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スカパー“4K時代到来”。4Kライブ放送強化、35mmフィルムのリマスターも。最新設備公開
(2015/5/28 19:02)
スカパーJSATは、3月1日にスタートした4K放送「スカパー! 4K」の現状や今後の方針、コンテンツなどについて、高田真治社長らがマスコミ向けに説明する「4K メディアセッション」を5月28日に開催した。会場のスカパー東京メディアセンターで、現在使われている4K放送設備の見学会も実施した。
ハードとコンテンツで「4K時代到来」。左旋活用は'30年以降に具体化へ
放送業界に関わって間もなく40年という高田社長は、カラー化やHD化、デジタル移行といったこれまでの歴史を振り返り「確信をもって言えるのは、ビジュアル面の進歩、“キレイであること”を視聴者は評価するというのを、経験上学んでいる。高精細だけでなく、今後は色域や輝度の向上といった今までにない表現も進んでいることを踏まえ、放送の高度化を進めていく。ハードとソフト、両方が進まなければいけない」として、6月20日に発売されるソニーのスカパー! プレミアムサービスチューナー搭載4K放送対応液晶テレビのBRAVIA 3シリーズ7機種など、対応機器も徐々に増えていることを紹介した。
JEITA(電子情報技術産業協会)によれば、2015年4月の4K対応テレビ出荷台数は前年比517.9%の2万5,000台で、薄型テレビ全体に占める割合は7.4%。2017年には4Kと2K(HD)の出荷台数が逆転し、2018年には4K対応テレビがテレビ出荷台数の約65%を占めるとJEITAは予測している。
高田社長は、対応テレビの広がりとして、前述のBRAVIAに加え、最初にスカパー! 4K対応チューナを内蔵化した東芝「REGZA Z10X」、シャープの4Kレコーダ「TU-UD1000」などを紹介。「相当作った我々の番組と、テレビの市販によって、いよいよ4K時代到来かということが実感いただけるのでは」とした。スカパーは、対応テレビ購入者への視聴料金割引キャンペーンなども実施することで、4Kへの流れの後押しを図る。
今回の説明会が行なわれた28日は、NHK技研公開 2015の開幕日であることから、高田社長はNHKの8Kへの積極的な取り組みにも触れながら「とは言え、8Kの前には4Kがある。『8Kへ移行するプロセスの中で、4Kにも対応する』という認識である説明を我々も受けた」と述べた。
4Kに加えて高田社長が強調したのは、総務省で話し合われている“放送の高度化”の一つである「110度CS左旋の活用」。現在、調達作業に入っているという110度の次期衛星には、今の放送に使われている右旋に加え、左旋のトランスポンダも搭載。左旋の活用により、さらに高画質な映像など新サービスにつなげていくことが検討されている。
左旋を活用したサービスを実現するには、アンテナなど右旋のみの機器からの入れ替えが必要となる。総務省では、直近で2020年を目途としてロードマップを検討していることから、スカパーJSATとしては「2030年くらいを見据えてロードマップを作成していただきたい」との意向を示している。高田氏は「右旋は今の2Kで目いっぱい。時間がかかっても、息の長い作業として整備を進め、ほとんどの人が見られる環境作りが必要」とした。さらに、地上波の4Kについても触れ、「先行しているのは衛星だが、多くの人が観られる地上波局の4K制作がきっちり進むことが必要。設備投資、制作投資をすれば、必ず報われるというインセンティブが見える形にして、投資意欲を増していかなければ、高度化は進まない」との考えを示した。
56年前の“ご成婚パレード”をフィルムから4Kリマスター。HDと違う演出も
3月に始まった「スカパー! 4K」の番組制作への取り組みについては、執行役員常務 放送事業本部長の小牧次郎氏から説明が行なわれた。なお、当初は有料多チャンネル事業部門長を務める田中晃専務が登壇予定だったが、小牧氏に変更となった。田中氏は6月23日付で、WOWOW社長に就任することが発表されている。
3月~7月の「スカパー! 4K」新作番組数は計114番組で、うち生中継は32番組。内訳は、3月が45番組、4月が16番組、5月が14番組、6月が17番組、7月が22番組。6月の新番組は、サッカー×5、その他スポーツ×2、音楽×2、ドキュメンタリー×2、趣味・娯楽×3、映画×3、7月はサッカー×5、音楽×3、ドキュメンタリー×2、エンタメ×4、趣味・娯楽×3、映画×5を予定。サッカーや音楽、ドキュメンタリー、映画などジャンルの幅を広げていく。
小牧氏は「ネットを使った4K配信も始まっているが、“1対n”が原理の放送は、無限の同時受信が当たり前で、特に生中継に強い。伝送量の多い4Kだとなおさら。放送の強みをフルに活かし、ライブなどのコンテンツを増やす」としている。
今後の目玉コンテンツについては、5月13日に発表した通り、スカパー! の4K専門チャンネル「スカパー! 4K 映画」において、「スター・トレック」や「アメイジング・スパイダーマン」などのハリウッドメジャーの映画を、6月から順次4K放送することを説明。「HDやDVDで一度観た作品かもしれませんが、ぜひもう一度ご覧ください。全然違います」とアピールした。
なお、「スカパー! 4K 映画」は1作品500~700円のPPV(都度課金)放送だが、6月1日からは「スカパー! 4K 映画」で見たい番組を1日単位で購入できるPPD(ペイ・パー・デイ)方式に変更となることも発表されている。「『オンデマンドの時代に何だ!』と怒られるかもしれないが、4Kはオリジナルに近すぎて、セキュリティの面から録画不可という契約。1回の購入(540円)で同じ日ならどの回でも観られるという、昔の映画館と同じシステム。今のところ、これでお許し願いたい」と述べた。
4K番組ならではの演出例も紹介。例えば3月29日のプロ野球・阪神×中日戦では、HD中継よりも広いサイズでも高精細で表現できることから、外野に飛んだヒットの打球だけでなくランナーや内野手の動きも俯瞰した画角で撮る手法を使った。これにより、中日の選手がヒットを打った後、外野からホームへの返球を中継した阪神・鳥谷敬選手が、ホームに間に合わないと判断して、とっさに三塁へ送球、タッチアウトとなる場面が紹介された。小牧氏は「打球やランナーの位置を俯瞰して見る選手の感覚を視聴者が味わえる。このサイズをHDで撮ると、ボールがつぶれるため、HDではズームせざるを得ない。これは4Kならではのカット」と説明した。
3月7日のJリーグ・ガンバ大阪×FC東京では、4K/60pで撮影した映像のスーパースローを紹介。宇佐美貴史選手のドリブルをスローで見ると、わずか数秒のドリブルで細かな動きや視線まで分かることを紹介した。その他にも、ハービー・ハンコックのブルーノート東京ライブの臨場感ある映像や、奥州・黒石寺の「蘇民祭」で照明のほとんどない場所でも高感度カメラによりノイズを抑えた映像が撮れたことなども紹介した。
7月26日に放送する注目番組として紹介したのは、1959年の皇太子さま・美智子さまご成婚パレード。35mmカラーフィルムで撮影された映像を、4Kでデジタルリマスター化したもの。このパレードは当時のテレビ普及増加につながったとされているが、HDでも35mmフィルムの情報量をすべて伝えることはできなかったことから、4Kリマスターによって「美智子さまが羽織っていたケープ、沿道の人々の表情、当時の道路の舗装状況など、56年前の雰囲気を伝えられる」とした。
制作した番組の効率的な運用についても説明。サッカーの場合はスタジアムで4K制作後、スカパー東京メディアセンターからスカパー! 4K総合と、BSスカパー!、スカチャン向けにHDへダウンコンバートした映像、JリーグオンデマンドのPC/タブレットなどへVOD配信するといった、サイマル放送/配信を行なっていることを紹介した。
小牧氏は「制作技術としては、近い将来、必ず全てが4Kになり、伝送経路も、受信するデバイスに合わせた送信が行なわれる。地上波もそうなると信じている」と述べた。