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デノン、一体型で15.4ch“孤高”のAVアンプ「AVC-A1H」。白河工場生まれ

15.4chの一体型AVアンプ「AVC-A1H」

デノンは、同社AVアンプ最高峰かつ“孤高”のフラッグシップモデルとして、15.4chの一体型「AVC-A1H」を2023年3月下旬に発売する。価格は990,000円。カラーはブラックとプレミアムシルバー。

ディスクリートデジタル時代の1996年に登場した「AVP-A1」、ロスレスオーディオ時代の2007年に発売した「AVC-A1HD」など、各時代において最新、最高の映像・音声フォーマットを最良のクオリティで再生できるモデルにのみ与えられる「A1」型番。その最新モデルが「AVC-A1H」。

「A1」型番を持つ代表的なモデル

これまでの最上位モデル「AVC-X8500HA」や、創立110周年記念モデル「AVC-A110」を凌ぐ15.4chでのイマーシブオーディオ再生に対応。最高峰に相応しいクオリティと、最大260W(6Ω/1kHz/THD 10%/1ch駆動)の大出力を備えつつ、一筐体に15chものパワーアンプを搭載している。

「AVC-A1H」ブラック
プレミアムシルバー

15ch分のパワーアンプ回路を一筐体に内蔵

デノンは20年以上前から、小型化を求められるAVアンプにおいて、限られた筐体に多数のパワーアンプを搭載するために、スイッチングアンプの採用も視野に研究開発を行なってきた。そしてAVR-4520(2012年発売)の開発時に、「パワーアンプ部をスイッチングアンプにするか、AB級アンプにするか」という議論がなされる分岐点があり、その際に、膨大なノウハウを持っていたAB級アンプを選択する。

AVR-4520の開発時に、「パワーアンプ部をスイッチングアンプにするか、AB級アンプにするか」という議論が。その際に、膨大なノウハウを持っていたAB級アンプが選択された

そして同社は、シンプルで素直な特性が得られる差動1段のAB級リニアパワーアンプ回路に到達。段数の少ない差動アンプ回路は、性能を確保するための設計が難しくなる反面、多段差動アンプよりも位相回転が少なく、安定性が高く、様々なスピーカーに対して優れた駆動力を持ち、音質的にも有利になるという。この差動1段AB級リニアパワーアンプ回路を、一筐体に“家庭用ホームシアターのゴール”と定めた15ch分搭載できるよう長年研究を進め、その結果完成したのがAVC-A1Hだという。

13chパワーアンプのX8500HAと、15chパワーアンプのA1H

このパワーアンプ回路は、チャンネル毎に個別の基板に独立させた「モノリス・コンストラクション構成」となっており、チャンネル間のクロストークや振動を低減し、全チャンネルで同一クオリティを実現している。

増幅素子にはHi-Fiアンプの設計思想を踏襲した大電流タイプのパワートランジスタ「Denon High Current Transistor(DHCT)」を採用。このDHCTをヒートシンク上に格子状にレイアウトしている。

後述する、福島県白河市・D&M白河工場(白河オーディオワークス)で作られたパワーアンプ回路。一度に15ch分のパワーアンプ回路を生産、この1つ1つの回路を切り離し、A1Hに搭載する
A1Hに内蔵された15ch分のパワーアンプ回路。DHCTをヒートシンク上に格子状にレイアウトしているのがわかる

さらに、ヒーシンクとDHCTの間に銅製で4mm厚の放熱板を配置。銅はアルミと競べて3倍ほどの比重があり、熱伝導率も高く、振動にも強いといったアドバンテージがある。これにより、発熱が大きくなる大音量再生時でも、安定性の高いスピーカー駆動を実現した。なお、X8500HA/A110でも同様の工夫をしているが、厚さは2mmであり、A1Hでは2倍の厚みにすることで、熱の上昇や変動を防いでいる。

ヒートシンクとパワーアンプ回路の間に注目。オレンジ色に見える部分が、銅製で4mm厚の放熱板だ

スピーカー信号と電源のユニットには2層の基板を採用。そのパターン箔の厚みを、X8500HAに対して2倍に厚くする事で、信号線、電源線、GND線のインピーダンスを低くした。瞬間的な発熱を抑え、エネルギッシュで安定したサウンドになったという。

また、プリアンプ基板をX8500HAの2層から、A1Hでは4層にし、経路を短縮。理想的な電源配置、強力なGND、強力な信号シールド効果を獲得したという。さらに、4層にする事で、基板の奥行きが短くなった。

これにより、パワーアンプが2ch分増加しながら、筐体サイズの拡大はX8500HAに対して奥行16mmのアップに抑えている。アンテナを寝かせた状態での外形寸法は434×498×195mm(幅×奥行き×高さ)。

A1Hの内部

超強力な電源部を新開発

重すぎてビクともしないA1H専用のEIコアトランス

15chアンプを支えるための強力な電源部も用意。A1H専用のEIコアトランスを新たに開発。その質量はトランス単体で11.5kgにもおよび、トランスの底部には2mm厚の純銅製トランスベースを追加。機構の安定性と放熱性を向上させている。

なんとA1Hの電源トランスだけで、AVアンプの下位モデル「X2800」(9.5kg)よりも重い

巨大なトランスとトランスベースの大質量を支えるために、1.2mmのメインシャーシに1.2mmのサブシャーシおよび1.6mmのボトムプレートを追加。合計4.0mmの重厚かつ堅牢なシャーシによって振動の伝搬を防止している。

電源部のブロックコンデンサーには、A1H専用にチューニングされた大容量33,000uFのカスタムコンデンサーを2個使用。AVC-X8500HAやAVC-A110の1.5倍の容量で、「フルオーケストラの強奏やアクション映画のクライマックスシーンのような大音量を再生する際にも余裕のある電源供給を行なえ、X8500Hと比較してもさらに低い重心と豊かなスケール感を実現した」という。

デジタル電源回路のスイッチング周波数を従来の約3倍とすることで、スイッチングノイズを可聴帯域外へシフト。再生音への影響を排除した。デジタル回路用のスイッチングトランスにはシールドプレートを追加。さらに、電源回路全体をシールドプレートで覆うことにより、周辺回路への干渉を抑えた。

強力な電源と安定度の高い回路構成により、4Ωスピーカーでも余裕を持ってドライブできるという。また、信号経路を最短化し、音質を最優先した回路のレイアウトを実現するために、半導体メーカーと共同開発した入力セレクター、ボリューム、出力セレクター、それぞれの機能に特化した高性能カスタムデバイスを採用。専用のデバイスを使うことで、プリアンプ回路のレイアウト自由度が高まり、無駄な引き回しのないストレートな信号経路になったという。

プリ部には中核技術「D.D.S.C.-HD32」を投入。サラウンド音声のデコード、音場補正、D/A変換、セレクター、音量調整など、サラウンド再生のために必要な信号処理回路を複合デバイスに頼ることなく、32bitフローティングポイントDSPを始めとする高性能な専用デバイスを用いてディスクリート化。これにより、最適なデバイスレイアウトと、シンプルな信号経路を実現した。

プリ部には中核技術「D.D.S.C.-HD32」を投入

16bitや24bitのマルチチャンネル信号を32bitに拡張できるアナログ波形再現技術「AL32 Processing Multi Channel」も搭載。

DACチップは、オーディオグレードの2ch用、32bit対応DACチップを10個搭載。超低位相雑音クロックによる10基のDACの正確な同期を実現しているほか、高品位な音質対策パーツの投入、純A級動作のポストフィルターにより、DACの性能を最大限に引き出したという。D/A変換回路は映像回路やネットワーク回路から独立した専用基板にマウント。周辺回路との相互干渉を排除している。

15.4chまでの3Dオーディオフォーマットのデコードやレンダリング、アップミックス、音場補正などの信号処理に余裕をもたせるため、DSP「Griffin Lite XP」を採用。X8500HAに搭載している2基のDSPを、1基で凌駕する高い演算処理能力を持っている。

17.4chプリアウトを装備しており、別途パワーアンプを追加することで音質のグレードアップが可能。内蔵パワーアンプを停止させ、高品位なAVプリアンプとしての使用する「プリアンプモード」も搭載。15chすべてのパワーアンプの動作停止だけでなく、チャンネル毎に個別にオン/オフもできる。

背面。XLR出力も備える

アナログ出力としてRCAに加え、XLRのバランスも装備。さらに、サブウーファープリアウトをそれぞれ4系統装備しており、音量レベルとリスニングポジションまでの距離を個別に設定できる。マニュアル設定に加え、Audyssey Sub EQ HTによる自動設定も可能。

4系統のサブウーファーすべてから同じ音を再生する「スタンダード」と、各サブウーファーの近くにある「小」に設定されたスピーカーの低音を再生する「指向性」の2モードから選択可能。バランスのサブウーファープリアウトには、フロントL/Rおよびセンターチャンネルを割り当てることもでき、バランス入力を装備したパワーアンプにフロントL/Rやセンターチャンネルの音声を入力できる。

17ch分のスピーカー出力端子を装備し、フロントワイドやサラウンドバックを含む最大9chのフロアスピーカーと、センターハイトやトップサラウンドを含む最大8chのハイトスピーカーを同時に接続可能。

最大15chの同時出力に対応しており、音声フォーマットに合わせて再生するスピーカーを自動で切り替える。プリセットされた10通りのアサインモードに加え、それぞれの端子に出力するチャンネルを自由に割り当てられる「カスタム」モードも搭載。

フロントスピーカーの駆動に4つのアンプを使って高音質化する「バイアンプ」に加え、センター、サラウンド、サラウンドバックも含む7chのスピーカーをバイアンプ駆動する「7chフルバイアンプ機能」を搭載。2組の異なるフロントスピーカーを切り替えて使用できる「A+B」などシステム構成に応じた柔軟なアンプアサインが可能。

筐体には、音質に悪影響を及ぼす内部、外部の不要振動を排除し、音質を向上させるダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクションを採用。堅牢なスチールシャーシをベースに、ヒートシンクや電源トランスなどの重量物を支える箇所にはサブシャーシを追加し、メインシャーシの下にボトムプレートを加えた3層構造で規格外の高剛性を獲得。大質量、高剛性で共振にも強い専用の鋳鉄製フットにより総重量32kgにおよぶ重量級のシャーシを支え、優れた制振性を実現したという。

最新フォーマットにも対応

「AVC-A1H」ブラック

Dolby Atmos、DTS:Xに対応。Dolby Atmos Height Virtualizer、DTS Virtual:Xも備え、ハイトスピーカーやサラウンドスピーカーを設置していない環境でも、イマーシブオーディオの体験が可能。

IMAX Enhanced認定製品でもあり、IMAX Enhancedコンテンツの再生に最適化されたサウンドモード「IMAX DTS」、「IMAX DTS:X」が使用できる。

Auro-3Dにも対応。5.1ch+サラウンドバックの7.1chシステムにフロントハイト(FHL+FHR)、センターハイト(CH)、サラウンドハイト(SHL+SHR)、およびトップサラウンドスピーカー(TS)を組み合わせた13.1chシステムで、自然で臨場感豊かな3Dサウンドを再生できる。

新4K/8K衛星放送で使用されているMPEG-4 AAC(ステレオ、5.1ch)にも対応。360 Reality Audioもサポートする。

部屋の音響的な問題を補正する「Audyssey MultEQ XT32」も搭載。「Sub EQ HT」も搭載し、最大4台のサブウーファーを個別に測定し、それぞれに最適な音量、距離の設定および、Audyssey MultEQ XT32の信号処理ができる。「Audyssey MultEQ Editorアプリ」を使うと、AVアンプ単体では設定できない詳細な調整項目も設定可能。

今後のアップデートにより、Dirac Liveにも対応予定。特許技術により周波数特性だけでなく、部屋内の反射やスピーカーの位置のずれに起因する音の遅延についても測定・補正する。なお、利用にはDirac Liveのライセンスおよび対応する測定用マイクの購入が別途必要。

8K/60Hzと4K/120Hzに対応するHDMI入力を7系統、出力を2系統装備。ゾーン出力も含む7入力/3出力すべてのHDMI端子がHDCP 2.3に対応している。HDRもサポート。HDR10、Dolby Vision、HLGに加えて、HDR10+とDynamic HDRにも対応する。

ゲームやVRコンテンツ体験の質を向上させるHDMI 2.1の新機能「ALLM」、「VRR」、「QFT」に対応。HDMIは、ARC、eARCにも対応する。

プレミアムシルバー

その他の特徴

ネットワークオーディオのプラットフォーム「HEOS」を搭載。音楽ストリーミングサービスやインターネットラジオ、NAS内やUSBメモリー内の音楽ファイルも再生できる。Amazon Music HDやAWA、Spotify、SoundCloudにも対応する。

ハイレゾファイルの再生は、DSDファイルは5.6MHzまで、PCMは192kHz/24bitまで対応。AirPlay 2、Bluetooth受信も可能。Bluetooth送信機能も備えており、深夜などは、AVアンプで再生中の音声をBluetoothヘッドフォンなどで聴く事もできる。

iOS/Android対応リモコンアプリ「Denon AVR Remote」も用意。同一ネットワーク内のモバイルデバイスからA1Hの操作や設定が可能。

スピーカー端子には、非磁性体などを用いながら、経年劣化を防ぐ金メッキも施し、バナナプラグにも対応する非常に高品質なものを採用。ターミナルだけで総重量1,088gもあるという(X8500Hのターミナルは330g)。

セットアップメニューも刷新し、テキストや画像の表示解像度を上げ、テキストの読みやすさや画像の視認性を向上。より洗練したデザインに変更した。

スピーカーターミナルだけで総重量1,088gもある

消費電力は1,100W。待機電力は0.1W(ネットワークコントロール、HDMIパススルーオフ時)、0.5W(CECスタンバイ)。消費電力を節約するエコモードも備え、音量や入力信号の有無に関わらず常に消費電力を低減する「オン」、音量や入力信号の有無に合わせて自動的に消費電力を最適化する「オート」、消費電力を低減しない「オフ」が切り替えられる。

HDMI以外の音声入出力端子は、アナログRCA×6、アナログXLRバランス×1、Phono入力(MM)× 1、光デジタル入力×2、同軸デジタル入力×2、17.4chプリアウト(アンバランス)×1、サブウーファープリアウト(バランス)×4、ゾーンプリアウト×2、ヘッドフォン出力×1。

白河オーディオワークス製

白河オーディオワークス

A1Hは、デノンのプレミアムモデルを手掛けている、福島県白河市にあるD&M白河工場(白河オーディオワークス)にて作られる。

白河オーディオワークス内部

白河オーディオワークスは、設計、CAD設計、基板実装、組み立て製造までを一貫して行なっている自社工場。今回、A1Hの発表会は、A1Hがまさに作られている白河オーディオワークスにて行なわれ、実際にA1Hが作られている様子も見学できた。なお、工場見学の詳しい内容は、後日レポートを掲載予定だ。

A1Hの生産は、機械による自動化と熟練した人間の技の組み合わせで行なわれており、回路基板にペースト状にしたハンダを機械が塗り、そこに目にも留まらぬスピードでチップパーツが設置されていく事からスタート。

ペースト状になったハンダを機械が基板へ塗っていく
基板に乗せるチップは、テープで供給。これが機械へと取り込まれ、目にも留まらぬスピードで基板に配置されていく

ベルトコンベアに乗せられた基板は、窯のような機械の中で適切な時間と温度で熱せられ、チップをハンダ付けする。より大きなパーツを取り付ける機械もあるが、それでも難しいパーツは熟練した人間の手で作業し、組み立てられていく。

ペーストはんだに乗せたチップを、窯のような機械で熱してはんだ付け
大きめのパーツを取り付けていく機械。パワーアンプ回路を作っているところだ
ハンダの川の上を、イカダのように流れていく基板
この機械によって下側がはんだ付けされる
より大型、複雑なパーツは熟練した人間の手で

A1Hならではのポイントとして、前述の通り、ハイグレードで重量のあるスピーカーターミナルを採用しているため、ターミナルがハンダ付けではなく、より強固にナットで固定されている。それも、1本ではなく、最初にバックパネル側からナットで固定し、基板をサンドイッチして、その上からもう一本ナットで固定という徹底ぶり。手間がかかるが、A1Hの音質のためには妥協できないポイントだという。

重いスピーカーターミナルをナットで強固に固定しているのがわかる

見学で興味深いのは、品質や効率をアップするために独自に開発されたツールが多く使われている事。

例えば、完成した基板を、電源を搭載する前に通電チェックできる機械や、各入力端子が正しく機能しているかを一度にチェックする機械などを開発して投入。膨大なAVアンプの機能が正しく動作するかを短時間で確認しているほか、パーツを組み上げる前に、ハンダ付けが正しくできているかを画像診断で確認する装置なども導入するなど、品質管理が徹底されていた。

わずかでも傷があるパーツなどは不良として弾かれ、そのパーツは破棄。再度良品パーツで組み上げるといった作業も行なわれていた。

電源を搭載する前に基板の通電チェックができる機械
各入力端子が正しく機能しているかを一度にチェックする機械
わずかでも傷があるパーツなどは不良として弾かれ、そのパーツは破棄される
完成したアンプは、丁寧に梱包され、倉庫へ。出荷を待つ