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純プラチナ採用高音質ディスク「プラチナSHM」
SHM-CDが進化。CD規格外。ユニバーサルが第1弾
(2013/7/19 20:08)
ユニバーサルミュージックとビクタークリエイティブメディアは、大半のCDプレーヤーで再生できるという高音質ディスク「プラチナSHM」を開発。第1弾タイトルとして、「メインストリートのならず者/ザ・ローリング・ストーンズ」など、ロック/ソウルの名盤10タイトルを各3,800円で9月25日に発売する。ラインナップの詳細は後述する。
ユニバーサルとビクターは、2007年に高音質CD「SHM-CD」を発表。他社にも参加を呼びかけ、現在では各社から様々なタイトルが発売されているが、今回発表された「プラチナSHM」は、その音質をさらに高めたものと位置付けられている。
SHM-CDが進化。純プラチナを採用
既存の「SHM-CD」(Super High Material CD)は、CDの素材に通常よりも透明性が高い、液晶パネルなどに使われるポリカーボネート樹脂を使用しているのが特徴。同樹脂には高流動性、高転写性という特徴があり、ビクター独自の成形工法を用いて、改良を加えたオリジナル高精度金型や専用生産ラインを用いてCDに応用。CDのピットをより正確かつ精密に形成できるほか、読み取り時にレーザー光の複屈折率が少ないという光学特性も持っており、結果としてジッタの少ない、良好な信号特性が得られるというもの。
新たに開発された「プラチナSHM」では、信号の読み取り精度とピット形成の正確性をさらに追求。ディスクの素材はSHMと同じポリカーボネート樹脂を使いながら、レーザー光を反射する反射膜素材に、従来のアルミではなく、純プラチナ(Pt1000)を使っているのが特徴。
純プラチナは化学的に安定した貴金属で、例えばミクロレベルの対象物を電子顕微鏡で忠実に撮影するために、プラチナ微粒子薄膜のきめ細かい表面特性が活用される事もある。この純プラチナを反射膜として使う事で、ピットを正確かつ、その表面を極めて平滑に形成する事を実現したという。
プラチナSHMはCDではなく、“ハイエンドCD再生機用ディスク”
ただし、プラチナは反射率がアルミよりも低いため、CD(CD-DA)の規格には適合しない。そのため、完成した「プラチナSHM」は多くのCDプレーヤーで再生はできるが、CDではない。2社では「オーディオ愛好家向けのハイエンドなCD再生機用ディスク」と表現している。しかし、ユニバーサルミュージック USMジャパン インターナショナル・カタログ部の塩川直樹マネージャーによれば、「21世紀に入ってからの製品で、CD-Rの再生も想定しているような製品であれば問題なく再生できる。'90年代の古いCDプレーヤーでは、再生できない可能性もある」という。
反射率が低いプラチナをあえて採用する理由は、前述の通り、極めて平滑なピットを形成できるため。ビクタークリエイティブメディア マスタリングセンター 課長 マルチメディアプロデューサーの北村勝敏氏によれば、「アルミの場合は粒子のブツブツが多く、レーザーの乱反射が多い。一方でプラチナの反射膜は粒子が細かく、乱反射は少ない。アルミで起きていた無駄な反射が無くなり、迷走する光が少なくなるためエラーも少なくなる」という。
また、レーベルの印刷色にはターコイズブルーを採用。ピット情報読み取り以外の反射光を吸収する事で、ノイズの原因となる迷光を減らす効果があるという。
さらに、カッティング方式には「HR Cutting」を採用。通常のCDを作る場合、ハイビット/ハイサンプリングのマスター音源から、一旦16bit/44.1kHzのDDP(Disc Description Protocol)マスターを作成し、そこからCDを製作する。「HR Cutting」では、DDPを作らず、HRマスター音源と呼ばれる24bit/176.4kHzのWAV/AIFFを作成。そこからビクターの「K2技術」も用いながら、独自のアルゴリズムで16bit/44.1kHzにダウンコンバートしながらCDカッティングを行なうことで、音質を高めるというもの。
この「HR Cutting」は、従来のSHM-CDにも活用されているが、「プラチナSHM」でも採用されている。
音を聴き比べてみる
19日に、マスコミ向けの体験会が都内にあるオーディオショールーム「studio A」で開催された。
「メインストリートのならず者/ザ・ローリング・ストーンズ」の1曲目「ロックス・オフ」で、通常の音楽CDと、新しい「プラチナSHM」を聴き比べてみた。なお、2枚のディスクのマスターは同じもので、SACD制作のために作られたものが使われている。
顕著な違いは低域の深さと、響きの質感。プラチナSHMの方が、低域の沈み込みがより深く、ベースから広がる余韻も、ナチュラルだ。通常のCDは低域が浅く、響きが硬質で、不自然さがある。簡単に言うと“プラチナSHMの方が、彫りが深く、落ち着いたサウンド”だ。
この差異は、細部を比較して「違うような気がする……」というレベルではなく、最初の音が出てすぐ、ハッキリと分かるほど違う。低域の彫りが深く、コントラストが豊かになった事で、音像の立体感もアップ。プラチナSHMでは、音場の奥行きも、通常のCDよりも明らかに深く、音楽が立体的に再現されている。
通常のCDでは、音数が多く、パーカッションやコーラスなど、高域の多い楽曲を再生すると、音が硬いため、“ガチャガチャ”した印象を受ける。しかし、プラチナSHMでは、音の質感がナチュラルで、個々の音の輪郭も強調されたりしていないため、心地良く聴いていられる。
気になるのは従来の「SHM-CD」との比較だ。スティーヴィー・ワンダーの「サンシャイン」で通常のCD/SHM-CD/プラチナSHMを比べてみると、通常のCDからSHM-CDに切り替えた瞬間、笑ってしまうほどベースの低域の量感や張り出しがアップ。ビートが心地よく、ふわっと広がる音場も、通常のCDと比べて広い。そのままプラチナSHMに切り替えると、ナチュラルになったサウンドが、さらにスッキリと洗練され、音と音の間にある無音部分にも意識が向くようになる。響きの硬質さが完全に無くなり、SACDを連想させる柔らかな音になる。SHM-CDでも十分ナチュラルなサウンドだと思っていたが、プラチナSHMと聞き比べると、まだ“CDっぽい硬さ”が残っていたのだと気付かされた。
タイトルラインナップ
第1弾タイトルとして9月25日に発売されるのは、ロック/ソウルの名盤10タイトル。価格は各3,800円。ラインナップは下表の通り。
いずれのタイトルも、かつてのレコードを彷彿とさせる紙ジャケットを採用しているが、「CDを取り出すのが面倒」という声もあるため、CDと紙ジャケットを別々に収納できる紙ケースに入れて販売される。プラチナという高価な素材を使っているほか、こうしたジャケットにもコストがかかっているため、1,800円程度が多い従来のSHM-CDと比べ、3,800円と高価になっているという。
また、プラチナSHM版だけでなく、SHM-CD版も紙ジャケット仕様で、各2,800円で同時発売される。「プラチナSHMほどの高音質は不要だけれど、紙ジャケットは欲しいというニーズを想定した」(ユニバーサルミュージックの塩川マネージャー)という。
【第1弾のラインナップ】
- メイン・ストリートのならず者/ザ・ローリング・ストーンズ
- 刺青の男/ザ・ローリング・ストーンズ
- フーズ・ネクスト/ザ・フー
- いとしのレイラ/デレク・アンド・ザ・ドミノス
- フィルモア・イースト・ライヴ/オールマン・ブラザーズ・バンド
- オペラ座の夜/クイーン
- 彩(Aja)/スティーリー・ダン
- 悲しきサルタン/ダイアー・ストレイツ
- トーキング・ブック/スティーヴィー・ワンダー
- ホワッツ・ゴーイン・オン/マーヴィン・ゲイ
今後も10月30日に「インナーヴィジョンズ/スティーヴィー・ワンダー」など、ロック/ソウル10タイトル、「ワルツ・フォー・デビィ/ビル・エヴァンス」などジャズの5タイトル、「クライバー/ベートーヴェン:交響曲第5・7番」などクラシック5タイトルの発売を予定。ロック/ソウルのタイトルは、全て紙ジャケ/SHM-CD版も同時発売で、クラシックとジャズの仕様、価格は未定。
また、抽選で1,000人に、試聴サンプラーが当たるキャンペーンも実施予定。詳細はプラチナSHMのWebサイトを参照の事。
なお、SHM-CDは他社にも開放されているが、プラチナSHMについてビクタークリエイティブメディアは、「当面はユニバーサルのタイトルをリリースしていくが、市場動向を見ながら、他社からも問い合わせがあるようならば、順次対応していきたい」という。