トピック

スピーカーが激変する驚異の駆動力。デビアレ「ADH」アンプの究極形EXPERT PROがスゴイ

驚天動地の低音、「PHANTOM REACTOR」との出会い

AIスピーカーに向かって「オッケーなんちゃら、○○して! 」なんて恥ずかしくて言えるか! 周りに誰もいなくても、と思う。でもBluetoothスピーカーでインターネットラジオやスマホの音源を聴くのはやぶさかではない。

今回紹介するデビアレ「EXPERT 1000 PRO DUAL」

今は音の良さとデザインの美しさに惚れてヴィーファ(デンマーク) の「レイキャビク」という製品をベッドルームで使っている。70mmウーファーと2基のツイーターを用いたこのスピーカー、凡百のワイヤレススピーカーと違って中域が充実していて音にコクがあり、人の声を実にリアルに描写してくれるのである。しかしながらサイズの制約もあり、低音の再現に不満がないわけではない。

ヴィーファの「レイキャビク」

まあこの類の製品はそういうものだろうと考えていたわけだが、そんな思い込みを払拭する凄い低音を聴かせるワイヤレススピーカーに出会った。フランス生まれのDEVIALET( デビアレ)の「PHANTOM REACTOR」(ファントム リアクター)だ。

DEVIALETの「PHANTOM REACTOR」

流線型を描く繭のようなキャビネットの正面に中高域用ドライバーを、両サイドに低域用ドライバー 2基をシャフトに結合させて対向配置し、キレがよくて量感たっぷりの低音で、まるでナマ演奏と対峙しているかのようなリアルな音を奏でてくれるのである。

低域用ドライバー 2基をシャフト結合させて対向配置するアイデアは、国内メーカーのサブウーファーに先行事例があるが、これをフルレンジドライバーと一体化させてワイヤレススピーカーとして仕上げた企画力・技術力がすばらしい。

デビアレジャパンのスタッフによると、この驚天動地の低音が実現できたのは、同社独自技術である「ADH(Analog Digital Hybrid)テクノロジー」を盛り込んだアンプ基板を小型化できたからこそだという。

デビアレとはどんなメーカーなのか

デビアレは2007年にフランスで設立されたオーディオメーカー。10年前の2009年に日本での輸入販売が始まった。当時は「D Premier」と名づけられた高額なハイエンドオーディオ用アンプのみの展開だったが、あいまいさのないその鮮烈なサウンドを耳にした日本のオーディファイルから絶大な支持を受けることになる。

ぼくも初めて「D Premier」の音を聴いたときは、そのフレッシュでみずみずしい音に大きな衝撃を受けた。

その後デビアレジャパンが設立され、ワイアレススピーカーのPhantomシリーズが主力製品となったわけだが、デビアレはハイエンドオーディオ用アンプの開発を止めたわけではなかった。「D Premier」は「Expert Pro」という新シリーズに移行、「ADHテクノロジー」など独自技術を磨き上げ、いっそうの高音質を実現しているという。

Expert Proの最高峰モデル「EXPERT 1000 PRO DUAL」が届いた

Phantom REACTORの新色お披露目パーティーで「Expert Pro、一度聴いてみたいナ」というぼくの声を聞き逃さなかった編集部から「1週間ほどExpert Proの借用をお願いしますから、ヤマモトさんの部屋で聴いてそのインプレッションをお願いします」とのうれしい依頼が。そんなわけで10月中旬、Expert Proの最高峰モデル「EXPERT 1000 PRO DUAL」が届けられ、ぼくの愛用スピーカーJBL K2S9900 につないで 5日間じっくりとその音を聴くことになった。

洗練されたデザイン。DACやネットワークプレーヤー機能も内包

デビアレのExpert Proは、ステレオ仕様機が3モデル「EXPERT 140 PRO/EXPERT 220 PRO/EXPERT 250 PRO」と用意されており、それぞれにデュアルモノ仕様機もラインナップしている。型番は「EXPERT 210 PRO DUAL/EXPERT 440 PRO DUAL/EXPERT 1000 PRO DUAL」だ。

ステレオ仕様機の場合は1台で使う

ハイエンド用アンプというと、入力信号を制御するプリアンプとスピーカーを駆動するパワーアンプというセパレート型が主流。しかしデビアレのアンプはすべて一体型だ。一つの筐体に入力端子とスピーカー端子の両方が搭載された、いわゆるプリメインアンプ型である。デビアレが考える究極の高音質を実現するには信号経路の短縮化が何よりも重要ということなのだろう。ステレオ仕様機、デュアルモノ仕様機ともに主な違いは最大出力。意匠と機能面に違いはない。

ちなみに出力は、最上位の「EXPERT 1000 PRO DUAL」が1,000W×2ch(6Ω以下)、最もリーズナブルなステレオ仕様の「EXPERT 140 PRO」が140W×2ch(6Ω以下)だ。

ダーククロームメッキの超薄型アルミボディ

Expert Proは、高さわずか40mmのダーククロームメッキの超薄型アルミボディ、その洗練されたデザインにまず心を奪われる。ずっしりとした重みが手にうれしい据え置き型のリモートコントロール・ユニットのボリュームの感触も最高だ。バカでかい図体の、リモコンを付属しないわが家のドイツ製管球式セパレートアンプが、時代遅れの野暮な男に見えてきたりして。

据え置き型のリモートコントロール・ユニットのデザインもイイ
こんな感じに操作する

Expert ProはD/Aコンバーターを内蔵しており、ライン×1、フォノ×1のアナログ入力の他、同軸デジタル×2、光デジタル、AES/EBU 、USB各1系統と、豊富なデジタル入力も備える。同軸の1系統はマルチアンプ駆動用としてアンプを増やしたいときのデイジーチェーン用としても活用できる。USB入力時の対応レゾリューションは、192kHz/32bit PCM、2.8MHz DSDまでとなる。

背面

また、LAN端子も装備、今話題の音楽再生・管理ソフト“Roon ready”仕様となっており、ネットワークオーディオ再生機能の他、Spotifyなどの定額制音楽ストリーミングサービスにも対応している。

LAN端子も備えている

ADHテクノロジーとは何か

さて、Expert Proの技術面でもっとも興味深いのが、先述した「ADH(Analog Digital Hybrid)テクノロジー」だ。これはA級アナログ増幅回路のリニアリティの良さと、D級デジタル増幅回路の効率の良さを両立させた、同社ならではの独自技術。

「EXPERT 1000 PRO DUAL」の内部

スピーカーに直結されたAクラスアンプがマスターとなって出力電圧を、並列に追加されたDクラスアンプがスレーブとなってスピーカー駆動電流を受け持ち、Aクラスアンプの電流値を最小化するというもの。概念としては、A級の定電圧駆動とD級の定電流駆動を巧みに組み合わせた増幅回路と捉えていいだろう。

AクラスアンプとDクラスアンプを並列接続させて正常に動作させるには様々な困難があり、音質を吟味した「ADHテクノロジー」を完成させるのに 4年の月日が必要だったという。

同社の説明によれば、AクラスアンプとDクラスアンプの電流比は1:100となる。 8Ωのスピーカーがつながれた場合、Aクラスアンプから見ればそれはたったの800Ωの負荷、軽量ヘッドフォンみたいなものでしかないというわけだ。Expert Proのスペックを見ると出力インピーダンスはわずか0.001Ω。驚くべき制動力を持ったアンプだということがこの値から読み取れる。

もう一つ、Expert Proで個人的に強く興味を抱いたのが「SAM(Speaker Active Matching)」と呼ばれる個別スピーカー最適化技術。これは、あらかじめ世界中で販売されている家庭用高級スピーカーのドライバーとクロスオーバーネットワークの特性を独自開発のレーザー測定法で解析、そのデータに合わせてスピーカーの動作をアンプ側で最適化するというもの。そのスピーカーがもっともよく鳴るようにアンプ側で補正するという実に興味深い提案なのである。

「SAM(Speaker Active Matching)」と呼ばれる個別スピーカー最適化技術

 その補正内容は以下の通りだ。

  • 1.SOA(Safe Operating Area)の計算
  • 2.タイムアライメントの理想化
  • 3.位相の最適化
  • 4.低域再生限界の拡張

1.はドライバーユニットの理想的なピストニックモーション領域を解明することと解していいだろう。SAMを働かせれば、大音量再生時にボイスコイルがボトミングを起こしてノイズを発生させるなどというマヌケなことがなくなるはず。

ユーザーは、まずスピーカー個別のマッチングデータをデビアレのWebサイトからダウンロード、それをSDカードに書き込んでExpert Proのスロットにビルトイン、リモコンで「SAM」をオン設定すれば、貴方のスピーカーが最高の音で鳴る、というわけだ。デビアレではすでに1,000種類ほどのスピーカーの解析データを取得しているそうで、ぼくの愛用スピーカーJBL K2S9900の補正データもすでにWebサイト上に存在していた。

スピーカー個別のマッチングデータをデビアレのWebサイトからダウンロード、それをSDカード経由でExpert Proにインストールする
愛用スピーカーJBL K2S9900の補正データもすでに用意されていた

アンプによって、スピーカーはここまで変貌するのか

ぼくの部屋にやってきたのは、デビアレExpert Proシリーズのトップエンド・モデル「EXPERT 1000 PRO DUAL」だ。価格の高い安いは一概に決められないが、430万円(ペア)という値段に多くの読者は驚かれることだろう。

430万円(ペア)という価格は高価だが、DACやネットワークプレーヤー機能も搭載され、しかもプリメインアンプと考えると、また違った印象を受ける

もっともジンセーをかけて至高の音を探求しているオーディオファイルは日本のみならず世界中にいらっしゃるわけで、現在ハイエンドオーディオの世界では1,000万円を超えるスピーカーやアナログプレーヤーがゴロゴロしている。その価値を認めて買えるなら買えばよい。その点では機械式腕時計やスポーツカーなどと同じ世界だったりするのだ。

なお、シリーズで最も低価格なのはステレオ仕様の「EXPERT 140 PRO」で78万円(※11月25日より)だ。

【11月25日の改定後の価格】

  • EXPERT 140 PRO 780,000円
  • EXPERT 220 PRO 1,250,000円
  • EXPERT 250 PRO 2,380,000円
  • EXPERT 210 PRO 1,550,000円
  • EXPERT 440 PRO 2,360,000円
  • EXPERT 1000 PRO 4,300,000円

話が逸れた。では、現在愛用中のDACセクションを持たないルーミンのネットワークトランスポート「U1mini」と本機をUSB接続、NASに収めている聴き慣れたハイレゾファイルや定額制音楽ストリーミングサービス「TIDAL」のMQA/FLAC音源などをいろいろ聴いてみた。もちろん「SAM」はオン設定だ。JBL K2S9900 の補正データを記録したSDカードをEXPERT 1000 PRO DUAL 背面のスロットに挿入すると、本体天面の表示窓に「JBL S9900」とディスプレイされるのが、なんだかうれしい。

SAM機能をディスプレイに表示したところ。JBL S9900と表示されている

音を聴いて唖然とした。長年付き合っている古女房のようなK2S9900 が、ぼくがまったく知らなかった横顔を見せるのである。

このスピーカーを入手してから、常用する独オクターブの管球式セパレートシステムをはじめ、様々なアンプで駆動してきたが、これほど低音がキレよく澄明に描き出されたことはなかった。目の前のステージを覆っていたヴェールがはがされ、総天然色のサウンドスケープが8K映像のような高解像度で雄大に繰り広げられ……というと少し大げさだろうか。いやまさにそんなイメージの音がJBLからひねり出されるのである。

愛用スピーカーJBL K2S9900

いちばん驚いたのが、米国の女性ソウル・シンガー、リズ・ライトの最新アルバムから「バーレイ」という曲のハイレゾファイル(96kHz/24bit)を聴いたとき。この曲の冒頭で大太鼓がドスンと打ち鳴らされるのだが、そのドスンが常用アンプよりもいっそう深く地を這うように再現されるのだ。

しかもこれまでこの冒頭を再生するたびに悩まされていた「床鳴り」が影をひそめ、まったく気にならないのである。加えて常用アンプで鳴らしたときよりも、サウンドステージの奥行がぐんと深くなり、音場は雄大に広がっていく。

先述したように「SAM」には 4つの補正機能がある。すなわち「1.SOA(Safe Operating Area)の計算」、「2.タイムアライメントの理想化」、「3.位相の最適化」、「4.低域再生限界の拡張」である。

サウンドステージの奥行がぐんと深くなり、音場感が広大になる秘密は、2.と3.が的確にはたらいているからだろうし、4.によって常用アンプ以上に低音が深く下に伸びるイメージとなったのだろう。また過剰な低音による「床鳴り」が影をひそめたのは、1.によってウーファーの過応答が改められ、無駄な動き(ピストニックモーション)が抑えられたからもしれない。

いずれにしても、アンプによってここまでスピーカーが変貌するのか、とちょっと信じられない思いがする。中高域、高域にコンプレッションドライバー+ホーンを使っているK2S9900は、現代スピーカーの中にあっては能率(感度)が高く、インピーダンスカーブの変化もゆるやか。比較的鳴らしやすいスピーカーと言っていい。

一方、昨今ハイエンドオーディオの主役となっているダイレクトラジエーター型の高級スピーカーはおしなべて能率が低く、低域で極端にインピーダンスが下がったりして、アンプに特段の駆動力が要求される。そんなスピーカーをEXPERT 1000 PRO DUALで鳴らしてみたら、これまで味わったことのない蜜の味が得られるのではないかと思う。マジコとかYGアコースティクスのオーナーはぜひ本機にご注目いただきたい。

なお、本機のフォノ入力には「RAM」という機能があり、使用カートリッジの出力レベル、抵抗値、イコライザーカーブ(デジタル補正)を自動調整してくれるという。今回はそこまで試すことはできなかったが、これまた興味深い機能なので、またの機会にテストしてみたい。