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デビアレ、新世代ADH搭載アンプ「Astra」。DAC統合、SAMでウーファ最適駆動。音質レビュー付き
2025年3月12日 10:00
完実電気は、Devialetの新たなアンプ「Devialet Astra」を4月中旬に発売する。DACやストリーマー機能も内蔵しており、Phono入力も搭載する。通常モデルLight Bronzeに加え、特別仕上げのOpéra de Parisも用意。Light Bronzeのステレオ仕様(1台)は2,796,000円、2台セットのデュアルモノは5,592,000円。Opéra de Paris仕上げのステレオは3,496,000円、デュアルモノは6,692,000円。
2010年にDevialetは、最初のアンプ「D-Premier」を発売。ADH(Analog Digital Hybrid)テクノロジーが世界で話題となった。それから15年、技術革新を追求し続け、250の特許を取得。こうした長年の研究開発の成果を結集したモデルが、「Devialet Astra」だという。
最新世代に進化したADH
元ゴールドムンドのエンジニアで、初代Phantomの開発にも参加したジャン・ループ氏(開発総責任者)は、Astraの開発にも参加。その魅力を「アートとテクノロジーの融合」と表現。「限りなく豊かなサウンドと音楽の真の感動を明らかにするために設計された」と語る。
アンプとしての進化点は、最新世代のハイブリッドアンプ、ADHを搭載したこと。ADHは、アナログ増幅(クラスA)の滑らかで洗練された音質と、デジタル増幅(クラスD)のパワーとコンパクトさを融合させた方式。アナログアンプが電圧発生機能を、エネルギー効率に優れたデジタルアンプが電流発生機能を担うという役割分担になっている。
このアナログ増幅とデジタル増幅の動きのタイミングを合わせるために、それを制御するコントローラーを搭載しているのだが、新世代のADHでは、このフィードバックループの動作を改善する事で、高周波性能が改善。主に5kHz以上のTHD(全高調波歪み率)が良くなったという。
ほぼケーブルが無く、基板同士を直結する理由
ADHアンプの直近には、バーブラウンのDACチップも配置。これにより、DACチップからアナログアンプへの、アナログ信号の伝送距離をわずか5cmに短縮。信号の劣化を最小限に抑えることで、ノイズや歪みを極限までコントロールし、ピュアなサウンド再生を可能にしたという。これを「Magic Wire」と名付けている。
なお、DAC部分においては、PCB基板のデザインを新しくすることで 出力電圧を上昇させ、よりゲインを稼げるようになり、これがSN比の良さや情報量の増加といった音質向上にも繋がっているという。
内部を見ると、デジタルアンプ基板の上に、アナログアンプ + DACの基板を重ねるようにして直結し、経路を最短化している。その他の基板も、ほとんどの場所で基板同士を直結しており、ケーブルはほぼ使われていない。ジャン・ループ氏によれば、「経路の最短化のため、ゼロケーブルを目指している。これは音質にとって重要なだけでなく、ケーブルによって音にムラがでないようにする、生産安定性を高めるという面でも重要な部分」だという。
ウーファーの動きを最適化するSAM、使い勝手が向上
SAM(Speaker Active Matching)機能も搭載している。SAMはそもそも、小型の一体型スピーカー「Phantom」において、強力な2対のウーファーを、理想的に駆動するためにジャン・ループ氏が考え出した技術で、信号処理をすることで、ウーファーの動作を最適化し、位相のズレも補正するというもの。
そのSAMによる補正を、Phantom以外の、他社のオーディオスピーカーでも利用できるようにしている。具体的には、Devialetが市場にあるスピーカーの、ウーファーの動きをレーザーを使って精密に測定。ウーファーが振幅する時に、振幅し過ぎないように補正したり、再生できない超低域信号が入ってきた時に、余分な動きをさせないためにそれをカットするといった処理をする。
これらの測定結果をプロファイルとしてDevialetが持っており、プロファイル数は既に1,200種類以上あるとのこと。ユーザーが使っているスピーカーのプロファイルが既に存在するのであれば、それをAstraにインストールして使用。無い場合は、測定のリクエストをするという流れになっている。
なお、従来機ではプロファイルデータのインストールにSDカードを使っていたが、Astraでは、新たにアプリを用意。このアプリから、スピーカープロファイルを選び、手軽にAstraにインストールできるようになった。
ネットワーク再生やPhono入力も搭載
MM/MC対応のPhono入力も備えており、RAM(Record Active Matching)という機能も搭載。
レコードプレーヤーから入力された信号を、デジタル処理するもので、その際に、高い精度でイコライゼーションを動的に調整することで、フォノステージを完全にカスタマイズ可能にし、「あらゆるターンテーブルやレコードの特性に適応することで、最高のパフォーマンスを引き出す」というもの。
入力感度は100μVrms~10mVrmsまで設定可能で、イコライゼーションカーブは従来からさらに増加した13種類を用意。抵抗負荷は10Ω~47kΩまで設定可能。容量負荷オプションも8つから選択できる。
最新の「Devialet DOS3」オペレーティングシステムを搭載し、AirPlay、Google Cast、Roon Ready、Spotify Connect、Tidal(日本未サービス)、UPnPに対応。WiFi 6、Bluetooth 5.3接続もサポートする。
なお、Qobuzには現在対応していないが、ジャン・ループ氏によれば「同じフランスのサービスなので、コミュニティはとっており、いつ対応するとは名言できないが、いずれサポートできる見込み」だという。一方で、Amazon Musicについては「現在対応は予定していない。Amazon Musicをスマホなどで再生し、Google CastでAstraにキャストする使い方になる」とのこと。
専用アプリとAdvanced Configuratorを使い、細かな機器設定も可能。入力ソースの選択、音量調整、フォノステージ設定、ステレオバランス、デュアルバンドEQ、スクリーンの明るさも調整可能。入力端子のアサインも変更できる。「UIをより使いやすく進化させたり、新機能の追加も積極的に行なっていきたい」(ジャン・ループ氏)という。
入力端子はアナログRCA×2、Phono入力(MM/MC)×2、同軸デジタル×4、光デジタル×2、USB-C 2.0×1。同軸/光デジタル入力ではPCM 192kHz/24bit、DSD 64まで再生可能。ネットワークもPCM 192kHz/24bitまでをサポート。USB接続の場合は、PCMは384kHz/24bitまで、DSD 128まで再生できる。
なお、DSD対応の拡充については「対応できないことはないので、市場の状況を見ながら、将来的にソフトウェア・アップデートでの対応をしていきたい」(ジャン・ループ氏)とのこと。
Opéra de Parisモデルは、Devialetとパリ国立オペラがパートナーシップを締結して手掛けているもの。唯一無二のサヴォアフェール(匠の技)が求める厳格な基準に応え、Ateliers Gohardの熟練した職人たちが23カラットの金箔を一枚一枚、丹念に手作業で施した。これにより、筐体の模様は1台1台異なるという。
なお、Opéra de Parisのデュアルモノを、2台重ねて使う場合、下になったモデルの金箔に、上に乗せたモデルの“跡”がついてしまうため、下に配置するモデルの天板に金箔を使わない仕上げにするオーダーも可能。その場合は、少し低価格になるとのこと。
内部スペックは共通。出力は、ステレオモデルが300W(4Ω)×2、150W(8Ω)×2。デュアルモノでは600W(4Ω)×2、300W(8Ω)×2となる。SN比は-117dB。外形寸法は386×386×47(W×D×Hmm)で、重量は7.2kg。消費電力は最大750W。
音を聴いてみる
短時間ではあるが、発表会においてサウンドを体験したので、ファーストインプレッションをお届けする。システムは、スピーカーがソナス・ファベールのセラフィーノ・トラディション。AstraはまだQobuzに対応していないので、プレーヤーとしてLUMINのものを使用。
Qobuzから、「パトリシア・バーバー/Clique」の「This Town」と、ケント・ナガノ指揮、モントリオール交響楽団による「死の舞踏~魔物たちの真夜中のパーティ」から「サン=サーンス:死の舞踏 作品40」を聴いた。これらの曲は、ジャン・ループ氏が製品開発時にも聴いている曲だという。
既存の「Expert Pro」と比べると、Astraはよりノイズフロアが低くなり、無音部分が静かになったように感じられる。中高域も伸びやかで、よりナチュラルなサウンドに進化した印象だ。
そして「この薄型筐体のどこからこんなパワーが」と、驚くほどパワフルな低音も体感できる。フロア型スピーカーの、大口径ウーファーを余裕をもってドライブできているサウンドだ。
ウーファーの動きを最適化するSAMをONにすると、少し膨らんでいたベース音像の輪郭がビシッと定まり、よりシャープで、キレの良い低音になる。「This Town」の、ベースとドラム、そしてピアノの左手など、多くの低音が重なり合っていく場面でも、ベースの弦が揺れている様子や、ピアノの左手の表現の変化といったものがしっかりと聴き取れる。
フォーカスが綺麗に定まった感覚は、ウーファーの動きを最適化しただけでなく、位相のズレが補正された効果も大きいのだろう。なお、SAMの効き具合は、0~100%まで、ユーザーが調整できる。
「死の舞踏」では、Astraによって進化した高域の伸びやかさと、驚くほど精密な低域描写がスケール感豊かな音で楽しめる。低域の沈み込みも、従来モデルより深くなった印象で、“凄み”が感じられる。これは前述のSAMの効果だけでなく、高域の伸びが良くなった事で、低音もより深く沈み込んで聞こえる効果もありそうだ。