Bluetooth推進などでモバイルオーディオ普及目指す新団体

-オーディオ協会らが設立。携帯ユーザーの視聴環境向上へ


8月7日発表


 携帯電話やポータブルオーディオ機器の音楽を、ホーム/カーオーディオ機器でも連携して利用可能にする環境の構築を目的とした「モバイルオーディオ推進協議会」(MAPI)の設立が7日、都内で発表された。

推進団体の代表者

 MAPIは、携帯電話などに配信された音楽を、「いつでも、どこでも、簡単に良質なオーディオ環境で視聴できる」ことを目指して設立。社団法人日本オーディオ協会(JAS)と社団法人日本レコード協会(RIAJ)、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が推進団体となり、協力団体として一般社団法人Jasparが参加している。

 活動の第1段階として、モバイルオーディオの一層の普及を図るため、Bluetoothを使ったシームレスな音楽の楽しみ方を提案。携帯電話本体で音楽を聴くだけでなく、外部スピーカーやカーオーディオにワイヤレス伝送することで様々な楽しみ方できるといったことを、イベント出展などを通じて幅広い層にアピールする。

 また、機器によってはBluetoothの技術仕様が守られておらず、極端に出力が低いなどの問題が起きているという。これらを検証して標準化を進めるほか、カタログなどの用語の統一も図るなど、視聴環境の向上に向けたガイドライン(ストリーム再生に限る)も作成。さらに、今後はペアリングなど初期設定がワンボタンで行なえるようにするといった、機器側への働きかけも行なう。また、無線LANや赤外線など、ほかの伝送方法の普及についても今後検討するとしている。

 具体的なプロモーション活動として、まずは関連企業や団体に趣旨を説明し、会への参加を促す。ホーム/カーオーディオメーカーとの協力以外にも、Bluetooth-SIGなど技術関連組織との協力関係も構築。規格上のネックなどについて、MAPI側からBluetooth-SIGにリクエストを行なうという。なお、MAPIで独自に認証機器などへロゴを付与するかどうかという点については、「可能性はあるが今後の検討事項」(MCPC 酒井五雄Bluetooth推進委員会 委員長)としている。

 第2段階としては、消費者や流通業者などへの啓発活動を行なう。特に、11月に秋葉原で行なわれるオーディオ協会のイベント「オーディオ&ホームシアター展 in AKIBA 2009」(「A&Vフェスタ」を引継ぐイベント)の目玉として、活動内容の紹介や、デモなどを行なうという。また、日本オーディオ協会の校條亮治会長は、「このイベント以降には、利便性を高めたBluetooth機能を持つ新商品が出てくるのでは」とした。



■ 市場低迷の危機に、業界横断で取り組む

日本オーディオ協会の校條亮治会長

 設立の趣旨について、日本オーディオ協会の校條亮治氏がオーディオ業界の現状を中心に説明。「2008年のオーディオ市場は、23年前あたりの6,600~6,700億円をピークに、現在は1/3以下の2,200億円と疲弊化している。要因のひとつは、音楽を“ながら的”に聴くことは定着したが、音楽で感動を味わう文化が退廃したこと」とする。

 校條氏は「マニアックなハイエンド向けは200~300億という一方で、ポータブルオーディオが1,400億円に成長した。日本が世界に発信したウォークマンで、いつでもどこでも聴けるという文化を創ったが、次がつながらず、iPodの1人勝ちでAV産業が疲弊している」との見方を示す。

 また、「日本も中心となってフォーマットを発信したパッケージメディアであるCDの売上も半減し、3,000億円を割る状況。携帯電話が出たときも、世界的に圧倒的な強さでポジションを獲ることができるとの認識だったが、フォーマットの問題などで残念ながら世界に伍して戦えない状況。2008年度の携帯電話出荷が3,500万台減で、2007年に比べ約30%落ちている。なぜこのような状況になったのかを見て、それぞれの団体が危機感を持って、健全な発展のために努力しようと昨年より集った」と述べた。

モバイルコンテンツフォーラムの岸原孝昌氏

 こうしたオーディオ産業の“中抜き状態”に対し、「携帯電話のコンテンツは、“中”(マス)の部分に対しては上手くいっている」と話すのはモバイルコンテンツフォーラムの岸原孝昌氏。「日本では携帯電話向けの配信がPCの10倍以上となる1,500億円を超える市場で、デジタルでは世界最大のマーケット。しかし、実際は小さな携帯電話のイヤフォンでしか聴かれていない。これまでフォーマットの改良など様々な取り組みは行なわれているが、利用者にきちんとした環境が提供されていない。それでここまで来たのも不思議な感はある」とする。

 岸原氏は現在のBluetooth機器の環境について「車では多くのカーオーディオにおいて、ハンズフリー通話以外に音楽も聴ける。また、ケータイコンテンツは自分の部屋で聴くことが多いとされるが、Bluetoothを使うことで、部屋のスピーカーで他の人と一緒に聴くことができる。日本のオーディオの高いスペックと、Bluetoothのバージョンアップにより、現在の機器で既にこういったマーケットはできている。あとは、プロモーションでどうやって利用者の視聴環境を向上させていくかということ。それぞれの業界が拡大に協力することで、配信/音楽産業/オーディオ産業を発展させたい」とした。

 また、校條氏は「いつでもどこでも、というのはiPodや他のプレーヤーでできているが、高音質な使われ方がされているという認識はない。今のケータイオーディオを否定するのではなく、さらにいい環境を提案できるということを、いままでのような単独な団体では垣根は取りきれなかったので、我々が関係団体と一緒に作っていきたい。その取っ掛かりとして、Bluetoothを駆使してホームオーディオに取り組む。配信、PC、パッケージなどいろんなコンテンツはあるが、それぞれ単独で使うのではなく、多様化できる形に持って行きたい。伝送方法はBluetooth、赤外線、無線LANなどいろいろあるが、すぐに成果を導き出せるという意味で、まずはBluetoothを活用する。将来は光、LANなども同じように研究する」としている。

レコード協会の情報技術部 畑陽一郎部長

 MAPIにコンテンツ業界側を代表して参加するレコード協会の情報技術部 畑陽一郎部長は、「2008年の統計で4,500億円という音楽コンテンツ市場のなか、PC/携帯電話の配信は905億円。その9割の800億円弱がモバイル向け。スタートは2005年の着信音用だったが、着うたフルがスタートし、キャリア/配信事業者とレコード会社が一緒にビジネスを作ってきた。2008年12月から高音質配信の着うたフルプラスも始まり、こうした高音質配信の伸びや、着うたフル全体の市場拡大など、ユーザーがよりよい環境で使えるようになるために、MAPIの活動は今後重要」と述べた。

 会場には、実際のBluetooth対応機器を用いたデモ再生も行なわれていた。また、この発表会のためにCAVジャパンが用意したというBluetooth対応オーディオのプロトタイプも出展。同社の法月利彦社長は、「MAPIの活動に共感している。これから先も協力したい」とコメントした。

CAVジャパンの試作機。背面にBluetoothアダプタが装着されており、ウォークマンからBluetoothで音楽を伝送
ダイマジックの「KEPLER(ケプラー)」ブランドのbluetooth対応スピーカー「DK-SBR510」パイオニアが扱う英メリディアンオーディオのDVD/CD /チューナ一体型システム「F80」や、パイオニアのDLNA/Bluetooth対応オーディオレシーバ「PDX-Z10」カーオーディオ製品として、カロッツェリア「AVIC-VH9900」によるBluetoothオーディオ再生デモも


(2009年 8月 7日)

[AV Watch編集部 中林暁]