レビュー

驚異の15ch、デノン“究極AVアンプ”「AVC-A1H」異次元サウンドを生誕の地で聴く

AVC-A1H

今から約10年前の2014年、米ドルビーラボラトリーズが「Dolby Atmos」を家庭向けに展開すると発表。Atmosのサンプル音声が入ったデモディスクがAVアンプメーカーなどに配布された。様々な映画のワンシーンがAtmos音声で収録されていたのだが、デノンのエンジニア達はその中に「9.1.6ch」のテストトーンがあるのを見つけた。9.1.6chは、フロア9.1ch + 天井6chという構成なので、再生には“15chのAVアンプ”が必要になる。当時、そんなAVアンプはこの世に存在しなかった。

つまり、そのディスクは「Atmosのサウンドはこんな感じ」というデモであると同時に、エンジニア達に「究極のAVアンプは15ch」という“ゴール”を指し示したわけだ。

2014年に配付されたDolby Atmosのデモディスク。「9.1.6ch」のテストトーンが入っている

「15ch AVアンプ? パワーアンプを沢山入れればいいのでは?」と思うが、そんな簡単な話ではない。そもそも、そんなに大量のパワーアンプ回路を入れたら筐体が超巨大になってしまう。テレビは薄型化し、AV機器にも小型化が求められる時代、「見たこともないほど巨大なAVアンプ」を作っても売れるわけがない。

つまり、ホームシアターのゴールとなる“究極のAVアンプ”は、「15chパワーアンプを現実的なサイズの筐体に内蔵し、しかもハイエンドモデルとして最高の音質」でなければならない。エンジニア達は、デモディスクと共に「そんな無茶な」という難題を突きつけられたわけだ。

それから約10年。ついに「“究極のAVアンプ”が完成した」という。手掛けたのは、お馴染みサウンドマスター山内慎一氏と、デノンのAVアンプと言えばこの人・チーフエンジニアの高橋佑規氏のタッグだ。

デノンとして、過去最高に“気合が入った”製品なのは、発表会の会場の住所を見てすぐにわかった。東京から約200km、福島県の白河市にある、デノンの高級モデルを手掛ける工場・白河ワークス。つまり究極のAVアンプを作っているまさにその場所で、そのアンプをお披露目するというのだ。

雪が舞う新幹線・新白河駅に降り、巨大工場に足を踏み入れると、そこで待ち構えていたのが新AVアンプ「AVC-A1H」(990,000円)だ。結論から言うと、今までのAVアンプ、ホームシアターの概念をぶち壊す、衝撃的な“孤高AVアンプ”だった。

デノンの高級モデルを手掛ける工場・白河ワークス
新AVアンプ「AVC-A1H」

スイッチングアンプをあえて採用しなかったA1H

AVC-A1Hを初めて目にした印象は「あれ、そんなに大きくない」だ。

前述の通り、15chものパワーアンプを内蔵したら、とんでもないサイズになるだろうと思っていたのだが、AVC-A1Hは、隣に置かれた今までのハイエンドモデル、13.2chの「AVC-X8500HA」と見比べても、あまりサイズが変わらない。

上から見ると、A1Hの方が奥行きが16mmアップしているが、それも「並べて見たら確かにちょっと長い」くらいで、大きな違いはない。これなら、今までAVアンプを置いていたラックに、そのまま置き換えられるだろう。具体的な外形寸法は434×498×195mm(幅×奥行き×高さ)だ。

左がAVC-A1H、AVC-X8500HA。A1Hの方が奥行きが16mmアップしているが、大きくは違わない
AVC-A1Hの内部

このサイズに15chのパワーアンプ……AV機器に詳しい人なら「スイッチングアンプ(デジタルアンプ)なのでは?」と思うだろう。しかし、A1Hのパワーアンプは“AB級”だ。ここに、A1Hの“凄さ”がある。

アンプの小型化手法として一般的なのは、パーツが省スペースで発熱も少ないスイッチングアンプを採用する事だ。デノンの技術者も、AVアンプにおけるスイッチングアンプの可能性を探るべく、20年以上前から研究開発をしてきた。実際に横浜で2003年に開催された「A&Vフェスタ2003」では、7.1chデジタルパワーアンプ「POA-X」という試作機も展示している。

横浜で2003年に開催された「A&Vフェスタ2003」のデノンブースに展示されていた7.1chデジタルパワーアンプの「POA-X」

その一方で、デノンにはAB級アンプ開発に関して、これまでの試行錯誤を蓄積した膨大なノウハウがある。2012年のAVアンプ「AVR-4520」(9.2ch)開発時に、「今後のAVアンプを、スイッチングアンプにするのか、AB級アンプにするのか」という議論が社内で行なわれたそうだ。

もちろん「現実的なサイズで15chのAVアンプ」という夢を実現するためには、省スペース性に優れるスイッチングアンプにした方が有利だ。しかし、デノンはあえて、高音質化に関しての膨大なノウハウを持つ“AB級アンプ”を選んだ。

しかも、A1Hに搭載しているのはただのAB級パワーアンプではない。デノンが採用したのは、シンプルで素直な特性が得られる、差動1段のAB級リニアパワーアンプだ。段数が少ない差動アンプには、位相の回転が少なく、安定性が高いため、様々なスピーカーを接続した場合でも高い駆動力を発揮でき、音質も良くなるという利点がある。しかし、性能を確保するための設計が難しい。つまり“音は間違いなく良い”が“、“作るのも小さくするのも難しい”AB級パワーアンプという、困難な道をあえて選んだわけだ。

“AB級アンプで15ch”を実現するためには、パワーアンプを搭載するエリアを広くしなければならない。ブレイクスルーとなったのは“プリアンプ基板の多層化だ”。以前のハイエンドモデル「X8500HA」のプリアンプ基板は2層だったが、A1Hでは4層化した。これにより、基板自体の奥行きが短くなり、パワーアンプに割けるスペースが拡大した。4層化する事で、信号経路を短縮できるというオマケ付きだ。

プリアンプ基板を2層から4層化。基板自体の奥行きが短くなり、パワーアンプに割けるスペースが拡大した
上にあるのがプリアンプ基板

パワーアンプの増幅素子には、Hi-Fiアンプ用の設計思想を踏襲した大電流タイプのパワートランジスタ「Denon High Current Transistor(DHCT)」を採用。チャンネル毎に個別の基板に独立させ、この基板を15ch分内蔵する「モノリス・コンストラクション構成」となっている。

増幅素子DHCT
白河ワークスで作られたばかりのパワーアンプ回路。一度に15ch分のパワーアンプ回路を生産、この1つ1つの回路を切り離し、A1Hに搭載する
切り離した小さなパワーアンプ基板をヒートシンクに取り付け、アンプに搭載する

小さなパワーアンプ基板が整然と並ぶ内部は壮観で、まさに“ハイエンドモデル”という風格。1つの基板上に複数のパワーアンプを搭載すれば場所はとらなくなるが、チャンネル間のクロストークや振動の影響が出てしまう。全て個別の基板にする事で、それらを防ぎ、全チャンネルが同一のクオリティになるというわけだ。「そこまでこだわらなくても」と思われるかもしれないが、サウンドがユーザーを取り囲むホームシアターでは、チャンネル毎に少しでも音が違うと、それが臨場感の不自然さに直結するので、手を抜けない部分だ。

最大出力は260W(6Ω/1kHz/THD 10%/1ch駆動)。AB級アンプなので、当然発熱の対策も重要になる。前述の増幅素子(DHCT)から出る熱を逃がすために、素子自体を巨大なアルミのヒートシンク上に格子状にレイアウトしている。注目は、ヒートシンクとDHCTの間にある黄土色の“層”だ。これは銅の放熱板で、厚さがなんと4mmもある。

銅はアルミと競べて熱伝導率が高い。さらに、比重も3倍ほどあり、振動にも強い。つまり“音に良い”素材だ。ヒートシンクとの間に銅を挟むテクニックは、実はX8500HA/A110でも採用されているのだが、その厚さは2mm、A1Hでは2倍の厚みにすることで、熱の上昇や変動をさらに抑えている。さすがはハイエンドモデルという豪華さだ。

ヒートシンクと増幅素子(DHCT)の間に、銅板が挟まっているのがわかる

衝撃の電源トランス、ターミナルだけで1kg超え

パワーアンプ部も大事だが、もっと大事なのは電源部だ。前代未聞と言っていい15chものアンプを支えるためには、従来の電源トランスよりも強力なものが必要になる。エンジニア達はそんなトランスを探したが、そんなものは存在しない。

存在しないのならば、作るしかない。というわけで、トランスメーカーと一緒に、A1H専用のEIコアトランスを新たに開発する事になった。これも困難の連続だ。あまりにも大きく、重くなるため、「試作機が届いたら、重すぎて箱の中で壊れていた事もありました。製品化にあたっては、当然ある程度の衝撃に耐えられるように落下試験もするのですが、落とすとバラバラになってしまい、また作り直すという事を繰り返しました」(AVC-A1Hのチーフエンジニア・高橋佑規氏)。

AVC-A1Hのチーフエンジニア・高橋佑規氏

そうして完成したトランスは、なんと単体で11.5kg(!)というバケモノレベル。7.2chの「AVR-X2800」というAVアンプが9.5kgなので、A1Hはトランスだけでそれよりも2kgも重いのだ。実物が床に置いてあったので、「へぇーこれがそのトランスか、ちょっと持ち上げてみよう」と掴んだのだが、冗談抜きでビクともしない。「え、床に打ち付けてあるでしょ!?」レベルの重さだ。この超強力トランスを、さらに2mm厚の銅板の上に設置し、放熱性を高めている。

A1Hのトランス。冗談抜きに、片手で持ち上げようとしてもビクともしないほど重い

ブロックコンデンサーも、今まで見たことがないほど巨大だ。A110/X8500HAと比較して1.5倍、80V 33,000μFという大容量。整流器にショットキーバリアダイオードを採用し、ハイスピードなサウンドを追求している。

“物量の鬼”っぷりはこれだけではない。スピーカーターミナルはX8500HAよりもさらにしっかりした作りになっており、重さは1個32g、34個合計で1,088gと、ターミナルだけで1kg以上ある(X8500HAは330g)。

スピーカーターミナルも新たに作られたもの

これだけの重さがあるので、基板への取付もハンダ付けではなく、ナットで固定される。それも1本ではなく、最初にバックパネル側からナットで固定し、基板をサンドイッチして、その上からもう一本ナットで固定という“ガッチリ”ぶり。手間がかかるが、音質のためには妥協できないポイントだ。

工場内でスピーカーターミナルの取り付けを見学。重さがあるので、基板への取付もハンダ付けではなく、ナットで固定されている

シャーシの作りも凄まじい。3層構造で、トランス用プレートが1.2mm厚、メインシャーシが1.2mm厚、ボトムプレートは1.6mm厚で、総厚はなんと4mmもある超高剛性。X8500HAが1.2mm×3層だったので、それすら超えている。この結果、A1Hの総重量は32kgと、X8500HAの23.6kgより8.4kgも重くなっている。サイズは大きく変わらないのに、こんなにも重さが違うのは、それだけA1Hに物量が投入されているという証拠だ。

オーディオグレードの2ch DACを10個搭載

デジタル部分の仕様も最新だ。Dolby Atmos、DTS:Xへの対応は当然として、Dolby Atmos Height Virtualizer、DTS Virtual:Xも備え、ハイトスピーカーやサラウンドスピーカーが無い環境でも、イマーシブオーディオを仮想的に再生できる。Auro-3Dにも対応する。

さらに、新4K/8K衛星放送で使用されているMPEG-4 AAC(ステレオ、5.1ch)にも対応。360 Reality Audioもサポートしているので、音楽配信の空間オーディオコンテンツをサラウンドで楽しむ事もできる。

15.4chまでの音声デコードやレンダリング、アップミックス、音場補正となると、信号処理の負荷も重いわけだが、それをこなすために最新のDSP「Griffin Lite XP」を搭載している。X8500HAに搭載しているDSP×2基の演算能力を、1基で凌駕するというパワフルなDSPだ。

DACチップにもこだわっており、8ch用DACなどをあえて使わず、オーディオグレードの2ch用、32bit対応DACを10個も搭載。超低位相雑音クロックを使い、10基のDACを正確に同期させているほか、D/A変換回路を映像回路やネットワーク回路から独立した専用基板にマウントして干渉を排除するなど、細かな部分まで気を配っている。

ステップアップ要素として、17.4chプリアウトも装備、別途パワーアンプを追加することで音のグレードアップが可能となる。内蔵パワーアンプを停止させ、A1HをAVプリとしての使う「プリアンプモード」も備えているが、その際は、15ch全部のパワーアンプを止めるだけでなく、チャンネル毎に個別にオン/オフも可能。様々な構成に、より柔軟に対応できるわけだ。

さらにAVファンに注目なのは、アナログ出力としてRCAだけでなく、XLRバランスも装備している。サブウーファープリアウトも4系統装備し、4系統のサブウーファーすべてから同じ音を再生する「スタンダード」と、各サブウーファーの近くにある「小」に設定されたスピーカーの低音を再生する「指向性」の2モードから動作を選択できる。サブウーファーを増やす事で、低域の移動感がより明瞭になる。

背面端子部

持っているスピーカーの数が少ない場合でも、15chのパワーアンプを活かせる。フロントスピーカーの駆動に4つのアンプを使って駆動する「バイアンプ」、センター、サラウンド、サラウンドバックも含む7chスピーカーをバイアンプ駆動「7chフルバイアンプ機能」がそれだ。2組の異なるフロントスピーカーを切り替えて使用できる「A+B」機能も備えている。

部屋の音響的な問題を補正する「Audyssey MultEQ XT32」も搭載。「Sub EQ HT」も搭載し、前述した、最大4台のサブウーファーを個別に測定・最適化できる。今後のアップデートにより「Dirac Live」にも対応予定だ。

HDMIは入力×7系統、出力×2系統で、いずれも8K/60Hzと4K/120Hzに対応。ゾーン出力も含む7入力/3出力すべてがHDCP 2.3に対応する。HDR10、Dolby Vision、HLG、HDR10+、Dynamic HDRにも対応するほか、ゲームやVR用のHDMI 2.1新機能「ALLM」、「VRR」、「QFT」に対応。

デノンのAVアンプでお馴染み、ネットワークオーディオ機能の「HEOS」も搭載しているので、NASやPCに保存したハイレゾ音楽ファイルや、音楽配信サービスをAVアンプだけで聴ける。

音で映画はこんなに変わるものなのか

内容はてんこ盛りなので細かく見ていくとキリがない。このへんで音を聴いてみよう。環境はB&Wスピーカーを使った、9.4.6ch構成だ。

まずはAtmosサラウンドのデモではお馴染み、映画「不屈の男 アンブロークン」。米爆撃機が、爆弾の投下地点まで飛行するシーンで始まる。機内はエンジンの轟音で満たされているのだが、その包囲感が素晴らしい。全チャンネル綺麗に音質が揃っているため、自分の体を包み込む、音の密度に「ここが弱い」とか「ここが強い」みたいな不自然さがまったくない。そのため、“まわりに置いてあるスピーカーから音が出ている感”がまったくなく、スピーカーの存在が消え、本当に空中に飛んでいる飛行機の中で「グァアア」というエンジン音に包まれているかのようなリアルさがある。

これは明らかに、パワーアンプを個別基板にしたモノリス・コンストラクション構成の効果だ。これだけ密度が高く、包囲感がリッチで、空間も広大なサラウンドに包まれた事は未だ経験がない。さらに驚くべきは、このエンジン音の中にあって、機器を操作する「カチャ」みたいな小さな音が、埋もれず、ハッキリと明瞭に耳に入ってくる。分解能も素晴らしい。

察知した日本軍が、爆撃機を撃ち落とそうと高射砲を撃ってくる。空中で炸裂する砲弾がそこらじゅうで爆発するのだが、正直言ってこの音に驚いた。“音が良くて驚いた”という意味ではなく、純粋に、いきなり鋭い「ズバン!!」という音が真横の空間で炸裂したので、体がビクッとなって首をすくめるほど驚いたのだ。

このシーンはAVアンプの試聴でよく使うので、ぶっちゃけ何十回も聴いて慣れてしまっており「はいはい、もうすぐ高射砲がドンと来るよね」くらいの気持ちでいたのだが、あまりに炸裂音が鋭く、ハイスピードで鮮烈だったため「え!? いまの何!?」と、わかっていたのに驚いてしまったのだ。このシーンで、こんな音は聴いたことがない。

爆発音、炸裂音などは、電源トランスの瞬時電流供給能力や、パワーアンプのブロックコンデンサーの良し悪しがモロに出るところで、それらが弱いアンプだと、なまった音に聴こえる。だが、A1Hのトランジェントの良さは衝撃的なレベルで、「音がハイスピードで気持ちが良い」を通り越してもはや「音が怖い」。見飽きた戦争映画を観ていたら、突然本物の戦場に放り込まれたような気分で、心拍数が上昇する。「音でこんなに変わるものか」と圧倒された。

「トップガン マーヴェリック」から、超音速機・ダークスターのシーンも凄い。マッハ10を目指して加速すると、機体が空気を切り裂く凄まじい音がうねりとなって部屋の中を通過していくが、このシーンでも、機体がビリビリと細かく振動している細かい様子が聴き取れる。

広大な音場に、鋭く、パワフルな音像がのびのびと舞い踊るサウンドは、サウンドマスターの山内慎一氏が追求している「ビビッド & スペーシャス」そのものだ。山内氏は、2chアンプでもAVアンプでも区別せずに“ビビッド & スペーシャス”を追求し、チューニングしているが、内蔵パワーアンプの数が増えると1chにかけられるコストは減るので、当然ながら、2chとAVアンプには、音質そのものにクオリティの違いが生まれる。

だが、このA1Hの音は完全に“2chピュアオーディオのクオリティ”であり、それが15chで炸裂している。その結果、音が恐ろしいほど生々しくハイスピードでありつつ、空間も意味がわらかないほど広いという、ハイエンド2ch環境でも聴いたことがない世界に足を踏み入れている。

サウンドマスターの山内慎一氏

A1H開発にあたっては、基本設計を高橋氏が担当、音のチューニングは山内氏がフルに担当し、山内氏からの「ここにあのパーツを使いたい」「ここをこうして欲しい」といった要望を受けて、高橋氏が改良し、さらに山内氏が聴いて……という流れで作り上げたそうだ。音質検討にかけた時間は、レギュラーモデルとしては異例の10カ月以上。当然、A1Hにも、山内氏がこだわりまくって作った結果、非常に高価な「SYコンデンサー」もふんだんに使われている。それが、音にも現れている。

音楽モノも聴いてみよう。「いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!」のBlu-rayは、レコーディングエンジニア・古賀健一氏が手掛け、Atmos音声収録の高音質盤。「コイスルオトメ」を聴くと、椅子に座っているお尻まで震えるほどパワフルな低域が響く音量でも、低域自体がハイスピードでキレが抜群なため、まったくうるさく聴こえない。

同じく古賀氏が手掛けたOfficial髭男dism「ONE-MAN TOUR 2021-2022『Editorial』」のBDから「HELLO」を聴いてみたが、こちらも凄い。さいたまスーパーアリーナの広大な空間に、力強い演奏が広がる様子、その周囲や背後から観客のハンドクラップが送られる様子が生々しく聴き取れる。

驚くのはスネアドラムで、胸を圧迫されるような音圧の強さと、それがリズムを刻むキレの良さが両立しており、スピーカーで再生しているとは思えない。目を閉じると本当に目の前にドラムが置いてあるかのようなリアルさだ。

ホームシアターを、次の世代へ進めるハイエンドAVアンプ

映画館でエンドロールが終わっても、しばらく椅子から立ち上がれない……なんて事がたまにあるが、A1Hを聴いた後の心境がまさにアレだ。いや、低域の迫力、キレの良さ、中高域の情報量の多さ、そして全身を包み込む包囲感のリアルさ、いずれも映画館のクオリティを超えている。「なんかヤバいものを聴いてしまった」感がすごい。

山内氏が、2chのハイエンド「SX1 LIMITED」で追求した「ビビッド & スペーシャス」なサウンドに、AVC-A1HはAVアンプという別のアプローチで到達している。

いや、99万円のAVアンプなので音が良いのは当たり前なのだが、明らかに今までの“AVアンプやホームシアターの音”という概念を破壊された。「音だけ空間ワープ装置」みたいな、何か別のモノに進化した感すらある。

値段が値段なので、実際に買う買わないは別にして、AVファンはお店やイベントなどで一度聴いて欲しい。きっと私と同じ様に「なんかヤバいものを聴いてしまった」と思うはず。AVC-A1Hは単なるハイエンドモデルではなく、ホームシアターの世界自体を、次の世代へ進める力を持っている。

AVC-A1H プレミアムシルバー

また、個人的には9.4chの下位モデル「AVR-X4800H」(313,500円)の魅力にも改めて気付かされた。詳細は以前のX4800Hレビューをお読み頂きたいが、個別基板のモノリス・コンストラクション・パワーアンプや“白河ワークス製”など、かなり多くの要素がA1Hと共通している。それもそのはず、開発がスタートしたのはA1Hの方が先であり、“A1Hで生み出した技術を下位モデルに降ろした”のがAVR-X4800Hなのだ。「A1Hを聴いて驚いたけど、ちょっと手が出ない……」という人は、X4800Hを選ぶと幸せになれるだろう。

下位モデル「AVR-X4800H」
「AVR-X4800H」も個別基板のモノリス・コンストラクション・パワーアンプを採用

最後に、白河ワークスで“AVC-A1Hができるまで”を取材したので、その模様を動画でまとめた。別のモデルのパーツを作っているシーンも混ざっているが、機械と熟練した人の手により、AVアンプが生まれる様子がわかるだろう。

デノン工場“白河ワークス”で「AVアンプができるまで」

(協力:デノン)

山崎健太郎