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オシャレで小型、でも中は“超本気”。驚きの低音、デビアレ「PHANTOM II」の秘密

デビアレの「PHANTOM II 98dB」

見た目はオシャレなスピーカー、でも中身は“超本気”

オーディオの世界にもさまざまなトレンドがあるが、注目度が高まっているのがアクティブスピーカー。ちょっと昔のアクティブスピーカーは、パソコン用スピーカーなどと呼ばれ、片手で持てるくらいのコンパクトなサイズで人気があった。それが進化し、USB接続できるUSBスピーカーが派生。小型サイズも継続して存在するが、より本格的な音質を志向してブックシェルフ型になった製品も増えている。

一方で、スタジオ用モニタースピーカーの小型機がアンプ内蔵のアクティブ化していく動きもあった。そのため、現在アクティブスピーカーを探すと、USB入力やデジタル入力が可能なものと、デジタル入力は持たないが、バランス入力や業務用機器で使われるキャノン端子を持つモデルの両方がある。

そして“第三の流れ”がある。これはデジタル入力だけでなく、ネットワーク機能を持ち、アプリから操作可能なもの。HDMI(ARC/eARC)の採用で薄型テレビとの連携が可能なモデルも話題だ。このネットワーク対応アクティブスピーカーは、ピュアオーディオのスピーカーメーカーらが注力しており、海外を中心に普及が進んでいる。

こうした新しいタイプのアクティブスピーカーのひとつが、デビアレの「PHANTOM II」だ。

正面から見ればほぼ円形。スピーカーユニットのある部分には花柄にも似た模様のカバーが付いていて、洒落たデザインだ。

正面から見ればほぼ円形
カバーの奥にユニットが見える

側面は長円形になっていてゆるやかな曲面で構成されたフォルム自体が美しい。これを見てひとめでスピーカーだと気付く人はあまりいないかもしれない。少し嫌な言い方をしてしまうと、タワーマンションの上層階に住んでいるようなお金持ちの、豪華なリビングに置いてありそうなスピーカーだ。

横から見たところ

横幅15.7cm、高さが16.8cm、奥行き219cmとコンパクトで、デザインも美しい。そして価格は1本で249,000円というと、それだけで記事を読むのをやめてしまう人がいるかもしれない。ただ、ちょっとまって欲しい。このPHANTOM II、“デザインに全振り”したスピーカーではない。つまり音質が良い。なんと、このサイズで18Hzまでの低音再生が可能という凄いスピーカーなのだ。ローエンドが18Hzというと、ちょっとしたサブウーファーに迫るもの。そんな音が出るなら気になるじゃないか。そう思った人も少なくないだろう。筆者もその一人だ。

優れた独自のアンプ技術を持つメーカー、デビアレ

デビアレというフランスのメーカーのことをあまり知らない人も少なくないかもしれない。デビアレは2010年にプリメインアンプでデビューした高級オーディオメーカーだ。オーディオボードかと思うような薄型のアンプだが優れた駆動力を発揮して大きな話題を集めた。そして、現在ではプリメインアンプのほか、PHANTOM IIのようなスピーカーやサウンドバー、完全ワイヤレスイヤホンなどを発売している。

プリアンプ、アンプ、DAC、ストリーマー、フォノ・ステージを薄型筐体に搭載したExpert 250 Pro(261万8,000円)

デビアレの名を世間に知らしめた独自のアンプ技術が「ADH」。アナログ・デジタル・ハイブリッドという名称のアンプ技術は、電圧増幅段を純A級で、電流増幅段をD級で行なうハイブリッド型のアンプ技術だ。A級動作の音質の良さとD級動作の電力効率の良さを両立した技術で、アンプ部のコンパクト化にも貢献している。この技術を中心として各種のアクティブスピーカーを発売しているわけだ。

コンパクトなサイズで驚異的な低音を再生する秘密

まずはPHANTOM IIの概要を紹介しつつ、その驚異的な低音再生や音の良さの秘密について解説していこう。

Wi-FiおよびLAN端子を備えたアクティブスピーカーで、Spotify Connect、Roon Readyなどの多彩な音楽配信サービスに対応、そして家庭内ネットワークに接続したNASなどに保存された音源の再生ができるUPnP機能を持つ。入力ソースとしては、このほかにBluetooth、アナログ/光デジタル兼用音声入力(ステレオミニ端子)がある。

背面端子部分。アンプ技術「ADH」のロゴも見える
デビアレの操作用アプリでのソース選択画面。Spotifyをはじめとして、多彩な音楽配信サービスへ対応していることがわかる

ラインナップとしては、PHANTOM II 95dB(199,000円)とPHANTOM II 98dB(249,000円)の二種類がある。デザインは一緒で、末尾の数字が示すとおり、最大音圧が違っている。カラーは95dBのものがホワイトとブラック、98dBのものがホワイトとブラックに加えて、少し高価になるがゴールドリーフというスペシャルカラーの「OPERA」という特別モデルもある。

さらに、基本的なデザインは同じだが、さらにひとまわり大きなPHANTOM Iもある。こちらも103dBモデルと108dBモデルが用意されている。さらに迫力ある低音を求める人、あるいは広い部屋で使いたい人に向けたモデルだ。これらはサイズや最大音圧が異なるだけで、機能については共通。使われている技術なども基本的に共通だ。

アンプ回路は独自のADHを内蔵。さらに一体型ならではの技術である「SAM(スピーカーアクティブマッチング)」という技術を備える。これは入力信号波形と実際の音をシミュレートし、数学的なモデルを生成。スピーカーユニットから出てくる出力波形は振動板の材質や強度、さまざまな物理的要因で入力波形とは異なってしまうが、数学的モデルを使って演算することにより入力信号をDSPで補正して、元の入力波形と同じ出力波形を得られるようにする技術だ。

具体的に説明すると、スピーカーの振動板は前後に振幅することで空気を動かして音楽を再生するが、空気の動く量の大きな低音は振動板を大きくするか、振幅の量を増やす必要がある。しかし、小型の振動板で振幅を大きくすると歪みが発生してしまい、音楽信号を汚してしまう。それならば、歪みが発生しないように信号を補正して振動板を動かしてやればよい。こういう発想で、実際に振動板の動きをレーザー解析し、精度の高い数学モデルを使って高精度に演算することで、これを実現している。要するに、“振動板を正しく駆動できる”“スピーカーユニットの限界まで駆動できる”ので低域の再生能力も高められるというわけだ。

指で触れている部分がウーファー。左右の側面に配置されている

ウーファーは2つ内蔵されており、側面に左右対称の形で配置されている。もちろんこれも理由があって、2つのウーファーを対抗で配置することでお互いの振動をキャンセルする仕組みだ。外観は樹脂製ながら美しいデザインで包まれているのでわからないが、ウーファーなどのユニットを支えるボディはアルミ製で十分な剛性を確保している。しかも、ウーファーがどんなに激しく動いてもボディにはその振動を伝えないという。これは後ほどの試聴で検証してみよう。

ウーファーを収めるエンクロージャーは密閉型。これは低域の減衰特性がおだやかで自然な低音が出せるため。さらに正面にある中高域用のスピーカー、その前面にある保護カバーは花をイメージする模様になっているが、これもおそらくは音響レンズ(振動板から出た音の放射特性を補正するための物理的なフィルター)だと思われる。

丸いボディもデザインのためばかりではない。音の波形の広がりのための形状だ。音波は角があると回折が発生して音波が乱れてしまうという話を聞いたことがある人は多いだろう。それならば完全な球体にしたいところだが、それではウーファーが収まらないので長円形に近い形にして側面に収めているというわけだ。

実際に四方からPHANTOM IIを見ていると、あることに気付く。ウーファーの中心と中高域用フルレンジユニットの中心が一致している。これはつまり、仮想的に音源の位置が一致した点音源スピーカーでもあるということ。洗練されたデザインで気付きにくいのだが、実はかなり理詰めの作りでもある。ただのおしゃれな丸型デザインではないのだ。

スピーカー全体が斜め上を向いているのでわかりにくいが、こうして線を引いてみると、ウーファーの中心とフルレンジユニットの中心が同じ位置にあるのがわかる

コンパクトなボディの中にスピーカーユニットや高精度な補正回路を持つアンプ、ネットワーク機能を含めた信号処理回路、その電源部などがぎっしりと詰まっているので、その重量は4.3kg(1本)。片手で持てそうなサイズなのに、ずっしりと重い。両手できちんと持ち上げるようにしよう。

驚くような低音!! これぞサイズを超えた音

さっそく試聴してみよう。PHANTOM IIは1本で使うことができる製品だが、今回は2本使用して、ステレオペアで動作する設定で試聴した。総額約50万円の高級システムだが、果たしてその実力はどうか。

中身が超本気なスピーカーなので、2台のステレオペアで試聴する
デビアレアプリでのステレオ設定画面。それぞれのスピーカーを認識している状態でステレオのペアリングを行えばいい。左右の入れ替えなどもアプリで行える。操作は実に簡単だ
それぞれが備えるアナログ/光デジタル兼用入力は個別に接続ソースを選択可能。つまりステレオ動作時は2系統の入力を持つことになる。光/アナログ自動スイッチをオンにしておけば、切替も不要。テレビの光デジタル音声出力とつないでテレビの音を楽しめる

聴き慣れたクラシックを試してみると、スケール感豊かな音がしっかりと出る。低音の伸びも良好でフルオーケストラの雄大なステージが感じられる。一般的に、小型スピーカーで低音をがんばりすぎると、箱が鳴くのか振動板の歪みが目立つのかはさておき、音の広がりやステレオイメージが乱れ、いかにも無理しているような感じがする。低音も無理をしている感じになり、中音域もモヤモヤとしがちになる。昔流行った重低音スピーカーもその多くはこうした傾向になりやすい。

しかし、PHANTOM IIはそういう無理をしている感じはなく、のびのびと気持ち良く鳴っている。その余裕のある鳴り方は大型スピーカーに近い。

こんなにコンパクトだが、余裕のある鳴り方は大型スピーカーのようだ

低音がどんなに鳴っていても、ボディは振動しないという点も解説の通りだった。普通の箱形スピーカーは、よほどの高級品でもないかぎり、音を出しているときにそっと手のひらを当てるとビリビリと振動している。インシュレーターの違いで音が変わる理由のひとつだ。だが、PHANTOM IIはわりと低音が鳴るソースでもボディは振動しない。かなりの音量まで上げていくとさすがに少しビリつくが、普通の音量で聴いているかぎり、ほとんど振動を感じない。ボディが振動せず、不要な音を出していないことがわかる。

重低音を再生しているところ。側面のウーファーが激しく振幅しているのが見えるが、筐体の上に置いたペンはまったく振動していない

中高域は少し強めで華やかな音の傾向になるが、クリアで音の粒立ちも良い。そして音場感が広く、オーケストラは各楽器の配置がわかるような鳴り方をするし、奥行き感も十分。

アニメ映画「ルックバック」のサントラから主題歌の「LightSong」を聴くと、聖歌を思わせる透明な高い声のボーカルが目の前に浮かび上がり、教会を思わせる天井の高い場所の空間感がよく出る。清らかな高い声は繊細に響くだけでなく身体から出ているとわかる実体感のある厚みもある。これは低音域の歪みが少なく、スムーズに中高域とつながっていることの現れだ。アンプとスピーカーが一体となることで、周波数特性なども整っているのだろう。コーラスでも聖歌隊による多人数の合唱という感じがよく出るし、メインのボーカルとの前後感も見事。そして伴奏のミュートピアノも、しっかりと低音域が出て、ベダルを踏むときの感触も重みのある音で再現される。

音楽再生での低音再生能力はもう十分な実力だ。というわけで、映画も見てみることにした。サラウンド再生でも専用のサブウーファーが必要になる映画の低音はどうか。

Netflixで「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」を見てみた。フル3DCGの作品でガンダム作品としてはかなりリアル方向の映像だが、連邦の戦車部隊を蹴散らすモビルスーツ、ザクの活躍がかっこいい。モビルスーツの巨大さというか重量感もしっかりと出るし、大砲並の口径を持つザクマシンガンの連射の迫力、爆発炎上するときの重みのある再現も見事。小型スピーカーによる試聴に関わらずサブウーファーは不要だと感じる。これは見事だ。

それでいて、サブウーファーを加えた小型システムでサブウーファーの音量だけを上げた低音マシマシの時のような、低音が出すぎてセリフや細かい音が聞こえないということもない。これだけ爆音が響くなかで、逃げ惑うジオン兵の声はきちんと聴こえる。なによりガンダムが強すぎて怖い。ジオン兵の視点から描かれる物語ということで、ガンダムのパイロットは終盤まで姿をみせないが、それだけに非人間的な殺人マシーンのように見えてしまう。ザクと比べて明らかに動きが違い、圧倒的にザクをなぎ倒していく姿も怖い。

このほかにも、重低音が鳴り響くアクション映画をいくつか見てみたが、サブウーファーを追加する必要はないと感じた。これは驚異的なことだし、筆者も音を出すまでは疑っていてが、そこまでの低音とは思わずにデスクトップで使ったり、テレビのスピーカー用として使ったりする人は少なくないだろう。そんな場合は低音の実力にびっくりするはずだ。

なお、そんな場合は、アプリのイコライザー機能で調整することも可能。そして、低音を抑制するナイトモードもあるので、好みや再生音量に合わせて使うといいだろう。

イコライザー設定の画面。いくつかのプリセットを選べるほか、カスタム調整も可能だ
オーディオ設定では、「低音を減らす」機能も用意されている
直感的に音量を調整できるメイン画面。下にある「月」のマークはナイトモード。低音を抑えた再生になる

アクティブスピーカーの可能性は極めて大きい。ぜひ注目を

筆者がアクティブスピーカーに関心を持ったのは、本格的なスピーカーメーカーが人気のパッシブ型スピーカーをベースとしたアクティブ型モデルを出した時、もの凄く音が良かったからだ。

自分が作ったスピーカーのことを一番わかっているメーカーが、そのスピーカーに最適なアンプを搭載し、デジタルでの補正や音質チューニングもすると、ここまでしっかりスピーカーを鳴らし切れるのだと驚いたものだ。筆者自身まだまだ未熟者だが、パッシブ型モデルにどんなアンプを組み合わせてもアクティブ型の音にはかなわないと感じたほどだ。

ただし、そこまでの音を感じさせるモデルは、超高級なモデルばかりだ。それでも、市販のスピーカーとアンプの組み合わせで同じレベルの音を出すには、もっとお金がかかるだろう。

仮にお金や時間が余計にかかっても、自力で苦労してスピーカーを鳴らし切ろうとするのが趣味の面白さではないか、という気持ちは筆者自身にもある。その一方で、スピーカーとアンプを特性も含めて専用に開発し、一体型ならではのデジタル補正をするアプローチは、今後の趣味のオーディオでも重要になると思う。

例えば、デジタルクロスオーバーのマルチアンプ構成というと超マニアックで超弩級のオーディオに感じてしまうが、アクティブスピーカーでは“それが普通のこと”なのだ。これを“アンプを選ぶ楽しみがないから”の一言で否定するのは勿体ない。

アクティブスピーカーの実力に、ぜひとも注目してほしい。その代表例と言ってもいいのが、このPHANTOM IIだ。

スピーカー単体でこれだけ機能を備えていて、しかもセットアップも簡単。音をよくするための努力も最小限で済むのだから、“設置してすぐに音楽を良い音で楽しみたい”という人はぜひ試聴してみてほしい。「デザインだけのスピーカーじゃなないの?」というオーディオファンにも聴いてみてほしい。PHANTOM IIはそんなスピーカーだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。