であっても安定性の高いスピーカー駆動を実現した。

ヒートシンクには共振の少ないアルミ押し出し材を使用。フィルムコンデンサーやインダクターは、複数の候補からサウンドマスターが入念なリスニングテストを経て選んだ高音質パーツを採用。「A10」を名乗るにふさわしいダイナミズムとディテールを実現したという。

13.4chの3Dオーディオフォーマットのデコーディングやレンダリング、アップミックス、音場補正などの高負荷な処理であっても余裕をもって同時にこなせるように、最新のハイパフォーマンス・オーディオDSPを搭載。

15.4chプリアウトを装備しているため、パワーアンプを追加して音質をグレードアップすることもできる。内蔵パワーアンプの動作を停止させ、高品位なAVプリアンプとしての使用を可能にする「プリアンプモード」も搭載する。13chすべてのパワーアンプの動作を停止できるだけでなく、チャンネル毎に個別にオン/オフの設定も可能。

15ch分のスピーカー出力端子を装備し、フロアスピーカーはフロントワイドやサラウンドバックを含む最大9chまで、ハイトスピーカーは、センターハイトやトップサラウンドを含む最大8chまで接続できる。最大13chの同時出力に対応した。

音声フォーマットに合わせて再生するスピーカーを自動で切り替えて最適なサウンドを楽しむことができ、プリセットされた10通りのアサインモードに加え、それぞれの端子に出力するチャンネルを自由に割り当てられる「カスタム」モードも搭載。フリーアサインもできる。

【お詫びと訂正】記事初出時、“フリーアサインはできない”と記載しておりましたが誤りでした。カスタムでフリーアサインが可能です。お詫びして訂正します。(9月18日)

左右のフロントスピーカーの駆動に4つのアンプを使って高音質化するバイアンプに加え、センター、サラウンドも含む5chのスピーカーをバイアンプ駆動する5chフルバイアンプ機能も備えている。

サブウーファープリアウトは4系統装備。音量レベルとリスニングポジションまでの距離を個別に設定できる。マニュアル設定に加え、Audyssey Sub EQ HTによる自動設定も可能。4系統のサブウーファーすべてから同じ音を再生する「スタンダード」と、各サブウーファーの近くにある「小」に設定されたスピーカーの低音を再生する「指向性」の2モードから選択できる。

オブジェクトオーディオ技術のDolby Atmos、DTS:Xに対応。ステレオや5.1ch、7.1chのソースを再生する際に、Dolby SurroundおよびNeural:Xにより、立体的な3Dサウンドにアップミックス再生できる。IMAXとDTSによる厳格な性能基準を満たすIMAX Enhanced認定製品でもあり、IMAX Enhancedコンテンツの再生に最適化されたサウンドモード「IMAX DTS」、「IMAX DTS:X」が使用可能。

Auro-3Dデコーダーも搭載し、5.1ch+サラウンドバックの7.1chシステムにフロントハイト(FHL+FHR)、センターハイト(CH)、サラウンドハイト(SHL+SHR)、トップサラウンドスピーカー(TS)を組み合わせた13.1chシステムで、自然で臨場感豊かな3Dサウンドが楽しめる。

新4K/8K衛星放送で使用されている音声フォーマットのMPEG-4 AAC(ステレオ、5.1ch)のデコードにも対応。MPEG-H 3D Audio(360 Reality Audio)もサポートする。

13chの同時出力時にもクリーンかつ安定した電源供給を行なうために、A10H専用のEIコアトランスを開発。Aシリーズだけが採用するOFC巻き線を使用した特別仕様になっている。重量はトランス単体で8.1kgで、底部には制振性、放熱性を高めるスチール製のトランスベースを追加。

この大きな質量を支え、振動の伝搬を防止するために、シャーシには重厚かつ堅牢な3層構造、合計3.6mm厚のスチールシャーシを採用した。電源部のブロックコンデンサーには、A10H専用にチューニングされた大容量22,000uFのブロックコンデンサーを2個使用。A1Hと同タイプの陽極箔を使ったAシリーズカスタム仕様。

また、A1H後のモデルで培われた技術も投入。電源トランスからの漏洩磁束が繊細なアナログオーディオ信号に与える影響を最小化するために、珪素鋼板とスチールプレートを組み合わせたシールドを電源トランスとオーディオ基板の間に追加している。

黒い板が珪素鋼板とスチールプレートを組み合わせたシールド

パワーアンプは、4Ωのスピーカーも余裕を持ってドライブ可能。シンプル&ストレートを徹底したプリアンプ、ボリューム回路信号経路を最短化し、音質を最優先した回路のレイアウトを実現するために、半導体メーカーと共同開発した入力セレクター、ボリューム、出力セレクター、それぞれの機能に特化した高性能カスタムデバイスを採用している。

音場補正技術は「Audyssey MultEQ XT32」を搭載。有償だが、Dirac Liveも利用可能。

8K/60Hz、4K/120Hzに対応するHDMI入力を7系統、出力を2系統装備。HDCP 2.3に対応。HDMI出力端子から300mAの電源供給ができるため、電源を必要とする長尺のHDMIケーブル使用時にも高品位かつ安定した伝送が可能。HDRはHDR10、Dolby Vision、HLGに加え、HDR10+とDynamic HDRにも対応。ALLM、VRR、QFTもサポートする。

HEOS Built-inで、NASなどに保存した音楽ファイルや、Amazon Music HD、AWA、Spotify、SoundCloudなど音楽ストリーミングサービスを再生可能。DSDは5.6MHzまで、PCMは192kHz/24bitまで再生できる。AirPlay 2にも対応。Bluetoothは送受信に対応する。

HEOSロゴが見える部分が、デジタル基板

スピーカー端子は経年劣化を防ぐ金メッキを施しており、チャンネルごとに端子の表示を色分、付属の色付きケーブルラベルを使用すれば、スピーカーケーブルの誤配線も防止できる。HD GUIや、セットアップアシスタント機能も利用可能。

最大出力(6Ω、1kHz、THD 10%、1ch駆動)は260W。HDMI以外の端子は、アナログ映像入出力端子としてコンポジット入力×2、コンポーネント入力×1、音声入出力端子はアナログ音声入力×7、PHONO入力(MM)×1、光デジタル入力×2、同軸デジタル入力×2、15.4chプリアウト×1、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン出力×1(フロント)を備える。アンテナを寝かせた場合の外形寸法は434×482×195mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は23.6kg。

ファーストインプレッション

まず2chアンプとしての実力を確認。「シェルビィ・リン/Just a Little Lovin」を聴いてチェックしたが、静かな空間からスッと音が出た瞬間に、SN比の良さがわかる。そして、中低域のダイレクト感が鮮烈だ。プリ部の進化が、鮮度の良いサウンドに反映されているのがわかる。「音の良いAVアンプ」ではなく「ピュアオーディオ用2chアンプを聴いている感覚」になるのは、A1Hと同じだ。

次にジョン・ウイリアムズのサントリーホールでの昨年のライブのBDをDolby Atmosで再生。環境は天井が6chの7.6.2ch環境だ。

サントリーホールの広さが音場としてしっかり表現されつつ、そこに鮮度の高い音が気持ちよく乱舞する。1つ1つの音に、厚みと勢いがあり、エネルギッシュでエモーショナルな描写だ。

「ゴジラ-1.0」で、震電が離陸し、ゴジラを海へと誘導するシーン。震電のエンジンが始動した時の、力強いエンジン音が非常に気持ちが良い。そして壮大なオーケストラをバックに大空を飛行。背後のBGMのスケールの豊かさも印象的だ。

ゴジラが海中で熱線を吐き出し、大爆発が起こるシーンでは、熱線の鋭さと、そのすぐ後に来る大爆発のトランジェントが凄まじく、思わず体が硬直してしまう。低域の深さと分解能もハイエンドレベルであり、凄みが感じられる。

ラインナップとしてはA1Hのダウンサイジングと思われるかもしれないが、A1Hと充分に渡り合えるサウンドをA10Hは備えている。