【IFA 2011】東芝・大角正明氏が開幕基調講演

-3.11後、デジタル機器の“Next Challenge”を語る


東芝 執行役上席常務 デジタルプロダクツ&サービス社 大角正明社長

 ドイツ・ベルリンで行なわれている「IFA(国際コンシューマエレクトロニクス展) 2011」の開幕を飾る基調講演を、東芝の執行役上席常務 デジタルプロダクツ&サービス社の大角正明社長が務めた。

 講演のテーマは「Next Challenge for Japan」。東日本大震災を一つの契機ととらえ、東芝が目指すデジタル機器と人、そして社会の在り方についての方向性を示したほか、前日に発表した4K2K液晶テレビや世界最薄タブレットといったデジタル機器の最新技術や、こうした機器とも深くつながっているエネルギーソリューションの将来像などについて、同社の構想を明らかにした。



■ 震災が日本にもたらしたもの。“ヤシマ作戦”から着想も

被災地を訪れた時の大角氏と、共同で店舗運営を行なっていた東芝ショップのオーナー

 冒頭、大角社長は東日本大震災に対する各国の支援に対する謝意をドイツ語で表明。「ドイツ国民、ヨーロッパの皆様に対しいただいたたくさんのお見舞いの言葉、義援金に感謝を申し上げたい。日本人ひとりひとり、とりわけ被災者の皆様に支援の気持ちが重要であることを改めて認識している。東日本大震災、津波の後に我々東芝がどのような方向性で復興の支援、貢献についてお話ししたい」と述べた。

 先週に東北を訪れ、被災の規模と再建に関する現状を見てきたという大角氏。「再建、工事はまだまだ進んでいないが、一筋の明かりとして、人々が共通の目的を持って一致団結しているのを知ることができた。例えば被災地のある東芝ショップは、店舗を津波で失った6軒の小売店の共同ショップこのように協力することで、物事のスピードアップを図っていた。しかしながら、街全体の復興にはもっと時間がかかるだろう。被災地の復興/再建までには3~4年かかると考える。新しい都市計画を進めるためには、十分な時間が必要。最新の技術を導入し、新しい想像力豊かな都市計画を進めるチャンスがある」とする。

 「今回の東日本大震災は、新時代の幕開けとなる不幸な推進力ではあるが、日本に新しい価値観をもたらし、それが世界にも広がった。その大きなものは、エネルギーに対する考え方。震災と津波により発電と送電インフラに大きな被害が及んだ。それまでは自明のものと考えられてきた、“安全・快適な生活”が失われた。その結果、日本国民は、エネルギーの価値を改めて切実に感じるようになった。我々は発電事業者に完全に依存し、好きなだけのエネルギーを浪費する体制から脱却し、新しいフレキシブルな体制に移行し、各地で太陽光などを利用するエネルギー創出に移らなければならない」と指摘した。


「絆」の文字に寄せる強い想いを語る大角氏

 加えて「東日本大震災は、エネルギーに対する認識以上の変化ももたらし、日本人の伝統的な価値観を再認識するに至った。それはすなわち人と人との固い契りを表す“絆”だ。絆という漢字を作る糸へんと、右側のつくりである“半”は、近しい人の感情や状況を留意することを示していると私は思う。片方が強く引きすぎると、糸はちぎれてしまう。震災を通じて日本人の心と生活の中の価値観が再発見された」との想いを語る。

 「ものづくりの会社として、東芝は新しい社会の実現に大きく貢献することを目標としている。持続可能な社会のビジョンを“スマートコミュニティ”と命名した。これは自然と共存するコミュニティで、太陽光、地熱、風力といった再生可能エネルギーを積極的に利用するもの。新しいエネルギーを既存の送電網に組み込むのは大きなチャレンジだが、そもそも、日本の送電網を立ち上げたのは当社。そして当社の送電網は世界で最も効率的なグリッドである」と実現に強い意欲を示した。


“ヤシマ作戦”に言及

 大角氏は、電力需給のひっ迫に伴う人々の意識の変化の表れの一例として、Twitterなどで広まった“ヤシマ作戦”のエピソードを紹介。この行動は震災後最初の計画停電が起きた際に発生したもので、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」で執られた作戦になぞらえて展開。例えば「電力を消費する炊飯器の利用は、電力ピークの午後6時までに終了しよう」といった節電の呼び掛けをフォロワーに向けて行なうものだった。

 「ヤシマ作戦は、Twitterを通じて広範囲かつスピーディに拡大し、結果として夏の計画停電の回避につながった。震災の結果、エネルギーに関する人々の認識が変わった一つの証拠。将来的には、デジタル機器を通じて個人の社会参画が地域のエネルギーマネジメントに貢献するようになるだろう。このような変遷に気づいた東芝は、消費者のニーズに応える技術を新たに提供した」とする。



■ 「Toshiba Places」で3D映像コンテンツ配信も

 大角氏は「東芝の考える未来のデジタル機器は、ハイクオリティなエンターテインメントと、エネルギーマネジメントの両方を提供しなければならない。これが新しい競争の軸になることが必須だ」との考えを示し、前日のプレスカンファレンスで発表したタブレット「AT200」や薄型ノートPC「Z830」などの新製品を改めて会場で披露した。

 同社技術が節電に貢献する具体例として、7月より提供を始めたアプリ「RZ節電リモ」を紹介。電力需給が一定値を超えるとテレビの電源がOFFになるといった機能を備えたもので、「多くの方々に地域の省エネのために利用していただけるのではないかと思っている」とした。

 また、バッテリ内蔵で「ピークシフト」機能を備えたREGZAについてもデモ。リモコンのピークシフトボタンを押すとバッテリ動作に切り替わり、電力需給のピークを避けて使用できることを説明し、「我々は東日本大震災の3カ月以内にこうした技術を発表し、消費者やメディアからこの判断に対して高い評価を受けた。我々は技術開発でエンターテインメントの未来を牽引し続けるが、その際にエネルギーマネジメントに対する意識も持ち続けたい」とした。加えて、テレビ/レコーダ向けに新開発した「ecoチップ」も紹介。ecoチップで“消費電力0W”を実現するテレビなどを年内に日本国内で発売することも、世界の人々に向けてアピールした。

 製品紹介の最後には、究極のエンターテインメント製品として4K2Kのグラスレステレビについて説明。世界初という大画面の裸眼3D/4Kテレビを実現し、2D映像ではフルHDパネルの4倍の解像度で高精細に表示できることなどをアピール。さらに、欧州で展開しているクラウドサービス「Toshiba Places」において、本、音楽、ソフトウェアなど様々なコンテンツを配信していることに触れ、「将来的には、3DビデオコンテンツをテレビやPC、タブレットで1回のクリックだけで楽しめるようになる。東芝はハード、ソフト、サービスの3拍子で、ホームエンターテイメントのパイオニアであり続ける」と力強く述べた。

前日に発表したAndroidタブレット「AT200」電力需給状況とテレビの省エネ機能の連携を実現する「RZ節電リモ」「Toshiba Places」もサービス拡大を続けていくという

 

 


テレビ画面で家庭内、地域の電力状況を確認するというイメージ

 東芝のスマートハウス、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)では、エネルギーの消費を正確かつ詳細にビジュアル化する。住人はソーラーパネルでどれだけのエネルギーが創出され、貯蔵されたかをリアルタイムで知ることができる。各部屋、機器別の消費エネルギーをチェックし、電気代やCO2排出量を確認することで、ライフスタイルの中に節電に対するハイレベルな意識を取り入れられる。地域の電力消費についても、ピークに近づくとテレビにメッセージが表示され、自宅で送出したエネルギーを地域の配電網に送るといったことも可能になるという。

 これらの実現に向け、「スマートメーター」における世界最大手企業であるスイスのランティス・ギアを買収したことや、世界各地で実証実験を行なっていることを説明。「エネルギー危機は日本だけの問題ではなく、発展途上国が直面するのもそう遠くない。GDPあたりの一次エネルギー供給で見るとEUの2倍、中国の7倍以上のエネルギー効率を誇っている日本が、スマートコミュニティ実現のために、日本がグローバルでリーダーシップ担うことが必要」と強調した。

 最後に大角氏は「デジタル機器の省エネ機能は、個人にとっての省エネとしてのみならず、一人一人が積極的に社会貢献するための包括的な機能として、今後活用されるようになるだろう。我々は、日本、ヨーロッパ、そして世界のためのソリューションを提供し、デジタル機器のコネクティングにおけるリーダーシップを継続するだけでなく、人と人、コミュニティの強い絆の強化にも貢献していく。東日本大震災の悪夢から目覚め、復興に向かう東芝、復興に向かう日本は、持続可能な社会の実現まで邁進を続ける」と宣言し、スピーチは幕を閉じた。



(2011年 9月 3日)

[AV Watch編集部 中林暁]